2008年5月23日金曜日

高等教育政策の動向

恒例となりました文科省高等教育局が発信するメルマガ「高等教育政策情報」(第29号)から抜粋した主要な記事をご紹介します。

[政策動向]

■教育振興基本計画の策定に向けた状況について

 -投資の数値目標設定について大学団体が改めて要望-

現在、文部科学省においては、中央教育審議会(会長:山崎正和LCA大学院大学長)の「教育振興基本計画について(答申)」(平成20年4月18日)を踏まえ、教育振興基本計画の策定に向けた作業を行っているところです。特に、教育投資に関する数値目標の設定について世の中の関心が集まっています。5月9日の渡海文部科学大臣の会見では、「与党からも数値目標を入れるべきだという意見が出ていることを受け、数値目標を入れる方向で考えていきたい」旨の発言があり、これを踏まえて検討を進めています。

その後、5月13日に開催された中央教育審議会大学分科会制度・教育部会(部会長:郷通子お茶の水女子大学長)の委員懇談会では、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学団体連合会の大学関係3団体及び全国高等学校長協会に御出席いただき、「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」についてヒアリングを行いましたが、大学関係3団体いずれからも、「教育振興基本計画において、高等教育への公財政支出をGDP比0.5%からOECD平均1%を実現するという資金投入の目標額を明確に記述すべきである。」旨の意見をいただきました。

また、5月20日に開催された中央教育審議会大学分科会(分科会長:安西祐一郎慶應義塾長)の中で、財務省が5月19日の財政制度等審議会財政制度分科会財政構造改革部会において示した「文教・科学技術関係資料」(下記ホームページ参照。これに関する当省の見解は次号以降で紹介予定。)の内容が報告されました。委員からは、当該資料の問題点について意見が示され、我が国の高等教育分野における公財政支出の低さが課題である旨の指摘がされました。

こうした意見を受け、次のような統括がされました。
  • 「教育投資の数値目標は中教審答申に盛り込まれなかったが、大学団体など教関係者の期待も高まっている。

  • 高等教育の公財政支出について、先に大学分科会関係4団体が提出した意見書「大学教育の転換と革新」を踏まえ、「できる限り速やかに年間5兆円以上の投資規模」を達成する趣旨が反映されるよう改めて求めたい。

  • 目下、留学生30万人計画、グローバル化などに関心が高まっている。世界的な教育研究拠点の形成も大事。それらと同時に、学士課程を中心に、大衆化した大学教育の質の向上、「底上げ」や裾野づくりのための投資を忘れてはならない。そうしたバランスを保った上での答申を拡大することが必要。

財務省ホームページ
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseib200519.htm


■第10回経済財政諮問会議について

 -渡海文部科学大臣が教育の国際化、投資の必要性を主張-

平成20年5月9日に第10回経済財政諮問会議が首相官邸で開かれました。
この会議では、「国際的な人材強化について」という議題の中で、教育における国際化について議論されました。

教育の国際化に関して、民間議員から、「留学生30万人計画」の実現に向けて、2010年までの3年間を「集中改革期間」として、「『グローバル30(国際化拠点大学30)』の選定」、「留学生の就職支援」、「英語教育の強化」などの取組を加速すべきであるという提言がされました。

民間議員の提案に対して渡海文部科学大臣からは、「民間議員ペーパーに書かれていることは日頃から問題意識をもっていることであり、積極的に検討していきたい」と表明しました。また、「留学生30万人計画」を中心とした教育の国際化の取組として、まず、高等教育の質を高めていくためにそれなりの投資が必要であり、その上で、大学を英語で卒業できるようにするなど大学の魅力を高めること、地域・分野ごとに戦略的に留学生を獲得すること、宿舎や奨学金の受け入れ体制の整備、卒業後の日本企業への就職の拡大など魅力ある大学や社会の環境をつくことが必要であると説明しました。また、受け入れだけではなく、日本人学生がもっと海外へ出て行くことも大いに促進する必要があると説明しました。

最後に、福田内閣総理大臣から、日本を開かれた国にするためには、留学生を受け入れることが大事であり、「グローバル30」の計画推進を渡海文部科学大臣にお願いしたい旨要請がありました。また、留学生の受入れと関連して、高度人材受入れ促進のために、学者、産業界、労働界からなる推進会議を町村信孝官房長官のもとに設置するよう指示がありました。

