2009年5月7日木曜日

教授会は適正に機能しているか

国立大学が法人化され6年目(第1期中期目標期間の最終年度)を迎えています。
来年度からは、いよいよ第2期の中期目標期間に入ります。
この6年間、各国立大学は、法人化という大きな制度改革による混乱を収拾しつつ、教職員の意識をはじめ根深く残る国家直轄の硬直化した体質からの脱却を図るべく様々な改革を進めてきました。

護送船団方式による大学運営、特色なき金太郎飴大学の乱立と揶揄された6年前と今日の大学を比較してみれば、期待されたスピード感はなかったものの、法人化の趣旨に照らしてみれば、明らかに格段の成長を認めることができるのではないでしょうか。

ただ、責任ある迅速かつ効率的な意志決定システムの構築などいくつかの点については、残念ながら民間企業をはじめ社会一般の感覚からはまだまだ甘受できる状況にはなく、第1期6年間の行動をつぶさに検証し、その上に立脚した第2期の目標・計画を策定している今こそ真摯な対応をしなければ、益々国立大学の存在意義は薄れ不明確となり、国民による信頼を失うことになるでしょう。

今、国立大学は、国の時代の遺産とも言える学部自治をどのように活かし、どのように変えていかなければならないのか真剣に考えなければもはや手遅れになる節目にきています。

本来であれば、6年前の法人制度導入時に教授会のあるべき姿を求め、大学を”運営”から”経営”に移行しておかなければならなかったわけですが、現在の国立大学は、表面的には文部科学省や国立大学法人評価委員会が理想とする状態に近づきつつあるかのように見えるものの、未だ内情は国の時代、もっと言えば50~60年代の民主思想が抵抗勢力となって効率的・効果的な大学経営を阻んでいる実態が一部あることも否定できません。

聞くところによれば、役員会、経営協議会、教育研究評議会を開き審議意決定は行うが、実は、これら法律に定めのある会議(法定会議)に優先する形で、意思決定プロセスの最終審議機関として教授会を位置づけ、法定会議においては、「教授会で特に意見がなかったら当該会議の決定とする」などといった法律の趣旨を全く無視した本末転倒の意思決定を行っているお粗末な大学も残念ながら未だに存在するようです。おそらくこのような大学は、法定会議の議事概要などをいつまでたっても社会に対し公開できないでいるのです。

さて今回は、久々に、学部自治という過去の遺産を、見方によっては大事に守り育てている教授会の在り方について、これまで時折参照させていただいている「国立大学法人法コンメンタール」(国立大学法人法制研究会)(出典:文部科学教育通信)を通じて、考えてみたいと思います。


1 教授会の位置づけについて

学校教育法第93条*1は、ひろく国・公・私立大学について、教授会を必置の機関として規定している。

教授会は、大学の教育研究に関する自主性を保障するために必要な審議機関である。その一方で、教授会が学部を超えた大学運営に関わる事項についてまで審議を行い、ややもすれば、本務である学部の教育研究活動についての審議に支障を来したり、学部を超えた合理的で責任ある大学運営体制の構築を阻んだりといった実態があるとの指摘がなされてきた。

こうした指摘を受け、教授会が適切な機能分担のもとその役割を発揮し、大学運営が円滑に行われるよう、中央教育審議会等において提言がなされてきた。

昭和38年の中央教育審議会答申「大学教育の改善について」においては、「大学の学内管理機関の基本体系としては、全学の総括的な責任者を学長、学部の責任者を学部長とし、評議会は全学の、教授会は学部の重要事項をそれぞれ審議する機関とし、それらの職務権限について学長、学部長との関係を明らかにすべきである」とし、「教授会は、学部における教育研究について管理運営上の重要な機関である。現行の制度においては、その職務権限、構成、設置、学部長との関係等が明確でない」と指摘した上で、教授会の審議事項、構成、設置の在り方を示した。

