2009年5月26日火曜日

運営費交付金の行方

いよいよ平成22年度予算編成のスタートの幕が切って落とされました。

次年度予算をどう考えるかについては、例年のことながら、この時期、財務大臣の私的諮問機関である財政制度等審議会における議論から始まります。とはいっても、最終的には、財務省による財務省のための偏った考え方の建議を作ることになってしまうのですが・・・。

大学関係予算については、去る5月15日(金曜日)開催の財政制度等審議会財政制度分科会財政構造改革部会で議論されています。会議の内容については、以下の資料(一部)、議事要旨、部会長会見の模様をご覧ください。

資料2 文教・科学技術関係資料(平成21年5月15日財務省主計局)
議事要旨
部会長会見の模様


また、新聞は会議の内容について次のように報じています。

大学への予算配分に成果主義 財務省、研究実績など重視(2009年5月15日付朝日新聞)

財務省は、大学への予算配分の際、学生や教員数などの「規模優先」を改め、学生の学力向上や研究業績などの結果を重視する方向で検討に入った。学生の学力低下や定員割れ大学の急増への危機感から、成果主義の拡大を図る。大学の統廃合などの再編や定員の削減も求める方針だ。

財務相の諮問機関の財政制度等審議会(西室泰三会長)に15日報告した。財政審も基本的に同意し、予算編成の方向を示す「建議」に盛り込まれる見通しだ。

財務省によると、08年度は全国の私立大学の47%で定員割れが起きた。少子化の影響で、98年の8%、03年度の28%から急増している。

また国公立大学を含め、推薦やAO入試が増えたこともあり、大学生の学力低下が指摘されている。35大学で調査したところ、国立大の6%、私立大の20%の学生の英語、国語、数学の基礎学力が中学生レベル以下だったという。

財務省は今後、文部科学省や各大学に、入試のあり方の見直しのほか、大学数や入学定員を少子化に見合う規模に縮小するよう求める。また、大学や学部、研究ごとに厳格な目標を設定し、成果に応じた予算配分を目指す。「基礎的運営費」などすべての大学に交付してきた予算は比率を下げる考えだ。
http://www.asahi.com/national/update/0515/TKY200905150311.html


今後、来年度の予算編成は、財政制度等審議会において財務大臣に対する「建議」が取りまとめられたあと、場面は経済材諮問会議に移ります。ここで、いわゆる「骨太の方針」なるものが策定され、これに基づき「概算要求基準」が閣議決定され、各省庁からの概算要求、財務省による予算査定を経て、例年であれば年末の予算編成において政府原案が作成され国会に送られるといった流れになります。

したがって、ご存知のように、国の予算編成においては、経済財政諮問会議という存在が極めて重要なものとなっており、既に文部科学省は、去る5月19日(火曜日)に開催された経済財政諮問会議において、文部科学省が進める政策の重要性と関連予算の必要性について提案を行うなど、財務省の動きをけん制しています。文部科学省から出された資料は次のようなものです。

説明資料「教育の充実を通じた安心社会の実現について」(塩谷臨時議員提出資料)

説明内容(議事要旨から抜粋)

(塩谷臨時議員)

説明資料「教育の充実を通じた安心社会の実現について」基づいて説明する。

1ページ目であるが、教育は、人生前半の社会保障と社会の活力増進の原動力(将来への先行投資)という2つの役割を持っている。
しかしながら、現在の教育費負担の重さが家計における不安の要素の一つとなっており、次代を担う子ども・若者を育む上での不安の解消に向けた取組みが不可欠になっている。
教育費の国際比較ということでOECDの中での比較を示したグラフがあるが、教育費支出の政府支出の占める割合は28か国中27位である。また、特に最近よく使われるGDPにおける教育支出については28位と最下位となっており、いずれも一番下位に属している。政府全体の支出における教育支出あるいはGDPにおける教育支出は大変低いということである。
教育投資における一人当たりの公財政支出では、特に就学前と高等教育の段階で比較しているが、いずれも大変日本は低い。
また、教育支出に占める公財政支出と私費負担の割合であるが、これも就学前については、OECD諸国では公財政支出が多い一方で日本では少ない。逆に私費負担が日本では多くなっている。高等教育も同じような状況である。

2ページの家計の負担の状況であるが、200万円~400万円未満の収入の世帯においては、教育費が比率として高くなり、55.6%になっている。また、低所得者の教育費負担の比率は高くなっている。大学の授業料については、過去30年で物価指数と比べると大きく上昇しており、消費者物価指数は2倍であるが、国立大学の授業料は15倍、私立大学の授業は4.55倍ということで、授業料が大変上がっている。その分、教育費に負担がかかっている。

