2012年12月30日日曜日

今年も感謝

今年もあと1日になりました。

今年最後の日記では、「よかったなあ、という言葉」(2012年12月30日 人の心に灯をともす)から印象に残った部分を抜粋してご紹介します。

たった一言で、打ちひしがれた心が元気付けられることがある。
渇いた砂に水がしみこむように、心にしみる言葉。
それは、どんな時でも、「よかったなぁ…」で始まる言葉。
どんなに、ひどい目にあっても、嫌な目にあっても、よかったなぁと、心から感謝できること。
感謝の言葉、「有り難し」とは、この世にある事が稀(まれ)なこと、つまり奇跡のようなこと。
その反対は、「当たり前」。
「当たり前」の日常が奇跡の連続だと気がつけば、そこに感謝が生まれる。

今年も、たくさんの方々にアクセスいただきまして誠にありがとうございました。

皆様、どうぞよいお年をお迎えください。



2012年は世界中で何が検索されたでしょうか。
今年を振り返ってみましょう。
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2012年12月29日土曜日

公務員優遇

文教ニュース(平成24年12月17日 第2219号)に掲載された「田舎者の貧乏人を公務員にさせないために」をご紹介します。


公務員宿舎が半減され、入居できるのは例外的になり、運良く入れても家賃は倍になるらしい。要すれば、これからは安く住めるところなんか世話してやらないよ、ということだ。

背景は「公務員優遇」批判である。二十代の頃から大学の同窓会に出るたびに「俺の給料は同級生のちょうど半分なんだな」と自虐してきた身としては、「いったい何と比べて優遇なのか」と言いたくもなるが、言っても逆効果なのは目に見えているから、公務員らしくダンゴムシのように黙って堪えよう。

廃止される宿舎には、かつて世話になった独身寮も入っている。

もし自分が若い時代に戻って、「宿舎はないよ、自分で住むとこ借りるんだよ」という話だったら、果たして公務員になっただろうか、公務員を続けることができただろうかと考えてしまう。

田舎者で正真正銘の貧乏な家に生まれ育った私が東京で大学時代に住んだ下宿は、四畳半でトイレは共同、風呂無し、家賃月1万6千円という、当時でも超格安の物件だった。夜中に目を覚ますと、ウサギほどもある巨大なネズミとよく目が合ったものだ。

役所に入ってからも最初はそこで粘ったが、銭湯が開いている時間に帰れることはなく、さすがにこれはかなわんと独身寮に入れてもらった。

そこでも風呂は週3日しかないし、11時にはお湯が止まってしまうので、毎晩2時前後に帰宅する私は、浴槽の底に15センチほど残った油のように黒光りするぬるい液体に、まず背中、次に腹と、体を裏返して浸からねばならなかったが、それでも無いよりはずっとマシだった。

寮に入れなかったら、私は「汗かきのくせに風呂に入らない臭い奴」としてしか公務員を続けられなかっただろう。

世の中不景気だから公務員を叩いて憂さ晴らしをしたいのも分からんではないが、こんなことをやっていたら、中央省庁の役人には、東京近辺の出身者か親が金持ちの人間しかなれなくなってしまう。いや、もしかすると、今回の公務員宿舎減らしも、金持ちと東京人の上流階級で政府を支配せんとする巨大な陰謀の一部であるか。国会も相変わらず二世三世の天下だし。人は生まれながらにして平等、なんて大ウソだわね。

そんなんで本当にいいのかね。今よりもっと「貧乏人に冷たい国」になっていってしまうんだろうね。

やがて絶滅していく「田舎者で貧乏人の国家公務員」の一人としては、最後に少しは意地を見せたいところだが、その前に「家、どうするのよ!」という妻の怒りをどうやって鎮めればいいのか・・・。



2012年12月22日土曜日

大切なものを見過ごしていないか

ブログ「今日の言葉」から「大切なもの」(2012年12月21日)をご紹介します。


この週末はChristmasですね。

この時期になるといつも思い出すお話があります。

大切なものを見過ごしていないかを思い出させてくれるお話です。

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バースワロウテイルさんより

【サンタクロースへの手紙】

私には、4歳になる息子と6歳になる娘がいる。

夫とは、訳あって4歳になる息子が産まれてから会っていない。

お世辞でも裕福とはいえない状況で、毎年クリスマスが近づいてくると私は仕事を増やしていた。

サンタクロースを信じている子供たちにプレゼントを買うために。

まったく苦だとは思わなかった。

子供たちの笑顔が見られるなら、なんだって出来る。

今年もサンタクロースにプレゼントのお願いの手紙を書いている子供たちをみながらそう思っていた。

その日の夜・・・

子供たちが寝静まった頃、サンタクロース宛ての手紙を読んだ。

その手紙を読んだ瞬間、私は涙でいっぱいになった。

「さんたさんへ、

わたしたちは、さんたさんの ほんとうのすがたを、しっています。

ことしは、さんたさんのプレゼントはいらないから

ママといっしょに、ケーキがたべたいです。」


2012年12月20日木曜日

夢をつなぐ

ブログ「魂が震える話」より「クリスマスのお話」をご紹介します。とてもいい話です。


あるクリスマスの日の出来事です。

うちには6才の息子がいます。

我が家では、クリスマスイヴの夜、子供たちが寝静まった枕もとにおもちゃをそっと置いて、翌日の朝、子供たちが目を覚ました時に、おもちゃを見つけて、

「わ~、サンタがきた~!」

と、喜び、そして、そのおもちゃで遊ぶ、ということを年中行事にしていました。

その年もまた、同じように、子供たちの枕もとにおもちゃを置きました。

寝静まってから・・・。

次の朝、子供たちが起きた時に、「わ~、サンタがきた~!」 といつもと同じ光景が起こると思っていました。

そう信じていました・・・。

買ったおもちゃは、子供用のコンピューターでした。

そのコンピューターの電源を入れた時に、事件が起こりました。

電源をいくら入れてもつかないんです。

壊れていたんです。

お昼になるのを待って、買ったおもちゃ屋さんに電話を入れました。

責任者の方が出てこられて、こんな対応をされました。

「あー、故障ですか。それは申し訳ないですねー。

でもね、それは作ったメーカー側の責任なんです。

メーカーのお客様相談室に電話をしてください。

電話番号を言いますんでー」と。

少し「ん?」と思いながらも、おもちゃメーカーに、妻が電話をしたんです。

クリスマスの日に、おもちゃメーカーに電話してみるとわかりますが、繋がらないんですよね。

1時間に4回くらいの割合で、夕方くらいまでかけたんです。

タイミングも悪かったとも思うんですが・・・。

けれども、その日はとうとう繋がらなかったんです。

お昼をすぎた頃、息子は泣き始めました。

新しいおもちゃで遊べない。。。

泣く気持ちもわかるんだけど、その泣く息子を見て、妻は「あんた、ちょっとくらい我慢しなさいよ」 と・・・。

これはサンタさんからのプレゼントだから、僕も

「俺らが我慢しろよってのもおかしいだろ!」

と取り乱す一幕もあったんですが・・・。

しびれをきらして、夕方4時を回ったころに、買ったおもちゃ屋さんにもう一度、妻が電話をしました。

同じ人が出てきて、同じ対応をされました。

そこで、僕はちょっと腹が立つのをこらえて、電話を変わりました。

そしてこう言いました。

「クリスマスの日、お忙しいのに、故障の電話なんかして申し訳ありません。

もう修理は結構です。もういいんです。

電話を変わったのは、一つだけ、お伝えしたい事があったんです」

「はあ?」

と相手の人は、警戒心を強められました。

何、言うんだろうな、電話を変わってまで・・・と思ったでしょうね。

僕はかまわず、こう続けました。

「僕が、そちらのお店で買ったもの、それはなんだか解りますか?

僕が買ったもの、それは・・・

サンタクロースは、子供たちの心の中にいますよね。

子供たちは、イヴの夜、サンタに会おうと、夜更かしをするんです。

一時間経っても二時間経っても現れる様子はないんです。

そして、睡魔には勝てず、とうとう寝てしまいます。

次の朝には、枕もとにはおもちゃが置かれている。

そのおもちゃを見て、

『あー、サンタは本当にいたんだー』

そう思って、心踊らされて、遊ぶ。

その夢と子供たちの感動に、僕はお金を払ったんです。

僕がそちらで買ったもの、それはおもちゃでは無いんですよ。

その夢と感動です。

だから、クリスマスに、このおもちゃで遊べる事が、どれ程大切かという事を、それだけは理解していただきたいと思うんです。

また、余裕がある時に修理の方をお願いします」

そう言いました。

そして電話を切ろうとした時です。

その人は、しばらく黙っていました。

その後こう言われました。

「お客様、時間をいただけますか?」

「お客様がお買いになった子供用のコンピューター。

超人気商品で、この店には在庫はございません」

それを聞いて、調べてくれたんだなぁと思って、胸が「ぐっ」となりました。

「でも支店を探してみれば、一つくらいあるかも知れません。

もしあれば、今日中に届けさせていただきたいと思います。

ちょっと時間をいただけますか?」

「えっ、本当ですか?本当にあれば子供は凄く喜びます。お願いします」

僕は、そう言って電話を切りました。

電話を切ったあと僕は、

「頼む。あってくれよ!」

と期待に胸が張り裂けんばかりでした。

そして、ピンポンが鳴るのを心待ちにして、待ちました。

しかし、夜の8時になっても、誰も来る気配はありません。

子供たちは、すっかり寝支度ができて、布団の中に入りました。

「間に合わなかったな。きっと無かったんだな。

今年のクリスマスはガッカリだったな。

でも、こんな時もあるよな・・・」

と諦めていた、その時です。9時頃でした。

「ピンポ~ン!」 とベルが鳴りました。

僕は「よし、来た!」っと、小さくガッツポーズをしながらも、何食わぬ顔で子供たちを部屋に残し、玄関に向かいました。

ドアを開けたら、その人がコンピューターを抱えて立っていました。

しかも、サンタクロースの服を着て・・・。

僕は驚きました。

「えっ、サンタ?!」 と思わず口に出ました。

その人は言いました。

「サンタクロースです。お子さんをお呼び下さい」

僕は、漠然とスーツ姿の人を、想像していました。

スーツ姿で、代わりのコンピューターを持ってくる、そう思っていました。

でも、僕の前に立っていたのはサンタでした。

僕は興奮して、子供たちを呼びに行きました。

「早く降りておいで」

子供たちは、何事かと、どたどた階段を下りてきました。

そして、その人の姿を見た瞬間

「サンター!サンタだー!!」

驚きながらも、次の瞬間にはピョンピョン跳ねていました。

サンタはしゃがんで、子供たちの目線に合わせてこう言いました。

「ごめんね。サンタのおじさん忙しくてね。

壊れたおもちゃを持ってきてしまったんだ。

ごめんね。はい、これはちゃんと動くからね。

お利口にしていたら、来年もまた来るからね」

そう言って、頭を撫でてくれました。

僕は、子供たちを部屋に戻して、その人にお礼を言いました。

「ありがとうございました。本当に子供の夢をつないでくれました。

サンタにまでなっていただいて、本当にありがとうございました」

その人はこう言いました。

「私たちが売っている物はおもちゃではないんです。

夢と感動なんです。

忙しさにかまけて、大切な物を忘れていました。

それを教えてくれて、ありがとうございます」と。

「とんでもないです。こちらこそ本当にありがとうございます。

こんなことをしていただけるなんて、これから僕は一生あなたの店からおもちゃを買います。

いい社員さんがいる会社ですね」

と僕はそう言いました。

その人は泣かれました。

僕も思わず泣いてしまいました。

その夜はとても不思議な気分で眠れませんでした。

眠らなくてもいい、そう思いました。

「なぜ、あの人はサンタの服できたんだろう?」

そう考えるとずーっと考えていました。

そして、いきついた言葉、それは「感動」でした


ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2012-02-21

2012年12月18日火曜日

大勝の責任

一昨日行われた衆議院議員選挙では、自民党が圧勝しました。これからこの国の教育の舵取りはどうなるのでしょうか。右傾化政権とも言われていますし、心配はつきません。

とりあえず、自民党が選挙前に作った「政権公約」を見ておきましょう。「教育・人材育成」(文部科学省所管事項)だけでも膨大な公約です。絵に描いた餅にならぬよう、しっかりと具現化してもらいたいものです。

それにしても、これだけの政権公約を書くためには、文教政策にかなり精通した能力を持つ必要があります。ネタ元はもしかして、文部科学省の官僚さんたちなのかもしれませんね。


日本を取り戻す。自民党の「約束」です。


Ⅲ 教育・人材育成、科学技術、文化・スポーツ


「人づくりは国づくり」。日本の将来を担う子供たちは、国の一番の宝です。わが党は、世界トップレベルの学力と規範意識を備え、歴史や文化を尊重する態度を育むために「教育再生」を実行します。日教組の影響を受けている民主党には、真の教育再生はできません。