昭和46年の中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」においても、高等教育機関の管理運営については、「教育・研究の一体的・効率的な活動が妨げられることなく、自主的・自律的に運営できる体制を確立すべきである。そのためには、教務・財務・人事・学生指導などの全学的な重要事項については、学長・副学長を中心とする中枢的な管理機関による計画・調整・評価の機能を重視するように改善を加える必要がある」とし、学長・学部長などの執行機関と評議会・教授会などの合議制の審議機関との機能的な役割分担の徹底を提言した。

さらに、昭和62年の臨時教育審議会第三次答申においては、大学における自主・自律の確立の観点から、国立大学についての言及の中で「大学においては、その自由度を拡大する条件下で、自主・自律的な運営に努めることが重要であり、学長を中心とし、全学に支えられた責任ある執行部の指導性の確立、評議会を場とする大学としての意思決定手続きの合理化、それぞれの担当する専門分野、教育領域について、教育内容、カリキュラム、教育方法、研究の在り方など教学の根本にかかわる事項に取り組む教授会の活性化が切実に求められる」とされたところである。

こうした累次の提言がなされてきたところであるが、教授会についての法令の規定が簡潔であるために、審議事項が多くなりすぎる場合や、本来執行機関が行うべき大学運営に関する事項についても審議がなされる場合があるとの批判は残った。このため、平成10年の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」は、教授会を含む大学内の各機関の関係について、以下のように機能分担と連携協力という関係から整理し提言を行った。

「21世紀の大学像と今後の改革方策について」(大学審議会答申)(抄)

3 責任ある意思決定と実行-組織運営体制の整備-
  • 評議会等と学部教授会のそれぞれの機能については、評議会は、大学としての教育課程編成の基本方針の策定、全学的教育に関する教育課程の編成などを含め、大学運営に関する重要事項について審議する機能を担うこととする。学部教授会は、学部の教育課程の編成などの学部の教育研究に関する重要事項について審議する機能を担うこととする。このように、それぞれの基本的な機能を明確化することが必要である。

  • 学長や学部長(執行機関)と評議会等や学部教授会(審議機関)との関係については、審議機関は学部の教育研究あるいは大学運営の重要事項について基本方針を審議することとする。執行機関は企画立案や調整を行うとともに、重要事項については審議機関の意見を聞きつつ最終的には自らの判断と責任で運営を行うこととする。このように、機能分担と連携協力の関係の基本を明確化することが必要である。(略)なお、各審議機関が必ず審議すべき事項等については、法制度上の明確化を図る方向でその整理について検討することが適当である。

この答申を受け、国立大学が一体的、機能的に運営され質の高い意思決定が行われるよう、責任ある組織運営体制を確立する観点から、平成3年に国立学校設置法が改正され、評議会の設置に関する規定(同法第7条の3)とともに、教授会の所掌事務等に関する規定(同法第7条の4)が置かれ、審議事項が明確化されることとなった。

新たに置かれた同法第7条の4は、第1項において、学部、国立大学院大学の大学院の研究科、独立研究科、教養部、附置研究所に教授会を置くこととし(独立研究科以外の研究科や、国立学校設置法施行規則の規定により置かれる組織で専任の教授を置くものについては、同条第2項の規定により設置は任意とされた)、同条第4項において、教授会は、教育公務員特例法に基づき学部長の採用の選考は教授会の議に基づき行うべきことなどの権限を有するほか、学部又は研究科の教育課程の編成に関する事項、学生の入学、卒業又は課程の修了その他その在籍に関する事項及び学位の授与に関する事項、その他当該教授会を置く組織の教育又は研究に関する重要事項を審議するものと規定していたところである。

こうして、数次の答申を重ね、制度改正を経ることにより、各大学において教授会の役割が明確化され、学内各機関の適切な機能分担と連携協力の下、責任ある大学運営を行う枠組みの整備が進められてきたところである。

