2008年2月11日月曜日

危機意識の不在

研究費不正、パワハラ、アカハラ、セクハラ、挙句の果てには、わいせつといった大学の不祥事に関するニュースが毎日のように飛び交う情けない時代になってしまいました。

最高学府でなぜこのようなことが頻繁に起こるのか。一言では言えない様々な要因が背景にはあるのでしょうが、これだけ事件や不祥事が頻発するということは尋常ではありませんし、「大学というところは、社会の常識やモラルと相当にかけ離れた閉ざされた世界なのですね」と揶揄されても仕方ありませんね。

最近の記事を例に少し考えて見ましょう。なお、ここでご紹介する事例は、特定の大学を批判するためのものではありません。多くの大学に通じる事例としてご紹介しようと思っていますので誤解のないようにお願いいたします。


パワハラで○○大教授戒告 休日出勤を強要 (2008年2月7日付産経新聞)

○○大(○○市)は7日、休暇中の教員に「業務命令だ」と言って強引に出勤させるなどのパワーハラスメントや学生に対するセクハラ(性的嫌がらせ)をしたとして、工学部の60代の男性教授を戒告処分にした。

同大によると、教授は同じ学科の教員らに対し自分の意に沿わないことがあると「業務命令だ」「辞めろ」などと言って無理な命令をするパワハラを繰り返した。教員を叱咤(しった)する際、頭をたたいたこともあった。

また講義中に性的発言をして学生に不快感を与えたり、侮辱的な言葉で学生をしかったりしていた。

昨年4月、教員らから苦情があり大学側が調査していた。

○○学長は「教授の行為は教育を行う立場にある者としてあるまじき行為で、品位を欠く。指導監督を強化するなど再発防止に取り組みたい」とのコメントを出した。


パワハラ:○○大が60代教授を戒告 教員、学生から苦情 (2008年2月8日付毎日新聞)

○○大は7日、工学部の60代の男性教授が部下の教員をたたき、学生を立たせて歌わせるなどのハラスメント(嫌がらせ)行為をしたとして、戒告処分にしたと発表した。

大学によると教授は昨年3月、男性教員の頭を平手でたたいたほか、複数の教職員に「辞めろ」などと口頭やメールで伝えるパワハラ行為を繰り返した。

また、06年7月10日には学生約60人がいる教室で答案返却時に学生に卑わいな言葉を言い、成績が悪かった学生は立たせ、歌を歌うことを強要。さらに、全員を立たせ「学生の本分は勉強です」と数分間にわたって大声で言わせるアカデミックハラスメント行為もした。

昨年4月に複数の教員、学生から大学側に苦情申し立てがあり、調査していた。同大は「これ以外にも(同様の行為は)長期間あったと類推される」としている。教授は事実関係を認め、たたいたことは謝罪したが「パワハラ、アカハラなどのつもりはない」などと話したという。

同時 に記者発表を行っているためか、記事のトーンは同様ですし比較的穏やかです。大学が示したリリースを基に淡々と客観的に事実関係を流しています。正直言って、事は重大であり、もう少し突っ込んだ批評を加えてもいいのではないかと思いました。


それでは、報道されたこの大学の今回の不祥事に対する対応を見てみましょう。この大学のホームページには次のようなコメントが掲載されてありました。


教員の懲戒処分について (2008年2月7日)(抜粋)

今回のことで、本学に対する社会的な信用を大きく失墜させたことは全く遺憾であり、今後は、二度とこのようなことが起こらないように、教員に対する指導監督を強化すると共に教員に対する一層の意識啓発等を行い、資質向上を図り、再発防止に全力で取組んでいきたいと思います。(人事課長)



不祥事発覚後の大学の対応を示す文章としては、一見理想型のように見えますが、少々疑問も残りました。

そもそもこの不祥事は1~2年も前から発生していたのですから、大学はその事実を知った時点で、類似の不祥事の防止に向けた何がしかの対策を講じてきているはずではないのか、行ってきているのであれば、なぜ謝罪会見で説明することができなかったのだろうかということです。

