2008年11月1日土曜日

「大学のグローバル戦略シンポジウム」レポート

去る10月28日(火曜日)午後、日本プレスセンター(東京)において、みずほ証券株式会社が主催する「UGSS(Universities Global Strategy Symposium)2008」(=大学のグローバル戦略シンポジウム2008)が開催されました。

このシンポジウムは昨年から開催され、今回が第2回目。テーマは、「大学の経営革新と新たな競争軸-米国大学のケーススタディに学ぶ大学の「価値」と「潜在力」-」ということで、配付された資料には「大学のグローバリゼーションを背景に『大学の経営革新と新たな競争軸』をテーマに掲げ、長期的・本質的な大学の変革を構想する上で不可欠な外部資金調達に焦点を当て、そのリソース開拓のメカニズムを明らかにするとともに、大学が抱える経営課題への解決策につながる先進的な事例を学ぶことにより、現在の大学の変革過程において、経営者、実務者が、大学の「価値」と「潜在力」を再認識し、自大学の知の拠点としての機能を最大に発揮する」という説明が書かれてありました。

何度も読み返さなければ何を言いたいのかわからないような難解な文章ですが、簡単に申し上げれば、「大学間競争が厳しくなる中、外部資金の調達は不可欠であり、制度の違いはあるが、米国大学の成功事例に学ぶことは重要である」ということではないかと思います。

このシンポジウムの構成は、まず、基調講演として、米国を代表する大学であるイエール大学、プリンストン大学それぞれから先進事例の紹介があり、次に両大学の講演者に国内代表として東京大学、日本大学を加え、慶応大学がチェアを務める豪華メンバーによるパネルディスカッションが、フロアー(大学関係者約100名)からの質疑応答を交えながら行われました。

なお、このシンポジウムは、国立大学マネジメント研究会、大学行政管理学会、21世紀大学経営協会の共催、米国大使館、米国大学理事会協会、イエール大学同窓会、慶應義塾大学SFC研究所の特別後援により行われました。

今日は、このシンポジウムの概要をご報告したいと思います。


基調講演1

テーマ

卒業生の「タイムアンドマネー」を喚起するモチベーションとは-イエール大学同窓会の再活性化-

講 師

マーク・ドロホップ氏(イエール大学同窓会 エグゼプティブディレクター)

▼米国の多くの大学は社会貢献活動を行いフレンドを調達している。

例えば、同窓会は、
  • 大学の目標と優先事項を卒業生に月次で報告(インターネットでも配信、eメールは毎週発行)
  • ネットワーク作りとキャリア・カウンセリングサービスを促進
  • 生涯学習の機会を提供(教員200人が米国中を回り講義、貧しい子どもに家庭教師を派遣など)
  • 地域社会への貢献のためのボランティア活動の機会を卒業生に提供
  • 卒業生を在学生のためのメンターに登用
  • 学生にインターンシップや学外研修の機会を提供 など

▼イエール同窓会(AYA)の役割は、「イエールとの生涯の繋がりを育む。そのために同窓生に奉仕するとともに、同窓生をイエールにとって有能な後援者であり、かつ親善大使とならしめる」こと。そのために4つの戦略目標を掲げている。

1 現行のプログラムの強化、新しいプログラムの開発、新しい媒体利用の増加による教育機会の拡充
  • サービスツアー(アウトリーチ)=ドミニカ共和国での家屋建築、能力開発の実例を共有するための海外大学訪問など
  • iチューン(オンライン講座)=25以上の講座をオンラインで開講
  • 家族参加プログラム=地中海への家族旅行、ピクニック、バイク旅行
  • カンファレンスと同窓会=3千人以上の同窓生がイエール同窓会や学内でのカンファレンスに参加 など

2 同窓生をサポートする多様なサービスを提供
  • キャリア・ネットワークとメンタリング=8千人以上の同窓生が、履歴書をオンラインで共有
  • クレジットカード=数万人の同窓生が大学のクレジットカードを使い、カード利用手数料が大学側の収入に
  • 旅行プログラム=イエールは50以上のプログラムを世界中で提供し、約15百名の同窓生が参加
  • 図書館、ジム・サービス
  • イベント、データベース管理=全同窓生が利用可能な同窓生名簿を管理 など

