2008年4月22日火曜日

事務改革の取組み-豊橋技術科学大学の巻

近時、多くの大学で力を入れて取り組まれていることの一つに「事務改革」があるのではないでしょうか。

事務職員個々人の職能開発も重要な課題ではありますが、組織改革、業務改善、人事評価制度の構築など、大学として取り組まなければならない課題は多く、スピード感をもって改革に邁進することが、大学間競争に勝ち抜く絶対条件になっているといっても決して大げさではありません。

また、事務改革を大学全体として着実に進めていくためには、学長をはじめとする経営トップが、大学にとって、事務組織の果たすべき役割や機能を強化することが不可欠であるとの十分な認識の下、事務改革を事務職員に丸投げすることなく、自らが改革の推進役として、強力なイニシアティブを発揮することが極めて重要なのではないかと思います。

この日記でも登場したことのある山形大学前学長の仙道氏など、事務改革や事務職員の職能開発の推進に情熱を注がれてこられた(あるいは注がれている)学長は決して少なくないと思います。

これからご紹介するのは、豊橋技術科学大学(国立大学法人)における事務改革の取組みについて、前学長の西永頌(ただう)氏が執筆されたもの(文部科学教育通信 No184 2007-11-26掲載、執筆当時は学長)です。

豊橋技術科学大学が自身のホームページで紹介されている資料を拝見した時に、大規模大学に比べスタッフ数等においてハンデのある単科大学でもここまでできるのかと正直驚き、感心させられました。

西永学長の下で成し遂げた事務改革は、多くの大学の手本となることでしょう。

はじめに

本学は、「技術科学」の教育・研究を使命とし設立された工科系の単科大学です。小規模大学ではありますが、先の21世紀COEプログラムに2件、今年度のグローバルCOEプログラムにも1件採択されるなど、研究力に自負をもっています。しかしながら、本学が日本で、世界で、存在感をより高め、この時代の荒波に打ち勝つためには、教員の教育・研究力を高めることはもちろん、教員とともに歩むべき事務局、事務職員の改革も必須であると考えています。

また、教育再生会議における第2次報告(平成19年6月)の「地域・社会に貢献する大学・大学院の再生」の中で「国立大学は、大学事務局の改革を進め、事務職員の一層の資質向上と合理化等、経営の効率化を行う」ことが掲げられているように、事務局の改革は、本学を含む国立大学にとって共通の課題ともなっています。さらに言えば、事務局の改革、経営の効率化は、程度の差こそあれ、すべての大学にとって必要なことでもあり、改革等の経験を共有し、それを財産とし、各大学が切磋琢磨していく必要があるとも考えています。

本学では、事務改革の実現を目指して、平成18年3月に事務改革大綱を策定し、同4月に事務改革推進本部を立ち上げ、平成19年3月には事務改革の実行計画である「事務改革アクションプラン」を策定しました。現在は、この事務改革アクションプランに基づき、計画の実行、実行状況の検証、計画の見直しのPDCAサイクルを回しているところです。

事務改革大綱

本学では、平成18年3月に、執行部が中心となり、事務改革の憲法とも言える事務改革大綱を定め、学内に周知をしました。事務改革大綱は、事務改革の基本的な考え方などをまとめたもので、これから事務改革を進めなければならない旨を謳ったものです。事務量は増加し、かつ、その質も高度化、専門化が求められている中で、総人件費改革により人件費は削減していかなければならないという難問を解決していくには、私や執行部がただ命令をするだけでは駄目で、認識を共有し、共に考え、空気を変えていくことが必要です。この時点では細かい改革の内容は決まっていませんでしたが、まず基本方針を周知することで、事務改革が必要性であるとの認識の浸透を図ることにしました。

事務改革推進本部

平成18年4月に、事務改革を全学的に推進するため、事務改革推進本部を設置しました。この事務改革推進本部の構成員は、私(本部長)、事務局長(副本部長)、将来構想担当の学長補佐(教員3名)、部課長、課長補佐となっています。

従来、国立大学では、事務局と教員の問には、大なり小なり壁があったのが事実と思いますが、事務局の改革には教員の協力が必要不可欠であることから、学長である私が先頭に立ち、また、学長補佐の教員も構成員に加えました。