60 世界トップの人間力と学力を実現するための教育投資の充実

『教育基本法』の理念に基づき、「自助自立する国民」「家族、地域社会、国への帰属意識を持つ国民」「良き歴史、伝統、文化を大切にする国民」「自ら考え、判断し、意欲にあふれる国民」を育成します。そのための「教育振興基本計画」「新学習指導要領」を確実に実施するため、恒久的な財源を確保し、OECD諸国並みの公財政教育支出を目指します。第1期「教育振興基本計画」の成果を検証のうえ、教育基本法に則った第2期基本計画を策定し、実行します。

全国学力・学習状況調査を全国一斉の学力テスト(悉皆〈しっかい〉調査)に戻し、すべての子どもの課題把握、学校・教職員の指導改善に活かします。さらに土曜授業を実現します。

61 わが国を愛する心と規範意識を兼ね備えた教育

国旗・国歌を尊重し、わが国の将来を担う主権者を育成する教育を推進します。不適切な性教育やジェンダーフリー教育、自虐史観、偏向教育等は行わせません。規範意識や社会のルール、マナーなどを学ぶ道徳教育や消費者教育等の推進を図るため、高校において新科目「公共」を設置します。

中学・高校でボランティア活動やインターンシップを必修化し、公共心や社会性を涵養します。職業教育やキャリア教育、農山漁村地域での体験学習等を推進します。あわせて「村祭り」など地域に根差した伝統・文化や、スポーツクラブ、サークル活動などの地域の絆を守り、コミュニティを支える取り組みを支援(「伝統文化親子教室」の創設など)します。

62 公教育における国の責任体制の確立

義務教育については国が責任を果たすとの理念に立ち、教育の正常化を図ったうえで、教育の地域間格差が生じないよう、義務教育費国庫負担金については、国が全額負担することを含め検討します。

さらに、地方自治の精神を尊重しつつ、いじめの隠ぺいなど、地方教育行政において、法令に違反している、あるいは児童生徒の「教育を受ける権利」を著しく侵害するおそれのある場合、公教育の最終責任者たる国(文部科学大臣)が責任を果たせるよう、『地方教育行政の組織及び運営に関する法律』を改正します。

63 激動の時代に対応する、新たな教育改革(平成の学制大改革)

世界トップの教育立国とするため、幼児教育の無償化、小学校5・6年生への教科担当制の導入、飛び級制度、中学・高校において未達成科目の再チャレンジ、義務教育化を含めた高等学校の理念・あり方等、現行の6・3・3・4制の是非について検討し、子どもの成長に応じた柔軟な教育システムとするため、新時代に対応した「平成の学制大改革」を行います。あわせて、改正教育基本法に対応した関係法令の見直し・改正を行います。

小・中学校卒業時における学力評価や高校での達成度試験の実施を図り、確実に学力を身につけさせます。あわせて、高校在学中に何度でも挑戦できる達成度テスト(日本版バカロレア)の創設や、それを前提とした論文、面接、多様な経験重視で潜在力を評価する入試改革など、大学全入時代の大学入試のあり方そのものを検討します。

高校授業料無償化については、所得制限を設け、低所得者のための給付型奨学金の創設や公私間格差・自治体間格差の解消のための財源とするなど、真に公助が必要な方々のための制度になるように見直します。

大学の9月入学を促進し、高校卒業から入学までのギャップターム(半年間)などを活用した大学生の体験活動(国とふるさと、環境を守る仕事、例えば、海外 NGO、農業・福祉体験、自衛隊・消防団体験等)の必修化や、学生の体験活動の評価・単位化を行い、企業の採用プロセスに活用します。

一度社会に出てからも、学び直しができるよう、社会人が再び大学で学べるシステムを導入し、キャリアアップの機会保障と再チャレンジを促進します。

64 教育委員会※の責任体制の確立と教育行政の権限のあり方の検討

地方分権を受けて、自治体の教育政策決定や教育行政運営において、首長や地方議会の役割が高まっています。いじめ問題でも明らかになった、形骸化・名誉職化しているなどの批判がある教育委員会の責任体制を再確立し、本来の職責を果たせるよう、教育の政治的中立を確保しつつ、自治体の教育行政に民意を反映させ、効率的・迅速に運営する必要があります。

例えば、首長が議会の同意を得て任命する常勤の「教育長」を教育委員会の責任者とするなど、国と地方の間や、地方教育行政における権限と責任のあり方について、抜本的な改革を行います。

65 真に教育基本法・学習指導要領に適った教科書の作成・採択

教育基本法が改正され、新しい学習指導要領が定められてから、初めての教科書の採択が、小学校と中学校で行われ、本年は高校の教科書採択が行われましたが、多くの教科書に、いまだに自虐史観に立つなど、偏向した記述が存在します。

真に教育基本法・学習指導要領に適った、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできたわが国と郷土を愛する」ための教科書で、子どもたちが学ぶことができるよう、教科書検定制度や、副読本なども含めた教科書採択の構造について、文部科学大臣が各教科書共通で記載すべき事項を具体的に定める、複数の説がある際は、多数説・少数説を明記し、数値については根拠を示す等、抜本的に改革し、いわゆる「近隣諸国条項」に関しては、見直します。

66 安心して、夢の持てる教育を受けられる社会の実現

質の高い教育ときめ細かい指導を行うために、わが党の考えを受け入れて改正された『公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律』に基づき、教職員定数のあり方全般について検討を行います。さらに東日本大震災の被災地に対する教職員の加配やスクールカウンセラーの充実等を引き続き措置し、あわせて被災地の教職員の心のケアも図ります。

いじめや不登校の解決のため、スクールカウンセラーの充実等、問題を早期に発見し、適切に対応できる体制をつくります。

小・中・高で17万5千人を超える不登校者、5万5千人を超える高校中退者(平成22年度)を減少させるための教育を実現します。

真に公助が必要な児童・生徒が安心して学校に通えるよう、就学援助制度の拡充(援助の対象や国庫補助など)や、給食費の無償化、給付型奨学金の創設、特に私学における低所得者の授業料無償化等を行い、家庭の経済状況に関わらず、志ある子どもたちの夢を徹底支援します。

67 いじめを無くし、一人ひとりを大切に(『いじめ防止対策基本法』の制定)

文部科学省が11月22日に公表した「いじめの緊急調査」の結果は、驚愕すべきものでした。本年4月からの半年間で、いじめの認知件数が、昨年度の2倍を超える14.4万件であったことに加えて、「児童生徒の生命又は身体の安全がおびやかされるような重大な事態に至るおそれがある事案」(これは「いじめ」ではなく「犯罪」に他なりません)の件数が、278件にものぼりました。学校現場は、極めて深刻な状況にあります。

「いじめは絶対に許されない」との意識を日本全体で共有し、加害者にも、被害者にも、傍観者にもしない教育を実現します。

第一に守るべきは、いじめの被害者です。いじめを繰り返す児童生徒への出席停止処分や、行為が犯罪に該当する場合は警察に通報する(いじめと犯罪の明確な区別)、道徳教育の徹底など、今すぐできる対策を断行します。

『いじめ防止対策基本法』を制定し、全都道府県や全市区町村において『いじめ防止条例』を制定する、いじめ対策アドバイザーを設置するなど、統合的ないじめ対策を行うとともに、いじめ対策に取り組む自治体を、国が財政面などで強力に支援します。

68 公私間格差の是正・私学助成の拡充

公教育において私学が果たしてきた重要性に鑑み、私学の建学の精神を尊重しつつ、『私立学校振興助成法』の目的の完全実現(教育条件の維持・向上、修学上の経済的負担の軽減、経営の健全性向上)のため、公私間格差の解消を図るとともに、2分の1を目標に私学助成の拡充を目指します。

69 教育の政治的中立を確保するための「新教育三法」

教育公務員を「教育専門職」と明確に位置づけ、「教育公務員倫理規程」(仮称)を制定して、職務規律を確立します。

『教育公務員特例法』違反者に対する罰則規定を設け、教職員組合(日教組等)の政治的中立確保及び、選挙活動・強制カンパ等の違法活動を防止します。教職員組合の収支報告を義務づけ、公金を原資とした資金の透明化を図るとともに、違法活動団体は、 『地方公務員法』に定める人事委員会の登録団体から除外します。『義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法』の徹底を図り、教育委員会等に必要な調査を義務づけるための法改正を行います。

北海道教職員組合による民主党議員への違法献金事件では、教育委員会が行った勤務実態調査により、勤務時間中の組合活動など数多くの違法行為の実態が明らかになりました。わが党はこれを厳しく追及し、給与(義務教育費国庫負担金)の不正受給にあたるとして、会計検査院による調査を実施させました。これを受けて、北海道・札幌市の教育委員会が、すべての教職員を対象とした再調査を行いました。11月26日に、北海道教育委員会が調査結果を公表しましたが、4千人以上の不適切・不自然な勤務実態が判明し、1千3百万円あまり(うち国庫負担金約4百万円)の給与が返還対象となるという、極めて問題のある結果でした。

わが党は、引き続き、教育現場の正常化に徹底的に取り組みます。さらに、わが党の指摘により発覚したPTA会費の不正使用について、徹底的に全国調査を行わせ、再発を防止します。

70 教師力を向上し、適切な教育内容を確保

世界のリーダーとなる日本人を育成できる力ある教師を養成するため、大学・大学院卒業後、准免許を付与し、インターンシップ(1~2年間)を経て、採用側と本人が自ら適性を判断し、インターンシップ修了後、認定の上、本免許を付与して正式採用する、「教師インターンシップ制度」を導入するなど、教師力向上のための改革を行います。

メリハリある給与形態の確立や優秀教員認定及び教員が子どもたちに没頭できる教育システムを構築し、真に頑張っている教師を徹底的に応援します。教員の勤務評価及び、それに基づく処遇が適切に行われるよう、教育長及び校長の責務を設けます。

教育長、指導主事、校長、主幹、教諭等の役割と責務を法律上明記し、責任体制を確立します。教員人事への教職員組合等の介入を排し、教育委員会の責任のもと、バランスのとれた教員配置を実現します。任意設置となっている主幹教諭を「必置」とし、一部の地域で教職員組合に流用されている主任手当、及び主任制度を廃止します。

教職員の資質向上と教育水準の維持・向上のため、教員免許更新制度の運用面での課題を是正し、実効ある制度設計を行います。一方、指導力不足教員は教壇に立たせません。

さらに、わが党政権時代の「教員の長期社会体験研修事業」のように、現職の教員を民間企業や、社会福祉施設などに派遣して交流を図ることなどにより、教員の視野の拡大を図るとともに、社会人教員の採用や特別免許状の発行の拡大などを行い、多様な人材を確保します。

71 安全・安心な学校環境の構築

災害からの子どもたちの生命・身体の安全の確保に加え、津波からの避難ビルとなるなど地域の避難所として重要な役割を果たしている学校施設について、天井材などの非構造部材を含め耐震化・老朽化対策を加速させます。あわせて、災害時においては学校施設が避難所となることから、独立して域外と連絡可能な通信設備の設置や、自家発電装置の設置、プロパンガス設備、井戸の設置、汚水対策として浄化槽の設置等、学校施設の防災拠点としての整備を進めます。さらに、各自治体が財政上、困窮していることに鑑み、国からの補助率のかさ上げを含め、追加的な支援のあり方について、早急に検討します。

東日本大震災の教訓を活かし、保護者が帰宅困難になった際などに、子どもたちを学校に留め置いて安全を確保するなど、保護者や子どもの立場に立った災害対応体制を整備します。

地震・台風・火災などの災害を身近な危険として認識し、日頃から備え、災害の被害を防ぐため、地域の実情に合った「防災教育」を充実します。

あわせて、通学路の安全を確保するなど、子どもたちが安心して通学できる学校環境を整備します。

72 幼児教育の充実・強化と幼児教育の無償化

『教育基本法』の定めの通り、幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものです。すべての子どもに質の高い幼児教育を保障するとともに、国公私立の幼稚園・保育所・認定こども園を通じ、すべての3歳から小学校就学までの幼児教育の無償化に取り組みます。

就学前の多様化する教育・保育ニーズに柔軟に対応するため、幼稚園・保育所・認定こども園の教育機能の充実・強化を図ります。

73 家庭教育の支援体制強化

すべての教育の出発は家庭教育であり、『教育基本法』では、保護者が子どもの教育について第一義的責任を有すること、国や地方公共団体が家庭教育支援に努めるべきことを定めています。幼児教育の前提として、安定した家庭の存在が不可欠であり、孤立しがちな若い親に対し、家庭教育を支援する施設をきめ細かく設置する等の支援体制を強化します。

74 読解力を高める国語教育

国語科は各教科等の学習の基盤であり、小・中・高等学校を通じて国語教育の一層の充実を図ること、特に、読解力、知識・技能の活用等、思考力・判断力・表現力の育成を重視することが必要です。そのため、国語科の授業について、「子どもの言語能力を育てる授業」へと改善し、具体的には、OECD/PISA調査の読解力の育成のため、子どもが「聴いて→考えて→つなぐ」学習を展開します。

