2011年10月26日水曜日

魅力的価値による差別化

強みを徹底することで差別化を」(日本私立大学協会私学高等教育研究所研究員 岩田雅明氏、文部科学教育通信 No.277 2011.10.10)をご紹介します。


競合校と比較し分析する

前稿で競合校を知ることの重要性と、その認識方法について述べたが、競合校と戦うために必要となる、競合校に優っている自学の強みを把握するためには、競合校の内容を詳しく知る必要がある。競合校も自分の強みはアピールしていると思われるので、パンフレットやホームページを見ることで、かなりの部分は把握できるであろう。ただし、学内の雰囲気や教職員の意欲といった大学の風土等に関しては、実際にその大学に行ってみないと伝わってはこないものである。このため、競合校を実際に見に行ってみることを、ぜひお勧めしたい。

企業の場合、競合他社を視察するというのはよく行われていることのようであるが、大学の場合には、モデルとなるような実績を挙げている大学の見学というような企画は実施されてはいるが、競合する大学を見に行くということは、あまり行われていないように思われる。私自身、出張に行った際に時間ができると他の大学に行ってみることがあるが、学生の服装や髪形、表情などといったことから、その大学の状況が相当程度に伝わってくるものである。そしてそれは、往々にして大学がアピールしている内容と合っていないことがあるように感じられる。また細かい点ではあるが、学内に貼られている「○○禁止」などといった注意事項も、その大学の現状をうかがうことのできるものの一つである。

このようにして競合校の内容を把握することができたならば、それを自学と比較し、分析することである。この際に、比較の視点をどのように定めるかが問題となる。さらに伸ばしていく必要のある強みや、補強すべき弱みは、受験生や保護者といった大学の顧客が選択の基準として重要視している事項に関わるものでなければ意味がないのであるから、比較の視点も受験生や保護者が重要視している事項ということになる。一般性のある重要視事項として挙げられるものは、入学の難易度、学費(支援制度)、資格取得、学ぶ内容や手法、就職状況といったものであろう。競合校と比較する際には、入り口に関する事項、中身に関する事項、出口に関する事項に分け、比較・分析してみると分かりやすい。

大学の競合校に対しての状況としては、三つの状態がある。一つ目は、自学のことも競合校のことも知らない状態。二つ目は、自学のことは知っているが競合校のことは知らない状態。三つ目は、自学のことも競合校のことも知っている状態である。どの状態にある大学が、適切な戦略を立案できるのかは明らかであろう。


強みを徹底する

自学と競合校との比較・分析ができたならば、どの事項を補い、どの事項をさらに伸ばしていけば競合校に対して優位性を得ることができるのかが明確になってくる。この武器とすることのできる強みを決めたならば、それを徹底して強化していくことが競争戦略においては重要である。徹底することで初めて、差別化された強みとなるからである。

高校時代に英検二級等の資格を取得した者は、四年間授業料全額免除(一年ごとに更新審査はあるが)とする本学の資格特待生制度も、検討の段階では、授業料半額で十分ではないかとか、初年度の授業料を免除するということでもよいのではないか、などの意見も多くあった。しかし、経済的にサポートするのならば、中途半端でなく、徹底してサポートしないと強い魅力とならないのである。実際に、資格特待生制度を導入したいと、本学に話を聞きに来た大学もあったが、四年間免除というところまで決断できたところはなく、そのためであろうか、成果もそれほど出ていないようである。

例えば、『学生中心主義』という趣旨のことを、その大学の特色として掲げているケースは多いと思うが、高校生や保護者という顧客にとって魅力的な価値となるためには、期待を上回る、想定外の価値の提供がないと不十分なのである。単に学生の意見を聴く機会がある、学生が大学側に提案できる仕組みがある、といったようなことだけでは、魅力的価値とはならないのである。学生の成長に役立つことならば通常考えられる限度を超えて徹底して行う、というような状態になって初めて魅力的な価値となるのである。

『学生中心主義』を標榜しながら、実情は『教員中心主義』、『職員中心主義』となっていては、魅力どころか逆に看板に偽りありとなってしまうことになる。

期待を超える魅力を提供していることでよく知られているのは、ホテルのザ・リッツ・カールトンや、ディズニーランドなどであろう。そこでは、従来のホテル業界や、テーマパーク、遊園地が想定していたサービスを超えるサービスが提供され、それが顧客にとって大きな価値となっているのである。大学業界においても、そのような事例を挙げることができる。いろいろな雑誌等で紹介されているので、ご存じの方も多いと思うが、代表的なのは金沢工業大学であろう。

私の著書でも何回か紹介しているが、この大学の教育サービスは徹底している。その一例として、『修学ポートフォリオ』というシステムがある。学生は一週間の行動履歴として、授業の出席状況、学習、課外活動、健康管理、満足したこと、努力したこと、反省点、困ったこと等を記入し、それをアドバイザーの教員に提出する。教員はそれに対してコメント等を付して一週間後に返却するというもので、これを一年間、三〇回繰り返す。これにより、学生は充実した生活の送り方や、これからの課題に気づいていくことになるというものである。

このほか、学習していて分からなくなった個所を写真に撮り、メールで送ると、二十四時間以内に担当教員から解決のヒントが送られてくるシステムや、一定の時間帯に教員が待機して学習上の相談に応じるサービス、文章の書き方の相談に応じる部署の設置など、枚挙にいとまがない。これらの成果として高い実質就職率を挙げ、北陸にありながら全国型の大学としての評価を得ているのである。

これまでの大学業界の枠にとらわれず、学生の成長を図るサービスをいかに徹底できるかが、これからの差別化の鍵となる。

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