また、これからの大学運営を担う中堅若手職員の企画・立案能力の涵養を図りつつ、その意見を取り入れるため、事務局長を主査とし、係長3名、係員4名からなる検討部会を事務改革推進本部の下に設置し、事務改革に関する調査・分析及びそれらに基づく改革の原案の作成を担わせることとしました。

そして、事務改革推進本部の発足後すぐに本部会議を開催し、改めて事務改革の必要性を説明し、事務改革の進め方などについて議論をしました。また、本部会議では、検討部会で調査・分析すべき事項を整理しましたが、検討部会には、その調査・分析事項以外にも、必要と思うことを自由にやり、柔らかい頭で自ら企画するように指示をしました。

第1回の事務改革推進本部会議後には、教授会、全教職員を対象とする職員連絡会で事務改革推進本部での議論の内容等を説明し、全教職員の意識改革を促しました。

改革に向けての助走段階

まずは、検討部会が過去の本学の事務改革の状況と他の国立大学の組織改革の状況等を調査・分析し、これらに基づく種々の提案をし、その後、事務改革推進本部でその内容について議論をし、整理をしました。

本学では、過去においても、度々事務の合理化等の試みをしており、その時々で、多くの改善の提案がなされていましたが、その実行は一部に止まっていました。その原因としては、事務職員の共通認識が形成されていなかったこと、改善の計画が曖昧であったことなどが考えられました。これらを踏まえて、今般の事務改革においては、今までにはなかったヴィジョン、行動指針を示し、共通認識を形成すること、改善策については、担当や実施時期、決定プロセスを明示し、検証する仕組みとすることを決定しました。

他の国立大学の組織改革については、チーム制や理事直結制などについて、長所短所を考察し、現場レベルでのヒアリングを実施しました。それぞれの制度には長所短所があり、まだ新たな体制が根づいていない大学もあるようですが、まず、何かを変えてみようと挑戦していくことが大事だと感じています。カイゼンに百点満点、完壁はなく、終わりはないとも言われるように、短所があったとしても継続的に改善していけばよく、先陣を切って挑戦をしている大学に敬意を感じています。本学においては、現在、新しい体制の具体案を詰めているところですが、まず、何かを変え、そして徐々に百点に近づけるようにしていきたいと考えています。

本部会議におけるこれらの議論に際しては、大学をよりよくしたいという熱意の伝わってくる意見を言う者も多くいましたが、現状を維持したい意思が透けて見える意見を言う者、自分のセクションのことのみを考えて意見を言う者がいたのも事実です。意識の改革は簡単ではありませんが、まず、私と事務局長が強い意志と熱意をもって事務改革に取り組み、職員一人一人の意識改革をアシストしていきたいと考えています。

重点課題の整理

事務改革推進本部では、事務改革にあたっての重点課題を、人事制度改革、事務の簡素化・合理化、事務職員の再配置、事務組織の再編成と設定し、これら重点課題を整理しました。

人事制度改革については、その基本方針として、「戦略的な人材育成と研修制度」、「適正な評価」、「能力・適性に応じた採用・異動・昇任・降格」、「持続的な成長のための人事計画」、「能力・実績に基づく給与体系」を掲げ、今まで通り、昨年と同じ、というような意識を変え、現状を十分に検証し、具体的な取組につなげていくこととしました。「ヒト」は財であり、その能力、専門性、意欲の向上を図ることが、事務改革の実現に重要な役割を果たすことから、4つの重点課題の中でも、特に重要な課題と考えております。

事務の簡素化・合理化については、まず、すべての業務の洗い出しを行った上で、事務局の業務を総覧し、権限の委譲、不要な事務手続きの廃止、事務の一元化を図っていくこととしました。事務職員の心身の健康及び両立支援のため、また、人件費の抑制のためにも、時間外労働を削減していく必要があり、事務の簡素化・合理化を図り、効率的な事務局運営をしていく必要があります。

事務職員の再配置については、国の行政機関(国立大学法人を含む)の人件費抑制政策が継続されるものと仮定し、これを前提条件として、事務職員の適正な配置を検討をすることとしました。また、この事務職員の再配置にあたっては、上記の事務の簡素化・合理化に加え、課長補佐職の在り方、管理職の在り方、柔軟な組織運営等も併せて検討・見直しをしていくこととし、真に実効性のある改革となることを目指しました。

