2011年6月4日土曜日

国立大学法人の検証-ガバナンスの視点

国立大学法人における諸活動を検証し更なる改善に結びつけ、それを公表していくことは、運営資源の提供者である国民への説明責任上、極めて重要なことではないかと想います。

昨年のことになりますが、文部科学省は、国立大学の法人化に関する検証を行い、「国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ)」を取りまとめ公表しています。また、国立大学協会内部でも検証が行われました。

(関連過去記事)
第一期の変化を踏まえた第二期における課題(2010年9月15日 大学サラリーマン日記)

ところが、この国立大学協会による検証の結果は、私が調べた限りでは、なぜか、国立大学協会会員限定のサイトでしか見ることができません。したがって、社会の皆様はもとより、国立大学法人の教職員ですら、この検証結果の存在を知っている方は少ないと思われます。

せっかく、多くの方々のご苦労により作成されたものですし、もっともなことが書かれてあるのですから公表されてはいかがかと思います。今回は、この検証結果のうち、主に大学のガバナンスに関わる部分について抜粋してご紹介したいと思います。

第一期中期目標期間の検証(平成23年2月16日 国立大学協会)

はじめに

2010年3月末をもって第1期中期目標期間の6年が経過した。各大学は、「国立大学法人」という新たな法人制度の下、大学の裁量の拡大という法人化のメリットを大学改革のために最大限活用するという積極的な発想に立って、新しい国立大学の姿を試行錯誤を繰り返しながら模索し、中期目標に掲げた達成目標を中期計画に記載した具体的な計画の実施により実現すべく最大限の努力を続けてきた。

文部科学省では、2010年7月に「国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ)」を公表し、法人化以降6年間が経過した国立大学法人の現状分析や今後の改善方策についてとりまとめたが、こうした法人化の検証は、そのプレーヤーたる国立大学法人が自ら行うことが重要であり、ついては、国立大学協会として第1期中期目標期間の検証を行い、国立大学法人制度の導入に当たり期待されていた初期の目的(自立的な環境下で裁量の大幅な拡大を図り、大学をより活性化し、優れた教育や特色ある研究へ向けた積極的な取組を促し、より個性豊かな魅力ある大学を実現する)がどう達成されたのか、あるいは、当初考えていなかった効果や、問題点としてどのようなものが出てきたのかを明確にし、今後の国立大学の発展に役立てることになった。

実際の検証にあたっては、国立大学協会の総力によりこれをまとめるとの方針により、国大協に設置されている委員会(小委員会)ごとに、それぞれの所掌課題について詳細な検証を行い、それを基に整理するというボトムアップの手法によりとりまとめを行った。(途中略)

各大学は、本検証結果も参考にしつつ、第2期中期目標期間において、各大学が目指す個性豊かな大学づくりや教育研究の展開、機動的・戦略的な大学運営の実現を果たすとともに、国民や社会への説明責任を果たせるよう努めていくことが期待される。

「自主行動指針」に照らした事項の検証

指針5 大学の活性化を目指したマネジメント改革

意思決定の迅速化、管理運営の効率化を図る

組織体制(経営)

学長が法人の長となり、教育研究及び経営双方の最終責任者として、トップダウンによる意思決定により、強いリーダーシップと経営能力を発揮することが可能となった。仕組みは有効であったものの、法人化前のボトムアップ型の大学運営からの移行が円滑に行われているとは言い難いため、迅速な意思決定を図ることが必要である。

教育研究面に関する重要事項や方針を審議する教育研究評議会と経営に関する重要事項や方針を審議する経営協議会が設置され、それぞれ概ね適正かつ有効に機能していると考えられる。今後、現状を十分に理解した上で一部の利益にとらわれずに大学全体の発展に寄与する助言を行うことが重要である。

国立大学法人の業務を監査するため監事を置くこととされ、会計制度上の監査機能、業務監査ともに適切に機能し、学長に対して随時意見が提出され、業務の改善等に適切に反映されている。監事は、大学の教育研究の特性について理解を深めるとともに、教職員との信頼関係を構築することが重要である。

組織の見直し(経営)

国の定員管理の枠から外れたことにより、学内組織の改編を各法人の裁量によって行うことが可能になり、教育研究組織及び事務組織の弾力的な改組・再編が可能になった。事務組織では、スタッフ制の導入や部局事務の一元化、中間職制度の整備などの見直しが進んでいる。一方で、行革推進法に基づく総人件費の削減が求められたため、組織体制整備が十分に進められず、既存の教育研究組織の改組・再編等組織の見直しが充分活性化しておらず、法人化のメリットを最大限活用しているとは言い難い。また運営費交付金の削減により、新たな人材の確保が有期的な雇用形態に頼らざるを得ず、優秀な人材の確保にあたっても支障を来している。各国立大学が法人化のメリットを最大限活用できるよう、継続的かつ安定的な制度面・財政面での国のフォローアップが必要不可欠であるとともに、継続的に教職員の意識改革を図ることで、大学改革への取組が促進される環境の醸成に努める等、組織の見直しを促進することが必要である。事務組織についても、更なる業務の効率化を目指し、不断の改革に努める必要がある。

