2008年5月26日月曜日

経費節減:トイレットペーパーの功罪

大学経営の健全性を追求する上で重要なコストカット。民間企業に比べればまだまだ不十分な感がありますが、大学によっては「ケチケチ作戦」の徹底努力により、お金の上手な使い方をしているところもあるようです。

全くの偶然であり無関係な話ではありますが、最近「トイレットペーパー」というキーワードで対照的な記事を見つけました。


古紙でトイレットペーパー1300個 三重大が回収、リサイクル (2008年5月17日 中日新聞)

三重大キャンパス(津市)で回収した古紙から生まれ変わったトイレットペーパー約1300個が、初めて同大に届いた。学内で1カ月間に使われる2割に当たる量という。

同大がキャンパス内3カ所に緑色の「古紙回収ボックス」を設置したのは4月21日。同月中に約5・7トンが集まり、契約したリサイクル業者が引き取って再生させた。学生がデザインした包み紙には、環境に関する各学部の研究概要やマスコット「まもる」が印刷されている。

この取り組みを進めている環境ISO学生委員会の古紙再利用化プロジェクトリーダー谷口公美さん(19)=生物資源学部2年=は「今後は回収するだけでなく、紙の両面を使って使用量を減らしたり、分別をきちんとしたりする意識の向上を呼び掛けていけたら」と話している。


年8万ロール持ち出されていた 筑波大トイレから 准教授試算 (2008年5月23日 読売新聞)

筑波大のトイレから年間8万個ものトイレットペーパーが持ち出されている-そんな試算を筑波大の吉田謙太郎准教授(環境経済学)がまとめた。持ち出されたトイレットペーパーは、鼻をかむのに使った後に教室に放置されるほか、家に持ち帰る学生も多いという。「学生のモラル低下は深刻」(吉田准教授)として、筑波大は「持ち出し禁止」とトイレに張り紙をすることなどの検討を始めた。

調査は昨年10~11月、吉田准教授が担当する社会工学類2年生の社会調査実習の中で行った。学生9人が、授業の参加者や友人ら154人にアンケートした。

その結果、「トイレットペーパーを持ち出したことがある」と回答したのは、男子が40人(35%)、女子は10人(26%)に上った。持ち出した個数を聞き、学生1人あたりで平均すると年間5.4個。大学全体で推定すると8万個を超えることがわかった。

持ち出したトイレットペーパーの用途は、「鼻をかむ」が41%で最も多く、「こぼしたものをふく」が26%と続いた。「家に持ち帰る」と答えた学生も19%いた。持ち出す理由については、「節約」が最多で29%、「規制がないため」24%、「罰則がないため」が17%となっている。吉田准教授は「アンケートで正直に答えていることから、罪悪感はないのだろう。教室にトイレットペーパーを持ち込むのは見苦しい」と嘆く。

この結果に、筑波大の泉紳一郎副学長は「トイレットペーパーで鼻をかむのが恒常的になっているのであれば、問題だ。実態を調査して、持ち出し禁止を呼びかけるなどの措置を取りたい」と話している。ただ、職員の中には「学内で使うのであれば問題ない」と持ち出しを容認する意見もあり、学内の意思統一が課題になりそうだ。

茨城大では「持ち出し禁止」の張り紙をしており、持ち出しが目立つことはないという。ただ、手ふき代わりに使うケースがあり、校舎によっては注意を呼びかけている。


最後に、まとめとして、広島大学高等教育研究開発センターの島一則氏が、アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)に寄稿されている「経費節減策とその限界 国大法人化以降の実態」をご紹介します。

国立大学の法人化に伴い、国立学校特別会計制度が廃止され、運営費交付金制度が導入された。その特徴の一つとして、効率化係数・経営改善係数の導入が挙げられる。多くの読者は、これらについてご存知のことと思うが、効率化係数とは、ごく簡単にいえば、毎年度予算(附属病院分を除く)の1%分の運営費交付金を削減するものであり、経営改善係数とは、附属病院の毎年度予算の2%分の運営費交付金を削減するものである。

これらの導入は、適切な経費節減による効率化・経営改善が進まない限り(収入が従来のまま一定であるとすれば)、教育・研究の質を落とさざるを得ないこと意味している。そこで法人化以降、国立大学は様々な経費節減と収入増加に取り組んできている。

以降では、前者の経費節減策の実態について紹介する。なお、後述の情報は「国立大学における学内資金配分の変動過程に関する総合的研究」(日本学術振興会 基盤研究A 平成15年~18年)(天野郁夫・研究代表)に基づくものである。

まず、経費節減への取り組みの概要を見ていこう。

全学的な経費節減策を有しているかどうかを問う質問に対して、1)非常勤教員の人件費削減策については、国立大学の74.7%が、削減策を有しているとしている。次に、2)非常勤職員の人件費については48.2%、3)旅費54.9%、4)光熱水費92.8%、5)物品購入費については66.3%が全学的な削減策を有していると回答している。以上から効率化係数・経営改善係数の導入が、国立大学に経費節減を促していることが確認できる。

次に前述の経費節減策の具体的内容を紹介する。

1)非常勤教員の人件費削減策として、例えば次のようなものが挙げられている。
  • 非常勤講師数の削減を通じた経費節減(例:非常勤講師の雇用を平成16年度当初比50%に削減する)

  • 非常勤講師単価の統一・引き下げを通じた経費節減(例:時間単価の全学統一(講師ごとの経歴換算をしない))

