2011年3月7日月曜日

監事監査報告書からみる大学の姿

国立大学法人のうち、監事が行う監査に関する規程や、会計(財務諸表・決算等)監査に関する報告書をホームページで公表している大学は結構ありますが、「業務監査」に関する報告書を公表している大学は意外と見当たりません。

大学が自ら公表する情報は、どちらかというと教育研究や業務運営活動を積極的に社会にアピールする側面が強く、外部評価や監事監査の結果における改善に向けた指摘などは、なかなか公表しづらいようです。

国立大学法人は、国民からいただいた税金を原資とする運営費交付金によってまかなわれています。各国立大学法人に今どのような改善努力が求められているのかを社会に公表し、実行していくことこそ、社会的責任や公共的使命を果たしていくことではないかと思います。


監事監査(業務監査)報告書を公表している大学

(追記)
「○○大学でも監事監査報告書を公表しているよ」といったコメントを頂戴しておりますが、ここでは、「会計監査」に関する報告書は除かせていただいておりますので、どうぞご容認いただきますようお願いいたします。(2011.3.8)


それではここで、国立大学法人における「監事」「監査制度」について簡単にご紹介します。


監事とは


1 監事の位置付け

監事は、国立大学法人の役員であり、法人の規模にかかわらず2名置くこととされています。
監事は、国立大学法人の業務が適正に行われているか監査することがその業務であり、複数名置くことにより、より広範な観点から適切な監査業務が行われることを期しているためです。
同様の趣旨から、2名の内1名は学外者を任命することとされています。


2 監事の職務及び権限

監事は、国立大学法人の業務を監査し、監査の結果に基づき必要があると認めるときは、学長又は文部科学大臣に意見を提出することができることとされています。その具体的な監査事項としては、
  1. 関係法令、業務方法書、規則等の整備状況及び実施状況
  2. 中期計画及び年度計画の実施状況
  3. 予算の執行及び資金運用の状況並びに決算の状況
  4. 物品及び不動産の管理状況
  5. 人件費の状況
等が想定されています。

また、毎事業年度、文部科学大臣に提出することとされている財務諸表と決算報告書に関して意見を付すことも監事の業務とされています。

なお、監事は、他の役員とは異なり、その職務の性格上、大学の運営に職務として直接携わることはできないことに留意する必要があります。


3 監事の任命

監事は、文部科学大臣が任命します。
なお、学外監事については、各国立大学法人の業務執行、会計執行の適正性などについて、より専門的、中立的な見地から監査することが求められており、
  1. 大学業務に精通する者として、公私立大学、他の国立大学経営経験者や研究機関経験者
  2. 会計業務に精通するものとして、公認会計士、税理士や金融機関経験者
  3. 組織業務に精通する者として、企業経験者、弁護士、自治体経験者
等を任命しているケースが多く見られます。


4 監事の任期

監事については、その職務に一定の独立性が必要となることから、任期は2年(年度単位)とされているとともに、学長の任期に連動させるようにはなっていません。


(参考)国立大学法人・大学共同利用機関法人監事(文部科学省ホームページ)(平成23年1月1日現在)


国立大学法人等の監査制度とは


国の機関では、「会計検査院による会計検査」と「総務省による行政評価・監視」(従来の行政監察)が実施されています。

会計検査院は、憲法第90条の規定により国の収入支出の決算を検査するほか、会計検査院法その他の法律に定める会計を検査しています。

総務省は、行政運営の改善・適正化を図るために、主に合規制、適正性、効率性等の観点から、行政機関の業務の実施状況の評価・監視を実施しています。

会計検査院の会計検査については、会計検査院の必要的検査対象に「国が資本金の2分の1以上を出資している公庫、公団、事業団、独立行政法人等の会計及び日本放送協会の会計」(以下「政府出資法人」といいます。)が含まれていることから、国立大学法人も会計検査を受けることになります。

総務省による行政評価・監視については、国立大学法人では別途、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会による評価を受けることから、これに代えられることになります。

