2010年10月7日木曜日

法人化後の現状と課題 (2)

前回の日記の中にもありました「国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ)」(文部科学省)のうち、第二期以降の国立大学法人の取り組みにとって重要かつ十分留意すべきであろうと考えられる「今後の改善方策」について抜粋してご紹介します。

国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ) -今後の改善方策-


「3.法人化後の状況分析」を踏まえ、当面は、現状の制度の根本を維持しつつ、第1期中期目標期間の成果や課題を踏まえ、必要な改善や充実を図っていくことが重要である。
そのため、今後の改善方策については、現状の制度を基に、
1)国立大学の本来の使命である教育研究力の強化
2)更なる改革を進めていくために求められる法人内部のガバナンスの強化
3)財務面での自律性を高めるための財務基盤の強化
を図るために必要な方策を整理する。

なお、それぞれの項目ごとに、主として、対応する責任主体を別(国(文部科学省)及び各国立大学法人)に示している。

1 教育研究力の強化


ア 国(文部科学省)における対応

  • 各法人における、社会の多様化するニーズや学問の進展に適切に対応した教育研究組織等の見直しに対して、運営費交付金の配分等を通じ、積極的な支援に努める。
  • TA・RA雇用による大学院生に対する経済的支援の充実や授業料減免措置の拡充など、高等教育の実質無償化を漸進的に推進する。
  • 学生の就業力向上のための教育課程内外における大学教育の改善を支援する。
  • 留学生受入環境の整備や日本人学生の海外留学の支援など大学における留学生交流に対する支援を充実する。
  • 限られた資源を有効活用しつつ、地域活性化や学び直しなどの多様な人材養成ニーズに応えるため、公私立を含めた大学間の積極的な連携を推進し、大学を中核として地域の成長を支えるプラット・フォームの構築を図る。
  • 若手研究者が自立して研究に専念できるよう、主として世界的研究教育拠点を目指す大学の自然科学系分野において導入が進められてきたテニュアトラック制について、各法人の特色や分野の事情等に応じて導入を進める法人に対する支援を一層充実する。
  • 社会貢献機能の強化の観点から、大学の教育研究成果を地域の活性化につなげる取組について積極的な支援を行う。
  • 大学発ベンチャーなど国立大学法人による出資の対象範囲の拡大について検討を行う。

イ 各法人における対応

  • 法人化のメリットを活かし、各法人の規模、特性等に応じて、社会の要請や時代の変化に対応できるよう、必要な教育研究組織の積極的な見直しを図る。
  • 教育内容等の充実に向けて、授業内容・方法を改善し、向上させるための組織的な取組(FD活動)や社会的・職業的自立に関する指導等を充実する。
  • 教員の選考過程の客観性・透明性の向上のため、選考基準・結果の公開等を検討する。
  • 教育研究の活性化や資源の有効活用等の観点から、共同学部・共同大学院の設置、施設の共同利用、教育研究活動や大学運営等における大学間連携に努める。

2 ガバナンスの強化


ア 国(文部科学省)における対応

  • 国立大学法人評価について、第1期中期目標期間における実施状況を踏まえ、評価方法、対象、必要書類等の見直しを行う。その際、評価に係る事務負担の軽減に配慮する。また、各法人に共通する法人の運営状況等の実態については、必要に応じ、中期目標・中期計画の実施状況とは別に調査することも検討する。
  • 国立大学法人法に規定する国立大学法人評価の他にも、国立大学法人に対して、制度上、実態上行われている様々な評価等を改めて整理し、多様にして適切な評価が行えるよう、評価の在り方及び評価を行う人材の育成等について検討を行う。
  • 監事に求められる役割や監査機能の強化等について、独立行政法人制度における取扱いも踏まえつつ、更なる改善に努める。
  • 学長、理事等の経営能力向上の観点から、情報提供の充実等、必要な方策を検討する。
  • 単科大学における教育研究評議会と教授会の関係について、効率化の観点から、考え方を整理する。
  • 各法人の判断で理事数を決定することができる仕組みの導入について検討する。
  • 社団法人国立大学協会における国立大学法人と文部科学省との人事交流の在り方についての検討結果を踏まえ、更なる改善を進める。
  • 教育研究の特性を踏まえ、財務諸表等における利益等の表示科目の見直しなど、財務諸表等の適切な情報提供の在り方について検討を行う。