3 イエールの同窓生をイエールのために最大限に活用する。AYAは適切なプロジェクトを適切に遂行できる同窓生のために適切な仕組みとツールを提供する。
  • AYAのスタッフを50%増員=スタッフは同窓会スケジュールの調整などの活動をサポート
  • 同窓会への直接サポート=AYAは黒人、ラテン系、アジア系、アメリカ原住民、そしてLGBT(同性・両性愛/性転換者のグループ)の同窓会を組織
  • 6大都市の同窓生のサポート拡充=同窓会理事会と協力してプログラムを提供するなど、直接サポートを実施
  • 大学院と専門職大学院とのコラボレーション=大学院(経済、芸術史、物理学など)の同窓会のスポンサーになる など

4 リーダーシップ研修へのボランティア派遣など、適切なツールを提供
  • ウエブ=ウエブサイト・同報Eメール、ソーシャル・ネットワーキング、イベントマネジメント
  • ボランティア・リーダーシップ研修カンファレンス=同窓生が開催する講習の運営をAYAがサポート
  • GALE(Global Alumni Leadership Exchange)=2009年、イエールの同窓生が来日し、日本の大学と協同で同窓会や寄付募集に関する取組みを実施する予定。
  • コミュニケーション、マーケティングの強化=豊富な資料をクラブやアソシエーションに提供する。など

▼日本の大学の課題
  • 厳しい運営環境
  • 政府からの助成金が著しく減少
  • 外部資金調達の重要性と必要性が増大
  • 同窓会の重要性に対する大学の認識不足
  • 「ミッション」のより良い意義付けが必要-方針、目的
  • 正式な組織が必要
  • 大学による、より多くの資金援助と投資が必要
  • また、日本でファンドレイジングに携わる人々の多くは、寄付のためのテクニックを使おうとしない。なぜならば、寄付を断られることや、「直接的な依頼」によって不快感を持った寄贈者との関係が完全に壊れてしまうことを恐れているからである。

▼日本の大学への示唆
  • ファンドレイジングとは、お金を要求するのではなく、人々を寄付する気持ちにさせること。
  • 同窓会の方針と目的は、人々に時間、能力、財産を寄付する気持ちにさせること。
  • 日本でファンドレイジングに携わる者(米国でも同様!)は、ファンドレイジングのパラダイム転換を図る必要がある。「大学主導型」のファンドレージング(例えば、「大学は、あなたからの寄付が必要」)から、「自発的・寄贈者主導型」のファンドレイジング(例えば、「私は大学に寄付したいと思う。なぜならば私にとって重要なことに寄付金が使われ、他の人の人生を変えることができるからである。」)へと変えていく必要がある。
  • 財布(お金)を手に入れる前に、頭(知性)と心(感性)を手にしなければならない! 次世代の寄贈者は、「参加型」である。デザイン、運営、そして効果測定まで参加することを望む(彼らは、スタッフに任せたままにするのではなく、むしろスタッフを手助けする存在である)。寄贈者は結果を知り、真の継続的なパートナーシップを関係者や大学と築きたいと思っている。ボランティアは、慈善活動をすることではなく、時間・能力・財産を寄付し、それがどのような変化をもたらすかを見ることに関心がある。ボランティアと寄付は、非営利団体に対して、自らのキャリア経験と知識を提供し、市場志向と知識基盤を通じて効果が測定できるものと考えている。
  • 人は、トヨタにお金が必要だからカムリを買うのではない。多くの大学は、同窓生が「参加したい」プログラムではなく、「参加しなければいけない」と信じたプログラムを作り、失敗している。同窓会は、ボランティアや寄贈者が大学生活に参加したいと思うようなプログラムを自ら作る手助けをするべき存在である。

基調講演2

テーマ

大学の経営戦略に基づくファンドレイジングのトータルプロセス-プリンストン大学ファンドレイジングチームによるベストプラクティス-

講 師

スティーブ・ステイプルズ氏(プリンストン大学 ディベロップメントオフィス リーダーシップギフト アソシエイトディレクター)