事務組織の再編成については、先行して事務組織改革を実施している他大学の組織体制を参考にさせていただきながら、大学を取り巻く環境、本学の実情等を踏まえて、本学に合った組織体制を考えていくこととしました。

業務調査

事務の簡素化・合理化、事務職員の再配置の具体的な計画を立案するためには、業務の内容、業務量の洗い出しが必要であり、管理職を除く全事務職員を対象に業務調査を行いました。この業務調査では、規則等に表れない業務などもすべて洗い出し、また、その業務が常勤職員でなければできない業務なのか、その業務がその係のすべての業務のうち何割を占める業務なのか、その業務の改善策と、その改善策がなぜ実施できていないのかなども調査することとしました。細かい作業が日常業務に付加されることとなり、現場には不満の声もあったようですが、「学長室だより」(その時々の重要課題につき、電子メールにより、状況や考え方などを全職員に配信)により事務改革の必要性を改めて説明し、共通理解を深めるよう図りました。

また、この業務調査には業務の洗い出しの目的に加えて、すべての事務職員を事務改革アクションプランの策定過程に参画させるという目的もありました。業務調査の際に現場の職員から提案された業務の改善策の多くを事務改革アクションプランに反映し、事務改革アクションプランが事務改革推進本部や検討部会だけで作ったものとならないようにし、すべての事務職員が参画する事務改革の取組、という意識を芽生えさせるよう図りました。

トップダウンで物事を決めていくことは、生まれ変わった国立大学を表象しており、国立大学法人化のひとつの目玉でしたが、改革を実行していくには、強いリーダーシップは当然必要ながら、それだけでは足りず、そこで働く一人一人の意識改革が最も大事であると考えています。

ヴィジョンと行動指針

先に述べたとおり、改革に最も大事なことは意識の部分だと思っております。そこで、意識改革、目指す方向性の明確化のために、ヴィジョンと行動指針を設定することとしました。このヴィジョンと行動指針は、現在、事務局の各所にポスターを掲示し、啓発に努めています。

ヴィジョンの内容は、本部会議で議論、検討し、決定したものですが、より高度化、専門化する業務に、積極的に取り組む事務職員の姿が思い浮かぶヴィジョンであり、希望の持てるものができたと感じています。

行動指針についても、いろいろ議論しましたが、最終的には7つとなりました。行動指針の一番目については、「学生の満足度を高めるため、ハード、ソフト両面での充実を図り、教育環境、事務体制の整備をし、学生をお客様として、継続的な対話を図り、入口から出口まで責任をもって対応する」ことを意図しています。学生は共に歩む仲間であり、また、時には指導しなければならない時もあり、お客様とは言えないのではないかとの意見もありましたが、今までサービス意識の薄かった国立大学としては、まずもって丁寧に対応することを職員に意識付ける必要があると考え、あえて「お客様」の語を用いています。

行動指針の2番目については、「教員・研究支援、高度な技術支援の内容を充実させるため、教員と連携し、また、大学運営においても事務職員ならではの視点を活かし、教員と共に行動する」ことを意図しています。今まで事務職員は、教員の下働きとの意識があり、一歩引いた位置から教員を支援していたようなところがあったように感じています。これからの時代は、事務職員も、教員と共に、大学運営に参画していくことが必要で、事務職員の優れている点を積極的に活用していく必要があります。

事務改革アクションプラン

このように、事務改革大綱の制定から始まり、重点課題の整理や業務調査、ヴィジョンと行動指針の設定を経て、具体的な実行計画、取組内容を決定し、事務.改革アクションプランとしてまとめるに至りました。



(参考)豊橋技術科学大学事務局における事務改革の取組(ホームページ掲載記事)

豊橋技術科学大学は、本(平成19)年3月に「事務改革アクションプラン」を策定しました。この「事務改革アクションプラン」では、ヴィジョン、行動指針を掲げ、事務改革のための具体的な取組を221項目設定しています。

なお、事務改革の取組を実効あるものにするために、取組状況の検証を半期毎に行い、その検証結果を公表しています。

http://www.tut.ac.jp/topics/h19/jimukaikaku.html