イ 各法人における対応

  • 国立大学法人が多様なステークホルダーとのかかわりや協力・支援の下に成り立っていることを再認識し、これらステークホルダーの求めるところを十分意識し、大学運営や教育研究に適切に反映するとともに、一般国民や社会全体に十分な理解が得られるよう努める。
  • 中期目標・中期計画については、安易な変更が許されないことは当然であるが、社会状況等の変化に臨機応変に対応していく視点も重要であり、合理的な理由があれば、必要に応じ、機動的に変更することを検討する。
  • 中期目標原案・中期計画の策定や学内の様々な評価の実施について、学内における効率的な体制の整備や簡素化を図る。
  • 評価結果を教育研究その他の活動の改善のために役立てるなど、学内での有効な活用を図る。
  • 必要に応じ、利用者の立場に立った分かりやすい内容と方法に工夫した上で、評価結果を学外の関係者に対し、適時、適切に公開する。
  • 学長及び理事について、引き続き経営能力の向上に努めるとともに、理事その他の関係教職員の登用に当たっては、広い視野や知見に立った大学運営の観点に加え、経営能力の視点をより重視する。
  • 学内における意思決定プロセス明確化のため、学内手続を定める学則、法人規則等の整理を進めるとともに、学内の各種手続について、簡素化等の見直しを図る。
  • 経営協議会について、会議が形骸化している等の指摘を踏まえ、必要に応じ、経営協議会委員の選任や協議会の運営の改善を図る。
  • 事務組織や各種委員会等の運営組織について、法人の目的に沿った効率的、機動的な体制となるよう不断に見直す。
  • 法人経営を支えるスタッフとしての事務職員の職種に応じた専門能力の向上を図るため、職種に応じた専門能力の可視化とそれに応じた体系的な研修の実施に努める。
  • 法人化のメリットを活かし、学外の幅広い分野から専門家の登用を検討するなど、戦略的な採用、異動を進める。
  • 法人化のメリットを活かし、教職員の給与について、社会一般の情勢を踏まえながら、業務や能力に応じた給与体系の構築を図る。
  • 職員の潜在的な能力が十分に発揮されるよう、適切な人事評価を推進するとともに、評価結果の給与等への反映を検討する。
  • 職員の能力の向上や組織の活性化等を図る観点から、他機関との人事交流の重要性に配慮した取組を進める。

3 財務基盤の強化


ア 国(文部科学省)における対応

  • 国立大学法人運営費交付金について、法人化直後の公費投入額を踏まえ、従来以上に各国立大学法人が教育研究を確実に実施できるよう、所要額の確保に努める。
  • また、新たな政策課題への対応のための経費の拡充に努める。さらに、運営費交付金が各法人の日常的な教育研究活動を支える最も重要な基盤的経費であることから、配分に当たっては、小規模な法人やいわゆる地方大学に対しても、引き続き十分に配慮する。
  • 最先端医療の開発や地域医療の「最後の砦」としての国立大学附属病院への財政支援に努める。
  • 施設整備費については、各国立大学法人の計画的な施設整備や新たな政策課題への対応が進められるよう、施設整備費補助金の所要額の確保に努める。
  • 競争的資金については、教育研究の活性化に重要な役割を果たしており、その拡充に努めるとともに、教育研究環境の改善や機関全体の機能向上に資するよう間接経費を適切に措置する。また、引き続き、実態に沿った、より使い勝手のよいものとなるよう運用の改善を図る。
  • 総人件費の抑制について、研究開発法人においても柔軟な資源配分の観点から課題として指摘されていることを踏まえ、これらの検討状況を踏まえながら、平成23年度以降の適用の見直しについて検討を進める。
  • 中期目標期間をまたぐ積立金の繰越について、大学において計画的な積立が可能となるよう、中期目標期間を越えて繰り越せない場合の基準等の明確化を図る。
  • 各法人の財政的自立を高める観点から、余裕金や資産の運用の弾力化、国民が各法人に対して寄付を行いやすい環境の整備等を検討する。

