2007年12月7日金曜日

平成20年度の大学予算

国会運営の影響から越年編成の可能性も取沙汰される中、ようやく来年度予算の編成方針が閣議決定されました。

これから編成作業の大詰めに入ることになります。編成方針のうち、高等教育関係部分をご紹介します。

平成20年度予算編成の基本方針(12月4日閣議決定)

■「希望と安心」の国に向けた予算の重点化・効率化

「希望と安心」の国を実現する観点から、「重点施策推進要望」も踏まえ、以下に掲げる取組で政策効果が顕著なものについて重点的かつ効率的に推進し、メリハリの効いた配分を行う。
また、歳出の無駄の排除を徹底するため、施策の推進に当たっては、政府全体として一層の経費の節減合理化を行う中で、成果目標、政策手段等を明確に掲げ、PDCAサイクルを着実に実施する。

活力ある経済社会の実現(成長力強化に向けた取組)

成長分野を伸ばし、創造力を高める戦略
  • 大学(大学院を含む)のカリキュラム改革
  • 健全性を確保した奨学金の充実
  • 国際的な大学間の相互連携
  • 留学生政策の推進
  • 9月入学の促進
  • 世界最高水準の大学院形成
  • 「大学地域コンソーシアム」の形成
  • 高等教育の基盤的経費や競争的資金の確保と重点的・効率的な投資
  • 産学官連携の推進等
を推進する。

また、科学技術の振興を図るため、「第3期科学技術基本計画」及び「イノベーション25」を踏まえ、次世代投資の充実、社会還元を加速するプロジェクト、分野別の戦略的な研究開発、多様な基礎研究等を推進する。
また、高信頼性産業の育成や世界最先端を目指した知的財産戦略等を推進する。

運営費交付金という国立大学の生活費

運営費交付金とは、国立大学を維持運営するために必要な基幹的な経費として国(文部科学省)が、各国立大学法人に配分する資金のことで、国立大学全体で約1兆2千億円あります。

この資金の原資は全て国民の納める税金で、中規模大学の場合、大学全体の収入の約4割を占めます。
この資金は、国立大学が法人化される際、それまでの国立学校特別会計により各国立大学へ配分されていた歳出予算との格差をなくす(激変を緩和する)ため、各国立大学の学生数や教員数など、いわばその大学の規模に応じて積算され配分されています。

この運営費交付金には、大学内の事務事業の効率化を促す意味で、法人化以降全ての大学に対して、毎年1%の削減が求められています。
さらに、診療収入だけでは経営できない附属病院を抱える大学に対しては、病院の赤字補填のための運営費交付金が投入されていますが、これを受けた大学の附属病院は、毎年2%の増収ノルマが課せられるルールになっています。

このような極めて厳しい財政事情の中で、各国立大学は、これまで以上に、学生への良質な教育の提供や我が国の未来を創造する学術研究の高度化など、国立大学としての使命達成のために懸命な努力を続けています。

しかしながら、その努力にも限界が見え始めてきており、運営費交付金の削減に伴う財政基盤の弱体化がこのまま推移すれば、近い将来、教職員の人件費さえまかなうことができなくなることが予想されています。

経済原理主義者は国立大学の天敵

このような状況の中、国立大学にとって必要な最低限の生活費である運営費交付金をめぐる議論が、本年2月の経済財政諮問会議において、4人の民間議員が提出した「成長力強化のための大学・大学院改革について」という提案によって始まりました。

彼らの提案とは、一言で言えば、今後、国立大学への運営費交付金の配分については、「国立大学の努力と成果を競い合わせることによる結果、つまりは、競争原理に基づいた配分に改めるべき」という主張です。

国立大学への競争原理の導入は、一般国民の皆さんや、競争に打ち勝たなければ生活の糧を失ってしまう厳しい現実の中で働いていらっしゃる民間企業の方々から見れば至極当然のことだろうと思いますし、我が国の国立大学が国際的な競争力を備え、世界に伍した大学に成長すること、あるいは、我が国の国公私立大学が相まってそれぞれの特色を武器に、いい意味での競争的環境の中で切磋琢磨しながら成長することはとても意味のある歓迎すべきことだと思います。

しかし、経済財政諮問会議において民間議員が主張した競争原理とは、国立大学の使命や現状をよく理解していない経済原理に基づく競争原理でした。
具体的には、各国立大学が獲得した競争的研究資金の額の大きさに比例させた形で運営費交付金の額を決め配分しようとする考え方であり、各国立大学の研究面のアクティビティのみを資源配分の尺度にしようとするものでした。

既に多くの報道でも指摘されましたが、こういう考え方の下で生き残ることができるのは、いわゆる旧帝国大学、あるいはそれに準じた大規模大学のみであり、立地条件や組織構成上、競争的研究資金の獲得について自ずと限界がある地方大学、人文系が主たる組織の大学、教員養成大学などは、大幅な減額を余儀なくされ、ますます大学間の格差が拡大し、財政的に力のない大学はゆくゆくは消滅するという結果になるのは十分予想されるところです。

また、大学の持つ多様な役割・機能のうち、研究面だけを重視した資源配分を行うという偏った考え方は、この国の将来を担う優れた人材を家計などの経済状況にかかわらず養成するという、いわゆる「教育の機会均等」という私立大学にはない国立大学の重要な使命を完全に無視したものであり、国立大学の存在意義そのものを根底から覆す極めて危険な理論です。

彼らのような経済原理主義者の理論がこのまま国策として実現したならば、おそらくこの国の将来は暗くはかないものになってしまうに違いありません。

身内に裏切られた国立大学

国立大学に過剰な競争原理を持ち込もうとする経済財政諮問会議の民間議員の中には、東京大学という国立大学に所属する教員がいます。

我が国最高峰の大学であり、国からもらった潤沢な資産や資金という恵まれた教育・研究基盤に支えられている大学にお勤めの誇り高き学者様には、地方に位置する弱小大学や単科大学の泥臭い改革努力は興味も関心もないのかもしれませんが、少なくとも、国民から頂戴する報酬を生活の糧としている国立大学の教員という立場である以上、文部科学省が膨大な資金と人員を投入し大事に育て上げてきた東京大学という自己の世界だけでなく、全国の国立大学、特に地方国立大学の現状をよく勉強し理解した上で行動してもらいたいものです。
また、国立大学で仕事をしているおかげで今の自分の立場や名誉があることをゆめゆめ忘れないでいただきたいと思います。

また、財務省のお役人にも同様のことが言えます。主計局の主計官などは、そのほとんどが東京大学という国立大学卒業のエリート官僚です。彼らが今、各省庁のお役人に対し言いたいことを言い、思う存分仕事ができるのは、国民の税金によって安定的に運営されてきた国立大学で、安価な授業料でも質の高い教育を受けることができたからではないのでしょうか。
そのおかげで現在の自分が存在することを忘れないでもらいたいし、今後ともそのことを肝に銘じて国の重要政策に携わっていただきたいと思います。

恩を仇で返すような人材を国立大学は育てたはずはありませんし、財務省という役所の省益だけで、この国の将来を担う人材を育てる国立大学の在り方を論じるべきではないと思います。


国立大学への競争原理の導入に関する議論は、現在のところ、一時期の財務省の強硬路線からやや穏やかな路線への転換によって沈静化されたやに見えておりますが、これから本格化する予算編成作業の大詰めの中で、再びびっくりするようなおばけがでないとも限りません。

教育に責任を持った財務省の姿勢と国家予算への反映を心から期待したいと思います。