仮に、これまで説明できるほどのことをやってきていなかったとしても、「これからどのような再発防止に取り組んでいくのか」については、具体的に説明する義務があったのではないかと思います。

いずれにしても、今回大学から出されたコメントは、社会から見て形式的な報道対応にしか見えず、心ある責任の取り方とは言えないと思います。また、余計なことですが、大学としての謝罪文は、「人事課長」といった立場の方ではなく、大学の最高責任者である「学長」の名前により公表された方がよかったのではないでしょうか。


この大学のホームページを眺めていたら、今回以外にも幾度か謝罪していることがわかりました。そして、この大学の今後急ぎ対応すべき点も見えてきました。

まずは、ここ最近のホームページの記事を3つほどご紹介します。

職員の懲戒処分について (2007年10月19日)

無断で欠勤し講義を実施しなかった工学部教員に対し、懲戒処分(停職12月)を行ったという記事の一部分です。

当該教員の行為は、学生及び教職員をはじめ、本法人に多大な不利益を与えたばかりでなく、教育を行う立場にある教員としてあるまじきものであり、本学に対する社会的な信用を大きく失墜させたことは全く遺憾であります。今後は、二度とこのようなことが起こらないように、教員に対する指導監督を強化すると共に教員に対する一層の意識啓発を図り、再発防止に全力で取組んでいきたいと思います。(人事課長)(※後段は、今回のパワハラ等による教員の処分時の謝罪文と同文ですね。)


真正な学位と紛らわしい呼称等の取得者への対応について (2007年10月19日)

いわゆる「ディグリー・ミル」問題(にせ学位の保有)が工学部教員において発覚した際の対応として、本人との合意解約を行ったことを知らせる記事の一部分です。

真正な学位を授与する機関である大学としては、今回のような真正な学位を発行する正規の大学等として認められていない機関の学位については、これを学位として認めることはできません。しかしながら、選考の段階でこのことが判明しなかった点で、本学の教員採用時の調査不足は否めず、真摯に受け止める必要があり、大いに反省すべきことと思っています。今後は、二度とこのようなことが起こらないように、教員採用時の審査を一層厳格化していきたいと思います。(人事課長)


平成20年度入学者特別選抜試験(推薦入学)の医学部看護学科合格者発表の誤報について (2007年12月19日)

医学部看護学科の合格者について、誤った受験番号を掲示及び掲載したことに対するお詫びの一部分です。

今後、万全の対策を講じ、二度とこのようなことが起こらないよう、全力を尽くします。(学長)



不祥事の内容は全く別物ですが、謝罪文の末尾はいずれもほとんど同じ内容です。

二度とこのようなことが起こらないように、教員に対する指導監督を強化すると共に教員に対する一層の意識啓発を図り、再発防止に全力で取組んでいきたい。
二度とこのようなことが起こらないように、教員採用時の審査を一層厳格化していきたい。
万全の対策を講じ、二度とこのようなことが起こらないよう、全力を尽くします。

といった再発防止に向けた強い決意のほどが伺えます。


が・・・、ホームページを見る限りにおいては、上記のような度重なる不祥事に対する反省や再発防止に向けた決意しか掲載されておらず、肝心な「その後、再発防止のためにどのような対策を講じたのか」、「それによって何がどう変わるのか、変えようとしているのか」など具体的な改善策については、残念ながら見つけることはできませんでした。


このように、不祥事を起こした、あるいは発覚した直後は、報道や社会に対して一義的には前向きな姿勢を見せていても、その意気込みがいつのまにか風化してしまうことが、この大学に限らず多くの大学にあるような気がしてなりません。

国公私立を問わず、大学には多くの国費(税金)が投入されており、そういう意味では、公的機関であるはずです。しかしながら、納税者や社会に対する情報公開は未だに十分とは言えません。

このため、学生、保護者、社会の方々は、大学の中で何が起こっているのか知ることができません。

最高学府ではあるが、その閉鎖性故に、様々な不祥事を正面きって退治する体質が整っているとは言えない大学は、今こそ真剣に社会の常識との大きな乖離を無くす努力をすべきではないかと思うのです。