2008年5月25日日曜日

格差社会と修学支援

前回この日記で、「教育振興基本計画」の閣議決定を間近に控え白熱している文科省と財務省の攻防についてご紹介しましたが、私達国民は、国政あるいは霞ヶ関の机上論の行く末ばかりを気にしているわけにはまいりません。
最近、格差社会の弊害が、様々な場面で取り沙汰されていますが、残念ながら教育においても例外ではないからです。

先般、財務省は、財政制度等審議会において、国立大学の授業料*1を私学並みに引き上げて、その予算を私学並みに引き下げようとする案を示しました*2が、これは、「我が国における高等教育への機会均等に反し、かつ、我が国の国力の源泉たる国立大学の研究開発能力を著しく低めるものであり、まさに国益に反する暴論」(文科省談)のとおりだと思いますし、そもそも財務省は、次のような国民生活の厳しい実態をどの程度認識しているのか甚だ疑問に思います。


苦しい大学生の台所 平均生活費年72万 6年前から22万減 (2008年4月23日 産経新聞)

大学生(夜間部を除く)の平成18年度の年間平均生活費は72万円で、ピークだった12年度から22万円減ったことが日本学生支援機構の調査で分かった。アルバイト代など収入が減る一方で、学費が値上がりする中、衣食住の生活費を切り詰めている学生の姿が浮かび上がった。同機構は「家計収入が減っており、学生を支援する奨学金の拡充に努めたい」としている。

隔年による調査は今回18年11月に実施し、9600人が回答。生活費は12年度の94万円から14年度86万円、16年度77万円と3回連続の減少。

16年度の年間生活費のうち住居・光熱費は24万円、食費は19万円、衣服などのその他の日常費は12万円。いずれも12年度に比べ約5万~6万円減った。

授業料などの学費は117万円で、昭和43年度の調査開始から一貫して増加。一方、家族からの仕送りやアルバイト代などの収入は219万円で、ピークの14年度から5万円減った。

生活費と学費を合わせた学生生活費の平均は190万円。最も高かったのは下宿している私立大のケースで247万円、低かったのは自宅から通う国立大生の105万円で両者の差は2・4倍あった。

実家の平均世帯年収は846万円で16年度から4万円減少。私立大865万円、国立大792万円、公立大740万円だった。


高収入でなければ国立大に進めない!? 学生生活調査 (2008年5月22日 Benesse 教育情報サイト)

独立行政法人日本学生支援機構はこのほど、2006(平成18)年度の学生生活調査の結果を発表しました*3。大学生や大学院生の生活費などについて、隔年で調べているものです〔2002(平成14)年度までは文部科学省が実施〕。その中で、国立大学に子どもを通わせる家庭のうち、高収入の層が増える一方で低収入層が大幅に減少するという、気になる実態が明らかになっています。

まず、大学の学部生(昼間部)全体の状況を見てみましょう。平均学生生活費は、学費が117万1,300円〔2004(平成16)年度比2,800円増〕、生活費が72万3,800円(同4万8,500円減)の、計189万5,100円(同4万5,700円減)でした。2000(平成12)年度は学費が112万1,400円、生活費は93万6,800円で、それ以降、学費が徐々に増加する一方、生活費は6年で20万円以上も落ち込んでいます。毎月1~2万円ほど切り詰めなければ大学生活が立ち行かなくなっている、ということでしょうか。

ただし、これはあくまで国公私立の平均値です。それぞれの学生生活費は、国立150万900円、公立139万6,200円、私立201万7,200円と、国公立と私立では依然として大きな差があります。また、自宅外通学の場合は、国立でも私立でも自宅通学生より70万円以上かさんでいます(公立は60万円弱)。

気になる数値は、子どもを進学させた家庭の年収です。全体の平均でみると2004(平成16)年度比0.5%増の846万円と微増しているのですが、国立が1.4%増の792万円、公立が1.3%減の740万円、私立が0.5%増の865万円となっており、国立大の伸びが目立ちます。

調査ではさらに、世帯の年収を5等分して、各層の状況を調べています。国立では、1,090万6,000円以上の層が前回(1,092万9,000円以上)に比べて0.5ポイント増の14.6%を占めたのに対して、488万1,000円未満の層では前回(504万4,000円未満)に比べて8.7ポイント減の17.1%と、大幅に落ち込んでいます。488万1,000円以上678万9,000円未満の層では19.4%(前回の504万4,000円以上693万4,000円未満の層に比べ4.4ポイント増)、678万9,000円以上849万5,000円未満の層でも29.5%(同693万4,000円以上858万8,000円未満の層に比べ5.1ポイント増)とむしろ増えているのですが、一定以上の収入がなければ国立に進めなくなっている、という実態を現していると見ることもできます。

私立を見ても、1,090万6,000円以上の層が0.6ポイント増の15.7%、488万1,000円未満の層が7.0ポイント減の16.1%と、国立ほどではないにせよ、やはり488万1,000円未満の層の割合が減少しています。

学費が高くなり、奨学金の支給も厳しくなるなかで、大学教育を受けたい人が、家庭の事情で進学機会を奪われたり、選択幅を狭められたりしているとしたら、問題です。社会全体で考えていかなければならないことではないでしょうか。


国立大の学費私立並みとは (2008年5月25日 朝日新聞声欄)(後日追加)