なお、こうした国立学校設置法の改正案を含む「学校教育法等の一部を改正する法律案」の国会審議においては、教授会の位置づけや評議会等との関係について、以下(一部略)のように説明されている。
  • 教授会の審議事項としては、学部の教育研究に関する重要事項に該当するかどうかと いう観点からの見直しが場合によっては必要であるというふうに考えておるわけでございます。この点につきましては、従来ややもすれば、学部自治という名のもとに、学問の進歩や社会の変化に対応した改革の推進に支障が生じている、あるいは学部の壁を超えた自由な議論の形成や円滑な合意形成が進んでいない等々の指摘もあるわけでございます。これは一つには、その学部教授会が、本来の学部の教育研究として想定されている枠を超えて余りにも多くの問題について審議をし、本務であるところの教育研究活動についての審議に支障を生じてきたというふうな実態もあるわけでございます。そういった点を踏まえて、今回、改正法におきまして、教授会における審議事項は、学部の教育研究に関する重要事項ということを明確にしたわけでございます。(佐々木正峰 文部省高等教育局長(平成11.5.13参議院文教・科学委員会))

  • 評議会、教授会が大学における意思形成に重要な役割を果たしているということをもって、評議会、教授会を意思決定機関というふうに位置づけることはできないわけでございまして、これらはあくまで審議機関でございます。最終的には学長、学部長がみずからの判断で大学、学部の運営を行っていくものである、こういうふうに考えてございます。(佐々木正峰 文部省高等教育局長(平成11.5.13参議院文教・科学委員会))

2 国立大学法人制度における教授会の扱いについて

国立大学法人制度においては、各国立大学法人の自律的な運営を確保するという観点から、大学内部の組織編制については可能な限り法人の裁量に委ね、法令等で規定しないことを原則としている。したがって、これまで教授会の設置の単位とされてきた学部や研究科の設置については法令上規定を設けないこととしており、教授会についても、どのような教育研究組織の単位にどのような形で置くかについては各国立大学法人の定めに委ねることとし、法令において規定しないこととしたものである。

ただし、いずれにしても、学校教育法第93条の規定に基づき法人化後の国立大学に教授会が置かれることには変わりがない。

教授会の権限については、法人化後の国立大学には教育公務員特例法の適用がなくなるため、同法に基づく権限はなくなるものであるが、学部又は研究科等の教育課程の編制に関する事項、学生の入学、卒業又は課程の修了その他その在籍に関する事項及び学位の授与に関する事項、その他学部又は研究科等の教育研究に関する重要事項を審議する機関であるとの位置付けは、法人化後も変わるものではない。教育研究評議会においては、こうした教授会の役割にも配慮しつつ、大学としての一体的な運営が確保されるよう、全学的な見地から審議を行うこととなる。

各国立大学法人においては、教育研究活動の進展や社会のニーズに機動的に対応した、迅速かつ効率的な意思決定と業務執行が実現されるよう、教授会の審議事項を精選し、教員の管理運営面での負担軽減を図るための取り組みも進められている。例えば愛知教育大学では、教授会の開催を年間19回から7回に削減し、運営の効率化を図っているところである。

なお、国会審議においては、国立大学法人における教授会の役割について、文部科学省は以下(一部略)の通り説明している。
  • それでは、学校教育法上の役割を持っている教授会というのはどういうことになるのかということでございますが、その点につきましては、各学部等の教育研究に関する重要事項を審議する機関であるということについては変わりはないわけでございますが、全学的なことについては(教育研究)評議会がやってくれるわけでございます。したがいまして、審議事項を真に学部などの教育研究に関する重要事項に精選するということが大事だと思っております。それによって、教育研究活動以外の教員の負担、これは非常に大きいわけですね、長い教授会をやったりとさまざまな負担があるわけでございますが、教授会をむしろ教育研究に関する重要事項に絞ってそれぞれの学部の範囲内におけるものをやっていただいて、そしてそういう教員の負担をできるだけ軽くして本来の仕事に専念していただく、そういう関係になるというふうに考えます。(遠山敦子 文部科学大臣(平成15.5.14衆議院文部科学委員会))

*1:1:大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。2:教授会の組織には、准教授その他の職員を加えることができる。