2007年11月22日木曜日

地方国立大学の役割と存在意義

地方国立大学の挑戦

来る12月14日(金)、15日(土)に岐阜大学において、「地方国立大学の挑戦」と題したシンポジウム(岐阜大学、国立大学協会主催)が開催されます。
■日時 2007年12月14日(金)~15日(土)
■場所 岐阜大学講堂(入場無料、申し込み不要)
■主催 国立大学法人岐阜大学、社団法人国立大学協会
■目的 地域社会の活性化を担う知の拠点としての地方国立大学の大学像について、大学長らを中心とする専門家による討論の場を設け、大学関係者及び市民等に地方大学の活動と役割について広く意見を発信し、深い理解を得ることを目的とします。
■日程等
岐阜大学ホームページ

競争原理VS経済効果


今夏6月に経済財政諮問会議によって取りまとめられた「骨太方針2007」への道のりで、財務省と文部科学省が特に力を入れたテーマの一つが「大学・大学院改革」であり、「国立大学への競争原理の導入」でした。国立大学の運営費交付金を研究実績に応じて傾斜配分する「競争原理」の導入を迫る財務省に対し、文部科学省は国立大学の地方貢献を強調することにより成果主義導入案に対抗しました。

中でも、文部科学省は、これまでの「地域の知の拠点」一点張りの論法に変化を加え、これまで未検証だった「地方国立大学が地域に与える経済効果」という経済面でのアピールを行いました。文部科学省が財団法人日本経済研究所に委託した調査によって、地方国立大学が地域に与える経済効果(1大学当たりの生産誘発効果)は400億円~700億円、雇用創出数は6000人から9000人に上ることが明らかになりました。

これは、地方に立地する附属病院を持つ総合大学が当該県に与える経済効果をシミュレーションしたものですが、例えば、生産誘発額、雇用創出数で見た場合、
  • 弘前大学 406億円(6774人)
  • 群馬大学 597億円(9114人)
  • 三重大学 428億円(6895人)
  • 山口大学 667億円(9007人)
となっており、雇用創出数は各大学とも県全体の1%を占め、鹿児島県での九州新幹線開業による効果166億円、九州地方のJ1リーグサッカーチームによる効果 24億円よりも経済効果があるとしています。このほかにも、九州大学、高知大学などでは独自に経済効果を算出し地域に根ざす大学としてのアピールを行っています。

地方国立大学の本質とは


この一連の経済効果報道に対する国民の受け止め方には賛否両論あったようですが、あるブログでは次のようにコメントされていました。

大学に対して経済効果があるならいくらでもお金を出して良いというわけではないはず。
大学でも、ほとんど成果を上げていないのなら、つぶれて然るべきだと思う。
大学として良くないのであれば、例え経済効果があったとしても存続させるべきではない。
学校はやはり、教育や研究に対する貢献度で評価されるべきであって、その他の要素はあくまでも二次的なものにすぎない。

大学の本質から考えてみれば当然のご指摘であり反論の余地はありません。
しかしながら、この一連の経済効果報道、実は、文部科学省が伝えたかった趣旨から相当はずれたものになっていたようです。
文部科学省が作成したプレス発表資料によれば、プレスに強調したかったのは、実は経済効果ではなく、地方の国立大学が教育や研究活動を通じ、地域においていかに貢献しているか、地域における役割がいかに重要かについてのようなのです。

例えば次のような内容についても発表しているのに、マスコミは経済効果しか取り上げていません。

いずれも、我が国の国公私立大学のうち、「東京都、京都府、大阪府、政令指定都市に立地する国立大学」と「その他の地域の国立大学」とを比較した場合として、
  • 研究論文数(日本国内上位30大学中) → 都市11大学:地方13大学
  • 地域の知の拠点を形成する大学 → 文部科学省の競争的資金である「21世紀COEプログラム」の採択状況(平成14~16年度)では、都市24%:地方31%
  • 人材養成の面から見た大学 → 地域別に見た理工分野での大学院在学者の状況(平成18年度)では、修士課程で、都市27.8%:29.3%、博士課程で、 37.5%:32.5%
  • 産業界の研究開発に寄与する大学 → 大学発ベンチャー実績(上位50大学中)では、都市16大学:地方21大学、共同研究実績(金額ベース上位50大学)では、都市19大学:地方25大学、中小企業との共同研究実績(件数ベース上位50大学)では、都市34.2%:地方62.1%
と、地方大学の活躍が強調されています。


ある新聞社説に次のようなコメントがありました。

地方の国立大学にも一層の改革努力が求められる。
他県からも学生が集まるような特色ある教育をし、強みと言える研究分野を持つことが肝要だ。
地域経済への貢献や、地元自治体などへの人材輩出で存在意義をアピールする必要もある。


現在、来年度予算の編成作業真っ只中。財務省VS文部科学省の熱い闘いが繰り広げられていることでしょう。
国立大学の運営費交付金の行方は、我が国の高等教育の将来はもとより、地域に根ざした地域と共生する大学づくりを目指す地方国立大学の存在意義に大きな影響を及ぼすことになるかもしれません。

地域における国立大学の存在意義


学長に前文部科学事務次官の結城章夫氏が就任したことで何かと取沙汰された山形大学。
報道の取りあげ方が大学のイメージを少々下げることになってしまったわけですが、実はこの大学、これまで様々な素晴らしい改革を遂げてきています。その改革を先導してきたのが、前学長の仙道富士郎氏であり、山形大学を地域に根ざした地域とともに発展する大学として育ててきた手腕は高い評価を得ています。

仙道氏は、地方大学の存在意義について次のようにコメントされています。


現在、わが国の経済は好景気を保っていることが言われておりますが、それは中央に限ったことで、地方の景気は決して良くなっていないとも言われております。
この現象を経済の構造から見てみますと、グローバルな経済にリンクしている企業は好景気を保っているが、ドメスティックな企業の景気は決して良くないということになり、中央には前者の企業が多く、地方の企業は後者が多いことがわかっています。
この地域格差をいかに克服するのかが地方の行政や経済界の大きな課題となっていますが、この課題解決の第一条件としては、地域の差別化をいかに行いうるかがポイントになります。
つまり、どこかで行われた改革をなぞるようなことでは差別化は不可能であり、常に変化していく社会に適応すべく、地域も新しい差別化を模索し続けなければならないことになります。


そのためには、地域は常に学び続けることが必要になります。OECDの大学の地域貢献に関する報告書の中で述べられている「learning economy」という概念の誕生であります。そして、「learning economy」を可能にするためには、「learning area」、「学習する地域」の存在が必須であります。その「learning area」の中心的な役割を果たすのが、21世紀の知の拠点としての大学ではないでしょうか。


つまり、地域の活性化のために地方大学は重要な位置を占めており、それが地方大学の存在意義を物語っているのだと思います。