2008年12月3日水曜日

国立大学の予算の課題

平成21年度予算の編成等に関する建議」(財政制度等審議会)については既にこの日記でもご紹介いたしましたが、この建議に至る審議会での議論(というよりは財務省からの一方的な説明)の様子(=文部・科学関係議事録)が最近公表されました。建議の方が先に公表されてしまったため、今さら議事録を読んでも仕方ありませんでしたが、読んでみると財務省の説明者(主計官)の発言と建議に書かれた文章が面白いようにピタピタと一致するので、改めて財務省の思惑どおりの審議会運営、財政政策の誘導が行われているんだなあと認識させられた次第です。

議事録の中で文部・科学担当の主計官は、「国立大学の予算の課題」に関して主に次の6点を主張されています。
  1. 平成22年度から国立大学法人は第2期の中期計画に入る。その際には、競争的な環境、透明性、そして学部・学科ごとの厳格な相対評価を踏まえて、競争的な資金配分を行っていくことが重要。

  2. 第1期(中期目標期間)では、一律1%削減が行われてきたが、経費の効率化がどこまで行われているのか必ずしも判然としない。今後は、大学の特性、学部ごとの評価を考慮し、国が支援すべき研究、人材育成について運営費交付金を交付するといった考え方で進めていくことが重要。その際、研究コストは学部ごとに交付額を傾斜配分する、あるいは教育コストについても学費等の自己収入で賄うといった考え方も踏まえて検討していくことが必要。

  3. 国立大学の運営費交付金は毎年1%の削減だが、実は共同研究費あるいは寄付金等の収入努力によって、全体の事業費は毎年数百億円のペースで増えてきている。こうした努力をさらに進めていくことが必要。

  4. 大学の類型によって、あるいは同じ類型の中でも大学によって教員1人当たりの外部資金は相当差があり、こうした差を踏まえて、各大学の機能分化を進めていくことが重要。

  5. 国立大学の授業料は、私立大学あるいは諸外国の大学に比べると、まだかなり低い水準。ここ数年据え置いてきているので、第2期(中期目標)の期間に向けて、授業料の水準の在り方について引き続き議論していくことが重要。

  6. 国公私を通じた教育改革支援経費と、国立大学運営費交付金の中で個別大学ごとに計上する特別教育研究経費は、項目にもかなり重複があるので整理していくことが必要。
僭越ながら若干コメントさせていただきますと、大学間に競争的環境を醸成し、競争原理による各大学の自助努力を促すという政策は、総合的に考えれば、今後とも国公私の分け隔てなく推し進めるべきだと私は思います。特に、ぬるま湯にどっぷり浸かりきっている国立大学には、その大きな外波(大学の壁を乗り越える高波、あるいは壁を突き崩す強波)が押し寄せ続けることを希望しています。大学の中で、全学的視点からの予算配分や学部間の競争的環境を醸成するための仕掛け作りに一生懸命取り組んでも、なかなか「部局自治」というモンスターを倒すことはできません。モンスターと闘うには、「外圧」という助っ人が必須のような気がします。財務省の主張のように、今後は部局というセグメントごとに財務情報を公開し、全国レベルの土俵の上で相対評価を行っていくことが必要です。そこまでやって初めて改革がスタートできるような気がします。

また、財務省は、法人化後、国立大学予算の一律1%の効率化減を行ってきたことの検証は必ずやるべき、やる責任があると思います。「経費の効率化がどこまで行われているのか必ずしも判然としない」と他人事のようなことを言っていないで、自ら率先して、不可能であれば文科省を使ってでも実行すべきです。「政策なき一律削減の功罪」は税金を払う国民の前に明確にすべきでしょうし、授業料の値上げを要求するのであれば学生や保護者の前に「国立大学には、こういう理由で、あるいはこういった無駄なコストが眠っており、財政的にまだこれだけの余裕がある。したがって、今後これだけ国立大学から金を絞り取れる」と具体的に説明してもらいたいものです。ただし、「経済的弱者を排除することなく教育の機会均等を確保するとともに、教育・研究・診療の質の低下を絶対に招かない」という国立大学の使命達成が確約できることが前提になりますが。

最近感じるのですが、財務省のお役人達、教育を経済原理主義で考えすぎてやいませんか。国としての責任を放棄してやいませんか。結構イエローカード状態の思想だと私はとても心配しているのですが・・・。

[追加記事]

12月3日に「平成21年度予算編成の基本方針」が閣議決定されました。教育関係抜粋は以下のとおりです。

「教育振興基本計画」(平成20年7月1日閣議決定)に基づき、我が国の未来を切り拓く教育を推進する。その際、新学習指導要領の円滑な実施、特別支援教育・徳育の推進、体験活動の機会の提供、教員が一人一人の子どもに向き合う環境づくり、いじめ・不登校等子どもをめぐる諸問題への対応、学校のICT化や事務負担の軽減、教育的観点からの学校の適正配置、定数の適正化、学校支援地域本部、高等教育の教育研究の強化や国際競争力の向上、私学の振興、競争的資金の拡充など、評価を適切に反映させつつ、新たな時代に対応した教育上の諸施策に積極的に取り組む。

また、平成20年末に策定する「青少年育成施策大綱」に基づく青少年の健全育成、国際競技力の向上などスポーツの振興、日本文化の海外への戦略的発信や文化財の保存・活用、子どもの文化芸術体験など文化芸術の振興、留学生30万人計画の実現のため、総合的な施策を推進する。

幼児教育の将来の無償化について、歳入改革にあわせて財源、制度等の問題を総合的に検討しつつ、当面、就学前教育についての保護者負担の軽減策を充実するなど、幼児教育の振興を図る。また、「食育推進基本計画」(平成18年3月31日)に基づき、国民運動として食育を推進する。

全文→http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2008/1203housin.pdf