2009年5月17日日曜日

大学評価の功罪やいかに

国立大学では現在、来年4月から始まる第2期中期目標・中期計画の策定作業に余念がありません。多くの大学では、この時期、原案作成と意見収集が概ね終了し、今後6月末の文部科学省への提出期限までの残された短時間に、いつもながらの屋上屋を重ねる意志決定プロセスに無駄な時間と労力を費消することになるものと思われます(少々嫌味発言でした。)。

次期目標・計画の策定に当たっては、各大学とも随分早い時期から準備が進められてきました。文部科学省から示された様式や策定上の留意事項、最近の主要な答申や国策、各大学の基本理念や中・長期目標などを踏まえた上で鋭意検討が続けられてきたのではないかと思います。幸い第1期に比べればボリューム的に随分スリム化されたことにより、記載すべき内容も各大学の特色や機能別分化を強調する内容に厳選されることになりました。

さて、目標・計画作成上の重要なポイントの一つが、第1期中の達成度の検証ではないでしょうか。各大学が自ら設定した公約が第1期において適切に達成されているか、残された課題は何か、次期ではそれをどのように位置付け、どのように解決していくのかなどについて十分吟味した上で、新たな目標設定を行い具体的な行動計画を明確にする必要があります。

また、PDCAサイクルを中心としたマネジメントを行っていく中で重要なことの一つに、改善を行うべき根拠となる「評価の適正化」が挙げられるのではないかと思います。先般、法人化後初めての中期目標期間中(厳密には平成16~19年度)の評価が行われ、結果が公表されたところですが、各大学ともこの初めての試みに当初はややナーバスになっていましたが、蓋を開けてみると、大学の存続に関わるような厳しい内容もほとんど見受けられず、安堵した大学も少なくなかったのではないでしょうか。

法人評価は相対評価ではなく、各大学が設定した目標・計画に対する達成度評価であり、我が国で初めての国立大学を対象とした評価としては概ね及第ではなかったかと個人的には楽観的に考えているところです。

しかし、評価の仕組みや評価結果の活用に関しては、様々な見方があるようです。

まずは、最近、国立大学協会が全国の国立大学を対象に行ったアンケート調査では、「年度評価及び中期目標期間評価の実施において良かった点」としては以下のようなコメントが寄せられています。(対象数は83法人)
  • 計画を策定・実施し、評価を受け、改善に結びつけるという考え方が浸透した。(78法人)
  • 学内の構成員に大学の方向性の意識が深まった。(44法人)
  • 学長をはじめ執行部を中心とした大学運営の意識やリーダーシップが高まった。(70法人)
  • 社会や地域に対して大学の活動を発信あるいは説明する責任の意識が高まった。(57法人)
  • その他
    • 大学全体の業務に関する実績情報が一元化できた。
    • 「経営」という観点と意識が定着する傾向を強めた。
    • 本学の存在意義や使命、特色について再認識することができた。
    • あらかじめ自己評価することにより、自助努力とその結果を事前に認識し、機構による外部標準評価によって、統一的な評価が得られたことは大学の大きな前進となる。
    • 研究科の目的を再認識し、進捗状況を評価できる機会が得られた。
    • 各研究者が自分の論文に対する学会等における対外的な評価を意識する機会となった。
次に、上記とは対象的な見方をしているのが、財務省です。関連記事を以下にご紹介します。
国立大学法人を含めた独立行政法人の評価を担当する総務省が見解を述べることは当然のこととして、法人評価に関しておおよそ権限のない財務省が物を言うのはいかがなものかと思いますが、この時期、財政制度等審議会を使って物を言うのは、やはりこれからの予算編成という闘いに向けた先制パンチといった意味合いがあるのでしょうか。財務省の戦略が見え隠れします。

財政制度審:国立大学法人評価「客観性に欠ける」(2009年5月15日付毎日新聞)

財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は15日の会合で、国立大学法人の中期目標の実績評価について、「客観性に欠ける」として見直しを求めることで一致した。
04年度に法人化された国立大学は、04~09年度(第1期)の中期目標の実績評価を、10~15年度(第2期)の運営費交付金の算定に反映させることになっている。
しかし、04~07年度評価では、4段階中最も低い「期待される水準を下回る」と見なされた大学は「教育水準」では全体の約2%、「研究水準」ではわずか1%だった。財務省は「もっとメリハリのある評価をすべきだ」と指摘している。
http://mainichi.jp/select/biz/news/20090516k0000m020109000c.html


最後に、実際に評価を受けた国立大学の学長のご意見をご紹介します。
この意見は、国立大学財務・経営センターのメルマガに掲載されてあったものですが、内容は一貫して辛口です。成熟した評価システムの構築を願っての熱い想いが感じられます。

大学評価の共進化(国立大学法人岡山大学長 千葉喬三)

国立大学法人評価委員会による、平成16年度から平成19年度の4年間にかかる「国立大学法人及び大学共同利用機関法人の中期目標期間の業務実績評価」が発表されました。これは、国立大学法人法第35条により準用される独立行政法人通則法第34条に基づき実施されたものです。

国立大学法人・大学共同利用機関法人は、他に「認証評価機関による認証評価」、「年度別業務実績評価」がそれぞれ課せられていますが、この度の中期目標期間業務実績評価は「中期目標に係る業務の実績に関する評価の基本をなすもの」(国立大学法人評価委員会)であり、結果は、「組織・業務全般の見直しや次期中期目標・中期計画の検討に資するためであり、次期中期目標期間における運営費交付金の算定にも反映させるし、広く社会にも公表する」(同)とされています。

この評価を受けて、被評価者として、また評価制度そのものについても考えさせられる点がありました。・・・
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/B12201000109.1659783.2680.1