2009年1月10日土曜日

契約の適正化

この日記でも既に何度かご紹介していますが、国立大学法人を含む独立行政法人の業務実績については、各年度終了後、各府省の独立行政法人評価委員会(国立大学の場合は、国立大学法人評価委員会)が評価(=一次評価)を行い、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会が、一次評価の客観的かつ厳正な実施を確保するため、各府省の評価委員会の評価結果について横断的評価(=二次評価)を行い、各評価委員会に対して必要な意見を通知することとなっています。

去る1月7日(水)、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会は、各府省の独立行政法人評価委員会等における平成19年度における独立行政法人等の業務の実績に関する評価の結果(契約の適正化に係るもの)についての意見を取りまとめ公表しました。

この評価結果は、各独立行政法人の平成19年度の業務実績に係る各府省の評価委員会の評価結果のうち、「契約事務に関する事項」についての評価結果を取りまとめたものです。

(注)政策評価・独立行政法人評価委員会は、平成20年9月5日付けで「入札・契約の適正化に係る評価における関心事項」(以下抜粋)を各府省評価委員会に提示しており、今回の具体的な指摘は当該関心事項に示された項目について検証・評価して取りまとめたもののようです。



入札・契約の適正化に係る政策評価・独立行政法人評価委員会独立行政法人評価分科会の評価における関心事項は以下のとおりである。

(1)契約に係る規程類、体制の整備状況等に係る評価
  1. 契約方式、契約事務手続、公表事項等、契約に係る規程類の整備の有無、及び規定内容を把握した上で、整備内容の適切性について評価を行っているか。

  2. 契約事務に係る執行体制を把握し、当該体制が契約の適正実施確保の上で適切なものとなっているかについて評価を行っているか。内部審査体制や第三者による審査体制が整備されていない場合、法人の業務特性(専門性を有する試験・研究法人等)、契約事務量等を勘案し、これらの体制を整備する必要性について評価を行っているか。また、整備されている場合、競争性・透明性確保の観点から有効に機能しているかについて評価を行っているか。監事による監査は、これらの体制の整備状況を踏まえた上で行っているかについて評価を行っているか。

  3. 「随意契約見直し計画」の実施・進捗状況や目標達成に向けた具体的取組状況について把握した上で、これらの実施状況等について評価を行っているか。また、計画どおりに進んでいない場合、その原因を把握・分析しているか。
(2)個々の契約に係る評価

監事による個々の契約の合規性等に係るチェックプロセス(チェック体制、抽出方法、抽出件数、個別・具体的チェック方法等)や入札監視委員会などの第三者によるチェックプロセスを把握した上で、関連公益法人との間で随意契約を締結しているもの、落札率が高いもの、応札者が1者のみであるものなどがある場合において、契約における競争性・透明性の確保の観点から、必要に応じ、評価委員会自らが監事等によるチェックプロセスのフォローを行っているか。



今回の取りまとめには、国立大学法人は含まれていませんが、研究費の不正経理など大学における不祥事は後を絶たず、今回の評価結果を対岸の火事だと見過ごさず、他山の石とする意識が不可欠ではないかと思います。


まずは、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会委員長見解「平成19年度における独立行政法人等の業務の実績に関する評価の結果(契約の適正化に係るもの)について」(平成21年1月7日)(抜粋)
政府は、国の機関や独立行政法人の契約の競争性・透明性を高めるなど、契約事務の一層の適正化に取り組んでいます。これは行政に対する信頼の回復のために大変重要なことです。独立行政法人評価は、この契約事務の適正化の取組の中で強化すべき監視機能として位置づけられており、「独立行政法人整理合理化計画」(平成19年12月24日閣議決定)においても、入札・契約の適正な実施についての厳正なチエックが求められています。(途中略)

その結果は、総じて言えば、各府省評価委員会の多くが契約事務についての評価に取り組んだことが認められるものの、契約事務のルールを定める規程類や、随意契約、入札の現状についての分析・評価が、さらに踏み込むべきところを残しているものや、まだ十分に国民に対して分かりやすく説明するものとなっていないものが少なくないというものでした。


次に、評価結果の全体概要です。

1 契約事務に係る規程類に関する評価意見
1)法人の現状

予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等、国の契約事務に係る規程類を基準として、相違をみると次のような事例がみられる。
  • 公告の方法に関する規定がないものや急を要する場合以外に公告期間を短縮できるとしているもの(24法人)
  • 指名競争契約限度額に関する規定がない、または、国と異なっているもの(5法人)
  • 包括的随契条項*1があるもの(28法人)
  • 公益法人随契条項*2があるもの(4法人)
  • 予定価格の省略に関する規定が国と異なっているもの(18法人) 計49法人
2)一次評価(各府省)にみられる課題
  • 規程類の整備内容の適切性について、評価結果において言及がない(15法人)
  • 国の契約の基準と異なる規定が設けられていることの適切性について、評価結果において言及がない。(42法人)
3)二次評価(総務省)意見
  • 規程類の整備内容の適切性について厳格に評価すべき。
  • 「法人の現状」に見られる事例について整理。例えば、包括的随契条項について、その適切性を検証すべきと指摘。
2 随意契約見直し計画の実施・進捗状況に関する評価意見
1)法人の現状

