2008年1月16日水曜日

業務改革の視点

国立大学が法人化され、国立大学法人法の下で新しい国立大学法人の業務が開始され4年が経過しようとしています。

この間、各大学はそれぞれの理念や目標の実現に向け、いわゆる「PDCAマネジメントサイクル」による経営改革を進めています。

このサイクルのうち、「C:Check」に相当するものが、国立大学法人評価委員会等による「評価」であり、法人化後新たな仕組みとして導入された「監事による監査」ではないかと思います。

いずれも、国立大学法人法に定められた国立大学法人の業務が適切かつ効果的に遂行されているかどうかを検証する仕組みですが、「監事監査」については、国立大学法人法第11条第4項で、「監事は、国立大学法人の業務を監査する」と規定されているだけで、監査を行うに当たっての指針やガイドライン等は一切無く、これまで各法人の監事が模索し、試行錯誤を重ねながら監査を行ってきました。

そこで、全国組織である「国立大学法人等監事協議会」は、タスクフォースを設置し、このたび(平成19年11月)、業務監査の視点や項目についての指針を策定しました。

この指針は、もっぱら監事が業務監査を行う際の指針として作成されたものですが、監査を受ける側の国立大学自身にとっても、業務改革の推進状況を自己点検する際に活用できる内容に仕上がっていると思います。以下に主な視点をご紹介したいと思います。


中期計画・年度計画及び中長期行動指針、評価
  1. 達成目標が具体的に明示されているか。
  2. 年度計画の進捗状況、達成状況はどうか。
  3. 役員会が各部局の進捗状況を定期的に把握できるシステムになっているか。
  4. 「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月中央教育審議会答申)等の文教政策の動向を踏まえた中長期的基本戦略や中長期行動指針の策定等の取り組みが行われているか。
  5. 大学改革のために適切な評価体制が整備され、評価結果を大学改革に活かす積極的な取り組みが行われているか。

法人経営
  1. 法人役員の職務執行に関して不正行為や法令・規程違反はないか。
  2. 法人役員の職務執行(法人経営の方針・大学改革の方向の理解、担当業務の執行状況の掌握、企画立案、教職員への指示等)が適切に行われているか。
  3. 役員会における議案提出、審議手順、施策決定の時期等が合理的かつ適法、適正に行われているか。
  4. 学長は経営・教学双方の最終責任者として、経営手腕の発揮を含む強いリーダーシップを発揮しているか。
  5. 学長がリーダーシップを発揮し易い環境(学長裁量定員や学長裁量経費の確保等)になっているか。
  6. 副学長・学長特別補佐等、学長の補佐体制が十分機能しているか。
  7. 法人の役員又は職員以外の委員が半数以上を占める経営協議会が、設置目的どおりに機能しているか、また、機能するような努力がなされているか(法人業務を理解してもらうための努力、報告や説明に時間をかけないで実質的な討議や意見交換の時間を確保する努力等)
  8. 教育研究評議会では、定められた範囲を踏まえた審議が行われているか。(経営に関する事項を審議し、役員会の議決を実質的に縛ることになっていないか。)
  9. 法人経営能力を有する人材を確保するために、教職員からの人材発掘や育成のための仕組み作りなどに積極的に取り組んでいるか。
  10. 教職員に対する脱国立大学の意識改革や経営参画意識の醸成に積極的に取り組んでいるか。
  11. 事務職員が法人経営に積極的に参画する仕組みの導入及び事務職員の経営への参加意識の向上に努めているか。
  12. 法人の経営が透明になっているか。(諸情報が構成員である教職員に周知されているか。)

規程等の整備・遵守状況
  1. 規程類が整備されており相互に矛盾はないか、業務が規程どおりに行われているか。
  2. 規程類が主務官庁の指針どおりに作成されているか。
  3. 規程類が実質従来の国立大学のままで(組織や職名を変えただけ)、現状に合わなくなっているものはないか。

人事管理、組織管理
  1. 労働基準法、労働安全衛生法への対応は適切に行われているか。
  2. 労働時間管理は適切に行われているか、また裁量労働制を適用する教員について、「使用者」として労働時間の把握が行われているか。
  3. 法人化により可能になった様々な人事制度を有効に活用しているか。
  4. 優秀な教職員を確保するために採用方法の工夫がなされているか。
  5. 研修制度の充実を含め、職員の育成プログラムが設けられているか。
  6. 事務職員の戦略的、重点的配置が行われているか。
  7. 教職員の評価システムを整備し、適正な評価を行っているか。
  8. 評価が処遇に適正に反映される仕組みになっているか。
  9. 教員と事務職員との連携協力関係がうまく取れているか。
  10. 事務本部(事務局)と部局事務部との役割分担及び連携協力関係はうまく取れているか。
  11. 「法人経営のスペシャリスト」や「教員の優れたパートナー」を育成するために、職員の意識を変える取り組みや能力開発に積極的に取り組んでいるか。
  12. 業務量増大や長時間労働等により、心身に障害をきたす職員が増えてはいないか、防止するための取り組みは十分か。

