2008年10月18日土曜日

記者からみた大学広報 (3)

シリーズ第3回目となる今回は、天野 幸弘氏(朝日新聞大阪本社生活文化部記者)の講演概要をご紹介します。

天野氏は、主に「マスコミに記事を紹介する気にさせる方法」「どうすれば大学の情報が効果的に流通するようになるか」等について話されています。

私たちマスコミの仕事は、世の中に起きているニュース性のある素材を様々な角度から紹介することが基本です。大学情報もジャーナリズムの1部門であり、皆さんは盛んにパソコンで送られたり、ファックスで送られたり、郵便物で送られたりしていますけれども、すでにお気づきになっている通り、そのデータの大半はほとんど在庫のまま、世間には流通していないのではないでしょうか。大学関連では、関西には京都大学と大阪大学、科学技術センターの3か所に記者クラブがありますが、そこに情報提供されても、放置されたままになっている可能性がある。この状態をどうずればいいのか。今日は、皆さん方が、マスコミに記事を紹介する気にさせる方法を、いくつか申し上げたいと思います。

例えば、私ども朝目新聞大阪本社の生活文化部には大学担当者が置かれていて、先日も大学からの郵便物が20通ほど来ていました。しかし、その中で担当者の宛名が記されていたのはたった2通に過ぎません。そうしますと、私たちも宛名の書かれてあるものから順番に開封して読みますよね。

次に、「大学の情報」とはいったい何かということです。私は、一番大事なのはやはり先生方の研究成果と教育活動だと思っています。しかし、実際のプレスリリースでは大学の対外活動が主となっています。例えばこんな施設を作っただとか、イベント的なものが中心になっているんですね。

ここで具体例を挙げると、関西大学は「高松塚古墳の復元模型を作る」という内容のリリースをされました。その中で特徴的だったのが、記者会見に理事長、学長が揃って出席するということで、マスコミの側もこれは何か重大なニュースがあるんじゃないかと、各社カメラマンを連れて出かけていった。非常にうまいPRの仕方だと思います。

一方で、大学は巨費を投じて、海外での調査活動や共同研究者を集めた学会などを開いていますが、あまりニュースになりにくいですね。これはマスメディアの宿命かもしれませんが、「はじめて」「最大」「最後」といった非常に分かりやすいキーワードで切り取られたものが中心となりがちです。

だいたい、大学改革などの試みは非常にニュース性の高いテーマとして、社会面などに採り上げられ、新しい研究成果を打ち出した人たちの紹介や、大学の活動などは教育特集のページに収められるという傾向があります。ただ、大学特集のページも、通読しますと比較的特定の大学、特定の先生に偏りつつありますね。先程も指摘しましたが、PR上手な先生だとか広報に長けた大学に引きずられてしまう。もちろんわれわれマスコミの側も、このあたりは課題になっているわけですけれども。

大学情報はメディアにどう流れているのか

大学情報としては、公開講座のような社会的な行事や催し、一般の方も参加できる学会、シンポジウムなどの案内が量としては多いわけですが、これを数多くやられているところが、結局は大学特集ページの中でも大きなウエートを占めているようです。すなわち、常々告知の記事などを書いていますと、これは何だろうかと関心を持つのですね。そこで、実際に取材をしてみる。私の経験では、3分の2くらいは後々役に立つかなというネタ収集ですけれども、3分の1は実際に担当者から話を聞いて、具体的な記事を書く。そういうプロセスを通じて、大学の動向に関心を持つ。それが1つのきっかけになっているということを、ぜひ認識して頂きたいと思います。

そのほかには、大学経営に関する情報ですとか、外部からこういう人を招聘したというようなニュース。これは社会面で採り上げられるような内容ですけれども、そこそこの話題であれば、だいたいもれなく掲載されます。

こうしたニュースのリリースはすべて、皆さん方が担っておられるわけですけれども、やはりその内容、情報の流れ方をもう一度検討し、どうずれば効果的に流通されるようになるかということを考えることが重要だと思います。