75 英語(外国語)教育の充実

「教育振興基本計画」には「小学校段階における外国語活動を含めた外国語教育の充実」を目指す「新学習指導要領」の着実な実施が盛り込まれています。国際的共通語となっている「英語」のコミュニケーション能力を身に付けることは、子ども達の将来のためにも、わが国の一層の発展のためにも、非常に重要な課題であり、今後とも外国語教育の充実を図ります。

76 理数教育及び才能教育の大幅な充実・強化

次世代を担う理数好きな子どもを増やすため、体験活動や実験教室の充実、理工学部の学生や企業関係者等の外部人材の活用、さらには理数教育に携わる教員の指導力向上等、初等中等教育段階での理数教育を大幅に充実します。

将来、世界のリーダーとなるような明確な目的意識を持つ子どもの育成に向けて、優れた資質を伸ばし、育てる才能教育を強化します。「スーパーサイエンスハイスクール※」を一層拡充するとともに、国際科学オリンピックに参加する児童生徒数の大幅な増加を促進し、国際的な交流機会を拡大します。

77 真に外国人との友好を築く日本語教育

外国人の子どもが公立学校に通っても、日本語が分からない等の理由により授業についていけず、不就学になる者が多いとの指摘があり、日本語指導員の配置等、学習者の日本語能力に応じたきめ細かな受入体制を構築します。

外国人の大人に対する日本語教育は、体制が十分に整備されているとは言えません。外国人に対する日本語教育の質と量を十分に確保するためには、日本語を学習する機会の拡充が必要であり、『日本語教育推進法』を制定し、「生活者としての外国人のための日本語教育事業」等を継続的に実施・充実させるなど、真に外国人との友好を育むための環境整備を行います。

78 一人ひとりを大切にし、充分に力を伸ばす特別支援教育

養護教諭の複数化の充実、特別支援教育コーディネーターの機能強化、高等学校への支援員の配置、発達障害のある児童生徒の実態調査を検討した個々の生徒に必要な教育環境の整備、ICT等の技術を活用した教材等の研究、指導内容・方法の工夫改善、障害のある生徒に配慮した高校入試の実施、中・高連携による進路指導の充実、特別支援学校等と産業界との連携による実践的指導の実施、障害者就労支援コーディネーターの配置、国立大学法人附属学校における特別支援教育の推進・充実等に重点的に取り組みます。

すべての小中高教員が特別支援教育の基礎を身につけられるようにし、発達障害を含む障害のある子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じた適切な教育を推進します。

79 受験一辺倒でない多様な選択肢を持つ教育

人材育成に関する社会の要請に応えるため、普通高校以外に、最先端の職業教育を行う専門高校を整備する等、多様性・専門性のある選択ができるようにします。

高等教育における産学連携を強化するとともに、専門学校の果たしてきた実績に基づき、職業教育に特化した新しい高等教育機関を創設し、『学校教育法』上の地位についても検討します。現状の専修学校・各種学校の存在意義を十分認識して、他の学校群との制度的格差の解消を目指し、財政的支援や教育内容の充実に向けての公的支援等を図ります。

大学等と産業界・地域社会とのより幅広い連携協力の下で、インターンシップを充実させます。地域密着型のコミュニティカレッジ化により、技能習得と就労を支援します。

80 高等教育政策・大学政策の積極的な推進(大学ビッグバン)

「大学力」は国力そのものであり、質・量両面の充実・強化が必要です。経営が悪化したり、質が著しく低下した大学の改善を促し、成果が認められない時は退場を促す仕組みの確立や、社会や学生ニーズの観点からの新規参入認可プロセスの明確化など、大学強化のための設置基準の見直しを行います。

世界トップレベルの大学は特区化し、諸規制を撤廃します。オープンラボ、研究サポートスタッフの設置を義務化します。世界トップレベルの大学の博士号を持つ若手研究者の大量スカウト、資金支援などを行います。

大学教育の質の保証徹底を義務化し、評価に基づく資金の重点配分(授業評価、教員の業績評価の厳格化等)を行います。

開かれた教育と研究体制をつくり、学長のリーダーシップを強化するため、学長と教授会の役割の明確化や、学長を支えるスタッフ(理事、副学長、財務等の専門スタッフ)の抜本的強化、学長裁量経費の充実などを行います。

私立大学の収入の約8割は学生納付金であり受益者負担が重く、国公私立大学の設置形態論・経費の受益者負担論の見直し等を行い、財政支出の仕組みを再構築します。地域共創(大学と地方・地域社会、産業の連携)運動を積極的に推進します。

81 国立大学法人運営費交付金等の安定的な確保

わが国の基礎科学の中核を担っているのは、多様な人材が集い、教育活動や研究活動を行っている大学ですが、近年、その安定的な教育研究活動を支える基盤的経費(国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金、私学助成)が大幅な減少傾向にあります。

これにより、教員数の維持や施設・設備の管理・運用等で、多大な困難が生じていると指摘されていることから、わが国の基礎科学を強化する観点からも、これらの基盤的経費を安定的に確保します。

東日本大震災の被災地にある大学が、被災地復興の拠点として研究やプロジェクト実践を進められるよう、重点化して支援を行います。

82 大学院教育の抜本改革

大学院について、研究活動のみならず教育活動を一層重視し、文系・理系それぞれの設置目的に応じた多様性を確保して、体系的かつ集中的な人材育成の取り組みを強化します。社会の多様な場で活躍する人材を育成・確保するため、産業界や優れた人材育成の取り組みを行っている公的研究機関等との密接な連携・協力を推進し、社会人が学べる環境を整備するなど、大学院における教育活動を強化します。

世界をリードする大学院の形成を促進するとともに、世界水準にある大学院の層に厚みを持たせるため、世界最先端の優れた教育研究活動を行う大学や、特定分野で質の高い教育研究活動を行う大学等に対する重点的支援を強化します。教育研究活動の閉鎖性・排他性を排除するため、学問分野別に細分化されて設けられている学協会の改革を促進します。

83 博士課程学生に対する支援強化及び若手研究者の活躍促進

入学金や授業料免除の対象拡大、給付型奨学金の創設、ティーチング・アシスタント及びリサーチ・アシスタントの充実など博士課程学生への経済支援を抜本的に拡充し、学生全員が安心して学べる環境を整備します。

単なる任期付きではない若手研究者のポストを大幅に増やすとともに、キャリアパスを多様化するため、産業界の研究職や知的財産管理等の研究支援に携わる専門職等での活躍を促進します。公的研究機関等における、ポスドクなどを対象とした専門人材育成の取り組みを支援し、活躍機会を拡大します。若手研究者が自立して研究に専念できるようにするための新たな研究資金制度として、当該研究者の名前を冠した「冠プロジェクト」を創設します。

84 「留学生30万人計画」と学生・研究者の国際交流の積極的推進

「留学生30万人計画」の実現を目指し(当面20万人目標)、国・地域・分野等に留意しつつ、優秀な留学生を戦略的に獲得します。東日本大震災の影響により、日本で学ぶ留学生や研究者が減少しないよう、日本の学校や研究機関の教育研究活動に関する情報発信の強化、生活支援など在学時の受け入れ環境づくり、卒業・修了後の就職支援など社会の受け入れの推進を図ります。

わが国の学生や若手の研究者が内向き志向にあると指摘されており、世界で活躍する優れた人材の育成を強化するため、高校生を含む学生の留学機会を拡大するとともに、若手をはじめとする研究者の海外研鑽の義務づけや機会の大幅拡大を推進します。

世界水準の教育研究活動を展開するためには、海外から優れた研究者を受け入れ、協働で研究活動に取り組むことが不可欠であり、奨学金の充実や受け入れ機関の体制整備、周辺の生活環境の整備等を推進し、優秀な留学生や海外からの研究者の受け入れを大幅に拡充します。

85 『スポーツ基本法』に基づく「スポーツ立国」の実現

スポーツを国家戦略として推進するため、わが党主導により議員立法で制定した『スポーツ基本法』に基づき、「スポーツ立国」を実現するための諸施策を強力に推進するとともに、スポーツ庁、スポーツ担当大臣を新設します。

スポーツを人間の調和のとれた発育に役立てるため、文化や教育と一体として捉え、競技的価値のみならず、教育・健康・国際交流促進などを拡充することにより、スポーツを国民に浸透させ、その文化的・教育的価値や社会的責任を高めます。

オリンピック等国際大会で日本人選手が活躍できるよう、ナショナルトレーニングセンター※の利用を無料化する等、国際競技力向上に向けた諸施策を推進するとともに、わが国の復興を示す象徴として、2020年東京オリンピック・パラリンピックを招致するため、国立霞ヶ丘競技場を全面改修し、被災地での競技開催とキャンプ地の全国展開を実現します。あわせて、2019年ラグビーワールドカップの成功に全力を尽くします。さらに、各競技の国際大会の誘致に取り組みます。

学校における体育や運動部活動の充実、全国体力・運動能力等調査の結果の活用による子どもの体力向上の取り組みを推進します。国民体育大会、総合型地域スポーツクラブ、指導者養成事業など各種スポーツ振興事業の充実を図り、国民各層のスポーツの生活化を促進します。

86 スポーツ振興体制の充実・強化

スポーツ振興に対する一層の財源を確保するため、独立行政法人日本スポーツ振興センターの実施する「スポーツ振興くじ」の拡充を行い、助成対象団体等が申請しやすいシステム整備を検討します。また、寄付金の全額が法人税の損金算入の対象となるよう、指定寄付金のあり方について検討します。

生涯スポーツの振興並びに競技力の向上を実現していくため、スポーツ関係団体・組織の一層の充実・活性化を目指し、プロ、アマチュアを問わないアスリートの雇用促進や引退後の選手の生活の保障も合わせたセカンドキャリアの活用をはじめ、優れた人材並びに財源の確保を図り、地域スポーツ社会における人材の好循環と社会貢献を目指します。そのために、スポーツ立国戦略にあるワンストップの「セカンドキャリアセンター」の創設を検討します。

87 世界に誇るべき「文化芸術立国」の創出

文化が新たな国富を生み出す観点からも、既存施設の改修や人材の積極的育成など、世界に誇るべき「文化芸術立国」を目指します。日本文化を戦略的に海外発信するため、伝統的な文化・芸術の継承・発展を引き続き推進するとともに、アニメなど新たな日本ブランドとしてのメディア芸術の振興や人材育成、制作者の待遇改善を図ります。文化交流の相手先と内容の重点化、優れた芸術の国際交流の推進、海外の日本語教育拠点の拡充等を行います。

文化芸術の創造性が産業や地域の活性化に結びつく取り組みを行う「文化芸術創造都市」が全国各地に形成されるよう支援します。また、義務教育期間中に、すべての子どもが、質の高い文化芸術を最低2回(伝統文化と現代文化を各1回)は鑑賞・体験することができるようにするとともに、地域に伝わる伝統芸能などを、親や子ども達にしっかりと伝えるための「伝統文化親子教室」を創設します。

わが国の文化関係予算は高い水準にあると言えず、「文化芸術立国」の創出に向けて、予算の増額を目指します。

88 文化芸術活動の支援、文化財の後世への継承

文化芸術団体の円滑な活動のため、専門的人材の育成や意欲的・先進的な活動に対して、手厚い支援を行います。寄付文化の醸成を図るための税制上の優遇措置を検討します。東京には伝統寄席演芸の鑑賞の場(国立演芸場)がありますが、関西にはないため、関西(大阪)における「国立伝統芸能演技場」(仮称)の設立について検討します。

東日本大震災で被災した文化財の復旧を進めるとともに、地震や火災等の災害から文化財建造物を護るための防災対策を推進します。貴重な民俗文化財について、後世に確実に引き継いでいくため、映像記録(デジタルデータ)等の作成を推進します。

89 世界遺産・無形文化遺産などの保存・活用

昨年、小笠原諸島と平泉がユネスコの「世界遺産」に登録されました。わが国には、12件の文化遺産、4件の自然遺産があります。さらに、地域に根付く伝統・慣習など文化の多様性を象徴する「無形文化遺産」では、能楽や人形浄瑠璃文楽、歌舞伎など20件が登録されています。また、国連食糧農業機関の「世界農業遺産」には、新潟県佐渡市と石川県能登半島が登録されています。

これらの世界遺産・無形文化遺産などの保存・活用を図ることによって、海外への日本文化の発信及び諸外国との相互理解の増進や、わが国の文化を再認識し、歴史と文化を尊ぶ心の育成、文化財の次世代への継承などを積極的に推進します。

