2008年9月4日木曜日

国立大学予算の削減(1)

霞が関の各府省庁から財務省に平成21年度予算の概算要求が提出されました。これから財務省の厳しい査定作業が始まります。同時に、各府省庁のお役人さん達の寝不足が年末まで続くことになります。

今回の概算要求基準(シーリング)は、従来と異なり、各府省庁が競って奪い合う、いわゆる「特別枠」の財源確保のためか、文部科学省関係では、とりわけ国立大学の予算(運営費交付金)に関しては、骨太方針に基づく1%の削減に加え、さらに2%を深ぼりするという大変厳しい状況になりました。

年々厳しくなる予算の削減に、大学現場は悲鳴をあげています。各大学は、特に法人化以降、この国の将来を託す人材を育て社会に送り出すために、教育の質を確保すべく、内部管理経費の大幅カットをはじめ、涙ぐましい努力を続けています。

財務省の「経済原理」が、この国の将来の危機を招かないよう、私達国民は高等教育予算の動向に重大な関心を寄せることが大事な時代にはいっているのではないでしょうか。


国立大学にとって大変厳しい平成21年度予算の概算要求基準が示されたタイミングで、この日記ではおなじみになりました広島大学高等教育研究開発センター長の山本眞一氏が「運営費交付金の大幅削減案に思う」と題して次のような意見を公表されています。(抜粋を転載)

■運営費交付金3%削減案の出現

ひるがえって国立大学の現況を見ると、法人化以来、運営費交付金の毎年1%の削減により、ただでさえ窮屈な国立大学財務は年々窮迫の度を加えている。もちろん運営費交付金の財源の多くは国民の税金であるから、その使い方はアカウンタブル(説明責任が果たせるという意味)でなければならない。しかし、それにも限度がある。節約が迫られた結果、これまで国立大学の法人化にあまり関心のなかった個別の教員や研究室にも、だんだんと影響が及びつつある。新聞報道によれば、ある国立大学では教授一人当たりの研究費を法人化以前の半分に減らし、また定年退職教員の後釜は非常勤教員で補っているという。

このように財務状況の厳しい中、それに追い打ちをかけるようなニュースが飛び込んできた。それは、2009年度予算において国立大学に対する運営費交付金の削減率を、従来の1%から2ポイント上乗せして、3%にするという案だという。ただし、運営費交付金に限った話ではなく、私学助成費、公共事業費やODAそれに防衛関係費なども含まれるらしいが、すべてこれは、医師不足対策などに優先配分するための財源をひねり出すために財務当局が打ち出したもので、2009年度概算要求基準にそれを盛り込むという。もっとも新聞報道によると、7月29日にこれが閣議決定されたものの、削減上積みの具体化は先送りされ、さまざまな折衝はこれからということのようである。

■国大協などの反対声明

いずれにしても、国立大学の運営費交付金が一年に3%も削減されるとなると、大学運営に与える影響は甚大なものになる。この動きを受けて、国立大学協会では小宮山会長名でいち早く7月23日付けの緊急アピールを公表した。その緊急アピールによると、国立大学はわが国における知の創造拠点として、高度人材育成の中核機能を果たすとともに、高度な学術研究や科学技術の振興を担い、国力の源泉としての役割を担ってきたとした上で、「国立大学法人の財政的基盤である運営費交付金は、骨太方針2006に基づき、毎年△1%の適用を受け、削減され続けており、各法人では各々が懸命の経営努力により対応しているものの、その努力も限界に近づきつつあります」と苦境を述べ、さらに「運営費交付金等の大幅かつ唐突な削減が行われれば、教育の質を保つことは難しくなり、さらには一部国立大学の経営が破綻することとなります。また、地域における医師等の人材育成機能が低下するだけでなく、学問分野を問わず、基礎研究や萌芽的な研究の芽を潰すなど、これまで積み上げてきた国の高等教育施策とその成果を根底から崩壊させることとなります」とその影響の甚大なことを述べ、最後に教育振興基本計画や留学生30万人計画にも悪い影響が及ぶと警告しつつ、この削減案に強く反対する旨述べている。

その後、いくつかの国立大学においても、この運営費交付金3%削減の動きに反対する声明を出しており、いずれもこの問題が国立大学の果たすべき役割に深刻な影響を与えることを憂慮したものになっている。

■悪の循環を避けるために

さて、仮に国立大学の運営費交付金がこれまで以上に大幅削減になった場合、どのような影響があるであろうか。先ほど述べた物価上昇とのアナロジーで言えば、各国立大学はとにかく支出額の節約に向かわざるを得ないだろう。運営費交付金の代わりに競争的資金や産業界などからの寄付金があるではないか、という論もあるだろうが、競争的資金を潤沢に得られる大学は一部に限られているのが実態である。何よりも、大学同士が資金の獲得を巡って競争し合うのは、経営上はある程度活性化のインセンティブになるものの、大学本来の教育・研究活動の充実につながるかどうかについては、大いに疑問である。以前の連載記事で述べたように、競争の激化によって各大学は資金の得られやすい研究、学生が集まりやすい教育には努力するだろうが、社会全体にとって必要な基礎的な教育・研究がおろそかになる恐れは、公共経済学の理論を持ち出すまでもなく、当然のことと思えるのである。

もちろん、教育・研究にも競争が必要だとの論はある。しかしそれは今でも行われていることである。個々の研究者や研究室レベルでは、彼らがピア(同分野の研究者)から少しでも高い評価を得ようと必死であるし、そのような研究上の競争は今やグローバルなスケールで展開している。科研費のような競争的研究資金はもっとあってもよい。教育においても、各種のGPは金額こそ少ないが、教育改革に向けて大学の意識改革をするのに大いに役立ってきた。しかし、大学の日常的な運営に必要な資金までもが、競争的になることは国立大学の改革にどれほどの意義があるであろうか

心配するのは、運営費交付金の削減が、国立大学の活動レベルの低下だけではなく、財源を求めての授業料値上げにつながらないだろうか、という点である。かつて1972年に、国立大学の授業料・入学金が前年度比3倍増という事態になったことがあった。その原因は、私学との格差是正に加えて、大学予算の財源確保であったと記憶している。授業料値上げは、それこそ国民生活に大きな影響を及ぼす。さまざまな悪い連鎖反応を起こすことのないよう、運営費交付金大幅削減は、これを避けるべく関係者が知恵を絞ってもらいたいものである。(文部科学教育通信 No202 2008.8.25)


それでは、8月末に文部科学省が財務省に提出した国立大学関係の概算要求の中身を見てみましょう。

文部科学省が作成した資料(計数等整理中)の資料によれば、国立大学法人等(大学共同利用機関法人を含む90法人)の平成21年度運営費交付金の概算要求スキームは、次のようになっています。

<総額>

●運営費交付金 対前年度比56億円(0.5%)増(11,814億円→11,870億円)

<内訳>

●概算要求基準に基づき削減しなければならない金額
 1 経済財政改革の基本方針2006に則った削減(△1%)→△118億円
 2 政策の棚卸し等による削減(△2%)→△236億円 
 計△354億円

●概算要求において削減した金額
 1 効率化係数による減(△1%)→△94億円
 2 病院経営改善係数による減(△2%)→△58億円
 3 事業の見直し等による減→△145億円
 計△297億円