財務省の19日の財政制度等審議会で、国立大学予算について出された試案に驚いた。私立大並みに授業料を引き上げ、5200億円を捻出すべきだというのだ。

この案は国が人材育成を放棄したいといっているのと同じことだといえる。

この国は国土も狭く大規模農業経営ができるわけでも、石油や豊かな鉱物資源があるわけでもない。人々の絶えぬ努力、創意工夫で生きていかねばならない国だ。

能力や意欲のある多様な国民が教育を受けられ、優秀な人材を育成していくのが国の責務だ。

学資のため高校進学や大学進学をあきらめたクラスメートを何人も知っている。現在でも子供の教育費の負担は非常に重い。公立・私立にかかわらず教育費の負担が軽減され、少人数教育など教育内容を充実させるための財源を確保するよう本来なら財務省は奔走すべきではないのか。

奨学資金も借りれば返済しなければならず、私も返済に何年もかかった。やはり授業料が安く、安心して進学できる仕組みであってほしい。


従来から、我が国の教育費は、先進諸国に比べ、公的負担が低い一方、私的負担つまり家計負担が極めて高いことが、様々な調査により明らかにされています。また、更なる奨学金事業の充実も求められています。

最近、優れた学生確保を目的として、以下のように、独自の奨学金制度やそのための基金の設置など、多様な修学支援方策を試みる大学が増えてきています。

しかしながら、上記の実態調査などから見れば、未だ不十分の感があり、特に多くの国立大学は、法人化前の授業料免除制度を現在でも適用していますし、免除の対象範囲の拡大やメニューの多様化に一層の改善が必要ではないかと思います。

先日、財務省が財政制度等審議会に提出した資料によれば、国立大学法人全体の決算剰余金(当期総利益)は、平成18(2006)年度末で、約773億円を計上しています。経営努力によって生み出した資源をどう使うかは大学の裁量ではありますが、個人的には、学生の確保、あるいは修学支援に優先して充当することが、国立大学としての使命・役割を達成し国民の負託に応える観点から望ましいあり方なのではないかと思います。


入学金免除・年間400万円支給など、大学独自の支援制度が続々登場! (2008年5月7日 日経トレンディネット)

受験生を持つ親だけでなく、大学院を目指す社会人にとっても、入学金や学費の工面は頭の痛い問題。ところが最近、大学独自の新しい支援制度が次々に登場している。それも、私立大学だけでなく、学費が安い国立大学でも独自の経済支援を始めるところが増えてきた。

東京大学では20年度入学生から、親の年収が400万円未満(税込み)の学生の学費を無料にする制度をスタートさせ、周囲をアッと言わせた。こうした動きを受け、私立・国立を問わず、優秀な学生を獲得すべく、大学独自の支援制度が続々と生まれているのだ。その中から、注目すべきものをいくつかご紹介しよう。

慶應義塾大学は平成21年度から入学金を4割引き下げると発表。同大学では国際的に優秀な学生を集めるため、諸外国にはなく、徴収趣旨のはっきりしない入学金を近いうちに全廃する意向だ。

このほか、入学金免除制度でユニークなのが東京工科大学の「卒業生御子息等入学金免除制度」。同大学のほか、日本工学院専門学校、日本工学院八王子専門学校、日本工学院北海道専門学校の4校を手がける片柳学園では、平成18年度からこの制度をスタート。4つの学校の卒業生・在校生の子供、孫、兄弟姉妹が4校のいずれかに入学した場合、入学金が免除される(北海道校のみ減額)。「学園創立60周年の記念事業の一環として始めました。最近は保護者の経済状況も2極分化傾向で、入学初年度にまとまったお金を工面するのが大変な方も多いのが実状。この制度での入学金免除は大変喜ばれています。在校生の妹さんや弟さんが入学されるケースも増え、この制度の効果が出ています」(東京工科大学・広報課)。ほかにも、同様の制度を採用する大学は増えている。

「学費が高いため、行きたいけれど断念せざるを得ない」という優秀な学生に入学のチャンスを与えたいと、国際基督教大学(ICU)が今年度から始めたのが、入学試験で優秀な成績を修めた学生に4年間で400万円を支給する「ICU Peace Bell奨学金」だ。同校の授業料・施設費は年額132万6000円。この金額がネックになり、せっかく合格しても入学を諦める優秀な学生もいた。「こうした現実を憂慮した同窓会の呼びかけにより、ICUを目指す優秀な学生に門戸を広げることと、建学の精神である国際平和の建設に貢献する人材を育てるために創設されました。今年4月に最初のPeace Bell奨学生12人が入学しました。

奨学生に感想を聞くと、『この奨学金がなかったら、ICUに来るのが難しかった』と実際に答えた学生もいました」(国際基督教大学・広報センター)。昨年度から、大学とともに同窓会が募金活動を行い、すでに2億1844万円(08年3月21日時点)の基金が集まっている。

早稲田大学も04年に、入学試験の成績優秀者に4年間の学費を全額免除する特別奨学金制度を創設。前出の東京工科大学でも、同様のスカラシップ(奨学金給付)制度を実施。入学試験の成績上位合格者を対象に、年額120万円、最長4年間で総額480万円を給付する。優秀な学生を獲得するため、こうしたスカラシップ入試を行う大学が今後ますます増えそうだ。


*1国立大学の授業料、入学料及び検定料