2011年2月5日土曜日

教育の質の確保・向上を

文部科学省が、平成22年度の「設置計画履行状況等調査の結果等」を2月4日に公表しています。

設置計画履行状況等調査(通称「アフターケア」と言われています)は、文部科学省令*1及び告示*2に基づき、大学の設置認可時等における留意事項及び授業科目の開設状況、教員組織の整備状況、その他の設置計画の履行状況について、各大学からの報告を求め、書面、面接又は実地により調査を行い、各大学の教育水準の維持・向上及びその主体的な改善・充実に資することを目的として実施されるものです。

調査結果の概要(抜粋)は以下のとおりです。教育の質の向上が強く求められている今日、今回指摘を受けた大学はもとより、全ての大学が今一度自分のこととして受け止め検証を行うことが必要です。


平成22年度調査結果の概要

設置計画を着実に履行する必要性に対する認識不足などを背景に、履行状況が不十分な大学が見られた。特に、設置認可後から完成年度に至るまでの間における各種変更計画に係る手続に対する理解不足により、教員の新規採用又は担当科目の追加若しくは職位の昇格の場合に大学設置・学校法人審議会の教員審査を受けていないなど、変更の際必要な手続きを経ていないという、極めて不適切な事例も見られた。

本年度の調査を踏まえ、当該留意事項が付されている大学はもとより、その他の大学においても特に留意していただきたい点を以下にまとめた。


入学定員管理
  • 各大学は、様々な工夫の下で入学定員の充足に向けた取組を行っているが、当初計画の甘さなどから、学部学科等が開設して以来、入学定員の未充足が続いている大学も見られた。このため、各大学においては、学生や社会からのニーズを踏まえ、今後の入学定員の確保に向けた具体的な取組が求められる。

  • 他方、入学定員を大幅に超えた学生を受け入れた結果、適正な入学定員の管理が必要と考えられる大学も見られた。各大学においては、それぞれの教育環境を踏まえた教育の質の確保を図るため、自ら定めた定員に基づいた学生数の管理が必要である。

教育課程等
  • 1単位に必要な授業時間数については、大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)において、講義や実習等、授業の方法に応じて15~45時間とされており、講義の場合は、定期試験を除いて、1単位当たり最低でも15時間の確保が必要とされているが、15時間の授業時間に定期試験が含まれている大学も見られた。また、キャップ制(単位の過剰登録を防ぐため、1年間又は1学期間に履修登録できる単位の上限を設ける制度)については、1年間の履修上限単位数が多すぎて、各年次にわたって体系的に授業科目を履修するという趣旨に必ずしも沿っていない事例も見られた。このため、各大学においては、法令に基づいた単位の実質化を図るための取組が求められる。

教員組織
  • 教員組織について、予定された専任教員が未就任となったことにより、授業科目が未開講になるなど当初の理念や計画の実現性が懸念される大学や、教員の退職により大学設置基準に定めた必要専任教員数を下回る大学など設置計画の着実な履行に対する認識が不足していると思われるような大学も見られた。このため、各大学においては、教育研究上の目的を達成するための教員組織の整備に対する意識の向上と適切な教員組織の整備のために必要な手続に関する学内関係者の理解の促進を図るための取組が求められる。

ファカルティ・ディベロップメント(FD)
  • FDについては、様々な取組が行われているところであるが、特に、その一環として実施されている学生による授業評価については、評価結果が学生にフィードバックされておらず、授業評価がどのように活用され、どのように改善されているのか学生が確認できないといった事例も見られた。このため、各大学においては、評価結果について、学生等に対する公表等を通じて教員の教育改善への継続的な取組に活かしていくことが求められる。

施設・設備
  • 施設・設備については、専門誌や学術雑誌の種類及び冊数の不足等が見られた。各大学においては、図書館及び体育館、運動場等の体育施設の整備等、教育研究に必要な施設・設備の充実が求められる。

