2012年6月17日日曜日

大学改革に関する国家戦略会議の議論

去る6月4日(月曜日)に開催された国家戦略会議の議事要旨が公表されています。「大学改革」に関する部分について抜粋してご紹介します。

議事要旨全体はこちらをご覧ください。


平野文部科学大臣

先般、4月の戦略会議におきまして、総理の方から改革を報告するよう御指示をいただきました。
資料1を御参照いただきたいと思います。資源のない我が国におきましては、持続的に成長を遂げていくためには人材による力というのが非常に大きい。人材イノベーションの推進こそが日本の再生となるということで、私も4月以降、大学を約20校近く現場に足を運んでまいりました。
そういう観点で資料を見ていただきたいと思いますが、2つの大きな考え方に立って改革を進めたいと思っています。
(途中略)
2点目は、創造性あふれる人材育成のための大学入試の改革は急務であると思っています。単なる知識でなく、クリティカルシンキング能力を育てるということで、現代の共通語である英語は非常に大事であることも踏まえて、TOEFUL等も活用するなど入試の改革を進めてまいりたい。
3つ目、大学が、学生が自ら学び、創造性を発揮する場となるためには、大学における教学体制の改革が必要です。このために学生の欧米並みの学修時間を実現するとともに、社会ニーズに対応する学科等の再編をし、産業界との連携をより深めることを模索していきたい。
4点目、グローバル人材育成のための20代前半までに1割の若者、現在6万人ぐらいですが、11万人が海外留学等を含めて実体験することを推進するということです。高校生が英語での生活を送る英語キャンプ等の展開を図っていきたい。英語における授業の倍増など、国際化拠点大学への重点的支援を通じた大学の国際化を拡大してまいりたい。
5点目、これらの改革を進めていくために、大学のガバナンスの改革を進めてまいります。文部科学省におきましては平成25年に国立大学改革プランを作成し、国立大学ごとのミッションを改めて再定義し、社会的使命を明確化してまいりたい。国はこのミッションに応じてメリハリある支援や、1法人複数大学方式等の制度的選択肢を拡大します。これらを通じて機能強化に向けた大学間の連携、再編を促進してまいりたい。
6番目、我が国の学生全体の75%を私学が占めています。分厚い中間層を育成していく上で、この役割は極めて重要です。このため私学助成の基盤的経費としての基本的性格を十分踏まえつつ、私学の質的充実に向けた支援とメリハリのある配分を考えていきたい。また、設置認可から大学評価、是正措置にわたる質保証のシステムを確立し、大学全体の質の向上をしてまいりたい。
7点目、国際競争力のある研究大学群を育成強化し、世界で戦えるリサーチ・ユニバーシティを倍増します。また、地域活性化の拠点となる大学の機能強化を目指していく。
文科省としては日本を担う人材の育成のため、総力をあげてこれらの改革に取り組むこととしています。総理を始め、関係各位の御協力の下にしっかりと進めてまいりたい。


岩田議員(日本経済研究センター理事長)

まず大学の教育システム改革ですが、ここに書かれていない問題を申し上げたい。ポストドクターの問題は非正規雇用、つまりドクターは終わったが、研究の手伝いみたいな仕事をやっている30代後半あるいは40代の人が1.7万~1.8万人いる。その間にせっかく大学院までやったスキルがむしろ劣化してしまうという、人的資本が劣化する問題があります。
この問題は、日本が抱えている基本的問題、つまり高度成長のときは人材を企業が育てる余裕があったのですが、今はその余裕がなくなってきて、個人が、働く人が自分でスキルを身につけなければいけない、ところが、その個人が身につけたスキルと企業が欲するスキルが必ずしもうまくマッチしていない。ミスマッチの問題がこのポストドクターの問題ではないかと思います。
その観点からすると、私はイギリスの例を申し上げたことがあるのですが、文科大臣の資料の中にも入っておりまして、ナレッジ・トランスファー・プログラムという、企業のR&D活動に大学院生が週に1回行って参加する。つまり産業が必要としているスキルがどういうものかという、そこのミスマッチを解消する上で、こういうインターンシップというのはむしろ単位に積極的に組み込むような形でやっていったらいい。
私は大学にいたときに、ポリテクニックというフランスの大学校があって、これはエリート校ですが、私がたまたま専攻主任を大学でやっているとき、向こうから連携したいと言ってきた。留学生をお互いに交換するプログラムをやりたいと言ったのですが、うまくいかなかった。それはどうしてかというとポリテクニックの方が、学生を1年間派遣するわけですが、1か月の企業研修を要望してきた、ところが、日本にはそういうことをやる環境が全くない。
ですから、文科大臣の報告にもありましたが、海外のインターンシップということが書かれているのですが、海外から日本の企業がそういうインターンシップを受け入れるという、双方が必要ではないかと思います。
もう一つはグローバル人材ですが、明治時代にお雇い外人というものがあって、明治25年ぐらいまでは東京大学も相当外人の教師を雇っていました。そのときの試験問題は英語でやっています。加藤高明という有名な政治家で法学部出身ですが、法学部の試験は英語で答えが書いてあって、むしろ明治時代のときの方が、東京大学では英語でずっと授業をやっていたわけです。そのときの方がむしろ国際人材を育てたのではないかと思います。
その関連で言うと、文科大臣の報告で強調されていますのは、英語の入試についてTOEFLで私もいいと思うんです。なぜかと言うと、私は大学院で外国人の留学生の試験の中の項目に日本語もあるのですが、英語もあります。ところが、アメリカ人の留学生が英語で落第する。試験に受からない。それは非常に奇妙ですが、よく見ると英語の力を見ているのではなくて、実は日本語の能力がどのぐらいあるかという試験問題にどうしてもなりがちなんです。これは前から矛盾を感じていたので、むしろこういうグローバルスタンダードでやった方がいいと思います。


