2009年10月21日水曜日

政権交代と大学

民主党政権が誕生したことに伴い、これまで自公政権によって作られ維持されてきたいくつかの教育制度が大きく変わろうとしています。

高等教育に関しては、今年4月に始まったばかりの教員免許更新制の廃止や、教員免許を与えている養成課程を4年制から大学院を含めた6年制に改めるなどです。学校現場や大学の戸惑いは隠せませんが、いずれにせよ、複眼的思考で慎重に検討していただきたいと思います。

さて、このたびの政権交代と大学との関わりについては、既に様々な立場の有識者が発言をされているところですが、今回は、山本眞一さん(広島大学高等教育研究開発センター長)が書かれた論考を抜粋してご紹介します。

政権交代と大学-総選挙の結果を受けて

優先課題にしたい高等教育

民主党のマニフェストを見れば分かるように、社会・経済の各般にわたり、これまでの政策を改め新しい方向を目指そうという動きは明らかである。「官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ」、「各省の縦割りの省益から、官邸主導の国益へ」などこれまでの官僚主導の政策立案を見直す姿勢が明らかであり、これと既存の政策そのものの再評価が相まって、これまで「族議員」を楯として、ある意味では思いのままに政策を取り仕切ってきた各省庁の官僚諸君は、大いに慌てていることであろう。

もっとも大学にとって望ましい変化の方向、例えば国立大学の運営費交付金の水準回復や奨学金制度の充実などは、財源の問題さえ解決できるならば大歓迎である。ただし、言うは易しく行うは難しであって、結局はどの分野のどの政策に高い優先度がつけられるかということではないだろうか。私は、年金・医療、公共事業、高速道路料金、農業・産業政策、外交など、人々の大きな関心を引く諸問題の陰に隠れて、高等教育問題の優先度がどの程度考慮されるものか、若干の危惧を抱いている。いずれにせよ、大学は目下、国際水準からみて少ない公費負担の中で、不十分なインフラにもかかわらず過度の競争を強いられてきていることは間違いなく、高度な学術研究や多様な人材養成など社会の期待に応えることができるための基盤作りに、新政権が関心を持ってくれることを祈っている。

政治・政策は与件ではなく

今回の選挙結果を通じて大学が学ぶべきことは非常に大きいと思う。それは大学関係者を含む教育界の人間がこれまで前提としてきた政治の枠組みの根底さえも、人々の投票行動いかんによって変えられるということが現実になったということである。つまりわれわれ大学関係者にとって、政治や政策は与件ではなく、われわれもその決定過程に積極的に参画することによって変えていくことができるかもしれないということである。これは投票権を持つ個人のレベルの問題だけではない。大学や大学団体も、大学をより良いものにするには、与えられた土俵の枠内での競争に明け暮れるだけではなく、より根本的な解を求めて積極的に動くことも重要だということを理解すべきであり、このことはそれぞれの大学の経営戦略や高等教育政策のあり方にも一石を投ずるものであろう。今後はさまざまな新たなチャンネルを通して、われわれは大学の存在意義や社会的役割を政策決定者に伝え、また自らの改革努力を世論に訴えていかなければならない。

21世紀型市民を養成する

大学にとってより重要なことは、人材養成機能を通じて、政・官・学・民など社会の各般に、等しく優秀な人材を送り込むことだと私は思う。それぞれのセクターが対等な立場で切磋琢磨することが、わが国の社会を活性化させ、政治・政策をより健全なものにする。それには、それぞれのセクターが志の高い優秀な人材を確保しなければならない。人材養成に関して、昨年12月に出た中教審学士課程答申は重要な指摘を行っている。それは「国境を越えた多様で複雑な課題に直面する現代社会にあって、大学として、自立した21世紀型市民を幅広く育成することは、個人の幸福と社会全体の発展それぞれの観点で極めて重要であり、公共的使命と言える。」(第1章第1節)としていることである。この「自立した人材」こそ、これからの大学でしっかりと養成すべきものであり、いくら大学教育が大衆化したといっても、そこで養成される人材が「物言わぬ大衆」でよいはずはない。(出典:文部科学教育通信 No228 2009.9.28)