2009年9月14日月曜日

人事院勧告と法人化

国立大学法人の運営には1兆円を超える多額の税金が投入されています。このうち、教職員の人件費は概ね6割~8割。大学の収入予算の構造によって違いますが、基本的に国立大学法人に雇用されている人たちの給与は税金によって賄われていると言えます。退職手当も同様です。

また、国立大学法人の教職員の給与体系は、国家公務員に準じて各法人で定めることになっています。さらに、いわゆる国家公務員の「総人件費改革」(簡単に言えば人件費削減計画)に連動する形で、毎年、平成17年度人件費予算比▲1%ずつの削減が求められ、確か平成23年度まで続けられることになっていると思います。

今週発足する民主党政権においても、総選挙のマニフェストにもあるように、更なる国家公務員の人件費や人員削減の深堀りが予定されているところです。

このような状況の中、今年の人事院勧告は、官民較差を是正する観点から、国家公務員の給与水準の引き下げを勧告し、近々給与法の改正が行われる見通しです。国立大学法人ではこれまで、基本的にはこの国家公務員を対象とした人事院勧告をそのまま受け入れ、教職員の給与水準を決定・実施してきました。

法人化によって否応なしに国家公務員の身分を剥奪され、非公務員(単なる法人職員)となっただけでなく、経営努力によって各法人が自ら独自の人事・給与制度を構築することが可能になるという、法人化本来の制度設計は画餅に化し、法人化後6年経過した今でも、国家公務員に準じた人事制度(つまり、文部科学省の縛りによる硬直化したお役所原理)が脈々と生き続けています。

納税者たる国民の常識に反する給与水準を設定することは言語道断ですが、少なくとも今は、教育・研究の高度化、法人経営の徹底した効率化など、各法人の経営努力を適正に評価し、教職員の努力に対するインセンティブを付与することにより国立大学法人の使命・役割の更なる向上に結びつけていくという民間的手法を取り入れることが極めて困難な状況にあります。これでは、教職員のモチベーションは低下する一方ですし、そもそも何のための法人化だったのかわからなくなってしまいます。

このたびの人事院勧告の考え方、つまり、国民が経済不況で苦しんでいる時に、税金を財源とした公務員の給与を引き下げ官民較差の是正を図ることは至極当然のことだと納得できるのですが、かといって全ての国立大学法人が一律平等の国の時代の慣習をいつまでも引きずっていていいのかということについては少々疑問があります。

自主的・自律的経営を求められている国立大学法人は、もっと主体的に自らの業績に基づいた給与水準を考えること、もちろんこれは、給与を引き上げることだけではなく、例えば、志願倍率が低下した、入学者を予定どおり確保することができなかった、休学者・退学者を止めることができなかった、など、検定料・入学料・授業料といった学生納付金の減収を招いた経営責任を教職員の給与に転嫁し引き下げるといったことも含めて真剣に考えていく必要があるのではないかと思います。(学校法人・私立大学では当たり前のことかもしれませんが・・・)

また、国立大学法人を管理・監督する立場にある国は、改めて法人化の趣旨は何かという原点に立ち返り、各法人の説明責任をさらに厳格に求め、その結果としての給与体系が各法人において自主的に構築されるとともに、法人間の競争的環境を醸成していくこと、更なる切磋琢磨が各法人の教育研究の質の向上を促していくといった政策を強力に推し進めていく必要があるのではないかと思います。

加えて、文部科学省は、各法人が人事院勧告に対してどのような対応をしたのか、各法人から収集したデータを全国民の前に公開すべきだと思います。国立大学法人の人件費の出資者たる国民の当然の権利だと思いますので。

以上、理想でしょうか・・・。