○独立行政法人全体における競争性のない随意契約は金額ベースで9,829億円。平成18年度実績に比べ8ポイント減少。
○各法人が定める随意契約見直し計画の実施状況等をみると、次のような事例がみられる。
  • 競争性のない随意契約の金額が平成18年度実績に比べ増加しているもの(22法人)
  • 随意契約見直し計画において、平成19年度中に措置することとしている事項がある法人(51法人)
2)一次評価(各府省)にみられる課題
  • 競争性のない随意契約の金額が増加した理由について、評価結果において言及がない(20法人)
  • 平成19年度中に措置することとしている事項について、評価結果において言及がない(10法人)
3)二次評価(総務省)意見

随意契約見直し計画の実施・進捗状況について、随意契約の金額が増加している原因等も含め評価結果において明らかにすべき。

3 関連法人との業務委託に関する評価意見
1)法人の現状
関連法人*3を有する独立行政法人は42法人(19年度末現在)。 このうち、関連法人と業務委託契約を締結しているもの38法人。

2)一次評価(各府省)にみられる課題
  • 評価結果において関連法人との契約について言及がない(3法人)
  • 評価結果において関連法人との契約の妥当性についての言及がない(4法人)
3)二次評価(総務省)意見

関連法人との契約について、契約方式や応募(応札)条件等を十分に検証した上、競争性・透明性の確保の観点から、関連法人に対する業務委託契約の妥当性について評価結果において明らかにすべき。

4 一般競争入札における1者応札に関する評価意見
1)法人の現状

独立行政法人における般競争入札件数(24,168件)のうち1者応札となっているもの10,768件(45%)。事業類型別にみると、研究開発型の法人における1者応札の割合が最も高く60%、政策金融型が最も低く28%。

2)一次評価(各府省)にみられる課題
評価結果において1者応札率が高い*4ことについて言及がない(9法人)
3)二次評価(総務省)意見

一般競争入札において1者応札率が高い法人については、法人の業務を勘案した上で、一般競争入札において制限的な応札条件が設定されていないかなど、競争性・透明性の確保の観点から厳格な検証を行い、必要に応じ、改善方策の検討などを促すとともに、その結果を評価結果において明らかにすべき。

5 その他個別の評価意見(意見の例)
【経済産業省所管日本貿易振興機構】

本法人においては、物品の購入等にあたり、虚偽の納品書等を納入業者に提出させたり、所定の検収を行わないまま物品が納入されていないのに納入されたこととしたりするなどの適正でない会計経理が行われており、適正な契約事務が十分履践されていなかったことが判明した。今後の評価に当たっては、契約事務の適正な実施を確保するため、今回の不正経理の発生原因や本法人の内部監査体制、本法人が講じた再発防止策等の検証結果を踏まえ、物品の購入に係る検収等、当該事務の実施について、厳格な評価を行い、その結果を評価結果において明らかにすべきである。


会計検査院顔負けの鋭い突っ込みです。
「文部科学省所管の独立行政法人」(26法人)に対しては、次のような指摘が行われています。

1 契約に係る規程類に関する評価結果(抜粋)
しかしながら、6法人*5については、会計規程等において、国の契約の基準と異なる規定が設けられているが、このような規定が設けられていることの適切性について、評価結果において言及されていない状況がみられた。
例えば、国の場合、随意契約によることができる具体的要件が定められているが、独立行政法人の場合、随意契約要件として「業務運営上特に必要があるとき」と具体的に定められていない条項(いわゆる「包括的随契条項」)が規定されているものがある。同条項は安易に適用された場合の弊害が大きいと考えられ、法人の業務の特性等を踏まえてあらかじめ想定される随意契約にならざるを得ないものについてはできる限り具体的に定めるべきであり、その規定の整備内容の適切性について検証し、評価結果において明らかにする必要があると考えられる。

したがって、貴委員会は、契約に係る規程類の整備内容の適切性を確保する観点から、今後の評価に当たって、国の契約の基準と異なる規定については、「独立行政法人における契約の適正化について(依頼)」(平成20年11月14日総務省行政管理局長事務連絡)をも踏まえて評価するとともに、評価結果において明らかにするよう留意されたい。
2 随意契約見直し計画の実施・進捗状況等に関する評価結果(抜粋)
しかしながら、9法人*6については、1)当該法人の随意契約見直し計画において、平成19年度内に取り組むこととしている事項についての取組状況に関する検証結果が、評価結果において言及されていないとの状況や、2)当該法人における競争性のない随意契約の金額について、19年度実績が18年度実績と比較して増加しているにもかかわらず、この原因等の検証結果が、評価結果において言及されていないとの状況がみられた。
したがって、今後の評価に当たっては、随意契約見直し計画の実施・進捗状況等の検証結果についても評価結果において明らかにするよう留意されたい。


