2011年6月7日火曜日

日本の首相は賞味期限が短く、地位は軽い

記憶に留めたいため、転載させていただきます。

天声人語(2011年6月7日朝日新聞)

和歌山の「梅娘」がきのう、菅首相に大粒の梅干しを差し入れた。紀州のお嬢さんたちは毎年のように官邸を訪れていて、去年は鳩山さんが辞任を表明した翌日だった。梅娘には気の毒だが、何やら首相交代を告げる初夏の風物詩を思う。

あすが就任1年の記念日なのに、周辺に続投をいさめられ、菅さんも夏に辞める覚悟らしい。これで首相は5人続けて「1年交代」。まるで生徒会長だ。お元気な「元首相」は実に12人に増える。

存命の元大統領や元首相は数人というのが主要国の相場だろう。日本の首相は賞味期限が短く、地位は軽い。吹けば飛ぶから権力争いが絶えない。次もつなぎのようだし、しばらくは連立、分裂、新党、再編といった政局用語が幅を利かせそうだ。

総選挙をやるたびに、約800億円の公費が消える。政治家の使い捨てはもったいないのだが、昨今、国会議員の多くはアタマ数として政局に参じるばかりで、血税に見合う仕事をしていない。大連立にしても、被災地より自党を思ってのことではないか。

ただ、メディアも世論もせっかちは禁物だ。もう誰がやっても同じ、という政治的ニヒリズムが怖い。無力感を突いて妙なリーダーや息苦しい社会が生まれ来ぬよう、憂さ晴らしの暴力を許さぬよう、こんな時こそ目を光らせたい。

梅娘は5年前、小泉首相の最後の年から上京している。梅干しを渡す相手が毎年違うのは、宣伝的には悪くないかもしれない。日本の政治が抱える、酸っぱい現実である。