2008年9月5日金曜日

国立大学予算の削減(2)

前回は、国立大学の予算(運営費交付金)の更なる削減を憂慮する有識者のご意見を通じて、国立大学の危機的状況をご紹介しました。
また、平成21年度予算の概算要求に当たっては、骨太方針で決定している毎年1%の削減に加え、さらに2%を削減するという極めて厳しい状況が現実のものとなったこともご紹介しました。

このように総枠としては大変厳しい状況にある中で、文部科学省は、どのような政策を重視し要求内容を取りまとめたのでしょうか。
今回は、文部科学省が作成した資料のうち、高等教育関係の主要事項をご紹介したいと思います。

文部科学省所管の平成21年度概算要求のうち高等教育関係は、時代や社会の要請への対応、教育振興基本計画の着実な実施等を反映した次のような政策が柱になっているようです。

●大学教育の充実と大学の機能別分化

●留学生30万人計画と大学の国際化

●医学教育を通じた医師不足対策

●学生が安心して学べる環境の実現

●独創的・先端的基礎研究の推進


具体的な内容は次のようになっています。

■学士力の確保など主体的な教育の質保証の取組への支援


1 学士力確保と教育力向上プログラム(新規) 約96億円

「質の高い大学教育推進プログラム」を再編し、中央教育審議会の審議で指摘された、学士力確保と教育力向上のための各大学の実践を促し、達成目標を明確にした効果的な優れた取組を支援

2 大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム 約50億円増

■大学院の組織的な教育活動の推進

組織的な大学院教育改革推進プログラム 約40億円増

■国公私立大学を通じた大学教育改革支援の充実と世界最高水準の卓越した教育研究拠点形成

1 学士力確保と教育力向上プログラム(新規) 約96億円

2 社会人力育成のための学生支援プログラム 約19億円増

3 大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラ.ム 約50億円増

4 法科大学院教育水準高度化事業(新規) 5億円

5 グローバルCOEプログラム 約5億円増

6 先導的ITスペシャリスト等育成推進プログラム 約17億円増

■国立大学等における教育研究の充実と活性化 約56億円増

1 大学運営の基本的な経費の充実

継続的・安定的に教育研究を展開しうるよう、各国立大学の財政基盤をしっかりと支えるために必要な大学運営の基本的な経費を要求

2 教育研究組織の整備

新規組織の整備については、既存組織の見直しに加え、重要性、緊急性等に鑑み、特に経費の措置が必要な場合に所要の経費を要求
  1. 大学院博士課程入学定員の減

  2. 新規分野・先端的分野に必要な人材養成のための大学院の整備

  3. 社会的要請の強い人材養成のための学部等の整備(医学部の入学定員増)
3 特別教育研究経費等

新たな教育研究ニーズに対応し、各国立大学等の個性や特色に応じた意欲的な取組を支援するための経費を要求
  1. 学士力の確保など主体的な教育の質保証の取組

  2. 大学の国際化の推進

  3. 医学教育・附属病院を通じた質の高い医療の確保(緊急医師確保対策及び経済財政改革の基本方針2008に基づく医学部定員増を含む。)

  4. 地域活性化・地方再生・地域貢献に関する取組

  5. 環境教育・地球環境との共生等に関する教育研究の取組
■留学生30万人計画と大学の国際化

1 大学の国際化の推進 

国際化拠点整備事業(新規) 約150億円

国公私立大学を対象に、当該大学の機能に応じた質の高い教育の提供と、海外の学生が我が国に留学しやすい環境を提供する構想のうち、30大学を選定して、以下のような取組を総合的に支援・英語による授業等の実施体制の構築
  • 留学生受入れに関する体制の整備

  • 戦略的な国際連携の推進
2 留学生の受入れ環境・就職支援の充実

(1)留学生宿舎の確保 約5億円増
  • 大学等の留学生宿舎借り上げ支援 2000戸→9500戸
(2)留学生の就職支援の充実(新規) 約3千万円
  • 外国人留学生のための就職情報提供事業、就職フェア

  • 留学生交流総合推進会議(仮称)の設置
(3)外国人留学生奨学金制度等の充実 約59億円増
  • 国費外国人留学生制度(新規1200人、学年進行111人増)

  • 私費外国人留学生等学習奨励費(1530人増)

  • 留学生交流支援制度(仮称)(短期受入れ分1年以内、3600人)

  • 授業料減免学校法人援助(1977人増)
3 海外での情報提供及ぴ支援の一体的な実施

(1)日本留学情報発信機能等の充実 約7億円増
  • 日本留学ポータルサイトの充実

  • 日本留学促進資料公開拠点や海外連携事務所における相談体制の充実

  • 留学情報提供のための共通パンフレット等広報資料の作成
(2)日本留学試験の拡充 約2億円増
  • 実施都市の拡充(16都市→18都市)

  • 試験問題(専門科目)の多言語化の調査及び作成、部分的試行や海外実施需要の調査等
(3)大学の国際ネットワークの形成
  • 海外進出・ネットワーク形成支援事業(新規)
■医学教育を通じた医師不足対策-「5つの安心プラン(医療対策)」への対応-

1 医師養成数の増加に伴う教育環境整備への支援

医師不足対策人材養成推進プラン(教育環境整備事業)(新規) 約70億円

医学部では、少人数教育を実施しており、また近年の高度化した医学・医療技術の向上に対応しうる医療人養成のため、トレーニング教育機器、解剖実習台等の整備を図る。

2 地域医療に貢献する医療人の養成と大学への支援

医師不足対策人材養成推進プラン(新規) 約115億円
  • 地域医療等貢献プログラム
大学の学部教育において堆域医療等の担い手となる医師養成を行うための取組を支援する。
  • 産科・小児科等人材養成環境整備事業
大学病院が地域医療の「最後の砦」として担っている産科・小児科医療等に関する教育環境の整備及び産科・小児科等医師不足分野にかかる女性医師の復帰支援、産科医の負担軽減等のための院内助産所等を活用した助産師養成環境の整備に係る一経費を補助する。

3 大学病院の医師等の養成機能を強化するための方策の充実

(1)大学病院連携型高度医療人養成推進事業 約15億円
(2)看護職キャリアシステム構築プラン(新規) 約20億円
(3)がんプロフェッショナル養成プラン 約6億円増
(4)社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム

■科学研究費補助金の拡充と改革 約240億円増(1932億円→2172億円)

1 挑戦的研究の強化や新たな領域の開拓による革新的な学術研究の推進 約94億円増

目標設定の高い挑戦的な研究への支援を強化する「萌芽研究」の見直し・拡充及び異分野連携などにより新しい領域の開拓を促進し、学術研究にブレークスルーをもたらす「新学術領域研究」の拡充を実施

2 若手研究者の自立促進及び研究の多様性確保 約61億円増

「若手研究(B・スタートアップ)」及び「基盤研究(C)」の拡充(採択率向上)等を実施

3 間接経費30%措置の実現

未措置の研究種目(「萌芽研究」、「特定領域研究」、「特別研究促進費」、「特別研究員奨励費」)について間接経費30%を措置

(参考)平成21年度文部科学省概算要求等の発表資料一覧