2007年12月3日月曜日

大学事務改革の方向性

大学における事務改革は、大学執行部をトップとした全学的な取組みとすることが欠かせないと言われています。

大学トップの総長の号令の下、役員を改革の責任者に据え、取り組みを推進している東京大学の例などは、同じ国立大学にとって大変参考になるのではないでしょうか。

今回は、東京大学で事務改革の推進に努められ、自らその牽引役となってこられた上杉道世前理事が策定された「事務職員等の人事・組織・業務の改善プラン」の一部を以下にご紹介したいと思います。

地方の中小規模の国立大学が、巨大な東京大学と同様の手法で改革を進めることは現実的ではないのかもしれませんが、このプランの根底に流れる基本的な考え方や姿勢は、多くの国立大学が見習うべきものではないかと思います。

プランの性格

  • 抽象的なあるべき論を述べるのではなく、具体的な実行方法とともに、課題とその解決策を提案するもの

  • 職員が受身なままで上や外から与えられるものではなく、職員自身の発案を大切にしながら作成されたプラン。同時に、科所長はじめ各構成員の意見を取り入れつつプラン自身が改善されていくプラン

  • 様々な問題点が指摘されている現在の職員の状態は、長年の蓄積によって生じているものであり、一方的に批判するのではなく、職員自身の納得感を形成しながら、一つずつ解決していくべきもの

  • ある一点を変えればすべてが変わるといった魔法の解決策はない。人事の改善、組織の見直し、業務の見直しを同時並行的にかつ継続的に進めようとするプラン

職員像の大転換


これまでの職員の実態はあまりにも問題が多い。例えば、
  • 基本的能力が不足している。

  • 物事に受身であり積極的姿勢がない。

  • なんでも前例を守ろうとする。

  • 既存のルールに照らして可否を判断するに留まっている。

  • すぐに誰かに頼り自分で判断しようとしない。

  • 大事なことはみな教員が決めるものだと逃げの姿勢である。

  • 縦割りの事務分掌に閉じこもって全体を見ようとしない。

  • スピード感に欠けている。

  • 外からどう見られるかという感覚がない。

  • 文章が書けない。

  • 人前できちんとした話ができない。

このような批判が、ことあるごとに教員から出されている。

しかし考えてほしい。これは、職員自身の問題であると同時に、長年にわたって教員がともに形成してきたとも言える問題でもある。また、歴代幹部職員の責任でもある。

これまでの東京大学職員の多くは、大変誠実であり、まじめであり、与えられた仕事はきちんとこなす、公務員としては有能な職員であった。

しかし法人化により、必要な資質は大きく変わったのだ。

過去のよい点は維持しながら、新しい時代に必要とされるあり方を追求しなければならない。

幸い、若い世代には大変優れた資質を持つ人々が参入してきており、彼らを育て、実力を発揮させる環境を作ることにより、職員の状況はこの先数年間で劇的に変化するであろう。

それではどのような職員像が考えられるのか。

前述の「職員ミッション」(略)に加えて、更に具体的な職員像を職員自身の提案と努力で描いていくようにしたい。

ここでは3つのイメージを提示しよう。

1 経営企画を担う職員(マネジメント・スタッフ)

大学あるいは部局の経営について、これからは経営判断が重要となってくる。
経営判断に必要な理論やデータをそろえ、分析し、政策を立案し、意思決定を推進し、実施のため対内対外の折衝を行う。
豊富な実務経験と分析力、企画立案力そして組織経営の知識が必要である。

2 教育研究を直接支援する職員(アカデミック・スタッフ)

高度で多様な教育研究の推進のため、教員のプロジェクトの企画に当初から参加し、資金の獲得、プロジェクトの運営、対内対外の折衝などを行う。
様々な制度を熟知し、教育研究の中身にまである程度立ち入ることのできる素養が必要である。

3 専門的業務を遂行する職員(スペシャリスト)

基本的には全ての職員は何らかの専門性を持たなければならない。
前例や諸制度をよく知っているという従来型の専門性だけでなく、新しい事態に対して次々に創造的に対処していくことのできるいわば進化する専門性が必要である。
特に新しい分野や重要性が高まってきている分野について人材が至急必要とされている。

このような新しい職員像を実現するためには、職員自身が積極的に努力しなければならないのは当然であるが、教員の理解と協力が不可欠である。
教員自身の教育研究のよりよい展開のためにも、職員像の転換が必要であり、それを実現するため教員と職員が一緒に努力し取り組んでいかなければならない。
職員にまかせるべきものはまかせる、という方向での教員の考え方の切り替えが必要であり、職員もそれに答えられるように研鑽に努めなければならない。

事務職員、事務組織の将来像


ここで、後述(略)する改善の具体策を踏まえながら、事務職員、事務組織の将来像を簡潔に描いてみよう。
  • 各職種とも職員は、教員も含めて一体感を持ちながら、教育研究と経営を支える責任ある立場で仕事をする。教員や学生はもちろん、学外の関係者の要望に即座に応えるのみならず、課題を先取りし、むしろ職員側から課題を提示し、主体性を持って業務を遂行する。東京大学の教員と正面から対話ができ、その高い教育研究の水準を支えるに足る高い能力を持っている。その態度は真剣かつ前向きであり、同時に心に余裕があってにこやかである。

  • 東京大学の仕事は、世界的な公共性を持っている。教育研究は広く社会にその成果を還元するものであり、真理の探究は世界に貢献するものである。職員もその公共性の高い仕事の重要な部分を支えているという責任感と誇りを持つ。同時に、経営は効率よく行わなければならない。民間企業等の経験に広く学びながら、無駄を省き、限られた資源で最大の効果を発揮するように絶えず創意工夫を重ねる。

  • 職員組織の全体規模はできるだけスリムにし、業務見直しにより重要度の低い業務は縮小し、重要性の高い業務に人材を重点配置する。優れた職員を採用し、長くこの職場で働くことを見通し、各職員のキャリアプランを生かしていく。職員と仕事との幸福な出会いが実現するよう仕組みを整え、職員の生涯の充実と職場の発展が両立するようにする。職員は絶えず能力向上に努め、職員相互に競い合いながら助け合う関係を作る。

  • 処遇は、基礎的な水準は維持しながら、能力や業績をできるだけ反映する仕組みとする。限られた人件費の中で、組織をスリムにすることにより、個々の処遇の改善を図る。年齢にかかわらず実力本位で上位の職に登用し、力のあるものに重要な仕事を次々に経験させる。管理系だけでなく、専門能力を評価する処遇体系を作る。評価はコミュニケーションとチームワークを重視した手法とし、職務の向上に反映させる。

  • 事務組織は、全学共通の職務分野と部局ごとの一体性とのタテヨコの構造を支え、全学協調の要として機能する。組織内部は、グループ制の徹底により、フラットで柔軟な構造とし、迅速な意思決定と業務執行ができるようにする。業務の必要に応じて組織を構成し、縦割りの弊害をできるだけなくしていく。

  • 業務の見直しを徹底し、各職場単位での自主的かつ日常的な改善活動が活発に行われるようにする。システム化とマニュアルの普及により、定型的な業務は最小限となり、管理部門と間接部門の規模も縮小する。企画立案部門により高度な能力と人数を集中する。

  • 個々の職員が全学の目指す方向を理解するとともに、大学側も各職員の状況を把握し、より適切な職場環境を互いの努力で形成する。コミュニケーションと情報共有を徹底する。自分はこの組織に必要とされているのだという達成感を経験し、誇りを持った職員となる。