我々メディア側、特に新聞・雑誌などの活字媒体は、メディアの数がどんどん増え、トータルとしては伸びていますが、個別の費用は衰退の一途です。これはやむをえないことで、系列のテレビ局を持ち、IT関係の分野も持ち、というように既成のものは分散化されていくのであって、トータルとして伸びていけば良いというぐらいの考え方に切り替えていきます。いわば総合戦略ですね。

そこで、このメディアの激変をいかに上手く乗り切っていくかということがあるわけですが、そうした中でも、大学情報がメディアにどう流れているかということに、今後の大学情報の発信の仕方での活路があると思います。大きく分けて、1)理事長、学長をはじめ、教授などの個人がメディアの担当者に直接アプローチしているケースと、2)大学の広報担当部門の方々がメディア関連部門にアプローチするケース、3)メディアの担当者個人にアプローチするケース、4)記者クラブにプレスリリースを提供するケース、5)ホームページで紹介するという、5種類ぐらいに分かれると思います。

やはり、メディアの基本は「個人から個人」への流れです。先程の郵便物の件でも、同じ日に来た郵便物をパラパラと見て、個人名が書かれているのを優先して開けるというのは、人情として当たり前の事ですよね。私個人の経験でも、先生方あるいは広報の担当の方々から直接電話がかかってきたり、メールが入ってくると気になります。コミュニケーションの基本は個人ですから、やはり皆さん方にそこを認識していただき、どのようにシステム化していくかを考えていただきたい。

一番問題なのは、記者クラブにデータを投げ込んだままというやり方だと思います。京都大学の記者クラブのように、記者が毎目詰めているようなところはまだ効果的ですが、そうでないところは、ほとんどマスコミに通っていないと考えてください。やはりそれぞれ独自の努力が必要だと思います。

教員を含めた学内ネットワークを構築し戦略的広報の実現を目指す

個人名が書いてあるかどうかということに関連しますが、朝目新聞の場合、東京本社は文化部、生活部に分かれていますが、大阪本社は生活文化部になります。しかし、実際に送られてくるリリースも、学芸部と古い名称で送られてくるのはいい方で、場合によっては文化担当部門としか書いていないものもあります。また、宛先がまったくなく、朝日新聞記者としか書かれていないものになりますと、とにかく受付の庶務のところでとりあえず開封しなければならず、そのデータがどこに流れていくかは保証の限りでありません。従って、個人名で出すことが一番強いと思います。

また、どうしても重要な広報の場合は、届いたことを見計らって電話をかけるなど、ひと手間をかける努力をするということは広報の基本だと思います。

例えば、広報担当者が大学関係の新聞記事をすべて切り抜いていて、「こういうことが知りたい」と取材した場合に、過去の資料からきちんと答えてくれる大学もあります。取材の際の質問でも、内容によっては広報の方で調べてみるということは、ぜひやっていただきたい。もちろん研究や学会活動などを実際に行っているのは大学の先生方でしょうが、その先生の内線番号を教えていただいても、授業や定期考査などでつながらず、それで終わりということがあります。それで、その情報が終わってしまったら、在庫になってしまったということが多くなります。

また、研究者のデータベースの構築に関連しますが、広報の側でいま自分の大学で何をやっているか、どの先生がどんな研究をされているかといった、大学内部の情報網の構築が大事だと思います。ここがきちんとできている大学の場合、取材をして、30分後また連絡してくれといった場合、必ずそれくらいの段階で、ここまで分かりましたという話が出てくる。非常にうまく把握されている。それにお答えいただいた以上、マスコミの側でも応えようという部分はあると思います。

問題は、プレスリリースの原稿の書き方で、膨大な量のプレスリリースなどはなかなか読まれない。やはり本当に簡潔に、それでいて「えっ」と思わせるような仕掛けがあって、A4の1枚で収めてしまう方がいいと思います。

これはやはり、先生方があまり努力をされていない。ですから、大学広報の皆さんが、大学のPRのためにいろんなデータを仕入れて、先生方を教育してほしいのです。そこで、できればその各学部、各部門、研究所、セクションごとで良いですけれども、情報教育を行っていただいて、ネットワークを作っていくのが先決だと思います。我々マスメディアも同じですが、大学というのが社会的な存在である以上、やはり社会に応えていく責務があるということを先生方にも理解していただき、これからの新しい時代を構築していってください。