90 「科学技術・イノベーション推進」の国づくり

震災復興の原動力として「科学技術・イノベーション推進」の国づくりを目指すため、人材・予算・制度や研究体制の改革など、科学技術基盤を根本から徹底強化します。安保・外交、経済・財政、規制改革等の総合戦略として科学技術イノベーション政策を位置づけ、官邸のリーダーシップを発揮するための司令塔を整備します。特に、福島第一原子力発電所事故対応の教訓を踏まえ、政治決定と科学的助言の機能強化を図ります。

第4期科学技術基本計画で掲げている25兆円を上回る政府研究開発投資総額を目指し、必要な経費の確保を図ります。

「事業仕分け」により停滞してしまった地域発のイノベーション創出を改めて強力に推進し、地域の元気を科学技術により取り戻します。

世界をリードする新たな知の資産を絶え間なく創出し続けていくためには、研究者の自発性や独創性に基づいて行われる研究の一層強力な推進が不可欠であり、これを支える科学研究費補助金をはじめとする競争的資金について、その多様性や連続性を確保しつつ、大幅に拡充します。同時に、すべての競争的資金について、間接経費30%を確保します。

91 イノベーションの実現に向けた制度改革

新たな産業や雇用を創出するため、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現するとともに、イノベーションを妨げる各種規制を官邸=司令塔主導で抜本改革します。

研究開発税制やエンジェル税制の対象拡充等の税制改革や、ベンチャー支援の充実等の制度改革、特許等の知的財産の迅速な保護及び円滑な利活用を促進するための知的財産制度の改革、イノベーションの隘路となっている規制や社会制度等の改革を強力に推進します。国際標準の獲得を目指す各国の動きが一層活発化していることから、特に、アジア諸国等との連携・協力の促進を念頭に置いて、官民協働による戦略的な国際標準化活動を抜本的に強化します。

わが国が優れた先端技術を持つ基幹インフラについて、建設から運用、人材養成への寄与までを一体システムとしてとらえ、官民協働による海外輸出・展開活動を大幅に強化します。

92 世界に冠たる研究開発拠点の形成

イノベーションを生み出していくためには、大学や公的研究機関、産業界等が集い、協働で研究開発に取り組む「場」の構築が必要です。特に、わが国の強みを有する分野において、地域資源等も柔軟に活用しつつ、オープン・イノベーションに対応した「競争」と「協調」による世界最先端の研究開発拠点を形成します。

わが国が世界の頭脳の獲得における中核的な地位を占めていくためには、国内のみならず海外の優れた研究者を惹きつける国際的な研究ネットワークの拠点形成が不可欠であり、「世界トップレベル研究拠点(WPI)」の大幅な拡充や、素粒子分野の大規模プロジェクトであるILC(国際リニアコライダー研究所建設)計画等を含む国際科学イノベーション拠点作りに日本が主導的な役割を果たすなど、世界水準をしのぐ優れた研究活動を行う大学や公的研究機関などに対する支援を抜本的に強化します。

93 科学技術の国際活動の強化

わが国の科学技術水準の一層の向上を図り、自然災害や感染症等、地球規模で発生する深刻な課題の解決に積極的に貢献するためには、諸外国との連携・協力を一層強化することが不可欠です。先端分野での科学技術協力や 0DAを活用した科学技術協力等、科学技術外交を大幅に強化するとともに、新興国の科学技術力の急伸等に時機を逸せず対応し、国家存立のために必要な科学技術を強力に推進します。また、優れた教育活動や研究活動を行う国内の大学と海外の大学との連携・協力を進め、外交面からも、これらの教育研究活動の積極的な活用を促進します。

さらに、海外動向の収集・分析体制を確立するとともに、安全保障に関わる技術等の管理を強化します。一方で、国際的な核不拡散体制の強化に向けて、わが国の技術を積極的に活用し、これに貢献していきます。

94 戦略的宇宙政策の推進

国際的なプレゼンスの確保と日本の国益のために、必要な予算を確保し、宇宙科学の推進と不断の研究開発に加え、国民生活の質の向上のための利用の促進、安全保障対応、産業振興等を加速させます。

宇宙の開発利用体制は、『宇宙基本法』の理念と、宇宙基本計画に明記された5年間2兆5千億円の事業試算に基づき、ロケットなどの輸送系及び衛星システムの開発・整備・運用など宇宙の開発利用を強力に推進するための重要分野・重点プロジェクトへの資源配分を行う等、戦略的な宇宙政策を実施していきます。そのために、予算編成に権限を有する内閣府の宇宙政策委員会及び、執行機関である独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の理事長及び理事に国家観をもった人員を配置し、内閣総理大臣の重要な政策の一つとして、宇宙科学の振興、宇宙産業基盤の振興、わが国の安全保障、シーレーン確保、戦略的ODA、資源外交、海洋政策等と宇宙政策等と密接に連携させます。


2012年12月17日月曜日

我が国の教育投資を考える

文部科学省の中央教育審議会教育振興基本計画部会(第23回、11月16日開催)、同審議会大学分科会(第111回、11月27日開催)において、「教育投資の現状に関する考え方」という資料が配付され議論されています。

いずれも議事概要がまだ公表されていませんので、議論の内容を確認することはできませんが、財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会により行われた「財政について聴く会」(文教・科学技術関係予算、平成24年11月1日開催)における議論に対する文部科学省の主張といった性格もあるのではないかと思います。

(過去記事) 国立大学の予算を考える(大学サラリーマン日記)




関連して、文部科学教育通信(No.305 2012年12月10日号)に掲載された記事「文科省教育投資の現状に関する考え方を公表」をご紹介します。

文部科学省はこのほど、教育投資の現状に関する考え方をとりまとめた。「教育投資総論」「教職員定数改善」「大学教育」の三つからまとめられており、総論では、「未来への投資」である教育投資が不可欠なことを、わが国の公財政支出の水準が国際的に低水準であることや、家計への教育費負担が著しく大きいこと、また少子化だからこそ一人一人の能力を高める「人材への投資」が必要になることなどから示している。





大学教育については、国際競争力を支える高度人材の育成のため、質量両面の充実が必要だと結論。

特に、わが国の大学では社会人や留学生の受け入れが少ないことや諸外国と比べて人口あたりの博士号・修士号取得者が少ないことなどから、生涯にわたる学習機会の確保や高等教育における多様性に課題がある。また、諸外国に比べてわが国の大学は、授業料は高く、奨学金の受給率が低い。家計の教育費負担の軽減や少子化対策の観点からも無利子奨学金を充実することが重要だ。

このような中で、私学助成については一般補助の傾斜配分を強化し、現状でも約10校に1校程度
は不交付となっているなど、メリハリある資源配分を行っている。また、国立大学については平成19年までに15校減り86大学になるなど再編統合が行われ、各大学においても人件費の削減や有期教員の採用を増やすなど効率化が進められている。しかし、社会経済の構造的変化の中、国立大学の機能を再構築の上、さらに強化することが必要だ。6月に公表した「大学改革実行プラン」に基づいて、すべての国立大学に対して「ミッションの再定義」を行い、社会や国民の期待に応えるよう、国立大学改革を推進したい考えだ。





11月16日に行われた教育振興基本計画部会(第23回)では教育投資について審議が行われ、高等教育関係では、委員から次のような意見があった。「三人の子どもを私立大学に通わせると大変な経済状態となる。こんなことが続いていたら、日本はやはり少子化になるのではないか」「問題は家計に占める高等教育費の負担率」「経済格差が学力や学歴の格差につながり、大学卒業後も困難な状態に陥る」「高等教育の教育費負担は、授業料のほか子どもを都会の大学に行かせることによる生活費への圧迫が非常に大きい」「誰もが所得にかかわらず、一定の学力があれば大学で学ぶことができる国にしていくことが重要」「大学生が勉強しないのは学生の問題ではなく教員の問題」「大学教育の質的転換を、大学教員の教育の質的転換として本格的にやっていかない限り、教育費の問題も砂上の楼閣になる」「ソフト面での見えない危機を見えるようにアピールしなければならない」。


2012年12月16日日曜日

自分でやってみろ!

記憶に残したいので転載させて頂きます。


リスクをとろう(人の心に灯をともす)

ロビン・シャーマ氏の心に響く言葉より・・・

これだけは請け合います。

人生のたそがれどきを迎えて、死の床につくとき、あなたがいちばん後悔するのは、負ってきたあらゆるリスクではありません。

あなたの心を満たす最大の悲しみは、避けてきたすべてのリスク、つかまなかったすべての機会、立ち向かおうとしなかったすべての恐怖でしょう。

いいですか、恐怖の向こうには自由があるのです。

時代を超えた成功の原則に焦点を合わせてください。

「人生は数字のゲームにすぎません・・・リスクを負えば負うほど、報酬は多くなります」。

あるいは、古代ギリシアの悲劇詩人、ソフォクレスの言葉を借りれば、「運は勇気のない者にはめぐってこない」ということになります。

人生をまっとうするためには、もっとリスクを負い、恐れていることをしてください。

やっかいな状況に強くなり、いちばん抵抗のない道をすすむのをやめるのです。

もちろん、人があまり通っていない道を歩けば、いろいろなものに爪先をぶつける確率は高くなるでしょうが、どこかに行くにはその方法しかないのです。

フランスの小説家でノーベル賞をとったアンドレ・ジードは、「長い間岸を見失う勇気がなければ、新しい大陸を発見することはできない」といっています。

充実した人生を送る秘訣は、安全を探すことに日々をついやすのではなく、機会を追いもとめることに時間をさくことです。

私はセオドア・ルーズベルト元大統領のことばを書斎にかかげています。

大切なのは評論家ではない。

実力者がどのようにつまずいたか、善行家がどこでもっとうまくやれたかを指摘する人物はいらない。

顔を泥と汗と血でよごしながら、実際に現場で闘っている男。

勇ましく立ち向かっている男。

何度も判断をあやまって、期待にそえない男。

おおいなる熱意と献身についてわかっていて、りっぱな大義に身をささげている男。

最善の場合は、最終的に大成功をおさめた喜びを知っている男。

最悪の場合は、たとえ失敗したとしても、勝利も敗北もしらない、冷たくて臆病な連中とは違う、あえて勇敢に立ち向かって結果として失敗した男。

そういった男たちをこそ、称賛すべきなのだ。


人のアラを探し、批評ばかりする評論家は、自らリスクを取ることをしない。

どんないい話を聞いても、「でも」、「だけど」、「そうは言っても」と否定から入る人間は、決して自分からやろうとしない。

「ボクシングを見ている奴はいろいろなことを言うが、リングで戦っている奴を褒(ほ)めろ」(セオドア・ルーズベルト大統領)

外野で騒ぐだけの人間を黙らせる言葉は、「自分でやってみろ!」。

リスクを恐れずに挑戦する者だけに幸運がめぐってくる。

2012年12月15日土曜日

沖縄の民意を政権選択の判断基準に

記憶に残したいので、転載させていただきます。


2012選択 沖縄米軍基地 耐えがたき、この断絶(2012年12月14日 東京新聞社説)

米軍基地を減らす、なくす。そのためにいくら投票しても、その思いは届かない。日本の政治はいつになれば、沖縄県民との断絶を埋められるのでしょう。

三年前の前回衆院選では大いに語られながら、今回、ほとんど論戦にはなっていないことがあります。沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の移設問題です。

前回衆院選で、当時の鳩山由紀夫民主党代表は、普天間飛行場は「最低でも県外」移設が望ましいと公約しました。

在日米軍基地の約74%が集中する沖縄。日々の騒音や事故、米兵による犯罪、戦争に加担するという心理的重圧など、基地の負担に苦しむ県民の間で、県外移設への期待が高まったのも当然です。

この選挙で沖縄県内四小選挙区すべてで県内移設反対の候補が当選したのも、政権交代に現状打破を託したからにほかなりません。

ただ、この期待は程なく裏切られます。首相に就いた鳩山氏が名護市辺野古への県内移設に回帰したからです。公約をいとも簡単に破ったことは許し難い。沖縄の民意は顧みられることがないのか。

沖縄県内四選挙区の候補者は今回、現職閣僚や日本維新の会などを除き、県外移設を主張しています。民主、自民両党の候補者を含めてです。いまや県外移設は県民の総意と言ってもいい。

鳩山発言に唯一、効用を見つけ出すとしたら、沖縄の民意を覚醒させたことかもしれません。

しかし、沖縄以外ではどうか。鳩山発言の「後遺症」からか、政権を争う民主、自民両党から普天間返還を実現する説得力のある主張を聞いたことがありません。

海洋進出を強める中国に対抗して、沖縄に基地を押し付けて日米同盟を強化する動きさえある。

前回の衆院選で、治外法権的な日米地位協定の「改定を提起」すると主張した民主党は、「運用改善」へとトーンダウンしました。

垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの沖縄配備の是非も問われる選挙戦の最中に、米軍が本格運用開始を宣言し、日本政府がこれを追認するのも無神経です。

