2008年2月25日月曜日

図書系職員のあり方

大学がその機能を高めていくためには、大学に勤める様々な職種の人々が、それぞれの役割や使命を十分に果たすこと、そして、全体としての最適化が図られることが最も望ましいと思われます。

しかしながら、専門的な事務系の職種については、構成員に占める割合が小さいため、ともすると周囲の理解や、あり方についての検討の熟度が十分ではないような気がします。

前回、大学図書館の現状と課題について考えてみましたが、今回は、大学図書館で働く人材のあるべき姿について考えてみたいと思います。

前東京大学理事の上杉道世氏が、文部科学教育通信という雑誌(No.190/2008.2.25)に寄稿された「図書系職員のあり方の改善について」(全文)をご紹介します。あくまでも東京大学の改革例ではありますが、基本的な考え方としては参考になるものだと思います。

図書系職員をめぐる諸問題


図書系職員は、他の業務分野の職員に比べると、専門家集団の形成や全学的組織化などさまざまな面ですでに一定の専門職の体系が確立されていると言える。

それだけにより具体的な課題が見えてきており、他の専門職種を考える際の参考になる。

また、特定の部門だけ改善を図ろうとしても限界があり、全学の全職種総体での改善が同時に必要であるという状況も見えてくる。

図書系の職員について、どのような課題が言われているであろうか。

古い大学の中の一段と古い建物が図書館であり、古い書物に囲まれて古い机と椅子が並び、書物の貸し出しや整理をしている職員がいる、というイメージは過去のものになりつつある。

今ももちろん書物としての資料も重要ではあるが、電子的なデータやジャーナルの比重が飛躍的に高まっており、サービスもオンラインでの資料提供や情報提供の比重が高まり、図書系というよりも学術情報系という呼称の方がふさわしい状況になってきている。

したがって、その専門性についても多岐にわたっており、図書系の中でもどのような分野のどのような専門性を持った職員を育てていくかということをきめ細かく考慮していかなくてはならない。

同時に、相当規模の職員集団を管理し組織運営をしていくためのマネジメント能力のある職員の養成もしていかなくてはならない。

図書系職員の中には、情報能力や語学能力の高い職員も多く、図書館での仕事のみならず、情報系や国際系の業務でその力を発揮してもらう可能性もある。

また、一大学内での経験だけではなく、他大学他機関での経験も能力向上に有益であり、力量のある人ほど積極的に交流経験を持たせるべきである。

能力の高い職員が多いにもかかわらず、上位の等級のポストは限られており、欲求不満がしばしば聞かれる。

これを打開するには、部長課長という職位を上がっていくというルートのほかに、専門性を評価されることにより高い処遇に到達する仕組みが必要である。

同時に、図書系の業務が確かに教育研究を支える重要な仕事として機能しているという業務全体への学内の評価が高まることが必要である。

部局長の意見を聞くと、図書系への不満がしばしば聞かれる。

部局の図書室がまるで独立組織のようで、部局の意見をあまり反映してくれない。

部局の専門分野の資料に精通して欲しいが、そういう専門性のある人になかなか来てもらえない。

部局全体が忙しくしている時期に図書の人は協力せず、関係ないという態度である。

人事についていろいろ要望しても、図書系人事の都合を優先されてしまう、などである。

もちろんこれらは一部の現象であり、小規模の部局などで、教員と図書系職員と他の大学職員が良い雰囲気で協力してよい事業を進めている例もある。

しかし課題は解決しなければならない。

このため、東京大学では、「図書職員のキャリアパス計画」を策定し、今後の改善の大きな指針としている、以下同計画について紹介したい。

なお、同計画では、「学術情報系(図書系)」という用語を使っているが、ここでは略して「図書系」と表記する。


図書職員のキャリアパス計画

専門職としての基本的知識・能力と評価視点

図書系専門職としての基本は、利用者へのサービスに関する知識・能力であり、改善提言能力、実行力を伴うものである。以下の13項目に整理される。
  1. 資料の選定に関する知識・能力
  2. 資料の購入に関する知識・能力
  3. 資料の分類に関する知識・能力
  4. 資料の目録に関する知識・能力
  5. レファレンスに関する知識・能力
  6. 情報検索技術に関する知識・能力
  7. 学術情報システムの設計に関する知識・能力
  8. 情報リテラシー教育に関する知識・能力
  9. 資料保存のための知識q能力
  10. 国際的情報交流のための語学力
  11. 書誌学全般の知識
  12. 資料に関する著作権法の知識
  13. 1~12までを包括した図書館経営能力
これらの知識能力は習得段階に応じてそれぞれ3段階のグレードに区分される。

職種と業務分野

専門職系職員の職種を整理する。

専門職系としては、資料受入系、資料整理系、利用者サービス系、学術情報システム系が挙げられる。

これらと並んで総合系(マネジメント系)がある。

業務の対象となる分野の区分からも整理できる。

業務分野としては、人文系(人文系部局図書室など)、社会系(社会系部局図書室など)、理工系(理工系部局図書室など)、生命系(生命系部局図書室など)、総合系(総合図書館など)に区分できる。

役 職

個人の資格として付与される処遇上の区分と職制上(ライン)の区分を明確に分け、専門職としての処遇上の区分は、図書系専門員-専門職員-職員となる(呼称は要検討)。

業務遂行上のラインとしては、グループ長-チームリーダー-チームメンバーとなる(呼称は要検討)。

これらのラインに処遇上のどの職員を配置するかは必要とする業務の状況により柔軟に判断する。

ステップアップの仕組み

全学の図書系の業務を、職種と業務対象分野の組み合わせで整理し、そこへ専門職としての知識能力を当てはめていく。

これにより全学の図書系の業務の専門性の体系の全体像が見えてくる。

同時のその全体像は処遇の体系と重なっている。

図書系の全職員が専門性の評価を通してそのどこかに位置づけられる。

そして、人事異動と研修により、グレードをアップしていく道筋が見えてくる。

専門性の評価の方法については、今後さらに詰めていかなくてはならないが、職員の活動状況を記録した調書や他のスタッフからのヒアリングなどで把握していくことになる。

図書系の本部的機能を担うラインと、全職種の人事を総合判断する人事系のラインとが協力して行うことになる。

人事異動も、全学の専門性の体系の中で、各職員の経験年数、年齢、本人の希望、能力・適性等を総合判断して、図書系のラインと人事系のラインが協力して行う。

その際、専門性の初期段階ではなるべく幅広い経験を与え、専門性が高度化するにつれ特化していく方向となる。

研修もステップアップに直結するようにレベルと内容を配列して実施する。

これらの改善は、図書系職員のみで実施しようとしても困難が多いだろう。

大学職員全体の改善の動きの中でこそ実現していくと私は考える。