上記については、特に留意いただきたい事例を示したものであるが、各大学においては、設置認可申請に係る書類、あるいは届出に係る書類は、「各大学が社会に対して着実に実現していく構想を表したもの」(「中長期的な大学教育の在り方に関する第二次報告」平成21年8月中央教育審議会大学分科会)であること、大学設置・学校法人審議会会長が大学の設置・運営に関わる全ての方に対して、改めて大学を設置する責任の重みを十分に自覚いただくよう要請するコメントを出している(平成19年11月27日「11月答申の提出に当たって」)ことを十分認識するとともに、適切な対応をとるように改めて強く求めたい。

また、学生や社会からの多様な要請に応えるために、柔軟な組織改編等を行うことも重要ではあるが、一方で、中央教育審議会からは、「頻繁な改組や設置計画の変更によって、真に学生が体系的に学び、学習成果を達成できるのかどうかが危ぶまれる事例が生じてきている」(「学士課程教育の構築に向けて」平成20年12月24日中央教育審議会)との指摘がなされている。各大学においては、組織改編等を検討する際、学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)、入学者受入れ方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、学士課程教育として相応しく、ある程度、継続的に維持される組織改編等を期待したい。

全文はこちらをどうぞ
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/02/1301974.htm



参考までに、「教職大学院」の設置計画履行状況等調査の結果等についても抜粋してご紹介します。

個別に留意事項は付さなかったものの、全体の傾向として留意すべき点を含めて主な項目ごとに所見をまとめると、以下のとおりである。


教職大学院の目的等

各大学では、実践的指導力・展開力を備えた新人教員の養成と実践力・応用力を備えたスクールリーダーの養成を行うという教職大学院制度の役割を踏まえつつ、各教職大学院が目指す教員養成の目的に沿って、着実に取組を進めつつある。
他方、各教職大学院が、大学として行う教育内容や養成すべき教員像について、学生や教育委員会等と共有化されていない場合があるという指摘があった。今後、教職大学院の目的・養成すべき教員像等をより一層明確化し、教職大学院に期待される役割を果たす必要がある。
また、教職大学院は、教員養成政策の大きな柱として創設された経緯を踏まえ、大学教員一人一人の教員養成に係る意識改革を進め、我が国の教員養成の改革に資することが教職大学院の使命であることを踏まえた取組が求められる。教育委員会・学校等との連携が進む中で、大学教員がこれまでよりも学校現場に出向くようになったり、実務家教員が学部の授業を担当したりするなど、取組が段階的に進められているが、今後、学部段階や既存の大学院を含む教職課程全体に具体的にどのような改善が図られたのか、各大学で教育委員会等の視点を加味した検証を行うとともに、これらの取組をさらに系統的・組織的に広げることが重要である。


「理論と実践の融合」によるカリキュラム・教育方法

各教職大学院では、実務家教員と研究者教員によるティームティーチングの導入など、画期的な教育が行われている。今後、さらなる協働体制の強化により、理論の実践への応用、実践知の理論化が図られ、「理論と実践の融合」による新しいカリキュラムや教育方法の確立が図られることが期待される。
実習については、教育委員会や学生の要望、実習の目的等を踏まえ、大学ごとに様々な方法で実施されている。現職教員学生が現任校で実習を行う場合に、勤務との切り分けが明確でなく、日々の業務に埋没するといった問題が指摘される一方、学校現場の課題を直ちに研究課題として取り組めるという点で有益であるという大学も見られた。現任校での実習を行う場合には、大学が実習の目的・達成基準等を明確にし、担当教員が定期的に現任校に訪問し指導を行ったり、職務の負担軽減等を学校・教育委員会に依頼するなど、大学が責任を持って効果的な学習を行う体制を整備することが求められる。
学部新卒学生と現職教員学生の合同教育については、学部新卒学生は現職教員学生からアドバイスを受けることができる、現職教員学生は新人教員への指導の訓練となるといったメリットがあり、各教職大学院において、それぞれの経験や能力の差に応じた教育内容・方法の工夫が行われているが、現職教員学生・学部新卒学生のそれぞれのスキルアップの観点から、引き続き、合同教育により十分な教育効果が得られているのか検証を行い、その良さを活かしつつ、両者の力を最大限に引き伸ばすことができるきめ細やかな指導体制を構築することが必要である。