さらに、法人化後は、会計検査院による会計検査に加えて、「会計監査人による会計監査」と「監事による監査」を受けることになりました。


1 外部監査と内部監査

監査を実施する主体によって分類すると、「外部監査」と「内部監査」に分けられます。

「外部監査」とは、国立大学法人から独立した外部者によって行われる監査であり、「内部監査」とは国立大学法人の内部の者によって行われる監査です。

国立大学法人には公的資金が投入されており、また法人の運営に対して事後評価が行われることから、国立大学法人から独立した外部者によって監査が行われる必要があり、前者については会計検査院の検査、後者については会計監査人の監査が実施されることになります。

監事の監査と(内部監査部門や監査担当職員による)内部監査については、国立大学法人の内部の者によって行われる内部監査であるという点では共通していますが、監事は文部科学大臣が任命するのに対し、内部監査は学長が必要と認めて設置した内部監査部門・監査担当職員によって実施されることから、監査の位置付けが異なります。
監事は、国立大学法人等の業務が能率的かつ効果的に行われるために学長及び役員が適切に意思決定しているかについて監査します。

監事は、監査の結果に基づき必要であると認めるときは、学長又は文部科学大臣に意見を提出できます。

職員が適切に職務執行しているかについては内部監査部門等が監査します。

一方、監事は、学長が内部監査部門を設置しているかどうかや内部監査部門が適切に監査しているかどうかについて監査します。


2 会計監査と業務監査

監査を実施する対象によって分類すると「会計監査」と「業務監査」に分けられます。
「会計監査」とは、会計の業務に関する監査であり、「業務監査」とは会計以外の業務に関する監査です。
会計は行った取引について仕訳し記帳することをいいますが、取引は業務を執行することによって行われることから実際には明確に区分することは困難です。

「会計検査院の検査と会計監査人の監査は会計監査」、「監事の監査と内部監査は会計監査と業務監査」の両方に分類されます。
ただし、会計検査院の検査は正確性だけではなく、合規性や経済性、効率性、有効性の観点から監査を行っていることから実際には業務監査も行っているということができます。

会計監査人の監査は、財務諸表等の適正性を保証するための監査であることから会計監査に分類されますが、財務諸表等に重要な影響を与える法令に準拠しているか否かについても監査します。

監事等も会計監査を実施しますが、実務的には監事は会計監査人が行った結果の妥当性について判断することで会計監査を行います。
また、監事・内部監査部門が行う業務監査は、学務や人事労務、環境衛生等の会計以外の多岐にわたります。


3 監事による監査

監事は、財務内容等の会計監査を含む業務の能率的かつ効果的な運営を確保するために監査を行います。
具体的にどのように監査を実施するかについては定められたものがないために、監事監査規程などの個別の国立大学法人の内部規程で定めることになっています。

会計監査については会計監査人も実施することになりますが、国立大学法人が財務諸表等について会計監査人の監査を受けたからといって監事の監査が省略されるのではなく、監事はその職務と権限に基づき財務諸表等の監査を行います。
ただし、監事は、財務諸表等の監査においては、会計監査人の行った監査の方法とその結果の妥当性を自らの責任で判断した上で、会計監査人の監査の結果を利用し自らの意見を述べることができます。
このため、会計監査人は監事に対して実施した監査の方法や結果について監事に説明することになります。


4 検査・監査結果の報告

会計検査院は検査報告を国会に提出します。
つぎに、会計監査人と監事は財務諸表等に対する意見を監査報告書としてとりまとめて学長に提出します。
最後に、内部監査では監査した結果を監査報告書として学長に提出します。

会計検査院と会計監査人はそれぞれ会計監査を実施し、検査・監査の結果を報告することでは共通していますが、会計検査院は会計経理に関して不適切な事態が明らかになった場合にはその発生原因そのものや行政運営等に対して改善の処置を要求することができることから、国立大学法人は何らかの対応をとらなければなりません。

会計監査人は不適正な会計処理等を発見した場合に国立大学法人に修正するように指導しますが、修正を強制することはできません。

このような場合に会計監査人は、その重要度に応じて国立大学法人が作成した財務諸表等は適正でない旨の意見を表明します。

しかし、いたずらに会計監査人が財務諸表等に対して適正ではない旨の意見を表明することは、適正な財務諸表等によって適切に事後評価するという制度の根幹を揺るがすことになりかねないので、会計監査人は学長や監事、内部監査部門等と国立大学法人の会計に関する問題点や課題について適時に協議することが必要となります。