2008年3月3日月曜日

高等教育政策の動向

文部科学省高等教育局から配信されている高等教育政策に関する情報メルマガ(2008年2月28日号)のうち主なものをご紹介します。


■中央教育審議会大学分科会の動向について

大学分科会制度・教育部会学士課程の在り方に関する小委員会(第12回)について -答申に向けて学士課程教育の在り方について議論-

2月15日、大学分科会制度・教育部会学士課程の在り方に関する小委員会(主査:黒田壽二金沢工業大学総長)の第12回会議が開催されました。

この会議では、学士課程教育の在り方について、年度内の「審議のまとめ」に向け、昨年9月の審議経過報告から修正を行うべきポイントについて意見交換が行われました。次回以降、制度・教育部会と合同で、文案の審議を開始する予定です。


大学分科会大学院部会(第40回)について

2月21日、大学分科会大学院部会(部会長:荻上紘一独立行政法人大学評価・学位授与機構教授)の第40回会議が開催されました。

この会議では、1)専門職大学院に関する今後の検討課題について、2)博士課程修了者等の諸問題について意見交換が行われました。

1)専門職大学院に関する今後の検討課題については、「専門職大学院の教育研究活動等に関する実態調査」のデータ等に基づき、現状の問題点や今後の検討課題について意見交換を行いました。

2)博士課程修了者等の諸問題については、分野別の博士課程修了者数や、就職者数等のデータに基づき、意見交換を行いました。委員からは、
  • 博士課程の社会のニーズとのミスマッチについて、専門領域の蛸壺に入りすぎているのをどう打開するか。企業側には特に人文社会系のドクターを敬遠する意識があるが、企業と意思疎通を図るなどして打開が必要。

  • 博士課程の入口においてスクリーニング機能がほとんどないのが課題。

  • 将来が不安だからということで、学生が博士課程に魅力を感じず、優秀な学生が博士課程に進学しなくなることについては大きな危機感をもっている。

  • 経済的支援は非常に重要。十分な能力を有する博士課程学生に生活費相当程度の経済的支援を行うことなしに、国際的水準の大学院教育を達成することはできない。
等の意見が出されました。


■教育基本計画に関する意見書「大学教育の転換と革新」について -安西大学分科会長へのインタビューから-

去る2月8日に中央教育審議会教育振興基本計画特別部会(部会長:三村明夫・新日鐵代表取締役社長)が開催され、当部会と大学分科会を兼務する安西祐一郎慶應義塾長、郷通子お茶の水女子大学長、金子元久東京大学大学院教育学研究科長、木村孟独立行政法人大学評価・学位授与機構長の連名による「教育基本計画の在り方について-『大学教育の転換と革新』を可能とするために-」と題する意見書*1が紹介されました。

その後、この意見書に関し、大学分科会長である安西委員へのインタビュー記事が、2月19日(火)読売新聞20面「社会人学生15倍増案」、2月25日(月)日本経済新聞27面「大学誰もが学べる場に」に掲載されましたので、その内容について紹介します。

安西委員のコメントの趣旨は以下のとおりです。

提言をまとめた理由

中央教育審議会で検討が進められている教育振興基本計画の内容に反映されるよう、2025年の将来像と改革内容を具体的に示し、それに必要な予算として、年間5兆円規模の公財政支出の速やかな達成を求めた。

2025年の将来像

生まれたばかり子供たちが大学に進む2025年、日本は、日本の精神基盤を大切にし、世界でトップクラスの成熟した民主社会であって欲しい。
それには、日本に住む普通の人々が、一定水準以上の思考力、判断力を身につけることが必要。年齢や国籍を問わず、誰もが大学で学ぶ機会が保障される状態を目指したい。
そのため、日本の大学で375万人の学生(1.3倍増)が学び、75万人の社会人学生(15倍増)や25万人の留学生(2.5倍増)を受入れることを目標として掲げた。

社会人学生の大幅増

日本は人材立国であり、勉強が必要なのは若者だけではなく、社会人も必要。
仕事を休んで学べるように社会の仕組みを変え、大学側も社会人のニーズに応え得る中身を持つよう、質を高める必要がある。
社会人学生を在学者全体の2割としたのは、先進諸国の状況も踏まえ、生涯学習社会に相応しい政策目標として提起したもの。

公財政支出の増額の狙い

公財政支出の増額は、経営難の大学の救済でなく、大学の質を向上し、学生にきちんと勉強をさせるため。
また、質が向上できない大学は淘汰されていくのが自然。
この提言に基づく公的投資によって、教育費の家計負担率は5割から4割に減る。
なお、日本の将来に重要なのは初等中等教育も同様であり、教育予算の取り合いをするつもりは一切ない。

大学の国際競争力

大学の国際競争力の基本は教育の質と研究水準。
両者が高くなければ、国際競争力があるとは言えない。
日本にも世界レベルの大学はあるが、その水準を維持・向上し、極東の島国に外国の学生を惹きつけるには大変なエネルギーと資金が必要。
だが、そのための財政基盤が十分ではない。
また、米国の大学の特徴は、研究重点大学だけでなくコミュニティーカレッジや良質の4年制教養大学が多数あり、平均的な大学生が質の高い教育環境に支えられている。
特定の大学を頂点とする単峰型の構造ではなく、こういう構造が日本に欲しい。

地域貢献と大学


世界で競争する大学と地域を活性化させる大学の両方が必要。
東京一極集中が進む中、地域貢献できる大学は欠かせない。

国立私立大学の役割分担

国立大学は、国の政策に沿った教育をしっかりやることが筋で、どの国にも必要。
一方、人間は多様な能力を持ち、多様に伸びていくものであり、私立大学の役割が大きくなる。
国立大学も、私立大学に近い多峰型に変わる必要がある。
それぞれにどの程度の補助をしていくべきかは、今後議論が必要だ。


■「教育再生懇談会」の開催について -教育再生会議提言のフォローアップの開始へ-

去る2月26日に、「教育再生会議」は廃止され、その後継となる「教育再生懇談会」の開催について閣議決定されました。

「教育再生懇談会」は、21世紀にふさわしい教育の在り方について議論するとともに、「教育再生会議」の提言のフォローアップを行うこととしています。

「教育再生懇談会」は、委員10名の委員から構成され、中央教育審議会大学分科会の委員である安西祐一郎慶應義塾長と野依良治独立行政法人理化学研究所理事長が加わられています。