第2期における課題

大学の活性化につながる一層のマネジメント改革

法人制度の導入により各大学での創意工夫や経営努力による資源の効率的利用などが可能になったが、厳しい環境下で経営力の一層の向上による教育研究活動の充実を図る努力が大学側に求められているのはいうまでもない。他方、法人制度は国立大学の公的性格から各種の規制が加えられており、法人の自主性・自律性の発揮と公的な説明責任のバランスを図る観点から制度の運用につき政府側の改善がなされるべき事項も少なくない。そこで、大学側と政府側に区分して課題を整理した。

<大学の課題>

1)経営力の強化

国立大学が法人化され6年を経過した。法制度上は独立した経営体となり、役員会、経営協議会、教育研究評議会等のガバナンス構造も整備された。課題は学長はじめ役員並びに幹部職員の経営能力の向上である。法人制度の遵守の徹底はもちろん、組織のトップマネジメントを担える経営能力の育成と向上が必要である。

2)戦略的な経営管理制度の運用

内部資源管理については基本的に各法人の自主性に委ねられるようになったため、職員の採用・昇進・退職管理や業績管理において大学独自の方式が導入されてきた。国大協等の研修や法人評価を通じて優良事例の紹介がなされ知識の共有化が図られてきたが、第1期はどちらかというとフラット組織・グループ制とかバランスト・スコアカードなど企業経営にならった事例が多く、今後はいかに国立大学に適合した戦略経営を構築していくか、特に企業にない寄附金等の非対価性の収入をどう確保していくかについての戦略が重要になってくる。また、法人評価を学内の計画、実施、評価及び修正行動の経営システムのなかに明確に位置付け、積極的に業務の改善や見直しに反映させていくことが望まれる。

3)教職員の意識向上

法人化以降、教職員は非公務員になり法人職員となった。特に、職員においては移動官職が幹部職員を占める構造から法人内部での人事管理が基本になったことから、法人への帰属意識や職務への動機づけ及び専門能力の向上が課題になっている。自主的な研修参加や大学院講義履修などを通じて改革への意欲も高く専門能力も身につけている職員も増えてきており、今後はこうした動きが全学的に広まっていくことが重要である。また、教員は自律的な専門職として所属大学よりも自らの学術組織への帰属意識が高いといわれるが、法人の使命の達成のため、自らの活動が法人業績とどのような関係があるかに関して理解を深められる工夫が必要である。

4)社会との積極的対話

大学は教育研究及び社会貢献を通じて社会に対してサービスを供給しているが、その財源を学生納付金や政府予算だけでなく、社会の様々な組織からの支援にも依存している。特に国立大学はその財源の過半を政府からの財源措置に負っていることから、納税者に対して十分な説明責任を果たすことが要請されている。加えて、社会への説明責任と教育の質の向上のため学校教育法施行規則が改正され、平成23年4月から大学が公表すべき情報の内容が明確化されたが、これを契機に各大学の情報発信の在り方について見直すとともに、国際化の中で広く所在する地域及び国際社会に対して国立大学の活動や役割を積極的に発信し、利害関係者に理解を得るだけでなく積極的な対話を進めていくことが必要である。

大学が単に人的資源の形成・成長のため公的投資の対象になるというだけでなく、社会にとっても有意義なものであるという共通認識が持続可能な発展を支える原動力になるからである。

おわりに

国立大学は、法人として最初の中期目標期間を終え、第2期を迎えたが、この間、大学を取り巻く国内外の環境は大きく変化してきた。急速に変化する環境下で、国立大学法人はどのような成果を上げ、どのような困難を抱え、どのような課題の克服を求められてきたか、そして、第2期における国立大学の課題は何かを、国立大学協会として検証した。

本検証では、法人化に伴う教育研究や管理運営の状況のみならず、文部科学省の「国立大学法人化後の現状と課題について」(中間まとめ)には触れられていない、広報や研修、国際交流といったものも含め細部にわたり検証を行った。

特に、積極的な情報発信といった広報活動や、国立大学自身による人材育成を推進する研修活動、国際ネットワークの拡大などの国際交流活動等、法人化の特質の一つである「柔軟さ」がどのように発揮されたかも検討対象とした。今回、こうした点も掘り下げることができたのも本検証の特徴として挙げておきたい。

検証を通して、国立大学が果たすべき役割と第2期以降に向けての課題を明確にすることができたと思っている。描き出された課題はいずれも容易に克服できるものではなく、大学構成員の意識変革と真摯な努力の不断の積み重ねが必要であることはもちろんのことであるが、とりわけ大学と社会との積極的対話が不可欠であることを確認するものとなった。

大学を取り巻く社会経済環境の構造は大きく変化し、グローバル化は更に急加速し、大学に求められる役割はますます大きくなっている。各大学におかれては、その機能強化をはかるための挑戦をされているところであるが、その検討の際には本検証結果も参考にしていただければ幸いである。