2012年5月23日水曜日

PTA会費について考える

最近、PTA会費についての記事がいくつか目に止まりました。

PTA費、学校運営に流用 12府県市の監査で改善要求(2012年5月10日朝日新聞)

大阪府や名古屋市など12の府県・政令指定市の一部の公立高校が、保護者らから集めた金を公費の代わりに学校経費に充てたとして、2007~11年度の県や市の監査で改善を求められていたことが朝日新聞の調べで分かった。PTA会費や後援会費といった学校徴収金を校舎修繕費や教職員手当などに充てていた。こうした実態を問題視し、文部科学省も9日、全国調査に乗り出した。
学校の経費は、学校教育法で「設置者(府県や市)の負担」とされる。負担の範囲について、文科省の担当者は「給与や施設の建設・修繕など学校本来の役割に必要な経費」と説明する。
朝日新聞は、市立高校のない相模原市を除く全66の都道府県・政令指定市の教育委員会に07~11年度の公立高校の学校徴収金について尋ねた。その結果、12府県・市の監査で、使途を示して「公費負担すべきだ」などと指摘されていた。 (関連記事)

「学校に係る経費をPTAがどこまで負担すべきなのか」「会費が何に使われているのか」については、これまで不明確であり不透明すぎたような気がします。また、明確にされていても、残念ながら適切に守られてきたようには思えません。

今回は、教育熱心なPTAが多いことで知られる国立大学法人の附属学校を例にしてご紹介します。

国立大学法人のうち、教員養成系の大学や学部には、幼稚園、小学校、中学校(以下「附属学校等」といいます)が設置されています。ここに在籍する幼児、児童、生徒の保護者に「負担を求めることが適当でない経費等」については、既に、文部科学省から通知(「附属学校の運営に要する経費等の取扱いについて」(平成12年6月13日 文部省高等教育局大学課教育大学室長通知))が出されており、以下のように明確にされています。
  1. PTAは附属学校の教員が構成員となっているため、形式の如何を問わず、当該学校等への金員や物品の提供等(以下「寄付」という。)を目的とする会費の徴収や募金活動をすることはできないこと。

  2. 附属学校等の後援会等(名称の如何を問わず、当該学校等の教育研究の振興等を会の目的として保護者が主たる構成員となっているものをいう。)から寄付を受ける場合には、以下の点に留意し、疑義がある場合は寄付を受けないこと。

    1. 募金活動は、後援会等当該団体の活動に必要な会費の徴収とは別に行われること。
    2. 寄付は、あくまでも寄付者の自発的意志によるもので、寄付金額についても割当等の方法によらない任意の額となっていること。
    3. 募集要項等において、その目的、趣旨及び寄付自体の任意性、寄付金額の任意性が明確になっていること。
    4. 募金の趣旨が、附属学校等の教育の振興・充実等を目的とするものであること。
    5. 募金活動、その他経理全般について、法人の職員は一切関与しないこと。
    6. 法人は、寄付金として受け入れ、学内規則等に従って適性に処理すること。また、物品を受け入れる場合にも、所定の寄付手続きによること。
また、附属学校等の「運営費の負担区分」についても、以下のとおり明確にされています。

1 国立大学法人の予算で賄うべきもの

学校の教育・管理運営上不可欠なもの
例)非常勤講師雇用費(寄付金で支弁して差し支えないものを除く。)、給食要員雇用費、学校図書館司書雇用費、年間雇用の清掃要員雇用費

2 私費(保護者負担)で賄うべきもの

受益者負担とすべきもの
例)給食材料費、修学旅行費、臨海学校・林間学校参加費、クラブ活動の児童・生徒の参加旅費、個々の学習活動に使用するもの(ワークブック、漢字ドリル)、直接口にするもの(笛、ハーモニカ)、家庭に持ち帰るもの(図画工作用の粘土、版木)、卒業記念写真集

3 寄付金で支弁して差し支えないもの

学校教育の振興・充実に充てるもの
例)児童・生徒用備品購入費(パソコン、シューズボックス、ロッカー、楽器)、図書購入費、教員の会議出席旅費、研修会出席旅費、クラブ活動引率旅費、修学旅行引率旅費、講師招聘旅費・謝金、非常勤講師雇用費(教育効果の上乗せを図るもの)
しかしながら、現実には、各附属学校等の教員やPTA役員等の判断により経費の徴収方法や使途が決定されるため、結果として、保護者や社会に対して説明できない、又はしずらい内容になっている場合があります。例えば、以下のような事例です。

