2007年11月14日水曜日

教育における規制緩和

大学間で学部共同設置を可能に、文科省が法改正へ

文部科学省は複数の大学が共同で学部や大学院の研究科を設置することを可能にするため、来年の通常国会に学校教育法改正案を提出する方針を固めた。早ければ2009年度から申請を受け付け、10年度からの入学を認める。少子化時代の到来で地方の小規模な国公立大や私立大が厳しい経営状況にある中、共同設置で費用負担を低く抑え、人材や施設を共用する狙いがある。
現在の学校教育法は「大学には、大学院を置くことができる」などと定めているが、複数の大学が共同で設置することは認めていない。改正案では、同法に共同設置に関する新条項を設ける。
複数の大学が共同で設置した学部や大学院の入学試験は、設置主体の大学が共同で実施し、学位も連名で授与する。国公立大と私立大の組み合わせによる共同設置も可能にすることを検討している。(2007年11月11日付読売新聞)


文部科学省が今後進めたい改革の方向性の一端が公に示されました。同様の話は既に先手を打つ形で国立大学協会にも持ち込まれています。
これは、経済財政諮問会議により策定された「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定)、あるいは教育再生会議が策定した「社会総がかりで教育再生を(第二次報告)」(平成19年6月1日教育再生会議)を踏まえた政策であり、今後政治日程に乗ることになります。(勿論これらの政策は実質的には役人がこしらえたものであることは明白ですが)

報じられた内容は、最近流行の国公私立大学を通じた政策の一つではありますが、特に文科省直営の国立大学法人にとっては、「法人の経営基盤を強化し、教育基本法に定めるその使命を円滑に遂行し、社会に対して一層貢献できるようにするための一つの方策」という文部科学省の耳ざわりのいい宣伝文句によって、国民の多くが賛同し、今後、4年前の法人化のように行政主導の強力な誘導策が展開されることになるでしょう。また、このことは、今後の我が国の高等教育の将来を大きく変容させる契機にもなることでしょう。

4年前のことを思い出します。

2004(平成16)年4月、当時の小泉政権の強力なリーダーシップを背景として、全国に設置された国立大学は、「自主性・自律性を発揮した特色ある大学づくりを目指すため」という謳い文句の下で「法人化」されました。この制度改革は、明治維新以来の歴史的大改革という御旗の下に、私立大学出身者が多くを占める国会議員や文部科学省の役人主導で強引に進められたものでした。しかしこれはまぎれもなく「単なる国家公務員の数減らしという行政改革」の手法として断行されたものです。

また、その半年前には、今回同様、文部科学省のしたたかな誘導により、16の地方国立大学が隣接大学との統合を余儀なくされました。(現在の福井、山梨、島根、香川、高知、大分、佐賀、宮崎大学)。歴史、文化、学問分野、運営方法などが全く異なる大学が統合することは、利害の一致を見出しやすい民間企業の統合とは状況が全く異なります。それぞれの大学では、現在、統合のメリットを生かした工夫と改善に向けた懸命な努力が続けられていると聞いておりますが、内情は、4年経過した今でも、統合前の2つの大学の対等関係、対立構造は完全になくなっておらず、随所に歪が現れているそうです。

文部科学省が今回強力に推し進めようとしている「機能分化の推進」、「再編統合に係る国立大学法人の自主的な取組の促進」、具体的には、「国公私を通じ複数の大学が大学院研究科等を共同設置できる仕組み」、「国立大学の大胆な再編統合」、「学部の再編や学部入学定員の縮減」、「一つの国立大学法人が複数の大学を設置管理できる仕組み」づくりは、表向きは耳ざわりのいい言葉ではありますが、大学現場に生きる者としては、4年前と同様、経済・行政のご都合主義、役所の机上論が、またもや学問の府をだめにしてしまうのではないかという危惧、不信感をいだかざるを得ません。これ以上、高等教育の現場に無用な混乱を持ち込んでもらいたくないというのが正直な気持ちです。

もちろん「新しい組み合わせによる新たな価値創造」というメリットを否定するものではありません。特に、旧帝大のように経営力、教育研究力のない、通称駅弁大学といわれるような地方国立大学の今後の展望を考えた時に、地域に根ざす国公私立大学が連携し、地域の知の拠点として生き延びる道を模索することは必須のことです。

だからこそ、教育の規制緩和は、大学自身の意思やニーズに基づいて行われるべきものであり、背後に経済や行政の原理が見え隠れするような形で行われるべきものではないと考えます。この国では、将来を担う尊い若者達を育てる高等教育機関を単なる目先の数合わせ、金減らしのための道具としてあまりにも軽く考えてはいないでしょうか。