2007年11月19日月曜日

社会の目

国立大学の法人化に伴い、外部の視点や知恵を大学経営に活かすための仕組みがはじめて整備され、現在、学外の有識者・専門家の方々が大学内部の様々なポジションで活躍されています。

彼らの目線はまさに社会の目線であり、社会の常識がいかに国立大学に通用していないかという実態が前回、彼らの指摘をご紹介したことでおわかりになったのではないかと思います。

今回は、それをより深化させ、国立大学法人法において文部科学大臣が選任することとされている「監事」の方々のご意見の一端をご紹介します。

本年6月、文部科学省は、全国の国立大学法人から抽出した20人の監事さんに対しヒアリングを行いました。その主な趣旨は、
  1. 監事と文部科学省との意思疎通を図るため

  2. 学外者という立場から国立大学の法人化以降の取組みに直接関与した監事が、法人化後4年目を迎えた現在どのように国立大学を捉えているかを伺うため
のようです。監事さんの厳しくも鋭いご指摘から国立大学と社会の常識の乖離を垣間見ることができます。

教職員の法人化に対する意識について


  • 執行部に参画する教員や学部長等の役職にある教員、また本部の事務職員については、程度の差こそあれ、全般的に意識改革は進んできている。逆に、法人経営に参画しない一般の教員については、変化がない、悪く言えば変化の必要性を認識していない。

学長のリーダーシップについて


  • 徐々に発揮されつつあるものの、スピード感には物足りなさを感じる。

  • 教育研究の特性から、企業組織とは違い、全ての事柄にわたって本部が部局に対してイニシアチブを発揮できる仕組みとはなっていないため、本部と部局との関係がリーダーシップ発揮の際の大きなファクターとなる場合が多い。

  • 学長に期待される役割が「大学の教育研究の代表」から「国立大学法人のマネジメントの責任者」へと変わってきている。しかし、教員出身の学長は必ずしも法人経営に求められるマネジメント能力を持つわけではなく、半数が学外委員で構成される学長選考会議を設けたものの、実態は変わっていない。

経営協議会について


  • 会議の運営に関して、審議事項の説明でほとんどの時間がとられ、質疑応答も資料の意味など枝葉末節の確認のみに終始している。

大学職員について


  • 職員の意識改革については、徐々に浸透しつつあるものの、旧国立大学時代のカルチャーから抜け切れていない部分がまだ依然多い。

  • 国立大学法人改革のためには、学長や理事の法人経営を支え、各大学のマネジメントの中核となるスタッフの養成が急務。

  • 国の施設等機関時代の行動様式からの転換ができておらず、教員や文部科学省から指示を受けることに慣れすぎてしまっている。定型業務はそつなくこなすが、今必要とされている企画力・発想力・開発力の面が弱い。

  • 改善のためには、地道にOJTを進めていく以外ない、あるいは、民間企業・私立大学など外部機関との人事交流研修が有効。また、同時に、職員へのインセンティブ付与も重要。適宜な人事評価に基づく処遇面での改善や、法人内部から幹部に昇進できる仕組みが必要。

  • 異動官職制について、内部の職員には無い視点から物事を判断できる点でメリットもあるが、各法人で中核となるスタッフを育てていくためには、幹部職員に占める割合の低下が求められる。また、異動官職職員自身の帰属意識という点では在任期間の長期化が求められる。

国立大学法人の「経営」について


  • 組織の経営とは、経営責任者の将来展望を組織全体が共有し、組織が所有するリソースを組織自らの判断でその将来目標に向かって活用し、次の展開につなげるということ。しかし、国立大学法人の場合、将来展望が明確でなく(中期目標を見ても漠然としている)、ヒト・モノ・カネというリソースの全てにおいて何らかの制約があるため、現状制度下においては、国立大学法人に「経営」はなく、組織の「運営」があるのみ。