2008年10月8日水曜日

記者からみた大学広報 (1)

大学を取り巻く現在の厳しい環境の中で、今後、教学を含めた大学経営の強化を図っていくためには、教育研究活動に関する情報の社会への積極的な提供や、危機事象発生時における社会への説明責任を適切に果たしていく「大学広報」の在り方が極めて重要な位置付けになるのではないかと思います。

そこで今回から4回シリーズとして、「マスコミの第一線記者から見た「大学広報」の現在」について、昨年末に「大学通信」という企業が大学の広報担当者を対象に開催した「大学広報支援セミナー」での4人の記者経験者の方々の講演概要をご紹介したいと思います。

このセミナーは、「Campus Navi Network」という情報提供サイトを運営する「大学通信」という企業が、創立40周年を記念し設置した「大学プレスセンター」*1の紹介を兼ねて東京と大阪の2会場で開催されたものです。

「大学プレスセンター」の詳細については、以下のURLをご参照ください。
http://www.u-presscenter.jp/modules/bulletin/index.php


今回は、澤 圭一郎氏(毎日新聞社編集局とうきよう支局長)の講演内容です。

私は毎日新聞社で今日まで18年間、記者として働き、その間には都庁や文部科学省など教育関係の仕事も担当してきました。その経験からお話しをしますと、まず大学広報の方々は、大学が世間からどのように見られているのかを考えてほしいですね。

例えば、大学に対して世間で一番関心が高いのは「入試」です。大学が入試改革をすれば、それだけでニュースになります。最近はずいぶんいろんなレパートリーを揃えた入試が増えてきましたが、私が担当していた頃、河合塾が大学の入試問題を代行して作るという話がありました。そうしますと、予備校に入試問題を作ってもらう大学っていったいどこだろうと、大きな関心を呼ぶわけです。

また、今日ではAO入試は当たり前ですが、かつて西武文理大学で「バーベキュー入試」といって、受験生にバーベキューを作らせて合否を判定するというユニークな入試が登場し、記事に採り上げた記憶があります。奇を衒った、という言葉が適当かどうかは分かりませんが、そのくらい世間の注目を引くようなものでないと、なかなかニュースにはならないということは言えるでしょう。

「初もの」を盛り込むなど工夫を凝らして注目度を上げる

そこで、いったい「何がニュースになるのか」という話になるわけですが、まずは社会的に見て今、何が流行し、話題になっているのかを押さえる。そして、自分の大学は今どんな立ち位置にいるのかを考えれば、自ずとヒントが出てくるのではないかと思います。

記者は「だれもが見たこともなく、聞いたこともない」ものに飛びつきます。全国初、という内容のネタのことを「初もの」と言いまずけれども、こうした要素があればニュースとしての価値は上がりますし、記事として取り上げられやすい。

大学入試は今後も変わっていく可能性があると思います。近年は、改定されたばかりの学習指導要領がさらに前倒しで見直されるなど、振り子のように落ち着かない状況ですね。「ゆとり教育」はマスコミが名づけたと言われていますが、その揺り戻しで、今度は生徒にみっちりと勉強させる流れが来ている。大学も当然それに合わせて入試を見直さなければならない。そこがまた一つ狙い目でしょう。

一方で、大学広報の方々は、高校の学習指導要領をあまり研究されていない。少なくとも私が大学を取材していた時はそうでした。入試問題は教授会で決められていると思いますが、それをいかにPRするのかは広報の皆さんの仕事だと思います。高校生がいま何を勉強し、何に関心を持っていて、高校の先生はそれをどう教えているのか、ということをまずはきちんと調べてみることが大事です。

もうひとつ、近年は新学部の設置や学部再編が続いていますが、これもやはりニュースになる。かつて京都精華大学がマンガ学部を開設したときに、一面で紹介した新聞社がありました。「マンガは大学で教えるものか」「マンガで大学の授業が成立するのか」ということが大きな話題となる。読者も「マンガ学部」というだけで興味を惹かれますよね。これがニュースなわけです。そういう、注目を集める素材が身近にないか見直すのがよいと思います。

このほか、私が記事として採り上げてきたものに、大学の社会貢献があります。ここで私が注目するのは、大学主導ではなく、学生による社会貢献活動です。例えば新潟で地震があった時に、サークルの仲間が自発的にまとまって現地に入り、炊き出しを手伝ったり、被災した人たちに声をかけたりする。現地でそういう学生さんたちを見ると、とても勇気づけられます。彼らは大学のため、などという意識はないと思いますが、それが結果的に大学の大きなPRにつながっています。

