2010年1月4日月曜日

大学間連携FD・SD

大学でFDやSDを進めて行こうとする時に、まずぶち当たる障壁が、大学としての組織的取り組みに発展させることの困難さだと聞いたことがあります。

総論賛成各論反対の実質的抵抗勢力が、FD・SDの取り組みを無力化しようとする、その結果、いつまでたっても教員・職員の職能開発への方向性が定まらないし、引いては、教育や学生の質の低下を招くことになり、各種評価では散々な目にあうといった経験は、真摯な教職員であれば経験されていることではないでしょうか。

FD・SDをくじけずに続けていくために「大学間連携」によって推進していく方法があります。中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」(平成20年12月24日)においても、教職員の職能開発に関する「大学間の協働」の必要性が次のように指摘されています。


現状と課題

個々の教職員の力量の向上を図るとともに、教員全体の組織的な教育力の向上、教員と職員との協働関係の確立などを含め、総合的な教職員の職能開発が大切になっている。

ユニバーサル段階において多様な学生が入学し、教学経営の在り方及びそれを担う教職員の在り方も大きな変化を迫られることになる中、その改革に向けた組織的な取組は急務である。

しかしながら、上記のような教職員の職能開発に関する課題を乗り越え、実効ある取組を進めていくには、個々の大学の努力に期待するのみでは限界がある。

教員や大学職員の職能開発の取組が活発な海外の事例を見ると、拠点的組織やネットワーク、学会や職能団体など、個別大学の枠を超えた支援の体制や基盤が発達していることが伺える。

改革の方向

こうした海外の事例も参照しながら、大学間の協同の体制づくりに向け、関係者が主体的な努力を払うとともに、国としても、大学教育を振興する基盤整備の一環として、適切に関与していくことが必要である。

その際、国立大学等の大学教育センター等における取組が各地域で進展しつつある中で、教員や大学職員の職能開発プログラムの開発・実施や、センターの共同運営など、大学間連携や支援に関する組織的な役割や貢献を果たし、ネットワークを広げていくことを期待したい。


現実に、この中教審が提言したFD・SDの大学間連携が各地で積極的に進められています。ちなみに、昨年末、京都FD開発推進センターというところが主催した2009年度第2回FDセミナー「大学間連携を活かしたFD・SD-より実質的な改善・開発を目指して-」に参加してきましたので、概略ご紹介します。

このセミナーは、2009年12月13日(日)14:00-17:00に、大谷大学講堂(京都市北区小山上総町)で開催されました。主催者によれば、参加者は約260名(うち、教員、事務職員半々)だったようです。

主催は、京都FD開発推進センターで、このセンターは、2008年度、より実効性の高いFDプログラムの構築を目指して京都地域の18大学・短期大学が連携協定を結び、文部科学省に採択された「戦略的大学連携支援事業」を組織的に推進するために設置された組織で、京都地域の教育力を長期的に支援していくことを使命としています。

セミナーは、「FDネットワークつばさ」の中心的役割を担う山形大学高等教育研究企画センターの教員、事務職員のそれぞれから報告が行われる形で進められました。


大学間連携を活かしたFD -義と愛のある協働的大学づくりを目指して-

講師 杉原真晃(山形大学高等教育研究企画センター准教授)

○大学間連携によるFDの必要性は、
  1. 知的、物的、人的、財政的リソースの効率的利用
  2. 他校との交流による自校の特色の発見、多様化
○山形大学が挑戦する大学間連携を活かしたFDは、
  1. FDネットワーク“つばさ”
  2. 4大学の連携によるビデオ版授業改善ティップス集「あっとおどろく大学授業NG集」
○大学間連携を活かしたFDネットワーク”つばさ”

(理 念)
  1. 実践的FD
  2. 持続的発展

(活 動)
  1. 授業改善アンケート
  2. 公開授業と検討会
  3. FD合宿セミナー
  4. FDワークショップ
  5. 授業支援クリニック(個別支援型FD)
  6. ベストティーチャー賞・新人賞
  7. 学生FD会議(学生モニター制度)
  8. FDシンポジウム
  9. FD合同研修会 など

○大学間連携を活かしたFD:ビデオ版授業改善ティップス集は、
  • 山形大学、静岡大学、東京工芸大学、北星学園大学の教員が協働して作成
  • 各大学での事例・学生の声をもとに一般化した12本の「NG集」

    1. ダメ教師かな?
    2. 学生を見下す
    3. 身内自慢
    4. 放任教授
    5. 後部座席満席です
    6. 重ね書き
    7. 僕たちに怒っても・・・
    8. 一方通行
    9. えこひいき
    10. 情報の嵐
    11. 教師の時間
    12. 黙る人