▼寄贈者を誘導するサイクル(5段階プロセス)
  1. 特定(多くの財源から寄贈者を選定)
  2. 啓蒙(大学と寄贈者の関係強化を推進する活動をサポート)
  3. 勧誘(プログラムや取り組みへのサポートを要請)
  4. フォローアップ(サポートヘのお礼と、基金やプログラムの状況報告)
  5. 更新(大学への恒常的寄付)

【特定】

-寄贈者を特定する手法
  • 地域や業界の同窓生リストを調査
  • リサーチグループによる各種媒体(新聞、雑誌、オンライン情報など)の調査
  • 同窓生の調査(自己の特定)
  • 過去の寄贈者

-リサーチグループが開発した独自のレイティング・スケール
  • レイティングされた寄贈見込者は、総資産の5%を寄贈できると仮定

【啓蒙】

-啓蒙の方法:
  • 個別ミーティング
  • 郵便
  • Eメール

-啓蒙のための活用できる人材
  • 第一線のファンドレイザー
  • 他の同窓生
  • キャンパス内のパートナー(教授、スタッフ、アドミニストレーション等)
  • フレンズ

【勧誘】

-勧誘する手段:
  • 学長、スタッフ、プログラム・コーディネータからの提案書
  • 寄付合意書
  • 対面式会話

-面談の担当:
  • 教授
  • 学長(できれば、1回の面談)
  • 同窓生
  • 理事会

【フォローアップ】

-どのように寄贈者に的確に謝意を伝え、奨学金基金の状況報告を行うか
  • 年次レポートにファンドの市場価値と簿価を概説
  • 奨学金を受けた学生の名前を通達
  • 奨学金を受けた学生に寄贈者への礼状の送付を指示

-認知と可視化
  • プリンストン大学への寄付に関する年次刊行物
  • ニュースレター
  • ウェブサイト

【更新/評価】
  • 前述の4ステップ(特定→啓蒙→勧誘→フォローアップ)が的確に実行されれば、さらに寄付の機会が生まれる。
  • 1995年から2008年までの1ドルの寄贈当たりのコスト:8セント
  • 最大の経費項目(160人の職員の給与:基金の安定運営のため、成功報酬制はとらない一全雇用者は月給制)
  • 第一線のファンドレイザーは、年間100回の訪問と40回の勧誘が評価基準
  • チーム全体の目標金額を設定し、協力体制作りを後押し

▼日本の大学の課題
  • 高等教育への寄付文化が醸成されていない。
  • 大学でのファンドレイジングに関わるインフラの未整備

▼日本の大学への示唆
  • 日本経済の再浮上
  • 米国の大学とのコラボレーション

パネルディスカッション

テーマ

外部資金調達における大学の横断的組織の役割

チェア

國領二郎(慶応義塾大学総合政策学部教授、SFC研究所所長、インキュベーションセンター長)

パネリスト

・マーク:ドロホップ氏(前記)
・スティーブ・ステイプルズ氏(前記)
・杉山健一氏(東京大学副理事)
・秋山利明氏(日本大学財務部主計課課長)

ディスカッションに先立ち、東京大学・杉山氏から「東京大学基金の現状と課題」、日本大学・秋山氏から「日本大学における財務管理の一側面」の発表

▼同窓会組織と大学運営・教育研究との関係はどのようになっているか。
  • 米国大学における同窓会組織と大学の関係は大学によって異なり複雑だが、同窓会が必ずしも大学の運営に携わるものではない。
  • イエール大学の場合、以前、教育研究カリキュラムの変更についての意見を同窓生に聴いた。最終的に決定するのは大学(教員)だが、卒業生にアドバイスを求めることは、同窓生とのインターフェースを増やしていく観点から重要
  • 東京大学の場合は、同窓会連合会(赤門学友会)があり、大学側の窓口として2005年に「卒業生室」を設置
  • 日本大学の場合にも、校友会があり、大学に校友会事務局を設置。在学中から準会員としての入会を勧誘(会費徴収)。入会のメリットとして、病気、けがの補償、教育ローンの利子補給サービスを大学が実施
  • 大学の戦略に同窓生を活用すること、同窓生を大学のアンテナとして活用することが必要