この三年間で沖縄と本土との断絶は、耐えがたいほどに広がってしまったのではないでしょうか。

日米安全保障条約が日本の平和に必要なら、基地負担は日本国民が等しく負うべきです。同じ国民として沖縄の苦悩に寄り添えるのか。政治家だけでなく私たち有権者の覚悟も問われているのです。



2012年12月13日木曜日

高大接続の在り方

前回に続き、日本経済新聞社編集委員の横山晋一郎さんがIDE「取材ノートから」(2012年12月号)に書かれた論考を抜粋してご紹介します。


高大接続特別部会

中教審・高大接続特別部会の審議が始まった。ある委員が「初等中等局長と高等局長が並んで座っているのを見て、文科省の本気度を感じた」と語るほど、初中教育行政と高等教育行政との溝は深く、高大接続問題は正面から取り上げられて来なかった。

だが、授業料無償化と98%の進学率で、高校教育は事実上の義務教育化を果たした。同時に、少子化と供給過剰で大学入試が選抜機能を失いつつある中で、高校と大学の教育をいかに円滑に接続させるかが、喫緊の課題になった。大学も高校も行政もいつまでも問題を放置できなくなった。

部会の最初の議論を聞いた限りでは、「卒業認定とは切り離した形での、高校教育の達成度を測る共通試験の導入」に前向きな意見が多かった。高校の取材でも、「大学入試に依存せず、高校教育の質の保証は高校が主体的に行うべきだ」という声を聞く。

「大学入試が高校教育を歪めてきた」。高校関係者がよく使う台詞だ。確かに、受験競争が過酷な時代には、受験対策最優先で高校が目指すべき教育が疎かになったのは間違いない。ただ、今や受験事情は様変わりした。高校も大学も推薦で進学し、一度も一般入試(筆記試験)を経験していない大学生も少なくない。一部の難関大学を除けば、入試圧力は明らかに低下した。

だが、入試圧力から解放されて、高校教育が改善されたという話はあまり聞かない。聞こえてくるのは、高校生の勉強離れの話ばかりだ。学習意欲をいかに持たせるかが、高校の最重要課題になっている。

そう考えると、高校が主体的に質の保証に取り組み、その一手段として達成度を測る統一試験を導入する考えは、誠にもっともだと思う。と言っても、いざ実行に移すとなると難問山積だ。似たような共通試験に大学入試センター試験があるが、センター試験は大学進学希望者が対象だ。高校の学習達成度を測る試験となると、進学者以外も対象にする必要がある。高校生の学力に大きな格差が生じている中で、実効性のある統一試験が可能なのだろうか。試験の実施時期や実施回数、実施主体と実施場所などを巡っても意見は割れるだろう。

達成度評価と卒業認定を分ける考え方も混乱を招きそうだ。達成度試験はパスしなかったが高校は卒業したというケースを、大学はどう扱うのか。ある私学団体幹部は、「中小私大にとって大問題になる」と懸念する。議論の行方に注目したい。


2012年12月12日水曜日

大学院教育の在り方

前回に続き、日本経済新聞社編集委員の横山晋一郎さんがIDE「取材ノートから」(2012年12月号)に書かれた論考を抜粋してご紹介します。



大学院生の指導

教育学関係の学会大会を覗いた。10年以上前から取材している学会だが、今年は思わぬ体験をした。他の学会も同様だと思うが、この学会では大会発表は共通するテーマごとにくくられ、それぞれのセッション(2~2時間半)で3~5本程度の研究発表がある。個別発表ごとに質疑が交わされ、全部終わった後に総括討論が行われる。

“事件”はそんなセッションの一つで起きた。旧帝大系の大学院生二人の発表に興味を持ち早々と会場に陣取った。2時間のセッションで発表は3本。お目当ての発表は最後で、持ち時間は50分。メインの発表である。発表が終わり軽い質疑があった後、いよいよ総括討論に移ったが、なんと発表した二人の院生は「用事がある」と言ってさっさと退室してしまったのだ。

大学を取材するまで、学会発表はもっと敷居が高く権威あるものだと思っていた。だが、いくつかの学会を取材するうちに(理工系や医学系はわからないが)、学会自体が細かく分野を刻んで乱立しており、玉石混淆だと知った。それでもこれまで見てきた発表者は、報告への質問にきちんと対応し討論に加わる常識を持っていた。

それだけに、言いたいことだけを言って退室した発表者には驚いた。当然のことだが、研究は独りよがりであってはならない。専門家同士で議論を闘わす中で、問題点に気付いたり次の研究のヒントを得たりする。特に若い大学院生にと.って、学会発表とはそんな武者修行の場であるはずだ。一方的に発表して、「はい、さようなら」ではブログやツイッターで発信するのと変わらない。議論を放棄するならば、学会に来る意味がない。こんな基本すら誰も教えていないのだろうか。

そんな感想を学会関係者に話したら、最近は発表申請を出しておきながら、論文提出時になると「準備ができてない」とドタキャンする若手が多いという。「最近は大学院も増え、いろんな院生がいる。指導実態がわからない大学院も多い」とぼやく学会役員もいた。これだけで、全体を論じるつもりはないが、「大学院教育、これで大丈夫? 学会も大丈夫?」という思いは消えない。確かに、近年の大学院の量的拡大はめざましい。で、「質」はどうなの?


2012年12月11日火曜日

設置認可の在り方

日本経済新聞社編集委員の横山晋一郎さんがIDE「取材ノートから」(2012年12月号)に書かれた論考を抜粋してご紹介します。


真紀子大臣と設置認可

原稿締め切り間際に、呆れたニュースが飛び込んできた。11月2日、田中真紀子文部科学相が、大学設置・学校法人審議会の答申を覆して来春開校予定の秋田公立美術、札幌保健医療、岡崎女子の三大学の新設を認可しないと言い出したのだ。しかも四年制大学が約800もあることを指摘して「教育の質が低下している」と語り、当面は大学新設を認めず、委員の大半を大学関係者が占める設置審の在り方など設置認可制度を抜本的に見直すとした。

突然の“政治決断”に波紋が広がった。何の瑕疵もないのに不認可とされた三大学は一斉に撤回を要求、私大団体も批判の狼煙をあげた。与野党を巻き込む政治問題に発展する中で、大臣は6日「新基準で再審査」へと方針転換を図ったが、7日には与野党の調整に押し切られて「現行制度で審査」と表明せざるを得なくなり、8日に正式認可した。

田中氏の文科相起用に「また騒動を起こすのではないか」と危惧する声が多かったが、まさにその通りの展開。騒動に巻き込まれた三大学はとんだ災難である。大臣に振り回され放しの文科官僚も気の毒だった。職を賭してでも大臣の暴走を食い止めようという気骨のある官僚はいなかったのかとも思うが、それだけ“真紀子パワー”は強烈だったということか。

とはいえ、騒動を「大臣の暴走」で片付けてしまうことには違和感が残る。確かに三大学の不認可は無茶苦茶だし、「認可前に建物を建て、教員も採用している」との批判は設置認可制度の理解不足を自ら暴露した。そうした点は大いに批判されるべきだが、一方で今の設置認可行政に疑問を抱く人は少なくないからだ。

最たるものは、18歳人口が減少を続け私大の四割が定員割れを起こしているのに、四年制大学が増え続けていることだろう。新設から数年で、募集停止に追い込まれた大学すらある。中央教育審議会が「質の保証」を声高に指摘しなければならないほど、大学教育への信頼は揺らいでいる。それでも大学は増え続ける。大学界が社会の常識と乖離していると言わざるを得ない。

これは、設置審委員の大半を大学関係者が占めることと無縁ではあるまい。中央官庁の審議会は、役所と関係が深い“学識経験者”で構成され、官僚主導の政策立案の隠れ蓑になっていると指摘されて久しい。昨年の原発事故では、業界・役所・学者で作る「原子力ムラ」の実態が浮き彫りになった。「学」が同時に「業」でもある「大学ムラ」では、関係はさらに濃密である。よほど意識して大学の外にある意見を取り込む仕組みを作らないと、大学の論理だけが通ってしまう。大臣が提起した委員構成の問題は的外れとは思えない。

ただ、大学の数が多いからと、単純に新規参入を禁じればすむ問題でもない。設置認可の規制緩和は、小泉内閣時代に「事前規制から事後チェックへ」という流れの中で、認証評価とセットで導入された。だが、事後チェックが機能していないのは、大学教育の質が問われる現状を見れば明白だ。

こうした中で新規参入を制限すれば、どうなるか。既存大学が喜ぶだけだ。大学であることが既得権益化し、改革の情熱をそいでしまう。大学の質向上に重要なのは、事後チェックの徹底化ではないか。内実の伴わない大学は退場させるルールを確立した上で、進取の精神に富む挑戦的な大学の参入を促し、大学界に新風を呼び込む。それにはまず、各大学が一層の教育改革を進め、評価制度の実効性も高めた上で、教育の中身について情報公開を徹底させる。その際、退場を決めるのは受験生や保護者、卒業生を採用する企業などの社会であって、行政でないことは言うまでもない。

社会が違和感を抱くのは、大学の数の多さではなく、質が伴わない(あるいは、伴わないように見える)大学の多さなのだ。問題がある大学が減って質の高い大学が増えるのならば、総数が増えても誰も文句を言わない。大臣は設置審の在り方を見直す検討会を立ち上げる方針というが、拙速は避けて高等教育政策全体を俯瞰した設置認可行政への転換策を根本から検討するべきだろう。


2012年12月7日金曜日

嗚呼!退職手当の減額

先の国会において、国家公務員の退職手当の支給水準を引き下げる法律が成立したことに伴い、国立大学法人も同様の措置を講じるよう、文部科学省大臣官房長から各国立大学長宛に、以下のような要請が行われています。

復興予算の財源捻出のために、国家公務員に準じて2年間の給与減額を強いられた矢先に、今度は退職手当の減額です。

最終的には、概ね4百万円/人ほどの減額となり、教職員の士気、生活水準は下がる一方です。法人化によって非公務員とされた国立大学法人の職員の給与や退職手当が、結局国家公務員に準じて機械的に決まってしまうことに憤りを感じます。

今回の措置と、自主的・自律的な経営が可能であるとした法人制度との矛盾を考えれば、多くの教職員は甘受できない複雑な心境なのではないかと思います。今後、教職員組合を中心とした法廷闘争が拡大していくかもしれませんね。


独立行政法人及び特殊法人等における役職員の退職手当について(文部科学省大臣官房長→各国立大学法人学長、12月5日付)

標記について、内閣官房行政改革推進室長及び総務省行政管理局長から別紙の通り通知がありましたので、お知らせします。

つきましては、別紙を踏まえ、民間における退職給付の実情に鑑み退職手当の引き下げを行うことを内容とする今般の国家公務員の退職手当制度の改正に準じて、貴法人の役職員の退職手当について必要な措置を講ずるよう要請いたします。


別紙

独立行政法人及び特殊法人等における役職員の退職手当について(内閣官房行政改革推進室長、総務省行政管理局長→各府省官房長、11月30日付)

国家公務員の退職手当については、第181回国会において、国家公務員の退職給付の給付水準の見直し等のための国家公務員退職手当法等の一部を改正する法律(平成24年法律第96号。以下「改正退職手当法等」という。)が成立したところである。

これに関し、「国家公務員の退職手当の支給水準引下げ等について」(平成24年8月7日閣議決定。以下「平成24年閣議決定」という。)において、特定独立行政法人の職員を除く独立行政法人の役職員の退職手当について、「国家公務員の退職手当の見直しの動向に応じて、通則法等の趣旨を踏まえつつ、今般の国家公務員の退職手当制度の改正に準じて必要な措置を講ずるよう要請等を行う」とされ、また、特殊法人等の役職員の退職手当についても、「同様の考え方の下、必要な措置を講ずるよう要請等を行うとともに、必要な指導を行うなど適切に対応する」とされている。

ついては、各府省におかれては、以下のように対応されたい。
  1. 独立行政法人の役員の退職手当については、「独立行政法人、特殊法人及び認可法人の役員の退職金について」(平成15年12月19日閣議決定。以下「平成15年閣議決定」という。)において、「役員の退職金の支給率に関して、(略)1月につき俸給月額の12.5/100を基準とし、これに各府省の独立行政法人評価委員会が0.0から2.0の範囲内で業績に応じて決定する業績勘案率を乗じたものとするよう要請する」とされているところである。また、特殊法人等の役員の退職手当については、平成15年閣議決定において、「役員の退職金の支給率に関して、(略)1月につき俸給月額の12.5/100を基準とし、これに各法人が委嘱する外部の専門家又は設置する委員会が0.0から2.0の範囲内で業績に応じて決定する業績勘案率を乗じたものとする」とされているところである。今般、改正退職手当法等が成立したところであるが、各府省におかれては、貴管下の独立行政法人に対し、平成25年1月1日以降の独立行政法人の役員の退職手当について、平成15年閣議決定及び平成24年閣議決定に基づき、官民の支給水準の均衡を図るため国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号)上設けられている措置の考え方を参考にしつつ、官民較差の解消を図るための必要な措置を講ずるよう要請されたい。また、特殊法人等の役員の退職手当についても、同様の考え方の下、必要な措置を講ずるとともに、各府省におかれては、必要な指導を行うなど適切に対応されたい。
  2. 特定独立行政法人以外の独立行政法人及び特殊法人等の職員の退職手当について、各府省におかれては、貴管下の法人に対して、平成24年閣議決定に基づき、必要な措置を講ずるよう要請するとともに、特殊法人等に対しては、必要な指導を行うなど適切に対応されたい。
  3. 各法人の業務運営における透明性の向上の観点から、独立行政法人及び特殊法人等における役職員の給与等の水準の公表に合わせて、各法人における措置状況を公表することとされたい。
以上