業務改革、業務効率化
  1. 組織・事務処理体制・業務の見直しが恒常的に行われているか。
  2. 業務改善、事務改善の取り組みが教員も含めた全学的取り組みとなっているか。
  3. 事務組織が柔軟で効率的な組織体制になっているか。
  4. 膨大な時間と労力が費やされている全学・学部の委員会、小委員会、ワーキンググループ等の整理統合は進んでいるか、また、会議時間の短縮や会議の実質化、経費の節減等が図られているか。
  5. ITの活用、アウトソーシング等の取り組み状況は適切か。


広報活動、情報公開
  1. 積極的に情報発信・情報公開を行っているか。(業務の透明性確保、社会に対する説明責任など)
  2. 法人化に伴い広報活動が益々重要になってきているが、大学が掲げる将来像の実現を目指した戦略性を持った広報を行っているか。
  3. 情報発信媒体の整理、統合を行い効率的な情報発信が行われているか。
  4. 各学部・各部局がバラバラに広報活動を行い非効率になっていないか。

教育、研究
  1. 優れた教育を行うために全学を挙げた取り組みが行われているか。
  2. 学内において「教育の質」、「学生の満足度」、「卒業生に対する社会的評価」等の把握や改善のための議論が積極的に行われているか。
  3. FD(ファカルティ・ディベロップメント)等教員の教育力向上の取り組みが積極的に行われているか。
  4. 教員の担当授業科目数や履修生数は適切か。
  5. 遠隔講義システム、授業情報通知システム、自学自習システム等のITの整備や有効活用が図られているか。
  6. シラバスが学生にとって単なる履修科目選択のための一覧表ではなく、意欲的な学習を行うための重要な教育情報(授業の狙いと到達目標、授業計画及び授業方法、成績評価方法等)の提供になっているか。
  7. 評価など法人化による新たな業務のために、本来の教育研究にしわ寄せが来ていないか、そうしたことを解消する取り組みが行われているか。
  8. 中教審の答申で言われている大学院教育の充実に向けた取り組みが行われているか。
  9. 学生の自学自習のためのスペースが十分に確保されているか、大学院生が増加しているが、大学院生用のスペースなどは十分に確保されているか、また、研究科間でアンバランスになってはいないか。
  10. グローバル化が進む中にあって外国語教育は適切か。
  11. 学生による授業評価等並びに授業評価を教育に反映させることに積極的に取り組んでいるか。
  12. 運営費交付金が年々減少する中で、(教育)研究資金を確保するためには、益々競争的研究資金の獲得が重要になってくるが、全学的支援体制がとられているか。(支援体制の弱さが応募に二の足を踏ませることになっていないか。)
  13. 研究活動を活発化させるための取り組みがなされているか、研究助成の制度が整備されているか。
  14. 現代GP、特色GP採択などに向けて積極的な取り組みが行われているか。
  15. 研究活動不正行為防止のために、全学的取り組みが行われているか。(研究活動に関する倫理規定や行動規範は制定されているか。)
  16. 学生が教員と共同で創出した発明や著作などの知的財産が守られる仕組みがとられているか。

学生確保、学生支援
  1. 入試改善や入学者の確保対策に積極的に取り組んでいるか。(志願者の推移は?)
  2. 全入時代を迎え戦略を持って入試対策に当たっているか。
  3. 受験生への情報提供、オープンキャンパス、選抜方法の改善等の取り組みが積極的に行われているか。
  4. アドミッションポリシー(入学者受入方針)が全ての学部で定められ、学外者が容易にわかるようになっているか。
  5. 学部、学科、大学院の定員充足率の把握及び充足に向けた取り組みは行われているか。
  6. 大学は教育機関であるという意識を持って教職員は学生に接しているか。(学生中心の大学になっているか、教職員の意識改革は進んでいるか。)
  7. 学生支援策が「学生の視点」に立ったものになっているか。
  8. 学生のキャンパスライフを充実させるための取り組みは活発か。
  9. 社会人学生、留学生等多様な学生に対応した学習支援体制が構築されているか。
  10. 学生満足度を高めるために積極的に学生の声を聞く等の取り組みを行っているか、「学生の声」を大学運営に反映させる仕組みを講じているか。
  11. 学生の意見が集約できる学生組織はあるか。
  12. 課外活動活性化のための積極的な支援が行われているか。
  13. 学生の就職活動に対して積極的な支援を行っているか。
  14. キャリア教育への取り組み状況は適切か。
  15. 休学者・退学者等が増加してはいないか、また、それらを減らすための取り組みを行っているか。
  16. 医師国家試験合格率・教員就職率向上等に向けた取り組みが行われているか。
  17. 学生相談体制は整備されているか。
  18. 学生寮、自習室、課外活動施設等の整備に力を入れているか。