次に、格差の固定化への懸念ということで、義務教育段階での就学援助の受給人数が急増している。平成9年が78万人であったのが、平成19年が142万人と約2倍になっている。また、私立高校における授業料滞納状況が更に悪化して、平成19年度末から平成20年12月までの間で滞納者の割合が3倍に増えているというデータもある。さらに、親の収入が多いほど、大学の進学率が高い傾向が出ており、4年制大学においては、1,000万円超の収入の人では62%の進学率となっている。

こうした現状を踏まえて、安心社会実現のためには、公教育の再生とともに、教育投資の充実が必要であり、当面の経済状況への対応として、格差固定の解消に向けた教育費負担の軽減が必要である。現在審議中の平成21年度補正予算については、臨時交付金の活用により幼稚園の就園、義務教育就学の支援の充実。授業料減免等に関する緊急支援。更には奨学金事業の充実。こういった授業料減免や奨学金事業の充実で、幼児教育から高等教育にわたる教育費負担の軽減のための施策を更に充実していく必要があるが、安定財源を確保の上で、国民が実感できる少子化対策としての幼児教育の無償化や高等教育段階での教育費負担の軽減など、教育費の在り方について抜本的な改善を図り、保護者の所得に左右されない教育の機会を保障することが必要であり、文部科学省としても、有識者懇談会をスタートさせて、こういった教育費の中長期的な方向で、大局的な観点で教育費の在り方をまとめてまいりたいと考えている。

今日お話しさせていただいた内容のほかに、教育の充実という観点から考えると、日ごろの教員の定数の問題、あるいは高等教育における基盤的経費の問題等の充実も考えていかなければならないと考えており、トータル的に教育費の抜本的な在り方を検討することが安心社会につながると考えている。


配付資料「教育の充実を通じた安心社会の実現について(参考資料)」(塩谷臨時議員提出資料)


これから、文部科学省と財務省との本格的な闘いに向けた舌戦が繰り広げられることになります。
いよいよ予算夏の陣の始まりですが、毎年のことながら、教育予算に関しては、国民的議論が沸き起こらず、国民不在の役所VS役所の構図で予算編成の議論が進んでいきます。
役所も国民をもっと巻き込んだ論争を展開して欲しいと思いますし、そのためにはマスコミにも積極的に関与してほしいものです。

例えば、次のような論考を。 (消去される可能性があるため、全文掲載します。)

学校で起きていること 週のはじめに考える(2009年5月18日付中日新聞社説)

未曾有の経済危機、雇用不安の一方で、医療や福祉、教育も大変な事態に陥っています。その一つの学校現場で何が起きているか。その実情を報告します。

学校の先生は本当に忙しい。名古屋市の小学校教員岡崎勝さん編著「がっこう百科」によるとこんな具合です。

「授業は仕事全体の3分の1くらい。時間がないから、宿題の丸つけや日記の添削、連絡帳の返事書きなどは給食と並行してやっている人が多い」

さらに「トラブルがらみの生活指導、お知らせ作り、業者への発注、親の心配事相談、テストの作成、校内の施設備品の点検修理、畑仕事、そして会議、会議…」。

言葉の交換なく断絶

近ごろは、何でも会議と報告書だそうです。子どもの顔を見ながらゆとりをもって、話を聞いてやりたい。じっくりと子どもと付き合いたい。それがどんどん難しくなっていると言います。

では、子どもや親たちの現実の姿はどうでしょうか。岡崎さんは雑誌「現代思想」4月号でこう書いています。

まず、子どもたちです。「時間を守る」ことができない子が目立ちます。学校五日制で土日に学校のモードから家庭のモードにシフトしてしまい、学校という制度を維持する重要な「時間を守る」ことに身体も心も変換しないので、月曜日は混乱し、時間厳守の指導が難しくなるといいます。

また、「最近の子どもたちは、言葉を教員と交換できないことがある」。つまり「微妙」「ムリムリ」「別にぃ」「うざい」「キモイ」という言葉は、コミュニケーションや関係をつくろうという言葉ではなく断絶の言葉です。こうなると、子どもと教員との間で対話とか指導は成立しません。

最低レベルの教育予算

次に親です。学校から見るかぎり、多くの親は「モンスターペアレント」というようなメディアでつくられたイメージからは遠いそうです。おおかたの親はなんとか親として成立しているし、親としての努力も欠かしてはいません。