各独立行政法人評価委員会による評価の甘さが厳しく指摘されています。と同時にこれは、指摘された機関に対する「警告」でもあることを忘れてはなりません。

それでは、文部科学省はこれまで、契約の適正化に関し各機関に対しどのような指導を行ってきたのでしょうか。一例をご紹介します。以下は、毎年、各国立大学の財務担当部課長を対象に開催される「国立大学法人等財務管理等に関する協議会」における文科省の調達担当責任者の説明要旨(平成18年度)です。
1 公共調達の適正化に向けた取り組みについて

公共調達については、昨年の公共工事における大規模な入札談合の摘発を契機として、官製談合はもとより天下り先との不透明な随意契約の実態など、公共調達の在り方が国会、マスコミ等で大きく取り上げられている。

政府では、このような状況を踏まえ、「公共調達の適正化に関する関係省庁連絡会議」において「公共調達の適正化に向けた取り組みについて」を決定した。

取り組みの具体的内容は、
  1. 平成17年度において締結した随意契約の緊急点検を実施すること
  2. 本年6月を目途にその点検結果を公表すること
  3. 点検の結果、見直しの余地のあるものについては、直ちに一般競争入札等へ移行すること
  4. 見直しの余地のあるもので一般競争入札等への移行に時間を要するものについては見直し計画を作成し、点検結果と併せて公表すること など

この取り組みは、政府機関について適用されているものであるが、業務の公共性並びに運営の透明性の確保については、国立大学法人等においても同様であることなどから、国立大学法人等の関係法人に対しても、平成18年3月7日付け官房長通知もって同様の取り組みの実施について、要請を行った。

また、別途、総務省行政管理局からは「独立行政法人における随意契約の適正化について」として、各省の官房長に対して、
  1. 随意契約の基準を具体的に規定している業務方法書又は会計規程等をホームページ上で公表すること
  2. 国の基準も参照しつつ、一定額以上の随意契約(理由等を含む。)について、ホームページ上で公表することとし、その旨を業務方法書又は会計規程等に盛り込むこと
の2点について各独立行政法人に対して要請するよう依頼があったところであり、各法人への周知については、各法人所管局課を通じて行っている。

随意契約の在り方等については、社会的に大きくクローズアップされているところであり、各国立大学法人にあっても政府のこのような取り組みの趣旨を十分ご理解のうえ、随意契約の適正化に努めるようお願いしたい。

2 落札率1案件の対応について

競争入札における落札率の問題に関しては、平成14年度の文部科学省の競争入札において、落札率1(予定価格と落札価格が同額)となった案件が他省庁に比べて多発している実態について、国会・マスコミ等において大きく取り上げられた。

平成16年度の調達における落札率1案件の割合は、平成14年度の約28%から約16%へと減少し、若干の改善はみられるものの、他省庁に比して依然として高い状況にある。

通常、非公開である予定価格と供給者の入札価格が一致する案件が多発している事態は、供給者側への予定価格の漏洩や談合の存在等の疑義を惹起しかねず、国民の理解は得られにくい事態と認識される。

各法人においては、引き続き安易に落札率1となる案件が生じないよう最善の御努力をお願いしたい。

(参考)平成14年度落札率が「1」となった競争入札案件の状況について(文部科学省)

1 調査結果(全体概況、落札率が1となる理由、1社入札が多い理由、予定価格の漏洩等の有無)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/07/04072002/002.htm#top


2 改善の方向(落札率1事業への対応、1社入札への対応、新たな契約手法の検討・開発、フォローアップ)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/07/04072002/004.htm#top


*1:「その他随意契約とする特別の理由があるとき」など、随意契約とすることができることについて、包括的にしか定めていない条項

*2:公益法人であることのみを要件として随意契約とするとがきる条項

*3:独立行政法人と人事、資金、取引等、一定の関係を有する法人であり、特定関連会社、関連会社及び関連公益法人等がある。

*4:一般競争入札のうち1者応札となっているものの割合が50%を超えており、かつ、同一の類型に属する法人全体における一般競争入札のうち1者応札となっているものの平均割合を超えていること。

*5:物質・材料研究機構、放射線医学総合研究所、国立美術館、理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、日本原子力研究開発機構

*6:国立科学博物館、日本学生支援機構、国立高等専門学校機構、国立大学財務・経営センター、メディア教育開発センター、放射線医学総合研究所、国立美術館、日本芸術文化振興会、日本原子力研究開発機構