  • 非常勤講師経費の部局負担化による経費節減(例:19年度以降、部局の非常勤講師に係る人件費は部局負担とすることで、中長期的な削減を図る)

  • その他(例:退職教員の協力を得、エルダープロフェッサー制度を創設し、同経費の節減に努める)
2)非常勤職員の人件費削減策の具体的内容としては、
  • 新規採用の抑制(例:新規増員が必要な場合には、理由を聴取し、個別に協議を必要としている。やむを得ない場合(常勤職員の欠員補充等)にのみ増員を認めている)

  • 派遣職員への切り替え・アウトソーシング(例:非常勤職員を適宜人材派遣に切り替え、繁忙期に限って派遣職員を採用するなどの方策を検討中)

  • 非常勤職員の単価の抑制・削減(例:非常勤職員の時間給、日給について統一単価とし人件費の抑制を図る)
3)旅費の削減策の具体的内容としては、
  • 旅費業務の外部委託・アウトソーシング(例:旅費業務の外部委託を実施することにより、旅費請求に係る作業時間を削減するとともに、外部委託により受託者が有する技術や専門性を活かした航空券、JR切符及び宿泊券等の調達、旅行事務の手続き代行等の処理サービスを活用して、業務の効率化及び経費の削減を図る)

  • 旅費支払いシステムの構築(例:国内出張でJAL及びANAを利用する場合は、既存の出張旅費システムに航空券手配システム(Q-HAT)の機能を付加(パック出張を除く)し、回数券(eビジネス6など)利用により経費削減を図っている。また、航空機に搭乗する間際までに同システムで予約することで、航空代金の立て替え、領収書及び搭乗半券の提出は不要とし、出張後の事務手続きを簡素化し事務コストについても軽滅を図っている)

  • 旅費規則の見直し(例:勤務箇所出発以外に自宅から出発可能とし、通勤手当支給部分との重複支給をなくすことで縮減を図った)
4)光熱水費の削減策の具体的内容としては、
  • 省エネルギーの啓発活動(例:各部局別のエネルギー使用量の推移等について、ホームページ上で学内に公表することで、使用量節減の啓蒙を図っている)

  • 契約の見直し・入札の実施(例:契約方法の変更(ガス大口供給契約、電気複数年契約)等を実施)

  • 部局資金配分との連動(例:平成15年度電気料、ガス料、上下水道料執行額の10%を部局に配分し、90を全学預かりとして、平成17年度の支払いを行う。90%以内で支出を終えた場合は、部局による節約効果として配分した10%分は部局経費とし、90%以内で納まらない場合は、使用量に応じて部局から徴収する仕組みにより、節減を図る)

  • その他(例:冷暖房設定温度の徹底と固定化、機械的に温度設定固定できるものは、夏場を28度、冬場を20度に固定して実施)
5)物品購入費の削減策の具体的内容としては、
  • 単価購入・一括購入・共同調達・競争入札等(例:定期的に購入するものについては単価契約の方法で、また、まとめて購入できるものについては一括購入の方法で経費削減を行っている、重油やコピー用紙等について、近隣国立大学と共同調達を行っている)

  • 定期刊行物・印刷物の見直し(例:定期刊行物について、購入廃止や共用により購入数量を大幅に削減。新聞について、共通スペースでの閲覧や、インターネットを利用することにより、購入数量を大幅に削減。業者から購入する規程集、総覧、要覧の類について、事務局で購入するものを共用することとし、各部局での購入を廃止)

  • インターネットの利用(例:インターネットを利用した教員発注で、発注量を集めることで物品購入の単価を下げることにより節減を図る、図書の購入において、オンラインストアである「Amazon.co.jp」による購入(カード決裁)を実施することにより、経費の節減を図っている)

  • その他(例:長期使用に努める。部品の交換修理が可能な製品、保守、修理サービス期間の長い製品を購入する。事務用品について、詰め替え可能なものを購入する)

などが挙げられている。

以上から、各種経費節減のためのシステム構築や地道な行動実践など、様々な経費節減策が進められていることが確認できる。しかし、磯田(2004、IDE11-12月号)が指摘しているように、効率化係数は、毎年、一定の割合で着実に重くのしかかってくる。つまり、経費削減策は当面の対応として一定の効果を発揮するものの、中期的な効率化係数への対応として有効でない。

実際、既に、藤村(2005、IDE11月号)が指摘するように、教育・研究条件の悪化(「国立大学法人「新」貧乏物語」として、教員個人の教育研究条件の悪化(外国雑誌の購入中止、学科共通ゼロックスの解約、コピーは極力控え、授業の資料はリソグラフ、学部紀要の投稿者には頁数に応じて掲載費を請求など)が各所で見て取れるのである。また、これらの基盤的な教育・研究条件の悪化は、いわゆる地方国立大学でより顕著な傾向があることも、筆者の分析結果から明らかになっている。

中央教育審議会では、「学士力」が取り上げられ、知識基盤社会において大学院教育に対する期待がますます高まる中での、「効率化係数」・「経営改善係数」(私立大学等経常費補助金の1%削減も同様)の導入は、それが「効率化」「経営改善」でありうる限界を超えて適用されてはならない。一定の水準を超えて適用され続ければ、その他の競争的資金も含めて、投入される公的資金全体の価値を損なう危険性が存在する点には十分注意が必要である。