教育委員会等との連携

教育委員会との連携については、各教職大学院から積極的に話合いの機会を設けるなど、改善が見られる。しかし、教育委員会等のカリキュラムに関する要望等が教職大学院において十分に検討されていない、都道府県等による現職教員学生の派遣人数が十分に確保されていない、採用試験・研修の免除等の取組が進んでいないなど、教職大学院や教育委員会によって取組に対する温度差が引き続き見られる。
今後、教育委員会・学校等との連携のための組織の実質的な運用に努め、教職大学院の設置趣旨について一層の理解を図り、積極的な連携協力のための共通認識を確立するとともに、カリキュラムや教育方法などに関して教育委員会等の要望・意見等を踏まえた改善をするなど、大学全体として一層の連携強化が期待される。


入学者の確保

各教職大学院では、教育委員会に働きかけ、学部新卒学生確保のため、教員採用試験の免除、試験合格者への名簿搭載期間の延長等のインセンティブの設定等がなされている。また、入学試験の工夫や入学説明会の開催など努力を行い、全体として入学者定員の充足率が改善している。しかし、いくつかの教職大学院では、定員充足率が低い状況が続いており、各教職大学院で教育内容の質の保証を図り、現職教員や学生・社会人等に教職大学院の意義と成果を広く周知することで、学生の質を保ちつつ、安定的に定員を確保する必要がある。


成績評価等

各教職大学院では、授業計画(シラバス)において、一年間の授業の方法や内容をあらかじめ明示しているものの、一部の教職大学院では、教員ごとに記述内容に濃淡があることや、実際の実習の状況等と大きく異なるなどの課題があった。
また、授業の目標・達成基準や成績評価基準についてもあらかじめ示されているものの、学生に十分理解されていないことや、成績評価基準があいまいであると学生が感じており、その結果を学修等にフィードバックするような仕組みになっていない大学も見られた。
そのため、各教職大学院においては、シラバスの記述内容を見直すことや、授業の目標・達成基準や成績評価基準を検証・再検討し、さらに明確化して学生に提示するよう努めることが求められる。


教員組織整備とFD活動

実務家教員と研究者教員からなる教員組織の整備は、すべての教職大学院で行われているが、一部の教職大学院で年齢構成のバランスを欠くなどの状態が見受けられており、順次是正が求められる。
FD委員会や学生による授業評価、ティーム・ティーチングによるFD、公開授業によるFDなどが多くの教職大学院で行われている。しかし、学生の意見等が教育課程の充実・改善に必ずしも十分に反映されていない大学も見られた。このような取組を組織的かつ実効性のあるものとし、さらに全学的な取組に展開するよう努めることが必要である。


施設・設備の整備状況

各教職大学院で、概ね認可時の計画どおり履行されているが、ネットワーク環境の整備など、学生の学習環境の整備に課題があるなどの指摘もあり、引き続き、教職大学院の目的に照らし、十分な教育成果をあげることができるよう、必要な施設及び設備その他諸条件の整備が求められる。

全文はこちらをどうぞ
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/02/1301983.htm


(関連記事)

4教職大学院に改善を要請 定員割れなど、文科省 (2011年2月4日 共同通信)

*1:大学の設置等の認可の申請及び届出に係る手続等に関する規則(抄)(平成19年3月30日 文部科学省令第10号)第14条:文部科学大臣は、設置計画及び留意事項の履行の状況を確認するため必要があると認めるときは、認可を受けた者又は届出を行った者に対し、その設置計画及び留意事項の履行の状況について報告を求め、又は調査を行うことができる。

*2:文部科学省告示第44号(抄):大学設置基準(昭和49年文部省令第28号)第53条の規定に基づき、新たに大学等を設置し、又は薬学を履修する課程の修業年限を変更する場合の教員組織、校舎等の施設及び設備の段階的な整備について次のように定める。3 文部科学大臣は、大学等の設置を認可した後、当該認可時における留意事項、授業科目の開設状況、教員組織の整備状況その他の年次計画の履行状況について報告を求め、必要に応じ、書類、面接又は実地により調査することができるものとする。ほか