(参考)国家公務員の退職手当の支給水準引下げ等について(平成24年8月7日、閣議決定)


2012年12月6日木曜日

北朝鮮の脅威に備えよう

北朝鮮が今月10日以降に発射を予告している事実上の長距離弾道ミサイルに関し、発射された場合の対応について、文部科学省から各国立大学法人に以下のような事務連絡が届いているようです。


北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射に係る対応について(依頼)

12月10日(月)から22日(土)までの期間において、北朝鮮が「人工衛星」と称するミサイル発射を予告しております。北朝鮮が設定した落下区域等を考慮すると、我が国領域内に落下するケースは起こらないと考えられますが、万が一我が国領域内に落下する可能性も考慮し、所属職員等に対し、下記事項について周知していただくようお願いします。

  1. 万が一、落下物らしき物を発見した場合には、決して近寄らず、警察・消防に連絡すること
  2. 万が一、各機関において、落下物等による被害があった場合には、本件連絡先の被害状況連絡先(略)にも情報提供すること

何事もないことを祈りましょう。


2012年11月28日水曜日

親父のほほえみ

魂が震える話」というメルマガ(ブログ)から。感じ方は人によって違うと思いますが、私は泣きました。



父親のお弁当

小1の秋に母親が男作って家を出ていき、俺は親父の飯で育てられた。

当時は親父の下手くそな料理が嫌でたまらず、

また母親が突然いなくなった寂しさもあいまって俺は飯のたびに癇癪おこして大泣きしたりわめいたり、

ひどい時には焦げた卵焼きを親父に向けて投げつけたりなんてこともあった。

翌年、小2の春にあった遠足の弁当もやっぱり親父の手作り。

俺は嫌でたまらず、一口も食べずに友達にちょっとずつわけてもらったおかずと持っていったお菓子のみで腹を満たした。

弁当の中身は道に捨ててしまった。

家に帰って空の弁当箱を親父に渡すと、

親父は俺が全部食べたんだと思い涙目になりながら俺の頭をぐりぐりと撫で、

「全部食ったか、えらいな!ありがとうなあ!」

と本当に嬉しそうな声と顔で言った。

俺は本当のことなんてもちろん言えなかった。

でもその後の家庭訪問の時に、担任の先生が俺が遠足で弁当を捨てていたことを親父に言ったわけ

親父は相当なショックを受けてて、でも先生が帰った後も俺に対して怒鳴ったりはせずにただ項垂れていた。

さすがに罪悪感を覚えた俺は気まずさもあってその夜、早々に布団にもぐりこんだ。

でもなかなか眠れず、やっぱり親父に謝ろうと思い親父のところに戻ろうとした。

流しのところの電気がついてたので皿でも洗ってんのかなと思って覗いたら、親父が読みすぎたせいかボロボロになった料理の本と遠足の時に持ってった弁当箱を見ながら泣いていた。

で、俺はその時ようやく、自分がとんでもないことをしたんだってことを自覚した。

でも初めて見る泣いてる親父の姿にびびってしまい、謝ろうにもなかなか踏み出せない。

結局俺はまた布団に戻って、そんで心の中で親父に何回も謝りながら泣いた。

翌朝、弁当のことや今までのことを謝った俺の頭を親父はまたぐりぐりと撫でてくれて、俺はそれ以来親父の作った飯を残すことは無くなった。

親父は去年死んだ。

病院で息を引き取る間際、悲しいのと寂しいのとで頭が混乱しつつ涙と鼻水流しながら

「色々ありがとな、飯もありがとな、卵焼きありがとな、ほうれん草のアレとかすげえ美味かった」

とか何とか言った俺に対し、親父はもう声も出せない状態だったものの微かに笑いつつ頷いてくれた。

弁当のこととか色々、思い出すたび切なくて申し訳なくて泣きたくなる。


2012年11月27日火曜日

大学情報公開の現状と課題(2)

川嶋太津夫(神戸大学教授)さんが書かれた「教育情報公表の現状」(IDE-現代の高等教育 No.542  2012年7月号)を抜粋してご紹介します。


2 教育情報公表の課題

平成22年6月に文部科学大臣政務官名で出された学校教育法施行例の一部改正の通知文書によれば、改正の趣旨は「大学等が公的な教育機関として、社会に対する説明責任を果たすとともに、その教育の質を向上させる観点から、公表すべき情報を法令上明確にし、教育情報の一層の公表を促すこと」である。

しかし、教育情報の公表の現状を見る限り、社会に対する説明責任も質の向上への効果も道半ばの感が強い。特に、今回対象とした国立大学の現状には、筆者自身が国立大学に勤務している当事者として強い不満を感じざるを得ない。公立大学は、「教育情報公表ガイドライン」をいち早く策定し、各大学ウェブのトップページの分かりやすい場所に、同じフォーマットで教育情報を公表することとし、すでに実施するとともに、公立大学協会のウェブから各大学の教育情報の公表サイトへのリンクを張っている。「国民への約束」として機能強化を謳う国立大学こそ、率先して国民への説明責任を果たすべきであろう。

最後に、設置形態に関わらず、教育情報の公表をめぐる課題を整理して、小論を終えることとしたい。

第一に、今回の改正の趣旨のポイントは、「公開」ではなく「公表」にある。公開は、「情報公開」と言われるように、情報を必要とする側が情報を利用できる状態にしておくことである。たとえば、学生による授業評価の報告書を図書館の参考図書コーナーに置いておけば「公開」したことになる。評価結果を知りたいと思う人は、図書館に行けば情報を入手できる。言い換えれば、図書館に行く人だけが情報を得ることができ、図書館に行かない限り情報を入手できない。それに対して、「公表」とは、その情報を必要とするかどうか に関わらず、世間に発表し、広く周知することである。つまり、情報を有する側が、積極的に情報を提供することが「公表」である。このように考えると、多くの大学の現状は、「公表」には程遠く「公開」の状態に止まっている。

第二に、受験生、保護者、企業などのステークホルダーが求めている「情報」とは何であろうか。法定の情報はステークホルダーの希望を満たしているのであろうか。たとえば、保護者や受験生が必要としているのは、就職者数や就職率といった単なる「データ」ではなく、就職先が大企業なのか、中小企業なのか。大学の地元の企業なのか、それとも東京なのか、といったより具体的な情報である。また、なぜ、A大学は、他の大学より中退者が多いのかについての「説明」であり、就職率は、何を意味するのか。どのように算出されるのかについての「知識」である。現状は、せいぜい「データ」の公開に止まっているのではないだろうか。

第三に、これまでも何度も指摘してきた、3つのポリシーと教育情報公表の義務化との関係の曖昧さが依然として存在する。アドミッション・ポリシーの公表は既に義務化されているが、ディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーについては、公表は制度化されていない。これについては、国あるいは大学団体での検討が必要であろう。

それに関連して、第四に、教育情報の「比較可能性(標準性)」の要求と大学の「機能別分化(個性)」の強化をどのようにして折り合いをつけるのかという問題がある。現在、一覧性や比較可能性を重視した「大学ポートレート(仮称)」の構築が検討されているが、このシステムによって、比較可能性は実現されるかもしれないが、教育情報の公表について、機能別分化(個性化)の観点からどのように実現していくのか。この点は、米国での大学団体ごとの教育情報の公表の取組が参考になるであろう。

最後に強調したいのは、教育情報の「公表」は、教育機関に本質的に存在する「情報の非対称性」を解消するためには不可欠の要素だということである。学生は、実際に大学に入学し、教育を受けてみないと、その大学の教育の質の評価ができない。その意味で、経済学では教育は「経験財」と位置付けられる。特に、高等教育は、高額の費用を必要とする。100万円以上の入学金と授業料を支払って、入学してみたところ、その大学の教育に満足できないからといって、すぐに他の大学に再入学することはできないし、一度支払った入学金や授業料は戻ってこない。受験生ができる限り適切な進路選沢を可能にし、大学間で公正な競争を促すためには、各大学がその教育活動について、正確で適正な情報を積極的に公表することが避けては通れないのである。

2012年11月26日月曜日

大学情報公開の現状と課題(1)

黒田壽二(金沢工業大学学園長・総長、日本私立大学協会副会長、中央教育審議会大学分科会大学教育部会副部会長)さんが書かれた「日本における大学情報公開の理念と展開」(IDE-現代の高等教育 No.542  2012年7月号)を抜粋してご紹介します。


1 大学の情報開示を求める社会的背景

社会は情報化時代になり、国際化、グローバル化の急速な進展により社会活動のあり方が大幅に変革してきた。国内では少子化、高齢化が深刻さを増している。そのような中で大学の教育研究活動も大きな改革を求められるようになり、平成3年に始まった大学設置基準の大綱化は数次に亘り実施され、各大学の画一化から多様化、個性化、特色化へと舵が切られた。このことにより大学が従来から社会一般に理解されていた大学像に大きな変革が起きてきた。もはや、大学の実態が社会から見えなくなってきたといっても過言ではない。同時に日本での少子化の影響も出始め、定員充足率が問われるようになり、一方では大学進学率は先進諸国に近づき50%を越え、所謂ユニバーサル段階の時代に至っている。大学は、「学生を選ぶ立場」から「学生に選ばれる立場」となってきた。このような時代には、大学自らが発する情報の質が重要な意味を持つようになる。

また、今回行われた教育基本法改正では、大学の項が設けられ、その第7条において、「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与する者とする」と規定された。また、学校教育法83条には大学の目的として、「大学は学術の中心として、広く知識を授けるとともに'深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。大学は・・・その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」と規定され、大学は研究・教育に加え社会貢献が求められるようになった。一般社会活動の一つに大学が位置づけられ、これまでのような社会と係わりが希薄な「象牙の塔」的振舞いが出来なくなった。

2 大学教育改革の促進

前述した大学設置基準の大綱化や簡素化によって大学自身での改革が可能になったのを受けて、大学設置基準や学校教育法では、大学が自ら行う自己点検・評価の義務化、機関別認証評価の7年以内での受審義務化、教育情報公表の義務化及び財務情報公開の義務化が法的に規定された。国立大学法人や公立大学法人はもとより、特に学校法人では、経営の安定性・継続性をステークホルダーに分かりやすく示す必要性から、私立学校法上に、財務諸表、財産目録、監事の監査報告書、事業報告書の備付と公開の義務が規定された。各大学は大学経営の質を保証し、機能分化を図りながら教育の質保証・向上発展を自ら行うこととされたのである。いいかえれば、卒業生に与える学位に相応しい資質と能力(ラーニング・アウトカムズ)を保証するシステムの構築を促進し、大学経営業務の透明性やガバナンスの強化を図ることが求められるようになったのである。これらの法的改革は、大学自身の自己責任を追及し、多様化する社会、グローバル化する社会、予測困難な社会への、いち早い対応を促すことを狙いとしているものと考えられる。

不易流行という言葉があるように、大学は、大学としての新しい質を担保しながら何を守り、何を改革・改善していくのかを熟慮し、ことに私立大学においては建学の理念に基づく教育目的・目標を定め、どの様な人材を育成するのか、「学生は何を学び、何が得られるか」について、自ら社会や国民に訴え、理解を得なければ、多様に変化する中で埋没しかねない。大学の広報力も合せて問われる時代でもある。

3 大学教育情報開示の必然性

大学が機能分化を図っている現状において、大学は多様化し重層化が進展している。その中で各大学の持つ個性や特色の違いが鮮明になってきており、私が以前から提唱している、「富士山型大学群」、すなわち画一的方向を持たせ裾野を広げる手法から、「八ヶ岳型大学群」、すなわち各個別に目標を定めオンリーワンを目指す方向に、大学改革の舵は切られている。このことこそが多様化する社会に多彩な能力を持った人材を送り出す源泉であると考える。この様に考えれば、大学情報の開示の義務化を超えて、大学が自ら教育情報や財務情報の開示をしなければならない必然性がここにある。