こんな例もあります。他人の家へ行って「冷蔵庫を勝手に開けてはいけないのだ」と教室で話したときに、「どうしてですか」と子どもに聞かれ、「そうなんだぁ」と親に言われたそうです。

こういう価値観の多様化に翻弄(ほんろう)され、自明だった行動規範や社会性が、危うくなっていることが今の学校教育を脅かしているのだ、と岡崎さんは指摘します。付け加えて、学校のなすべき教育サービスは子どもに社会性を持たせ、集団生活を送るだけの力と技を身につけさせる教育的営みとしてのサービスなのだと強調します。

ここで思い出すのが、2007年1月の教育再生会議「第一次報告」の7つの提言です。

(1)ゆとり教育を見直し、学力を向上する(2)学校を再生し、安心して学べる規律ある教室にする(3)すべての子どもに規範意識を教え、社会人としての基本を徹底する(4)あらゆる手だてを総動員し、魅力的で尊敬できる先生を育てる(5)保護者や地域の信頼に真に応える学校にする(6)教育委員会の在り方そのものを抜本的に問い直す(7)社会総がかりで子どもの教育にあたる

しかし、この提言への手だては尽くされたでしょうか。問題は教育費です。日本の教育費の出費は経済協力開発機構(OECD)諸国の中で国内総生産(GDP)比で最低レベルです。聖域なき構造改革ということで教育費が徹底して削減されました。その代わり、親の教育費の負担は世界でもトップレベルです。

佐藤学東大教授(教育学)によると、戦後すぐの時期、日本が経済的に疲弊していたときの、日本の教育費の国民総生産(GNP)比は世界一だったといいます。この世界一は1960年代まで続いたそうです。

「どのような政治的立場であれ、日本の社会と文化、経済の復興のためには教育が何よりも大事で、無理をしてでも教育に投資しようという意志が、戦後のある時期までの国民のコンセンサスでした」と教授は述べます。これが世界第2位の経済大国になって崩壊し、子どもの貧困に直面しているのが今日の実態だといいます。

21世紀の社会には4つの教育課題があるそうです。一つは知識基盤社会、二つ目は多文化共生社会、三つ目は格差やリスクの社会への対応、四つ目はシチズンシップです。こう指摘した佐藤教授は次のように続けます。

未来のための教育投資

「昔の人は志が高かった。いかに社会が混乱して貧困であれ、未来のために教育に投資するのだという志を持っていた」。混迷する今こそその志を取り戻すときではありませんか。

http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2009051802000042.html




さて、最後に、現在文部科学省が公表している「第2期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の配分ルール(案)」をご紹介しておきます。

1 基本方針

人件費・物件費の区分のない「渡し切り」の交付金とする等の第1期の国立大学法人運営費交付金の基本的性格は、第2期においても継続する。ただし、国立大学法人を巡る諸状況を勘案し、具体的配分ルールについては見直しを行う。

2 主な見直しの内容

(1)特別経費

従来の特別教育研究経費を廃止し、「特別経費」を新設する。「特別経費」は、1)評価反映分、2)プロジェクト分、3)大学改革共通課題分、4)基盤的設備等整備分、5)全国共同利用・共同実施分の5区分とする。

1)評価反映分
  • 第1期中期目標期間における各大学の努力と成果を踏まえ交付する経費。「評価反映分」の使途は特定しない。

  • 「評価反映分」は、国立大学法人評価委員会が行う法人ごとの達成度評価の結果及び独立行政法人大学評価・学位授与機構が行う学部・研究科等ごとの水準評価の結果に基づき、当該組織の規模や学問分野等に従い、一定の調整を行った上で交付。

  • 評価結果を踏まえ、具体的な反映方法についてはさらに検討。
2)プロジェクト分
  • 各法人における各種プロジェクトを支援する経費。各法人からの申請に基づき、外部有識者による審査を経て選定。
3)大学改革共通課題分
  • 第1期の特別教育研究経費における「特別支援事業」と同様、各種の大学改革上の共通課題に対応するための取組に対し、機動的な支援を行う経費。(想定される大学改革共通課題の例:留学生受入の推進、障害学生学習支援の充実、臨床研修体制の充実等附属病院の機能強化、業務運営の改善(大学の再編統合、事務機構の改編、FD・SDの実施、大学の管理運営基盤の充実強化等)など)
4)基盤的設備等整備分
  • 第1期の特別教育研究経費における「基盤的設備等整備」と同様、各法人が策定している設備マスタープランに基づく基盤的設備の計画的整備等を支援する経費。
5)全国共同利用・共同実施分
  • 文部科学大臣が認定する共同利用・共同研究拠点等(現在、中央教育審議会大学分科会で検討されている「教育分野における共同利用拠点」(仮称)を含む予定。)における各種プロジェクト等を支援する経費。各法人からの申請に基づき、外部有識者による審査を経て選定。
(2)一般経費
  1. 第1期における「教育研究経費相当分」を改称し「一般経費」とし、第2期中期目標・中期計画に定める大学の教育研究組織を運営し、当該中期目標・中期計画に定める業務を確実に実施できるよう、必要な経費を措置。