イ 各法人における対応

  • 予算や人員等学内の資源配分について、配分ルールの透明性、客観性を高める。その際、法人化のメリットを最大限に活かした計画的な執行に努めるとともに、外部資金を獲得することが困難な学問分野への配分に留意する。また、特別教育研究経費について、新たな教育研究ニーズや学内の重点分野に対して効果的に活用できるよう努める。
  • 所要の教育研究経費の確保を図るため、管理的経費等の更なる抑制に努める。その際、例えば契約については、地域の事情や経費の削減効果が適切に上がる方法に留意しつつ複数年度化や少額随意契約の上限額の適切な設定等に努める。
  • 保有する土地、建物等の資産については、引き続き有効活用を図り、必要性が低いものについては、売却を含む適切な処分を検討し、収入の増加を図るとともに、寄附や自己収入、長期借入金、債券の発行、PFI(民間資金等活用事業)の活用など、多様な財源を活用した施設整備を進める。
  • 競争的資金や寄附金等の外部資金による自己収入増加のための取組を引き続き推進する。また、外部資金の適切な管理・監査を行なう内部統制の仕組みの整備や監事、会計監査人及び内部監査部門の連携による実効的な監査に努める。
  • 目的積立金について、用途を可能な限り具体化するとともに、その計画的な執行に努める。
  • 他の大学との事業の共同実施やアウトソーシングの実施、農場、船舶等の他大学等との共同利用を促進する。

おわりに


今回の検証の結果は、「中間まとめ」という形で取りまとめ、公表している。これは、現在の社会情勢や国立大学法人を取り巻く環境は極めて変化が激しく、国立大学法人制度もそれらにあわせて適時適切な見直しが必要であるものの、第2期中期目標期間の開始に当たり、本「中間まとめ」をもって、現下の諸課題への当面の対応方策とするとの趣旨である。もとより、ここに掲げた諸課題や改善方策のみが全てではなく、将来的には、必要に応じ、本検証を再開し、改めて改善方策等を検討することとしたい。

その際の課題としては、例えば、
  • 中期目標・中期計画の在り方の見直し(策定方法や記載事項等)
  • 国立大学法人評価の在り方の見直し(手続き等)
  • 積立金制度の見直し
  • 施設・設備の修繕・更新財源の確保に向けた見直し
  • 教育研究等の特性に応じた調達や契約の在り方の改善
等が考えられる。

我が国が、今後、世界的規模で本格的に到来する「高度知識基盤社会」において、知的国際協調に十分貢献しつつ、社会、経済、文化の発展・振興や国際競争力の確保を図っていくためには、知的創造人材の持続的輩出こそが不可欠の要素であり、その決定的な役割を担う大学の活性化が今まさに求められている。

本「中間まとめ」においては、その中でも大学改革の牽引役としての役割を積極的に果たしていくことが期待される国立大学の法人化後の状況分析を行っている。第2期中期目標期間を迎え、国立大学法人は、いよいよその真価が問われる段階に至っており、今後は、関係者がその緊張感を十分共有しつつ、本「中間まとめ」も参考に、各国立大学法人の一層の飛躍を目指して改善や充実を積み重ねていく必要がある

特に各国立大学法人においては、国立大学が社会全体に支えられていることや国立大学を取り巻く社会経済情勢を再認識しつつ、これまでの法人運営や教育研究活動に関し、必ずしも十分でなかった点については厳しく顧みることを求めたい。現状においては、全体として、例えば、社会経済情勢の変化に対応した各大学独自の機動的な教育研究組織の見直しなど、各大学自らが更に改善していく余地は大きいと考えられる。

今後、国立大学法人への公的部門・民間部門双方からの支援の充実を求めていくに当たっては、まず法人化のメリットを最大限に活かし、自ら主体的に改善を行い、教育研究力の強化、ガバナンスの強化及び財務基盤の強化に取り組み、社会からの期待に応えていくことが重要である。本「中間まとめ」がそのような取組の参考となることを期待したい。