2009年10月2日金曜日

脱官僚依存のしわ寄せ

自民党が残した多くの困難な課題を抱えつつ、選挙で掲げた政権公約を確実に実行するという強い意志を国民に明示しながら政策を進めていく民主党政権の姿は、これまでの派閥・官僚主導の政治に辟易していた国民のみなさんには、すこぶる好意的に受け止められ、今後の政策運営に大きな期待が寄せられているのではないかと思います。

政治家が様々な場面で官僚に依存してきたこれまでの悪しき体質や風土からの脱却をスローガンに、大臣・副大臣・政務官の3役を中心とした政治主導の意志決定が各省庁で着実に進められようとしていることも、政治(家)のあるべき姿を考えれば当然のこととはいえ、これまでが異常であったこともあり、この大転換を歓迎する方々は決して少なくないのではないでしょうか。

ただ、いくら政権交代したからといって、少々やり過ぎではないかと感じることも全くないわけではありません。その一つが、いわゆる”公務員への言論統制”です。

民主党は、政治家が責任をもって国政に当たり、主権者たる国民へ政策動向等について政治家自らが説明を行うことを重視する立場から、従来行われていた各省庁の事務方のトップである事務次官による記者会見を原則廃止しました。今後は、大臣や副大臣が政策の詳細に亘る説明を記者会見等を通じて発信していくことになります。

これまで、さほど政策というものに精通していない、勉強していない、あるいはその気のない大臣などは、記者の面倒を事務方に丸投げしていたようなところもありましたが、これからはそうもいかなくなりましたので、これから大臣さん達には、官僚が書いた原稿を読むなどといった恥ずかしいことは止めて、自分の頭でしっかり勉強し、自分の言葉で国民に説明していただく必要があります。

事務次官の記者会見が廃止されたことは、今後具体的な政策関連情報が国民に提供されなくなるのではないかといった懸念も一部報じられており、今後の運用には少々工夫が必要になりそうです。

さらに、ここで課題として取り上げなければならないことがもう一つあります。どちらかと言えばこちらの方が大きな問題のような気がします。

民主党は、官僚依存からの脱却、そして政治(家)主導による政権運営を目指し、事務次官が国民の前で発言することを禁じましたが、それに加えて、各省庁の局長、課長といった幹部職員が国民や関係者に対して政策に関する説明やコメントをすることも禁じました。

今月、二度ほど、東京で開催された国立大学関係者を対象としたセミナーや説明会に出席する機会がありました。あるセミナーでは、当初、冒頭に文部科学省の高等教育局長の講演が予定されていたのですが、国立大学関係者といえども、官僚が国民に対して政策について語ってはならないという命令が出されているため、予定されていた”政策動向に関する講演”ではなく、”中央教育審議会における審議状況の説明”に急遽内容が変更されてしまったのです。

また、国立大学の経営に当たる役員や幹部事務職員を集めた説明会においても、開催の主目的が、文部科学省関係の来年度予算の概算要求内容の説明であったにもかかわらず、前政権下において作成された概算要求は全面的に見直される可能性が高いとして、詳細な内容はほどんど説明が省略されてしまいました。出席者にしてみれば、わざわざ貴重な時間と旅費を使って参加した意味がなくなってしまい、空洞化した説明会に少々がっかりした次第です。

このように、今、霞ヶ関界隈では、首をちじめた官僚が、民主党政権の動向を横目で見ながら手探りで小出し的行政を進めているといった状態が続いているような気がします。先行き不透明な政権交代後の政策運営がどういう方向に進んでいくのか、政治家と官僚の健全な役割分担がどのように構築されていくのか、私達国民はしっかり注視していかなければなりません。


(関連記事)

会見制限に「官」困惑 「大臣の指示を待つ」(2009年9月17日 朝日新聞)

「新政権が目指す政治主導という考えに立っている」。鳩山内閣が官僚による記者会見を行わないと申し合わせた問題で、16日夜、記者会見に臨んだ平野博文官房長官は繰り返し強調した。「決して言論統制という考え方に立っていない」 しかし、内閣府がこの日各省庁の広報担当を集めた説明会の出席者によると、内閣府の広報から規制対象となる事例が幅広く示された。「記者にすべてノーコメントで通せというのか」。出席者から疑問の声が上がったという。国土交通省が内閣官房の指示を受けて作成した内部への説明文書は「局長や課長によるブリーフィング(記者説明)、記者懇(談)、勉強会なども(取材対応禁止の)対象となる」と記述。取材への対応についても「政策の見解を述べるものは対象になると考えた方がよい」とし、平野氏の説明と受け止め方に食い違いが生じていた。 同省幹部は「どこまでが取材応対可能な『事実の説明』で、どこからが対応不可の『見解』になるのか不明確。具体的なガイドラインを作ってほしい」と話す。総務省中堅幹部は「そういう政権を(国民の)みなさんが選んだ」と、皮肉を込めて言った。環境省のある職員も「しばらくは役所の口が重くなるでしょうね」と漏らした。・・・
http://www.asahi.com/national/update/0917/OSK200909160122.html


官僚会見禁止 政治主導をはき違えてないか(2009年9月18日 読売新聞)

鳩山新内閣が、閣僚懇談会で「府省の見解を表明する記者会見は、大臣等の『政』が行い、事務次官等の定例記者会見は行わない」ことを申し合わせ、各府省に通達した。官僚トップの事務次官など、府省幹部の公式記者会見は、担当行政にかかわる専門的なテーマについて、見解をただす貴重な機会になっている。鳩山内閣が「官僚依存」の政治を「政治主導」へと転換させていくことに異論はない。しかし、その名のもと、報道機関の取材の機会を制限し、国民の「知る権利」を奪うのであれば、容認できない。官僚会見の禁止に再考を求めたい。・・・
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090917-OYT1T01253.htm