  2. 「一般経費」のうち設置基準上必要とされる専任教員の給与費相当額等を除く部分を対象として、「効率化係数」による毎年度一定の交付金額削減を継続。その中で、「効率化係数」については、一律に設定した上で、各法人の規模(事業費)や人件費比率等により補正。併せて、従来、学部・学科、大学院研究科・専攻についてのみ、入学定員を措置する際に「教育研究組織係数」を適用してきたが、今後、組織改革を促進するため、これを入学定員を伴わない教育・研究その他を担う研究所やセンター等にも適用。
(3)附属病院
  1. 第1期同様、運営費交付金の算定上、附属病院に係る経費を「教育研究」と「一般診療」に区分し、「教育研究」に係る経費には運営費交付金を交付する一方、「一般診療」に係る経費(一般診療経費及び債務償還経費)は原則として附属病院収入で対応。

  2. 債務償還に必要な経費の一部に相当する額を新たに運営費交付金で措置。

  3. 上記措置を行った上でさらに「一般診療」に係る経費が附属病院収入等で対応できない場合は、「附属病院運営費交付金」を措置。ただし、同交付金は、経営改善のための一定の削減を実施。


第2期中期目標期間における特別経費(プロジェクト分)について(案)

第2期の国立大学法人運営費交付金における各法人の個性や特色に応じたプロジェクト等を支援するための経費は、第1期の特別教育研究経費におけるプロジェクトを支援するための経費(「教育改革」、「研究推進」、「連携融合事業」により構成)を再編し、特別経費の「プロジェクト分」とする。

1 目的

各法人の個性や特色に応じた意欲的な取組を支援するための経費。第1期における特別教育研究経費の仕組みを基本的に踏襲しつつ、大学の機能別分化の促進を図るための仕組みを導入。

2 採択手順等

(1)各法人は、中期目標・中期計画との整合性に留意しつつ、下記6項目のうちから最大4項目選択。

(項目)
  1. 国際的に卓越した教育研究拠点機能の充実
  2. 高度な専門職業人の養成や専門教育機能の充実
  3. 幅広い職業人の養成や教養教育機能の充実
  4. 大学の特性を生かした多様な学術研究機能の充実
  5. 産学連携機能の充実
  6. 地域貢献機能の充実
(2)各法人は選択した項目の趣旨を達成するため、各法人の個性や特色を活かした教育研究のプロジェクトを申請。
  1. 選択した項目は第2期中は変更できない。ただし、平成22年度分の申請時においては、中期目標・中期計画が確定していないことも勘案し、平成23年度分の申請時において、理由を付して項目の変更を行い得ることとする。
  2. 同一項目内での申請件数には制限は設けない。
  3. 複数の項目にまたがるプロジェクトについては、内容に応じいずれか1つの項目に整理。
  4. 第1期の「教育改革」、「研究推進」、「連携融合事業」における取扱と同様、各法人は申請の際に各プロジェクトに全てのプロジェクトを通じた優先順位を付す。
  5. 第1期の「教育改革」、「研究推進」、「連携融合事業」における取扱と同様、複数年度にわたるプロジェクトの申請も可能。(この場合、各年度における当該プロジェクトの進捗状況等を踏まえた上で「プロジェクト分」の措置の有無を決定。)
  6. 第1期の特別教育研究経費におけるプロジェクトを支援するための経費のうち、第1期から引き続き第2期においても継続を希望するプロジェクトについては、平成22年度概算要求において上記の6項目のいずれかに分類した上で改めて申請。この場合、平成23年度までは、最大4項目とする項目数の制限は適用しないこととする。
(3)プロジェクトの採択は、第1期の「教育改革」、「研究推進」、「連携融合事業」における取扱と同様、客観性を確保する観点から、各法人からの申請に基づき、外部有識者で構成する検討会に諮った上で可否を決定。