もはや大学自身が情報開示の意義を考え率先して大学の営みを公開すべきであるが、公教育を担う大学のステークホルダーは在学生や保護者、卒業生、取引業者、国民一般、報道機関等々と多岐に亘り、一形式の公開内容で済むものではない。たとえば、学生募集のための情報公開とマスコミや社会・国民に向けた情報開示では、その内容や深度が違ってくる。国が求めている教育情報は、定性的なものから定量的なものまで多岐に亘るが、国としての統計情報の蓄積を必要としている観点から、大学の一覧性的側面をも考慮して規定されているものである。しかし、情報を必要としている対象者の求めに、大学は必ずしも的確に対応していない。大学は対象者と対峙しながら「誰が何を求めているのか」、その必要性と価値を分析し、正確・公正な情報を発信していかなければならない。その際、当然ながら大学の持つ負の部分の公表も求められることを理解し、信頼性・公正性の確保に努めることが重要であることは言うまでもない。

おわりに

大学の教育情報の公表を主体とした必然性について記述してきたが、日本の大学教育の約8割を担う私立大学が、社会の要請に応え、情報化やグローバル化の時代に相応しい「21世紀型市民」として多様な分野で先導的に活躍できる人材を育成していくことで、やがてそうした人材が、日本社会を支える原動力になることは間違いない。

私立大学が自らの持つあらゆる情報を社会に公表し、建学の精神に基づく教育の目標を示し、どのような人材を育てようとしているのかを、率先して世に問うことが大切であり、私立大学がそのように発展することこそが、日本にとって今もっとも重要なことである。

大学に公表が求められている教育情報の中には、中退率、留年率、就職率、進学率、S/T比など各種の数値がある。これらの数字は、時にはひとり歩きしてランク付けに利用される恐れがあることば否定できず、それに対する不安があって公表に疑問を呈する声も多い。しかしながら、それぞれの数値には結果に対する原因が存在する。その原因や理由を合わせて公表することで多くの誤解は解消され、大学自身にとっても、その分析は教育の質の向上に役立つことになる。大学は、ランク付けや悪用を恐れることなく正確で公正な公表をすべきであり、究極的にはそれが大学の発展につながることを理解すべきであろう。


2012年11月25日日曜日

大学改革を困難にしているものは何か(3)

前回に続き、黒木登志夫(日本学術振興会学術システム研究センター相談役、前岐阜大学長・名誉教授、東京大学名誉教授)さんが書かれた「大学は自らの力で改革できるか」(IDE-現代の高等教育 No.545 2012年11月号)を抜粋してご紹介します。



5 旧帝大はガバナンスの模範になっているか。

わが国の大学の中で、旧帝大系の7大学は圧倒的な存在である。しかし、大学のガバナンスという観点から見たとき、自ら改革を重ね、社会に開かれた新たな大学像を造るべく努力をしているであろうか。残念ながら、むしろ他の大学よりも遅れている点が少なくない。いくつかの例をあげてみよう。

東北大を除く旧帝大では、過半数に至るまで選挙を行い、学長(法人法には「総長」という呼称はない)を選考している。このため、学長選考に外部の意見が入る余地はなく、選考会議は形骸化している。東北大は、学長選考にあたり意向投票を排除しているように思われているが、実際には、教育研究評議会が意向投票を実施している。外部からの理事を置かず、文科省の移動官職を外部理事として扱っている旧帝大も、複数存在する。

部局の力、教授会の力が一番強いのも旧帝大ではなかろうか。部局の圧力のため、人事管理に関しても、いまだ定員制にしばられ、戦略的な人員配置のできない大学が少なくない。私が知っている限り、学長を初めとする執行部はみな改革に熱心であるが、部局の壁に妨げられ、ほとんど実行できないでいる。

旧帝大は、教育と研究だけではなく、ガバナンスにおいても他の大学の模範となって欲しい。

6 事務局は専門家集団になれるか

大学のガバナンスの中心となるのは、事務官である。事務がしっかりしていなければ大学は動かない。しかし、事務システムの制度改革は、まだほとんど手がつけられていない。ジェネラリストを養成するという方針によって、専門家が育たないのも大きな問題である。

法人化により、病院は企業的経営をせまられた。しかし、病院経営についてきちんとしたトレーニングを受けた事務官は非常に少ない。私が学長の時、病院経営専門の公認会計士を病院長補佐として、週の半分来てもらった。国立大学中第3位という巨額な借金(557億円)を抱えながら、病院が何とか経営できたのは、外部から来た専門家の力が大きかった。

英語で仕事ができるような事務官はほとんどいない。外国から招待状が来ても、日本語に直すようにいわれる。これでは、いくら国際化を唱えても、実行できるはずがない。世界トップレベル研究拠点では、英語を公用語としている。このため、英語のできる人でないと事務が務まらない。WPI拠点は、学内からそのような人を集め、さらに非常勤で雇用している。そのようなシステム改革を大学全体に広げようというのも、WPIプログラムの目的の一つである。

大学ガバナンスの中心となる事務官に対する教育の場がないことも大きな問題である。社会人の教育を一生懸命に行っている大学が、事務官の教育をおろそかにしているのは不思議な話である。

7 公立大学、私立大学のガバナンスの問題点

本稿は国立大学を対象にガバナンスの問題を取り上げた。公立大学、私立大学においても教授会、教員の意識は、国立大学とそれほど大きな違いはないのではなかろうか。加えて、それぞれには、それぞれの問題があるのも確かである。私が見聞きしたなかから、問題点を指摘しておこう。

公立大学のガバナンスの問題の一つは、事務官の資質である。自治体から公立大学に派遣されてきた事務官は、高等教育についてほとんど知らない。科研費も知らず、文科省のプログラムに申請しようとしてもノウハウを知らない。彼らの多くは、地方公務員の主流である本庁に帰る日をひたすら待っている。その点、国立大学の事務官は、高等教育の専門家であり、任せることができる。

私立大学の問題点は、時として、理事長と同窓会の力が強すぎることである。創立者、理事長一家の独裁となったり、同窓会が教授選考に口を出してきたりする。国立大学の学長は、法人の理事長を兼務している形であるが、本当の理事長は、文科大臣ではなかろうか。そのため、オーナーと言うほどの指導力を発揮することができない。同窓会は、学部毎にばらばらのため、全学同窓会まで発展できないでいる。

8 われわれは、3.11から何を学んだか

M9地震と巨大津波、それによって引き起こされた福島原発のメルトダウンは、われわれの意識、価値観に大きな影響を及ぼした。特に、原発事故では、ガバナンスに大きな問題があることが明らかになった。政府、電力会社、学会など原子力に関わる組織と人々の間の心地よい相互依存関係、外からの意見に耳を傾けない内向きの姿勢、危機に対する想像力の欠如などが相まって、人災といわれる事故を引き起こしたのだ。大学のガバナンスを考えるとき、3.11から学び、反省しなければならないことが多いことに改めて気がつく。(おわり)


2012年11月24日土曜日

大学改革を困難にしているものは何か(2)

前回に続き、黒木登志夫(日本学術振興会学術システム研究センター相談役、前岐阜大学長・名誉教授、東京大学名誉教授)さんが書かれた「大学は自らの力で改革できるか」(IDE-現代の高等教育 No.545 2012年11月号)を抜粋してご紹介します。



3 戦略的な予算と人事が実行されているか

私は、法人化の最大のメリットは、運営交付金に積算根拠がなくなった(つまり「袋」でくる)ことと、非公務員化により定員制がなくなったことだと思っている。「袋」でくる予算は、大学が自らの判断で戦略的に使える。しかし、その額が年々減っているため、戦略よりも大学を維持するのがやっとというのが現状である。これ以上予算が減ったときには、大学は教職員をカットし、組織を「リストラ」するという困難な決断を迫られることになりかねない。そのような状況に備えるためには、大学教職員が危機感を共有し、部局よりも大学全体のガバナンスを考え、教育と研究の質を維持しなければならない。同時に、文科省も、様々な規制,たとえば上述したような予算と学生定員に関する規制を緩和し、迫りつつある困難な状況に、大学自らの考えで対応できるようにしなければならない。

そもそもの問題は、教育予算が一方的に減額され続けていることである。国が財政的に困難な状況にあることは十分に理解しているが、財務当局は、高等教育に対するグランドデザインを明らかにすべきである。われわれは、将来に対する展望をもてないのでいるのだ。

法人化前、非公務員化が問題になったとき、私にはその是非が判断できなかった。しかし、法人化してすぐに、非公務員化は定員制の廃止につながることを理解した。そのようななかで考えたのが「ポイント制」である。すなわち、教授100ポイント、准教授78ポイント、講師73ポイント、肋数60ポイントとし、定員の代わりに、ポイント数を各部局に割り当てるのである。

「ポイント制」は、全国の大学に普及しつつある。しかし、「ポイント制」により、承継職員定員以上に教職員数が増えたときには、退職金が手当てできなくなるのではないかと危惧するあまり実行できない大学もあると聞く。私の理解するところでは、大学の職員には背番号がついているのではなく、人数に見合った「座布団」が積まれているだけである。したがって、たとえ人数が増えても退職金が出なくなるような状況にはならないはずである。

私がプログラム・ディレクターを務めている「世界トップレベル研究拠点(WPI)」は、大学の運営制度改革も目的としている。その一つが、教員の雇用を複数の機関でシェアする”joint appointment”あるいは”split appointment”“といわれている制度である。東大Kavli IPMUの拠点長は東大とUC Berkeleyとの間で、九大12CNERの拠点長は九大とイリノイ大学間で、エフォートに応じて給与を分担できるようになった。東大では、この制度を、国内の研究機関間、さらには大学内にも展開しようと進めており、事実、可能になったいくつかの例がある。

法人化以前から承継した教職員は終身雇用である。一方、外国の大学の多くでは、あるレベルに達したと評価されると、ポジションが保証されたテニュア(tenure)制度を導入している。テニュアには評価を伴うため、大学の活性化につながるはずである。文科省が進めている「テニュアトラック」制度は、若手研究者登用の道を開くと同時に、大学当局に承継職員の終身雇用、テニュアについて考え直す機会を与えたのではなかろうか。

4 大学は部局、教授会支配から抜け出されるか

私が学長のとき、監事は、教職員の意識についても調査し報告してくれた。監事報告には次のようなことが指摘されていた。
  • 法人化に伴う教員の意識改革が十分に浸透していない。
  • 学部意識が強く、教授会決定がすべてという法人化前の意識が根強く残っている。
  • 教授会が大学全体の改革にブレーキをかける場合がある。
  • 学長のリーダーシップにより、学部の自治が侵されるという被害者意識をなくす必要がある。

まさに監事の指摘の通りだと思う。もとより、部局は大学の重要な構成単位であり、教育と研究の現場である。その運営のために教授会を置くことが学校教育法で定められている。したがつて、部局の意見は基本的には尊重されるべきである。しかし、教授会決定を部局の自治の盾とし、部局の利害を第一に考えて行動されたのでは、大学全体としてのガバナンスなどできないことになる。学長裁量予算とポジションを作っても、その使用には部局が目を光らせ、学長に勝手に使わせないようにする。

教員一人一人が、それぞれに物事に応対し、異なる意見を持ち、束縛されず自由に発言できるのは大学の最大の長所であると、正直思う。それは、学問の自由の一つの反映でもある。しかし、ぞれぞれの意見を尊重し、原点に戻って議論するために、民主的ではあるが、なかなか物事を決められないことになる。

私が学長の時、いくつも改革案を学部に対し提案し続けた。しかし、改革を受け入れるかどうかは、学部、特に学部長によって大きく異なった。学部長が代わって初めて実行できた改革も少なくない。特に、工学部のような大きな学部では、「学科の自治」が主張され、学部長は学科間の調整役になってしまっている。

教授会のメンバーである教員も、改革を進めようとすると手強い相手である。英語教育について、たとえばTOEICなどの検定を導入しようとしたとき、反対したのは英語担当の教員であった。教養教育についても担当している教員の反対で手がつけられない。入試改革として過去間活用宣言への参加を他大学に呼びかけたが、入試を担当している教員、入試担当職員の反対で参加できないという大学が多かった。もちろん、彼らの意見にも一理がないわけではない。しかし、その多くの意見には、大局観がないように思う。

墓場の移転と同じで、大学改革には内部の力が頼れないと嘆いた、カーの気持ちがよく理解できる。(続く)


2012年11月23日金曜日

大学改革を困難にしているものは何か(1)

黒木登志夫(日本学術振興会学術システム研究センター相談役、前岐阜大学長・名誉教授、東京大学名誉教授)さんが書かれた「大学は自らの力で改革できるか」(IDE-現代の高等教育 No.545 2012年11月号)を抜粋してご紹介します。


カリフォルニア大学の名学長といわれたクラーク.カー(Clark Kerr. 1911-2003)は、大学改革が困難であることを嘆いて、次のように言ったという。

「大学を改革するのは、墓地の移転と同じで、内発的な力に頼ることはできない」。

確かに、改革の必要性が繰り返し言われながら、大学の改革は遅々として進んでいない。大学に期待している政府、行政、財界のいらだちも分からないわけではない。しかし、正直な話、ガバナンスに一番問題があるのは、国会であり、政治家ではなかろうか。「政局」と「選挙区」という一字違いの二つの「キョク」にしか関心のない政治家が、国会という墓場の改革に取り組むなど期待できない。しかしこの問題にはこれ以上触れないでおこう。

