2012年5月29日火曜日

「大学データブック2012」から見えてくるもの(4)

前回に続き、「大学データブック2012」から主な要点を引用しご紹介します。


 第5章 大学教育の内部質保証

 1 自己点検・評価

 1-1 自己点検・評価の実施状況

実施率9割。自己点検・評価は大学の定常活動に。

自己点検・評価を「毎年実施」している割合は全体の45.4%、毎年ではないが実施している割合が45.2%(「数年毎に定期的実施」+「不定期に実施」)であり、ほとんどの大学で自己点検・評価が実施されている。国立大学では「不定期に実施」(30.4%)している割合が相対的に高い。自己点検・評価の開始年度をみると1990年代前半に開始する大学が増えたものの90年代後半は一端収束し、1999年に義務化されてから、開始する大学が再び増加した。

1-2 自己点検・評価の体制と役割

半数以上が専任部門を設置。「企画」「情報収集」「報告書とりまとめ」が基本的な役割。

半数以上の学部長が、「自己点検・評価の専任部門を常設」と回答(53.9%)。大学では現在自己点検・評価の体制づくりが進んでいる。自己点検・評価の専任部門・担当者の主な役割としては、「報告書のとりまとめ」(81.1%)、「自己点検・評価活動の企画」(80.1%)、「自己点検・評価に必要な情報収集」(72.5%)が多い。公立大学や私立大学では、関係部門の連絡・調整や、大学教育に関する課題の分析も担う割合が高い。

1-3 自己点検・評価において重視する情報

今後求められる情報は、「学びの状況」「学習成果」「就職状況」。

「日常的に収集して利用」しているのは、「就職状況に関する情報」(60.4%)がもっとも多い。「今後重視する」情報で最も多いのは、「学生が習得した能力(学習成果)に関する情報」(75.9%)、「学生の学習状況に関する情報」(75.2%)、「就職状況に関する情報」(71.4%)である。この傾向は設置者別にみても、概ね同様の傾向である。

1-4 自己点検・評価の目的と達成状況

評価を活かした、教育・研究の改善が課題。

目的の重視度(「非常に重視」+「やや重視」、以下同)でもっとも高いのは、「教育活動の改善」(91.8%)であるが、その達成度は78.5%にとどまる。目的の重視度と達成度のギャップがもっとも大きいのは、「研究活動の改善」で重視度80.6%に対し達成度56.1%と24.5ポイントの差がある。「管理運営の改善」も重視度(69.9%)と達成度(47.6%)の差が大きく、自己点検・評価の結果を大学の教育・研究や運営等の改善に生かしきれていないことが分かる。特に私立大学においてその傾向が顕著である。

1-5 自己点検・評価の課題

克服すべきは「時間不足」「人・ノウハウの不足」「情報の散在」。

「業務多忙等で十分な時間がとれない」(57.0%)がもっとも多く、次に「情報を収集・分析できる専門的な人材が不足している」(54.5%)、「情報が散在しており集約するのに手間がかかる」(48.0%)が続く。自己点検・評価によって教育活動の改善を達成したグループと、そうでないグループの課題を比べてみると、「教員の自己点検・評価に取り組む意識が乏しい」、「大学教育の質についての共通認識がない」、「学部の教育(授業内容等)を詳細に把握している人材が不足している」等の項目で差が大きく、意識まで含めた態勢の課題が浮かび上がった。

2 IR(Institutional Research)

2-1 IRの必要性

「IRは必要」-学部長の8割が回答-

IRの必要性を感じている大学・学部は全体で76.1%(「とても必要である」+「まあ必要である」)であり、国公立大学より私立大学の方が必要性を感じている割合が高い。IRの必要性の有無により、自己点検・評価で今後重視する情報をみたところ、IRの必要性を感じている大学・学部では、IRの必要性を感じていない層に比べて、「入学時の学力」、「出席状況や退学」、「成績」、「学習成果」、「企業からの卒業生評価」に関する情報を強く求めている。こうしたことから、IRを活用した自己点検・評価によって、学生の入学段階から学習プロセス、大学教育の出口としての、就職後の活躍の状況まで、学生を育てた視点から時間軸に即して教育を改善したいとの意向が読みとれる。

2-2 IRを促進するために重要なこと

「人材育成と意識改革」が「情報基盤」と同等に重要。

IRを促進するために重要なこととしては、「教員の意識改善」89.6%(「とても重要」+「ある程度重要」、以下同)、「職員の専門能力の育成」(85.5%)、「改革に取り組む組織風土の醸成」(83.3%)、「学生の出席率や成績等~情報基盤の整備」(83.1%)と続く。特に私立大学では、いずれの項目も比率が高く、「学長・学部長のリーダーシップの強化」や「教学側主導の改革」等、経営上の事項まで含む課題があげられた。

3 教職員の協働

3-1 教職員の対話の状況

私立大で先行して進む「教職協働」。

FDやSDを通じて教員同士が大学の質について話し合う機会は頻繁にある(全体の「よくある」「たまにある」の合計値91.9%)が、「職員同士」となると71.3%、「教員と職員が相互」になると59.6%まで割合が低下する。ただし、設置者別にみると、国立大より私立大において職員を交えた、対話の広がりを読み取ることができ、大学教育の質向上に向けた教職員の協働が進みつつあると推測できる。