2012年3月1日木曜日

大学改革に必要なリーダーシップとは

大学のガバナンス改革に必要なリーダーシップとはどのようなものか。
「大学のガバナンス改革-組織文化とリーダーシップを巡って-」(大場淳)(名古屋高等教育研究 第11号(2011)を抜粋してご紹介します。示唆に富む論考だと思います。


結 語

今日、取り巻く環境の変化に対応して大学の自律性拡大が図られる中、そのガバナンス改革は必須である。日本においては、国立大学の法人化を始めとして諸々の改革が行われ、組織運営に関する制度に大幅な変革がもたらされた。他方において、ガバナンスには、法令等で規定される公式な側面-制度改革の対象はこちらである-に加えて、関係者の黙示の合意に基礎を置く非公式な側面があり、それを体現する組織文化の変革抜きにしてガバナンス改革はなし得ない。組織文化と表裏の関係にあるリーダーシップは、当該組織文化の変革に決定的に重要な役割を果たす。先行研究によれば、大学では参加や合意形成を促す双方向的なリーダーシップが必要であり、それはあらゆる場所で存在しなければならない。

しかし日本におけるこれまでの大学改革では上意下達的・中央集権的な形に向けて組織運営改革が進められ、リーダーシップもそれに対応した少数者のものとして受け止められてきた。このような改革の在り方は大学の合意の程度を下げており、クラークが指摘する「統合された企業的文化」を大学が有する状態からは程遠く、改革に大きな効果を期待することは困難であるか、少なくとも期待された通りの成果を上げることは不可能ではないだろうか。国立大学の研究業績が近年下がってきていることは、多様な理由が考えられるとは言え、組織運営に関する問題がその一因となっている可能性は大いにあり得ると思われる。

最後に、ガバナンス改革においては、教職員開発(FD/SD)が極めて重要であることを指摘しておきたい。公務員制度の弊害を有していた英国の大学は、今日まで大きく変革し、クラークが言うところの企業的運営を行うようになっているが、その改革には教職員開発が決定的に重要な役割を果たしたと言われる(Partington and Stainton 2003)。政府は、高等教育職員開発機関(Higher Education Staff Development Agency: HESDA)を大学間団体と共同で設置し、教職員開発を積極的に推進した。また、現在自律性拡大の方向で大学改革が進んでいるフランスにおいても、国の機関及び大学間組織を通じた教職員開発活動が積極的に展開されている。

翻って、我が国では、国立大学法人化後は文部科学省は職員研修等といった教職員開発活動からは撤退傾向を示していることが懸念される。もっとも、重要なのは個別の大学の教職員開発であって、全国的活動である英仏の動きはその支援活動にしか過ぎない。自律性が拡大した大学における組織文化の変革に向けては、学内において分散的なリーダーシップの下で学習を促すような多様な教職員開発活動が求められよう。紙幅の制約から本稿では詳述できないが、当該活動は伝統的な研修型ではなく、構成員の自発的参加を基本とすべきである。そうした活動を促すものとして「組織学習」や「学習する組織」、「実践共同体」といった様々なモデルが開発されており、各大学においてこれらを参照するなどして、自己の組織に合った教職員開発のプログラムを考案・実施することが望まれる。国に対しては、そうした開発活動を支援することが期待されよう。
http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/publications/journal/no11/16.pdf