1 保護者負担の校納金(学級費、教材費等)について
  • 入学説明会等の機会に、保護者に対して「校納金の趣旨、保護者に負担を求める理由、残金処理を含む会計報告等」についての説明は行われているものの、徴収事務を効率的に行うために、「附属学校等が直接管理する資金(学級費、教材費等)」と「PTAや後援会等が管理する資金(会費等)」を混在して徴収している場合があります。この場合には、それぞれの「資金管理の主体」が保護者にとって不明確となるばかりか、徴収した全ての資金の管理責任が附属学校等に存在するかの誤解を生みやすい状態になることが懸念されます。徴収する資金ごとに、その管理主体を明確にし、責任と権限の明確化を図る必要があります。

  • 国立大学法人の場合、保護者から徴収された校納金については、簿外処理を防止する観点から、公金としての適正な会計処理や監査を行う必要があります。しかし、使用結果である決算について、未だに法人化前の手法を踏襲し「保護者」が監査を行っている国立大学法人があります。公金という性格上、使途の正当性、管理の適正性等についての監査は、国立大学法人が責任を持って行うべきです。

  • 校納金の出納は、通常、附属学校等の教職員が行うことになりますが、その責任と権限が学内規則上明確にされていない国立大学法人があります。また、通帳や現金等を附属学校等内の金庫において管理している場合が多いわけですが、通常備えなければならない金庫監守のための規定等を作成していない国立大学法人もあるようです。このような国立大学法人は、早急に必要な規定を整備し適正な管理体制を構築する必要があります。
2 後援会からの寄付金について
  • 寄付者への説明(募金の趣旨等)は、入学説明会等の機会に適切に行われているものの、後援会自身ではなく附属学校等の教職員が行っている場合があります。また、「後援会自身の活動に必要な資金」と「後援会が附属学校等に寄付する目的で募金する資金」とを混在して徴収している場合があります。資金の趣旨・使途、管理主体が不明確なまま保護者から徴収することにならないよう、それぞれについて明確に説明し、責任と権限の明確化を図る必要があります。

  • ほとんどの後援会の会則では、附属学校等の教育の振興・充実のために行う募金は、「会員の自発的な意志によるもので、募金の額は任意とする」ことになっています。しかし、募金を行うに当たって、事前に附属学校等から、寄付金の使途が記載された「使用計画書」の提出を受けたうえで資金を徴収しているケースがあり、この場合の使用計画書の提出は、附属学校等からの寄付の請求行為といった誤解を招くことが懸念されます。使用計画書は、あくまでも寄付後に作成されるべきです。

  • 募金への賛同者を確保すること等の観点から、後援会が、寄付金額の「割当」を行っている場合が未だに見受けられますが適切ではありません。

  • 募金主体である後援会の会長や運営委員等に、国立大学法人の現職教職員が任じられている場合がありますが、募金活動や寄付金の経理に、寄付を受ける側の教職員が関与することは、リスク管理上適切とは思われず改善すべきです。

附属学校の場合、公立学校に比べて、入学時の寄付金(後援会を通じた附属学校等への寄付金を含む)が高額であり、保護者に求める財政的負担が大きいと言われています。我が国は、教育に対する公財政支出がOECD先進諸国中最低レベルであり、一方で、家計負担に占める教育費の割合が極めて高いことが社会的問題となっています。加えて、世界的な経済状況の悪化を受け、家計に占める教育費負担の割合は拡大しています。そのような中で、附属学校等が、好況期同様の家計負担を保護者に求めることが果たして適切かどうか十分な検証を行うべきだと思います。景気の動向、附属学校等で学ぶ子ども達の家計の状況、公立学校等における保護者への財政負担の動向等を調査・分析した上でお願いする負担額を決定することが、果たさなければならない説明責任ではないでしょうか。

また、附属学校等の教育の質を安定的に維持・発展させていくためには、国立大学法人から附属学校等への財政支援の充実が不可欠です。附属学校等が教育上必要な資金を確保するために保護者へ過大な負担を求めることのないよう、国立大学法人は、文部科学省から附属学校等のために交付された資金を責任を持って確保し配分しなければなりません。国立大学法人の附属学校等として、その存在意義を社会に説明できる機能を果たすために必要な資金を政策的に充実させる取り組みを進めるべきでしょう。



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