カーが言うように、大学のガバナンスが一向に変わらないのは、大学の内部に改革への意欲がないためであるのは事実だが、同時に、それを困難にしているシステムがあるのも確かである。ここでは、それらの問題を、私なりの観点で考察してみたい。

1 文科省・大学の相互依存関係から抜け出せるか

大崎仁(元文化庁長官)著『国立大学法人の形成』は、国立大学法人化についての正史とも言うべき内容である。この本の中で、法人化によって、大学が「法人格」を獲得したことが繰り返し強調されている。「法人格」とは、権利義務が法律によって保証されていることを意味している。すなわち、国立大学は、一つの独立した存在として法律的に認められたことになる。法人化前、国立大学は、文科省の一地方組織に過ぎなかったことを考えれば、これは大きな進展である。

問題は、法人格の獲得を、文科省、大学の双方がどの程度認識し、実行しているかである。少なくとも、国立大学法人の発足当時は、多くの大学、学長たちには、文科省に対して新たな関係を樹立しようという意気込みがあったし、事実、文科省と緊張関係になったことも少なくない。『落下傘学長奮闘記』(中公新書ラクレ、2009)にも書いたように、私はそのような立場から、文科省に対しても、大学内部に対しても率直な意見を述べてきた。しかし、法人化の第二期に入ったあたりから、文科省、大学はともに、「お互いが依存し合う心地よい関係」に戻ってしまったように思えてならない。

法人格を獲得したといっても、予算を握られている以上、最後には政府の言うことを聞かねばならないことが少なくない。そのよい例が、今回の国家公務員の給料カットであった。独立した法人である以上、必ずしも従う必要はないのだが、結局、国立大学は給与カットを受け入れざるを得なかった。それでも、病院経営を考えて、医療職の一部の給与を据え置くことができたのは、法人になったことのせめても証しであった。

最近、東大は全学秋入学という思い切った方針を打ち出した。国際化の一環として、文科省は、秋入学の拡大を推進していたが、せいぜい大学院の一部にとどまっていた。それを、全学の学部、大学院まで徹底するというのである。これは、法人化後、大学が自らの判断で行った最大の決断であろう。

法人化されても、文科省による規制は続いている。大崎仁氏も指摘しているように、「理解しがたいような学生定員管理の厳しさ」もその一つである。社会の価値観が変わり、少子化が進む今日、大学は社会の要望に応え、あるいは先取りして、教育を変えていかねばならない。しかし、少しでも学生定員に変更を加えようとすると、文科省の認可が必要となる。

そもそも、概算要求の交渉にも、大学と文科省のなれ合いが見られる。企画段階では、教員が理念に基づき立案したにもかかわらず、肝心の大学・文科省間の交渉段階になると、大学の事務官と文科省の事務官の間の交渉になる。文科省を通ると、今度は、文科省と財務省との交渉となる。教員は説明に行くこともできず、透明性も、公開性もない中で、大事なことが決まってしまうのだ。

2 国立大学は外に開かれているか

国立大学法人法は、社会から孤立した「象牙の塔」の反省から、外に開かれた運営を一つの目的として制度設計された。理事、監事、経営協議会、学長選考会議に外部委員を加えることが明記された。

私は、岐阜大学学長を辞めてから、二つの国立大学の経営協議会委員となったが、外部委員は、大学内部の問題に余計な口出しをする「よそもの」として必ずしも歓迎されていないようだ。しかし、われわれは、大学から一歩離れた立場で、どうしたらよい大学にできるか一所懸命考えている。外部委員は、外に開かれた窓口であると同時に、大学にとっては「サポーター」なのだ。

学内の教員たちは、学長選考会議を無力化し、学内の「選挙」だけで学長を選出するべきであると主張する。それでは、学長選考に外部の意見が入らないことになる。「意向投票」を行ったとしても、法人法にしたがい、それを一つの参考資料として、学長選考会議が主体的に選考すべきであると主張しても聞き入れてもらえない。

法人法は、理事に外部委員を含めなければならないと明確に規定している。しかし、私の調べたところでは、33.7%(30/89)の大学(大学院大学、共同利用機関を含む)で、移動官職である事務局のトップ(事務局長など)を「外部理事」として参加させ、それ以外の人を外から入れなくてもすむような体制をとっている(2012年9月現在)。移動官職は、任命時には外(文科省)の人間かもしれないが、常識的には内部の人間である。法の精神にそぐわないといわざるを得ない。

外部の意見を聞く制度を軽視し、時には排除し、その一方で文科省にすり寄っているのでは、法人化前に戻ったのも同然ではなかろうか。(続く)


2012年11月22日木曜日

国立大学の予算を考える

財政制度等審議会・財政制度分科会(財務省)により行われた「財政について聴く会」(文教・科学技術関係予算、平成24年11月1日開催)に係る「記者会見概要」及び「議事要旨」が公表されていますので、国立大学関係部分について抜粋してご紹介します。

ちなみに、当日の配付資料は、次の2点。


記者会見(分科会長会見の模様)

(田近分科会長代理)

26ページからが国立大学の問題です。ここに書かれたように、国立大学における人的資源、物的資源の配分の見直しを促す仕組み。それから、資金配分の現状と国立大学運営費交付金のめり張りのある配分。それから、セグメント情報等の開示、授業料ということです。これはさっと行かせてもらいますけれども、別に国立大学の人間だからというわけではないのですけれども、27ページ、これが国立大学が目指してきたもの。皆さんもご存じだと思いますけれども、平成13年、遠山プランというのがありました。これは大学をある意味で集約化して、公私トップ30を世界最高水準にと。それから平成16年に国立大学が法人化して、第1期というのが6年間だと思いますけれども、16年から21年。そして、現在は第2期に入っていると。そうした法人化の成果がどれだけ国立大学の運営に反映されたのかというのが、このペーパーのポイントになります。

ポイントだけですけれども、28ページに、国立大学というのは、評価されます。例えば教育水準の評価で、下ですね、教育の実施体制、内容、方法云々で、実は期待される水準を下回るものというのは、どれも1%。就職状況が1.8ですか。基本的にわずか1%で、これが評価になっているのかというような話。つまり何を言っているかというと、予算のめり張り、法人化した後、国立大学がどれだけ改善されたのかということです。

29ページが、メリハリの話になります。この表の一番左が一般運営費交付金。これが平成16年から24年度の合計で、したがって、非常に大きな額になるのですけれども、これは3兆になって、トップ10のシェアが42%。というか、見ていただきたいのは、右側に特別運営費交付金と書いてあって、これは各大学が文科省にこういうことをしたいということで申請して、ある意味で文科省から選ばれてと、これが、メリハリということでは左と右がほとんど同じだし、トップ10のシェアもこれだということで、メリハリづきの予算になっているのですかと。

一方、科学研究費、3番目が公私立補助金というのは、我々の世界だと要するに競争的な資金です。グローバル何とかとか、そういうことです。グローバルCOEとか。科学研究費の補助金の方は、ごらんになっていただくと、トップ10で68%のシェアという風にメリハリになっているのではないですかと。

以上、説明していくと長くなりますから、そういうことで、これまでの国立大学の運営というのが、法人化された後、競争を促して、中から変わっていくメカニズムが必ずしも見られなかったのではないですかということです。

授業料です。授業料は36ページからですけれども、国立大学の授業料というのは、53万5,000円と。86大学のうち、標準と異なる授業料を設定したのは5大学と。5大学全て標準よりも1万5,000円安くしているということで、こういう横並びでいいのかと。法人の努力というのはここに反映されているのですかということです。

あとは、授業料に関しては、所得別というのはどこだっけ。授業料については、それをフレキシブルにしていくと。一方、それに関しては、所得の低い人にはまけてあげるというメカニズムも必要ではないかということです。

それから、あとは簡単で、させてもらいます。奨学金については、これは金利が・・・、そこ言ってくれる?

(諏訪園主計官)

40ページでございますけれども、独法の日本学生支援機構が行っている奨学金の無利子のものと、それから、有利子のものでございますが、その貸与基準の   でございまして、その下の日本政策金融公庫の政策融資として行っております教育ローン、これに比べて貸与基準が緩やかであると。無利子ですら政策金融公庫の有利子2.35%ですが、これよりも上限基準が緩いので、どうなのだろうかということを問題提起させていただきまして、本来、例えば平均所得700万以上の人は有利子ではないですかという議論もあるのではないでしょうかということをご紹介いたしました。

(田近分科会長代理)

そういう要するに貸与基準のあり方と。

それで、科学技術費については、これが43ページからですけれども、基本的には研究費の配分シェアの固定化というところで、予算自身は44ページをごらんになっていただくとわかるのですけれども、その他の予算と比べて、元年100にしたときに、伸び率はこうなっていると。ただ、それに対して、配分というのが、どこを見ていただいてもいいのですけれども、その次のページが国際的な比較ですけれども、配分は46ページですね。46ページをごらんになっていただくと、変わっていないと。等ということで、この予算が戦略的に使われたのかという議論です。ちょっとアバウトですけれども。以上が義務教、大学予算、奨学金、科学技術ですけれども、そのテーマで報告されました。

それで、ディスカッションですけれども、・・・大学の方は、もちろん、一部の委員、議論の活発さからいうと、義務教育の今言った議論のところよりは非常に活発に出ました。大学については、もちろんそれは競争的にさせて、集中というか、競争を高めるのは大切ですねということでありましたけれども、授業料については、やはり多くの、かなりの議論が出て、やはり53万幾らで一定というのは、それはおかしいねと。それが国立大学の努力で反映するようにしていったらどうだという意見がありました。

それから、奨学金については、さっき言ったように資格要件ですから、特に意見はなかった。

科学技術については、何人かの、ビジネスサイドの人だったと思いますけれども、やはり国家戦略が重要なのではないか、あるいは国策に基づく集中と選択、同じことですけれども、顔の見える科学技術戦略というのが必要ではないかというのは、それぞれのお立場というか、お仕事されてきた背景から、そういう議論が出ました。というわけで、文教についても活発な議論がされました。


議事要旨

  • 大学は情報公開をすべきというが、大量に資料を作ることが重要なのではなく、実績・パフォーマンスをもって評価すべき。
  • 科学技術については、長い目で見て、ボトムアップではなく、国策に基づいてトップダウンで実施すべき。
  • 文教予算については、OECDの提言を踏まえた検証を進めていくことが必要。
  • 外部資金が増えたとの指摘があるが、外部資金の大半は研究に向けられ、教育にはほとんど回らない。したがって、大学への運営費交付金の議論を行う場合は、教育についても着目することが必要。
  • 現状、大学は学部・学科ごとの計画が定められていないため、評価を行うにしても、何を基準にすべきかが不明確になっている。目標・計画をしっかりと定めることが重要。
  • 所得水準に応じた授業料の設定は是非推進すべき。優秀な人材が良い教育を容易に受けられないということとなれば、将来の日本にとって非常に大きな損失となりかねない。
  • 大学授業料を、所得ではなく成績に応じて変えることも考えられるのでないか。学習へのインセンティブも図られる。大学の運営は、運営費交付金もあるが、まずは授業料を持って考えるべき。
  • 大学について何を基準にするかという問題はあるが、当初の想定よりも評価が低かった場合には交付金を削減するなど、ペナルティを設けることが重要ではないか。
  • 全ての大学が研究を行う必要があるのか。教育に特化する大学があってもいいのではないか。また、研究に関する予算の対象を主要大学に限定し、集中的に投資すべき。
  • 科学技術振興費について検討するに際しては、その効果(特にポジティブな効果)を示されたい。
  • 大学・科学技術振興費の評価について、きちんとした評価システムが必要。
  • 科学技術の国家戦略が必要。短期・中期・長期のプランを定め、いかなる分野を振興していくべきかを決定した上で、当該分野に集中的に投資を行うべき。
  • 国立大学の授業料については、これを増額すると交付金が減らされるとの観念が大学側にあるので、これを変えていく必要。良い教育成果をあげれば、交付金額にも結び付くというインセンティブ付けが大事。また、大学におけるマネジメントのプロフェッショナルも必要。
  • 所得に応じて学費を決めるという制度は理想的ではあるが、真の所得を把握することは非常に難しい。学生の成績に応じて学費を決めるという制度の方が現実的ではないか。
  • 予算全体を考えて、各予算間のバランスを取る必要。将来への投資である文教予算と高齢者への予算である社会保障予算との額のアンバランスを是正していくという視点があってもよいのではないか。
  • 研究開発予算について、きちんと評価をしてきたのか、SABCで評価をしても、どれもいいとなってしまい、今はその方式をやめている。評価方法を見直す必要があるのではないか。