社会連携、産学連携、外部資金
  1. 地域社会や自治体との連携の取り組みは活発か。(公開講座など各種事業の実施状況)
  2. 共同研究、受託研究等が活発に行われているか。
  3. 研究費の確保のみならず大学財政運営の面からも外部資金獲得は欠かせないが、外部資金獲得に向けて大学全体が取り組む体制になっているか。
  4. 外部資金獲得のためにどのような取り組みを行っているか。(競争的資金の早い段階での情報入手、大学の研究シーズ・アイデアの提案等の取り組み)
  5. 応募率、採択率、獲得額の把握及びそれを向上させるための取り組みが行われているか。
  6. 外部資金執行に関するルールは整備されているか、それが周知徹底されているか。
  7. 科学研究費補助金などの執行が適正に行われているか。
  8. 知的財産の管理体制は整備されているか。□利益相反マネジメント体制が整備されているか。

国際交流
  1. 明確なビジョンを持って国際交流に取り組んでいるか。(交流締結大学等を増やすことが目的化していないか。)
  2. 留学生派遣について、障害となる語学力、単位取得、留学資金等への配慮が行われているか。
  3. 在籍する留学生についての支援が適切に行われているか。
  4. 海外に設けた大学の拠点が、法的位置づけや職員の勤務形態、勤務条件、公金の扱い等について問題のない形になっているか。

財務及び予算
  1. 予算が大学の目指す施策、方針、計画を反映したものになっているか(適正な予算編成方針が策定されているか。)
  2. 効率的な予算の執行及び経費節減に努めているか。
  3. 長期財政計画の策定を行うなど、将来を見据えた財政運営が行われているか。
  4. 安全で効率的な資金運用が行われているか。
  5. 物品購入の仕組み及び契約、価格等は適正なものになっているか。
  6. 発注等における業者選定は公平性、公正性、効率性を踏まえたものになっているか。
  7. 授業料・寄宿料・病院治療費等の未納対策は適正に行われているか。
  8. 法人が遊休の土地や建物を抱えてはいないか。
  9. 資産の取得、管理及び処分は適正に行われているか。

図書館、共同教育研究施設、附属学校
  1. 学生の要望等を反映した図書の購入や利便性を反映した開館時間になっているか。
  2. 図書、学術雑誌、視聴覚資料等が全学的・系統的に整備されているか。
  3. 図書館が地域に開放され、実態としても利用に供されているか。
  4. 共同教育研究施設が設置目的に合致するような業務運営を行っているか。
  5. 附属学校が設置目的に合致するよう、大学(学部)との密接な連携が図られているか。
  6. 附属学校との共同の取り組みが積極的に行われているか。

施 設
  1. 施設マネジメントの実施状況はどうか。
  2. 保守点検等で不備や改善点が指摘された場合、速やかな対応がとられているか。
  3. 施設・設備・共同利用施設の利用状況はどうか、利用状況が問題となる施設はないか。