○NG集の特徴としては、
  1. 特に初任者を対象
  2. 良い授業ではなく問題のある授業→質の保証、共通性、抵抗感の軽減
  3. エンターテイメント
  4. 短時間→わかりやすさ、楽しさ、見る側の負担の軽減
  5. 学生の意見、教員の教育経験から抽出した授業改善のポイント→実践性の向上
  6. FDネットワークの産物→複雑・多様な事例、アイディアの検討による汎用性、共通性、多様性の確保
  7. 話題の提供による情報交換の場の形成→同僚性、FDコミュニティ
  8. FD講演会やワークショップ等でのツール→自己研鑽、相互研鑽等、多様な活用方法

○NG集の反響としては、
  1. 学内外での視聴
  2. 新聞掲載、テレビ放映
  3. 山形大学高等教育研究企画センターホームページにおいて視聴が可能(順次、動画をアップ)

○NG集の成果としては、
  1. わかりやすくインパクトがある→負担感、抵抗感が低い、記憶に残る
  2. 見やすく、楽しく授業について考える→和やかな雰囲気、積極性・主体性
  3. ビデオを基に自分の授業を振り返る。教員同士のコミュニケーションが促進される。(授業改善の工夫、学校や学生の事情、授業に関する自らの考え等)→授業・教育システムの省察と改善、同僚性の構築、コミュニケーションの促進、FDコミュニティの形成

○山形大学の「大学間連携FD」
  1. 公開・透明化・共有化による情報交換、相互研鑽→利用可能なリソース、参加可能なプログラムの選択による負担の軽減、安心感
  2. 欠点の補充とは異なる発見、創造型プログラム→発見や創造の成果を見える形にすることによる負担感の軽減、喜び・達成感
  3. 希望ある未来に向けた持続可能なFD、大学間連携FD=Future Dream

大学間連携を活かしたSD -大学の垣根を越えた職員の相互理解を目指して-


講師 川田正之(山形大学高等教育研究企画センター/エリアキャンパスもがみ事務局職員)

○山形大学が行ってきたSDの歴史の紹介
  • 第1回 山形大学創出プロジェクト

    • 平成15年2月、前学長と小田教授との間で「山形大学発の新しいことを大学全体の取り組みとして進めていこうとするとき、従来の方式だけでは対応できない。新しいプロジェクトを考えよう。」と、合宿形式のSD研修を実施 

  • 第2回 山形大学活性化プロジェクト

  • 第3回 SUCCES

    • 目的:職員の企画・立案・調査・交渉・プレゼンテーション能力の開発
    • 内容:職員が地域社会(県内市町村)に飛び出し、具体的なプロジェクトを創出する。

  • 第4回 「あっとおどろく大学事務改善」執筆・編集・刊行

    • 目的:事務職員のこれまでの仕事の評価・点検・日々の仕事の見つめ直しや改善
    • 内容:大学事務改善本の執筆、編集、刊行

○大学間連携のSD研修会の開催(2009年5月実施)

(経 緯)
  • 教育改善を推進する事務職員の研修の必要性(つばさFD協議会)
  • 山形大学は、FDで先行。合宿セミナーやつばさ事業において、自然な形で外の大学と連携し、大学間で連携することの重要性を体感
  • 中教審答申(平成20年12月24日)-学士課程教育の構築に向けて-
  • これまで山形大学で実施してきたSD研修の成果
  • 「あっとおどろく大学授業NG集」の反響
(特 徴)
  • つばさ加盟校をはじめとする全国の国公私立の大学・短大・高専から参加(40名)
  • 多様な職種・職階・年齢(人事担当者、上司の推薦、若手職員から部長まで)
  • プロジェクト創出型-NG集のDVD作成

○あっとおどろく大学事務NG集
  • 大学事務に共通する17のNG例を抽出、一事例1分程度、ユーモア感覚を交えて制作
  • NG集は、FDネットワークつばさのホームページで公開


    1. 学生との接し方
    2. 低い意識
    3. えこひいき
    4. 整理整頓
    5. 前例踏襲主義
    6. 同僚の仕事を手伝わない
    7. これって会議?
    8. メモをとろう
    9. 指示をしない上司
    10. 仕事の丸投げ
    11. 空気の読めない上司
    12. ホウレンソウがない
    13. たらい回し
    14. メールで伝言
    15. 鳴り続ける電話
    16. 無言の職場
    17. 頼まれる人


SD研修参加者からの意見
  • 日常では認識できない“NG”に対する再認識ができた。
  • 知らず知らずのうちにNG職員になっているのでは?と考えさせられた。
  • 意識・意欲の向上につながった。

まとめ 教職協働で進めるFD/SD

深野政之 京都FD開発推進センター 専門研究員
  • 職員の意識改革
  • 職員の能力向上
  • 専門的知識の習得
が極めて重要である。