それから、大学自体の統廃合。これはもう言わずもがなです。共立薬科大学が慶應義塾大学と統合される、というような出来事は非常に大きなニュースとして、新聞の一面に載ります。

一方で、「公開講座をやります」といった告知も多いですが、それだけではニュースになりにくい。こうしたニュースをリリースする際には、記者の目に留まるような工夫をする。記者は「初もの」に弱いですから、「この先生がやっている研究は他にはありません」、あるいは「この公開講座で取り上げる内容は初めてです」といった内容を盛り込むだけで格段にフレームアップできます。

記者との普段のつき合いも大事 ソフトなリリース文で訴えかけよう

次にリリースの配信の仕方についてお話をしますと、これだけインターネットが普及した今日でも、ニュースの多くはファックスで送られてきます。東京支局では、ファックス用のロールがだいたい半日で1本なくなります。その半面、記事として取り上げられそうなものは、1日に3本あればいい方でしょう。そんな中で、「3、4日前に***のファックスを送ったんですが、読んで頂けましたか」といった確認の電話をもらうことがありますが、現実的にはお答えのしようがありません。

それでは、どうずれば記者にリリース文をピックアップしてもらえるのでしょうか。肝心なのは、概要を示した最初のページをどうまとめるかです。この部分を少し工夫するだけで、中身を読んでみようという気になる。ところが、「公開講座を来月行います」という見出しに、先生の名前と講座名が書いてあるだけでは、そのまま脇に流されてしまいます。

記者に受信の確認を取りたいのであれば、ファックスで送信した後、間髪を入れずに電話をかけた方がいい。それだけで、少なくともリリースをした事実は先方に伝わります。その際に、「いつもお世話になっております」で始まるような紋切り型ではなく、記者の気を惹くような文章で「初もの」のニュースが載っていれば、取材をしてみようという気にさせることができるわけです。これは一つのアプローチの仕方ですね。

大手の新聞社では、一般に社会部の記者が教育関係の記事も担当します。この社会部では、政治家相手にインタビューもするし、オリンピックの取材にも行く。地震や津波などの災害現場にも出かける。そこで、社会部記者が関心を持つような話題に特化すれば、採り上げられる可能性も高まるでしょう。

一方で、大学によっては広報担当の方がわざわざ追いかけてきて、記者に直接プレゼンをしてくださる人もいます。これは内容にもよりますが、記者にとっては大変うれしいことです。じかに話を聞ければ会話が生まれますし、そこでもう取材が始まるわけです。皆さんも、新聞記者と友だちになれとは言いませんが、直接話しをする機会はできるだけ多く持たれた方がいいと思います。

一方で、大学が不祥事を起こしたために、マスコミに取材されるということもあるでしょう。これは危機管理の話になりますが、その際に、速やかに会見を開ける仕組みを取っていれば、いたずらに危機を拡大させずに済みます。

半面、会見がなかなか開けないのは、情報が錯綜し、何が起きているのか正確につかめないからだと思われます。しかし、学内のコンセンサスがまとまるまでは会見しない、というのではなく、できるだけ速やかに会見を開く。その際に、憶測でものはいわない。謝るべきことは謝る。今後どうするのかを、分かっている範囲で説明する。この迅速な対応ができるか否かは、その後の記事の展開にも大きく影響しますし、最初の会見で失敗すると、それがずっと尾を引きます。これは危機管理の、広報担当の最大の命題だと思います。

話がそれましたが、大学の広報について、新聞記者がどういうことを知りたがっているか、何を記事にするかということを理解するために、できるだけ記者とお付き合いをしてほしい。昨年の冬、私は工学部の受験生が10年前に比べ半分ほどに激減したという記事を書きました。それは、ある大学の広報担当者との雑談がきっかけだったのです。「最近は理系に全然人気がない。見る影もなく受験者数が減っている」という話を聞き、これはこの大学だけの話ではないなと直感し、複数の大学に取材をして記事にまとめたわけですが、これも相手と面識があったからこそ、こういう雑談ができたわけです。大学にとっても、雑談ができる記者が一人でもいれば、危機管理の時などにもとても有用でしょう。

*1:2008年4月より開始された「教育情報に特化したオンライン型情報配信サービス」であり、社会に広く流通している教育情報を整理、再構築するとともに、各大学の様々なシーンで埋もれている貴重な情報を洗い直し、教育情報のダイナミックな再活性化を図ることで、大学各位と社会との真に有意な橋渡し役の一端を担うことを目指しているもの