2012年3月30日金曜日

法人化と大学改革(1)

国立大学の法人化からちょうど8年が経過しました。これを機に、関係者の皆様は、果たして法人化は国立大学に何をもたらしたのか、制度構築の意図は十分に達成されたのかなどについて、改めて考えてみるのもいいのではないでしょうか。そのための参照文献として、今回から、澤 昭裕さん(当時、独立行政法人経済産業研究所コンサルティングフェロー)が書かれた「国立大学法人法と国立大学改革」と題する論考を抜粋し数回に分けてご紹介することにしました。

この論考は、国立大学法人法が国会で成立した平成15年に、「国立大学法人法の問題点を分析し、法人化の本旨に沿った大学改革を実現するためには、どのような点に注意していくべきか」について提言を行うことを目的として書かれたもののようですが、半年後には、全ての国立大学が法人化されようとしていた当時における識者の優れた見方・考え方が合理的に整理されてあり、その内容と8年が経過した「いま」との対比の中で、今後の国立大学を占うこともできるのではないかと思います。


(途中略)国立大学制度の問題点は、枝葉末節まで含めれば数限りなくあろうが、法人化による改革の最大の眼目は、文部科学省という行政機構と国立大学とのもたれあい構造を打破するとともに、国立大学間においても護送船団方式による一律の改革に陥らず、いかに個性を発揮した競争構造を構築していくか、という点にある。私立大学を含め、大学間の教育・研究両面にわたる競争が促進され、グローバルに通用する研究や人材(逆にローカルを支えていく技術や人材も)が、それぞれの国立大学から輩出されるよう改革を進めることが重要である。

本稿では、法人化の基本を定めている国立大学法人法を読み進めながら、その問題点を指摘するとともに、条文の趣旨を徹底させていくためには、実務上どのような工夫を講じていかなければならないかについて検討することとしたい。


1 国立大学の存在根拠・・・国立大学法人法「別表」に記載

各大学の存在自体が、法的にどのような形で規定されるのかという問題は重要である。大学ごとに法人化するという点は、文部科学省の調査検討会議においても合意されていたが、最終的には国立大学法人法では別表に各大学の名称が列挙されることとなった。

独立行政法人の場合、各法人全てに横割り的に適用される組織運営原則を、独立行政法人通則法という法形式で定められ、それとは別に個別組織の設置法が制定されている。このことによって、他の独立行政法人の政策的意義付けやミッションに変化がなくても、ある独立行政法人は、環境の変化に応じて自己のミッションや業務を変化・展開させていくことが可能となっている。

行政の常識からすれば、国立大学のミッションは大学によってそれほど異なることはないという考え方が一般的であろうし、各大学ごとに設置法を制定するべく約90本もの法案を一国会で審議・成立まで持っていくことは、実際上不可能に近いことから、今回の国立大学法人法のように別表方式が選択されたものと考えられる。

しかし、これでは大学の多様化・個性化という大学改革の基本的方向性に逆行すると言わざるをえない。大学には、教育と研究を軸とする共通のミッションがあるので、別表方式でもことさら問題はないと考える向きもあろうが、行政実務家の観点から見ると、個別法方式と別表方式では、将来の法改正の可能性に関する認識において、雲泥の差がある。個別法であれば、例えば産学連携を志向する国立大学法人には、産学共同で設立する会社に対する出資機能を付け加えたり、国立大学法人間で効率化のために事務機構を統合してアウトソースする場合を考えてみると、必要となる法改正が、当該国立大学法人の個別法のみで完結する。一方別表方式では、全ての国立大学法人がそうした事業を希望したり、遂行可能な実力を伴わない限り、法改正まで行おうということにはならないのが、護送船団方式的行政の思考性向である。

今後、国からの研究資金に占める競争的資金の割合が増大していく中で、研究重点大学と教育重点大学の種別化が生じたり、グローバルな競争に参加する大学が出てくる一方で、地域との連携を強める大学の数も増すといった事態が生じてくる。少なくとも政策として、大学間競争を促進し、こうした本格的な多様化を指向するならば、中期計画の差別化のみで実現できるものではない。個別法で自己の存在が規定されておれば、自大学のミッションを他大学と差別化することを法的に明確にしながら、経営体としての意思決定組織やガバナンスの仕組みに工夫を凝らして、民営化するなどの設置形態の変更を目指したり、国境を越えた大学間連携をも模索することが、比較的容易に可能となる。究極、大学の自己責任による選択を制度的に担保するのは、各大学個別の設置法であるといっても過言ではない。

国立大学法人法の「別表」扱いで、一大学の発想やチャレンジだけでは制度を変革できないのであれば、一つの護送船団方式が別の護送船団方式に変わっただけに過ぎない。全ての国立大学が文部科学省の一組織に過ぎなかったこれまでと同様、一律の枠組みの中で、自由な経営展開を阻むばかりか、またもや法人制度を運用する行政への依存体質を強めるだけにならないか危惧される。立法実務的な観点から別表形式が選ばれたとするならば、上記のような問題意識にどのような考慮が払われたのか、明確にしておく必要がある。しかし、この点については、調査検討会議、国会審議はもちろん、法人化反対論者も含めて議論されたことはなく、今後に禍根を残したといえよう。(続く)