▼どうしたら寄付カルチャーを育てることができるか。
  • 多くのレベルにおけるサービスを提供すること、サービスのプログラムを考え拡大すること、同窓生の「心と頭」に訴えることが重要。それにより同窓生と大学との結びつきが一層強化
  • 日本の企業が成功しているのは、「客を理解している」から。同窓生が大学に何を求めているのか、何を期待しているのか、何に参加したいのかを多くの同窓生に聴くこと、助けを求めること、調べることが必要
  • 同窓生との接点の定量化と障害を撤去することが必要

▼資金調達のためのトレーニングを行っているか。
  • プリンストン大学では、マニュアルを整備し、ブリーフィング(研修)で優先課題や寄付金勧誘の会話の仕方などを教えている。
  • イエール大学では、リーダーシップフォーラム(研修)で、非営利団体のガバメント、ボランティア研修を行っている。

▼ファカルティ(教員)は資金調達についてどういう意見を持っているか、教員を動員(モバイリティ)するのは大変ではないか。
  • イエール大学では、教員は最も重要なボランティアであり、できるだけプログラムに参加してもらっている。
  • プリンストン大学でも、教員は教育の第一線で教育の現状を知っており重要。しかし一部の教員に依存
  • 東京大学では、理解ある教員が増えつつあるが、決して多くはない。教員はスタッフの一角を担うべき。

▼企業からの寄付についてどのように考えているか。
  • プリンストン大学では、企業からの寄付は調達資金の15%以下であり、まだ企業との関係が十分に構築されていない。
  • イエール大学では、内部のビジネススクールでの研究や社員訓練を通じて企業から手数料が入る。企業が欲しているサービスを提供すれば寄付金は入る。例えば、起業家支援、新ビジネスの立ち上げ支援、技術移転など。同窓生も活用している。
  • 東京大学では、大学が欲しいものと企業が欲しいものをどう組み合わせていくかが今後の課題

▼基金の運用はどのようにしているか。
  • プリンストン大学では、大学内部の運用会社(世界に150か所)を使い分散投資をやっている。国際80:国内20の割合

▼米国では地方の大学、スケールの小さい大学はどのように資金調達を行っているのか。
  • 米国でも、同窓生の数が少ない、同窓会組織がない大学では課題が多いが、イエール大学の戦略を取り入れ、スタッフを増やしている大学もある。なぜならば、大学間競争が脅威であり、今後は、グローバルな学生を集めなければならないから。投資次第で大学は変わる。優秀な教員を集めるためには投資が必要であり、教員が集まれば学生が集まる。
  • 米国では、弱小大学は閉鎖されており、生き残るためには投資していかなければならない。
  • 英国の大学(オクスフォード、ケンブリッジなど)は米国に学生を奪われないために、新しい学費システムを導入。グローバル化は経済や企業だけの話ではない、教育も大学もグローバル化しなくてはならない。
  • 投資をし、資源を増やし、学生を確保することが必要。
  • 米国の州立大学は、財政的に州に依存できなくなってきている。私立との境界もなくなってきており、一層危機感を高めている。

▼卒業生以外のターゲット戦略はどうしているか。
  • 在学生の保護者は4年間の限定であり長期的に期待できない。
  • 篤志家のフレンズを増やすためには、教員が関与することが重要。
  • イエール大学では、保護者へプレゼンテーションするために、キャンパスに呼んで接待する。保護者は大学にとって重要だと思ってもらう。祖父母の日を設けている大学もある。
  • ステークホルダー別に分け戦略を練ることが必要。ボランティアにもなってもらう。

▼まとめ
  • 資金調達のための小さな努力を段階的に重ねていくことが重要
  • 寄付をしてもらうためには、「大学と一緒に活動すれば世の中を変えられる」という夢を持っていただくことが必要
  • 建物を建てることが目的ではなく、建物を建てることにより人を助ける研究をすることができるという考え方が必要

来賓挨拶

米国大使館 広報・文化交流部教育・人物交流担当官 Ms.Nini J.Forino氏