経済財政諮問会議ホームページ
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/index.html


■教育再生懇談会緊急提言について


 -「教育への公財政支出を対GDP比5%に」-

政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾長)は5月20日夕方、「教育振興基本計画に関する緊急提言」を公表しました。この中では、「機会均等が揺らぎつつある」、「国際的な人材育成競争が激化している中で、我が国の教育レベルの低下が現実のものとなりつつある」といった基本認識を示した上で、「財政基盤の確保」の項において、「教育の公財政支出を現在の対GDP比3.5%から、少なくとも他のOECD諸国並みの対GDP比5%に拡大する等の具体的な数値目標を教育振興基本計画に記述し、省庁総がかりで、教育再生を着実に実現していくことが極めて重要」と提言されています(注)。

その他には、「留学生30万人計画」及び外国での研鑽の支援等の国家戦略としての実行、私学振興、高等教育の基盤的経費(国立大学運営費交付金、私学経常費補助金)の充実などが提言されました。

(注)我が国の教育の公財政支出は総額約17.2兆円(年間)であり、仮にOECD平均のGDP比5%を目指すのであれば、新たに約7.4兆円(年間)の支出が必要となります。

教育再生懇談会ホームページ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku_kondan/index.html


[国会の動き]

教育振興基本計画に関する申し入れ等

 -与党から相次いで教育投資の拡大の要請-

公明党文部科学部会(部会長:富田茂之衆議院議員)から、福田内閣総理大臣に対して、5月8日、「教育振興基本計画の策定に関する申し入れ」がありました。また、5月12日、渡海文部科学大臣に対しても同様の申し入れがありました。この申し入れにおいては、7つの事項について、教育振興基本計画への記述を求めており、特に高等教育に関連の深い内容として、教育投資の数値目標の設定、私学助成の充実、地域経済界と大学との連携の取組の強化が盛り込まれています。

また、5月14日、自由民主党所属の国会議員総勢111名から成る「頑張る学校応援団」(顧問:河村建夫衆議院議員ほか6名)から「教育振興基本計画に関する決議~未来を支えるこどもたちのために必要な投資を~」がされ、同日、額賀財務大臣等に対する申し入れが行われました。本決議においては、前号で御紹介した自民党政務調査会の文部科学部会(部会長:渡辺具能衆議院議員)及び文教制度調査会(会長:中山成彬衆議院議員)合同会議の決議に盛り込まれた7項目について、教育振興基本計画へ記述することを求めています。5月15日には、同合同会議が開催され、渡辺文部科学部会長より、教育振興基本計画に関する決議の申し入れの状況について説明がありました。

さらに、このような申し入れと前後して、5月9日、歴代文部大臣・文部科学大臣の会合が開催され、教育振興基本計画に関する意見交換が行われました。この会合を踏まえ、渡海文部科学大臣からは、「色々な関係者の意見を元に、できるだけ早急に教育振興基本計画をまとめたい」旨の発言がありました。


[政策担当者の目]

「座して待たず」

教育振興基本計画の策定が難航している。当初は19年度内に策定を目指していたが、5月下旬に入ってもまだ正式な各省協議にすら入れていない。その主な理由は、去る4月18日に出された基本計画に関する中教審答申が具体的な数値目標を設定しなかったため、与党や教育関係者などから強い問題提起がなされたことによる。

このような状況を踏まえ、渡海大臣の主導の下、文部科学省においては、政府として閣議決定する基本計画の中に、我が国の教育への公財政投資を欧米先進国並みに引き上げる方向で具体的な数値目標を入れるべく、現在、鋭意、検討を進めているところである。

他方、財務省においてはこのような動きに反発を強めており、19日に開催された財政制度等審議会で教育支出を抑える必要性を強調したり、あるいは、我が国の教育予算が主要先進国と比較して遜色ない水準にあることを主張する内容の資料をまとめて記者発表するなど、反論に必死である。

特に、国立大学の授業料を私学並みに引き上げて、その予算を私学並みに引き下げようとする財務省案は、我が国における高等教育への機会均等に反し、かつ、我が国の国力の源泉たる国立大学の研究開発能力を著しく低めるものであり、まさに国益に反する暴論と言えよう。

基本計画の閣議決定に向けて政府部内の調整は困難を極めることが予想されるが、高等教育局としては、去る2月8日に安西・大学分科会長など4名の先生方の連名で中教審・基本計画特別部会に出された文書(高等教育投資を現在より倍増させる必要性を合理的理由に基づき説いたもの)の趣旨が基本計画に盛り込まれるよう最大限の努力をして参りたいと考えている。

高等教育への投資の充実は、座して待っていてもできると考えている人がいるのであれば、それは大きな間違いである。この問題を含め、何事も必死になって闘ってこそ、獲得することが可能になると私は考えている。高等教育への投資に向けて我々も闘うので、高等教育の関係者の皆様方も一緒になって闘って頂きたいと切に願っている。