附属病院
  1. 附属病院の基本理念が制定されているか、また、それをどのようにして病院内外に周知しているか。
  2. 基本理念を実現するための具体的な経営方針を策定しているか、また、教職員へは周知徹底されているか。
  3. 病院長と病院経営担当理事の役割分担(権限・責任)は明確になっているか、意思決定や指揮命令がその通りに行われているか。
  4. 病院長、病院経営担当理事、医学部長の緊密な連携が図られているか。
  5. 経営改善係数・診療報酬の切り下げ等厳しい経営環境の中にある付属病院の経営状況の分析並びに将来を見据えた経営計画の策定を行っているか。
  6. 診療科毎に数ヶ月単位の経営分析(1年単位では対応が手遅れになる恐れ有り)が行われているか。
  7. 収支改善のための取り組み(収入向上や経費縮減のための具体的な取り組み)状況はどうか。
  8. 病院は大学の他の部門と異なり、投資が収入に直接的に反映されやすい部門であるが、費用対効果を分析した上で投資が行われているか。
  9. 医療機器、診療材料等の購入は、公平・公正かつ経済性を考慮したものになっているか。(機器・材料選定、業者選定、契約方式、随意契約、納入検査他)
  10. 未収金(延滞金)についての回収体制はできているか。
  11. 患者の声を病院運営へ反映させることや職員に対する接遇教育など、患者サービス向上のための取り組みを積極的に行っているか。
  12. 薬品や診療材料などの在庫管理が適正かつ効率的に行われているか。
  13. 診療録、手術記録、看護記録等が適正に管理、保存されているか、病院治療に対する透明性が確保されているか。
  14. 患者の個人情報に対して十分な保護体制がとられているか。
  15. 安全教育の実施や医療過誤等の防止対策は徹底されているか。
  16. インシデント報告や医療事故等を参考にした医療事故防止マニュアル等が作成されているか。

安全衛生管理
  1. 有資格職員の配置、定期的確認体制等、労働安全衛生管理体制の整備状況は適正か。
  2. 各管理者等は職責を正しく理解し、職責を全うしているか。

リスクマネージメント
  1. セキュリティポリシーは確立されているか。
  2. 「事故は起こり得るもの」を前提にした危機管理体制が整備されているか。
  3. 危機対応マニュアルなどは策定されているか。
  4. 事故等が発生した場合、対応が速やかに行われているか。
  5. 事故等が発生した場合の情報公開は適正に行われているか、また、関係者の処分は適正か。(身内に甘いという批判を受けるようなことはないか。)
  6. 個人情報保護等情報管理体制が整備され、それが機能しているか。
  7. 論文盗用やソフトの盗用等の不当行為の防止策・対応策は講じられているか。
  8. 訴訟に対する対応は適切か。
  9. 事故等が発生した場合、監事への報告が速やかに行われているか。

内部統制
  1. 内部統制システムが構築され、それが有効に機能しているか。
  2. 内部統制の重要な構成要素である内部監査体制が整備されているか。
  3. 監事の職務遂行を補助する体制の整備や内部監査部門との連携等、監事の監査環境の整備が図られているか。
  4. 監査を忌避する風潮はないか。
  5. 監査指摘事項に対応する仕組みは出来ているか、また、迅速な対応がなされているか。
キャンパス・ハラスメントの防止
  1. キャンパス・ハラスメントのない大学等にするために積極的な取り組みが行われているか。
  2. 「ハラスメントの防止・対策に関する指針」や「相談員マニュアル」等が作られているか、また、ハラスメント相談窓口が設けられ、それが機能しているか。
  3. 管理職に対する研修の徹底や教員の研修義務化などの取り組みが行われているか。
  4. 学生に対する指導が十分に行われているか。
  5. ポスター、ホームページ等によるキャンペーンが恒常的に行われているか。
  6. ハラスメントが発生した場合、対応が速やかに行われているか。

その他
  1. 大学と同窓生(会)との結びつきを強化する取り組みは行われているか。


非常に膨大なチェック項目数になっていますが、大学で行われる多様な業務をよく理解した上で、押さえなければならない重要項目が明確にされていると思います。これらの項目を一つでも多く実現できれば、自ずと大学の評価も高まっていくことでしょうし、大学の果たすべき役割として極めて重要とされている「大学の社会的責任」(University Social Responsibility:USR)を果たすことができるのではないでしょうか。


社会は大学に、民間企業以上に高い倫理性・社会性を求め、経営責任も求めている。
しかし、不祥事の増加に見られるリスクマネジメント能力の欠如、不的確な情報開示等、社会的責任に対する認識不足が指摘をされており、これらに起因する不信感の払拭と不祥事等の未然の防止が、現在の大学マネジメントの共通課題である。

大学は、大学本来の役割である教育と研究を的確に行って、地域に根ざした社会貢献を果たせば、自ずからUSR が全うされ得る。
しかし、加えて、学生、教職員、企業はじめ多くのステークホルダーの要請を把握してそれに応えるとともに意識を共有することが、USR、GCRの確かな実践の前提となる。

的確な情報公開、それに対するステークホルダーの意向への対応、大学の運営、法令遵守、危機管理、環境保全等に関わるガバナンスのシステムの構築は、USR の推進にきわめて重要である。(国立大学法人等監事協議会業務監査タスクフォースチーム報告書)