2011年11月28日月曜日

入試広報の腕をみがく(1)

いよいよ受験シーズン到来です。新聞・雑誌に大学の広告が目に付くようになりました。大学広報の腕の見せどころといったところでしょうか。

限られた財源でいかに効果的な広報を行うか、いかに質の高い学生を確保するかは、少子化時代における大学の重要な戦略的課題の一つです。そこで、今回は、日本私立大学協会私学高等教育研究所研究員の岩田雅明氏が、文部科学教育通信(No279 2011.11.14)に寄稿された「広報活動の効果的な組み立てと点検を」をご紹介します。


「AISAS」に対応した広報活動

最初の「A=Attention、大学を知ってもらう」ためには、高校生が進学先選択に際して見る媒体、または日常的に目に触れる媒体に大学の情報を掲載することが必要である。具体的には受験雑誌、新聞、ポスター、看板などを使っての大学情報の提供ということになる。存在を知ってもらわなければ選ばれようがないので、広報のスタートに当たる活動である。そしてこの段階から次の「I=Interest、興味を持つ」につなげるためには、知ってもらう段階でターゲットの興味を引くことのできる情報の掲載が必要となる。この意味では、学校名、学部名と所在地だけが記載されている大学の交通看板などは、「I」につなげる機能としては不十分であるといえる。

「I=興味を持つ」につなげるためには、ターゲットにとってのメリットが情報として提供されている必要がある。メリットとして何をアピールするかについては、前述の大学の現状認識、ターゲットのニーズ把握、競合校に対しての優位性を検討するプロセスの中から出てくることになる。皆さんの周りにある看板やポスターを点検してみると、メリットとなる情報が何も掲載されていない、抽象的な表現のものが多いことに気づくと思う。それは、このプロセスをきちんと経ていないことに大きな原因があるといえる。

次の「S=Search、検索する」の段階では、アピールポイントをより具体的に、より詳細に、かついろいろな切り口で伝えることが重要となる。具体的にはパンフレットやホームページで何をアピールするかということと、オープンキャンパスをどのように実施するかということになるであろう。いろいろな大学のパンフレットを見ていると、大学が伝えたいことと、ターゲットが知りたいことの間にギャップがあると感じられるケースも少なくない。例えば、伝統のある大学はその点を強調したくなるものであるが、伝統が生徒にとってどの程度のメリットがあるものなのかについては、吟味する必要があるであろう。ターゲットが大学選択の際に重視する事項について、日頃からアンケート等で把握していれば、パンフレットに掲載する事項や、そのボリュームもおのずから決まってくるであろう。

オープンキャンパスに関しては、ビフォー・アフターのアフターである学生の成長した姿を見せることが最も効果的である。また、学んでいる立場からの説明の方が、高校生には受け入れられやすいので、学部・学科内容の説明を学生に担当してもらうということも効果的である。在学生を活用する場合には、ある程度の事前指導は必要であるが、命令通りに動くということでなく、ある程度裁量を持たせた形で協力してもらう方が、高校生に近い立場にある学生ならではの工夫が生まれ、活性化したオープンキャンパスになるように思う。またオープンキャンパスは、その大学の熱心さが最もよくターゲットに伝わる機会なので、来場者の立場に立った対応が必須である。ある受験産業の調査によると、オープンキャンパスの日に最寄りの駅に出迎えのスタッフを配置していた大学は、調査した38大学中、わずか4大学であったという。不親切さをアピールしているようなものである。ここまでの段階での対応状況により、生徒は「A=Action、受験する」へと、行動を続けていくかどうかを決定することになる。

最後の「S=Share、分かち合う」は、入学後、大学の内容を知人等に話したりして評判を広めるという行動である。これは入学後のことであるが、最初の「A=大学を知ってもらう」や「I=興味を持つ」につながる、大事な広報プロセスである。ここは、その大学のさまざまな学生サポートサービスにかかっているところであるが、良いサービスを提供していてもそれが伝わらないということもある。そのようなことのないようにするため、在学生に評判を広めてもらうシステム、例えば定期的に出身校を訪ねてもらうとか、ホームページや受験生に送る資料に在学生を頻繁に登場させ、大学の良いところを伝えてもらうといった方法も実施するとよいであろう。

大学マーケットの需給関係からして、選択権は完全に受験生側に移っている。そのような状況の中では、一般的な商品の場合と同じく、「クチコミ」マーケティングが不可欠なものとなっている。これは費用もかからず、しかも大変強力な手段である。上手に活用することが広報活動における重要ポイントの一つといってもいいであろう。


広報活動の点検

以上のような広報のプロセスが順調に流れていれば、学生募集は所期の効果を上げられるはずである。そのような結果になっていない場合には、広報プロセスのどこかに課題があるといえる。この点を点検し、修正することが必要である。

「A=大学を知ってもらう」の部分が弱いのであれば、大学を知ってもらうための媒体を増やすなど、大学名が広く知られるための活動を展開する必要がある。ここは大学に対して資料を請求してくる生徒、すなわち受験者予備軍といえる母集団を形成する段階なので、ある程度の数を確保することが必要である。どのくらいの資料請求者があればいいのかという明確な基準はもちろんないが、首都圏にある大学、短大の場合で入学定員の15から20倍程度、近畿圏で20倍程度、それ以外の地方では15倍前後あれば合格ではないだろうか。

大学名を知り、多少の興味を持った結果、資料を請求してきた生徒に対して、大学のパンフレット等を送ることになる。それを見て、ある程度の強い興味を覚えた受験生は、ホームページを頻繁に閲覧したり、オープンキャンパスに参加したりという段階にまで進んでくることになる。すなわち「I=興味を持つ」の段階を経て、「S=検索する」の段階に入ってきたことになる。この段階まで進んできた受験生は、オープンキャンパスに参加して良い印象を感じたり、大学からのいろいろな働きかけに熱意を感じたりすることで、受験へとつながることになる。この段階で受験者予備軍が受験者となるのである。これも明確な基準はないが、大学、短大では資料請求者の10から15%がオープンキャンパスに参加し、そのうちの40から50%が受験につながれば、標準的と判断してよいだろう。

このプロセスが弱い場合には、弱い部分に応じてパンフレットやホームページの内容や表現方法、オープンキャンパスの内容、実施方法等を再点検していく必要がある。高校生や保護者のニーズに対応した、その大学ならではの特色がきちんとパンフレットでアピールされているだろうか。ホームページでは、高校生、保護者に伝えたい事柄が、分かりやすく、漏れなく盛り込まれているだろうか、といったことを再点検することが不可欠である。その結果、アピールポイント自体が不十分という場合は、それを創り出すことも必要になってくる。また、オープンキャンパスの内容、実施方法についても、参加者の立場に立って企画・実施されているかどうかをチェックする必要がある。

私の個人的な感覚ではあるが、学生募集に課題のある大学は、このアクセス者を受験者へとつなぎ止めていくプロセスが弱いように感じている。逆にいえば、ここを強化することで、ある程度の改善を図れる重要なプロセスと考えられる。(文部科学教育通信 No.279 2011.11.14)