米倉議員(住友化学株式会社代表取締役会長)

日本の教育システムが本当に変わったということが実感できるようなメッセージを出すことが、非常に重要なことです。
(途中略)
もう一つは、大学における教育制度。これも改革はもとよりでありますけれども、研究開発の面においても基礎研究の分野に入るような研究について、大いに大学でやっていただきたい。日本の企業は基礎研究もやりますが、これは大きな科学の目で見ると応用研究に属するようなものを基礎研究と称してやっている場合も多いので、本当に日本の科学技術のレベルを支えるような、ノーベル賞学者がどんどん出てくるような研究開発をやっていただきたい。
グローバル人材の育成ですが、これは本当に官民あげてやるべきことだと思います。経団連では今年度から大学生で海外に留学したいという学生に対して、1人あたり100万円を支援するシステムをつくりました。初年度の支給対象者は34名になりますが、こうした取組みを大いにやっていこうと考えています。また、高校生への留学支援についても従来から実施しています。これは人数的には15人、7か国に留学していただく仕組みです。このような民間ベースの取組みが拡充するよう、政府としても考えていただきたい。


長谷川議員(武田薬品工業株式会社代表取締役社長)

まず、平野大臣が「目標を明確化し、PDCAサイクルで進捗をフォローアップする」と自ら宣言されたことを評価しますが、PDCAでフォローするに際して、実態を伴う形でやるために、いつまでに、何を、どこまで、だれがやるのか、といったことを是非工程表で明確に示していただきたいと考えます。
その観点に立てば、文章の末尾に「~の推進」であるとか、「~の適正化」という表現が多く見受けられますが、それでは成果目標が具体性に欠け、不適切と考えざるを得ませんので、もう少し自らをコミットするような形にしていただきたい。
米倉議員、岩田議員もおっしゃったように、すべての改革は待ったなしですので、もう少しスピード感を持っていただきたい。中でも国立大学、私立大学の問題について、平野大臣が説明されたように、「ミッションに基づいたメリハリのある支援」を行おうとするならば、例えば国立大学の運営費交付金はその大半が学生及び教員数に基づいて機械的、自動的に算定・配分されており、その趣旨に反すると思われます。やはり国立大学あるいは私立大学に対し、額は少ないにしても助成金を出すに際しては、ミッションなり目標を明確に設定させ、その成果に基づいたメリハリのある配分へ変更されることによって、初めて競争原理が働き、そこに切磋琢磨が生まれますので、是非そのような観点からご検討いただきたいと思います。
ただし、大学の統廃合あるいは合併、連携などに際して、地方の中核大学は地域活性化、あるいは地域に役立つ人材の育成という少し異なる観点での使命も担っておりますので、別途配慮が必要ではないかと思われます。
(途中略)
経産省の推計では、グローバル人材は向こう5年間で2.4倍のニーズがあるとの説明がありましたが、これに関しても現実は先行しており、既に国際化した日本企業は、日本に来ている留学生はもとより、海外における日本人および日本人以外の留学生、さらには直接近隣国の有名大学に出向いて学生の採用を行っています。このように、採用側のニーズに見合うような人材を必ずしも国内の大学で育成していないということが、学生がなかなか就職できないといったことに拍車をかけており、もはや待ったなしですので、改革を目に見える形でスピードアップしてやっていただきたい。その観点から言えば、米倉議員もおっしゃいましたが、目に見える一番いい例は大学の先生です。グローバル人材を育てようと思ったら、日本人の先生だけでできるはずがありません。いつごろまでに、何割ぐらいをノンジャパニーズにするということを明確に決めていただいて、さらに交付金とタイアップするなど何らかのインセンティブをつけて具体的にやっていただく必要があります。でないと、我々企業、特にグローバル化した企業としては、日本人で優秀な人を採りたいという気持ちは山ほどあるにも関わらず、ますますノンジャパニーズを採用する方向に向かわざるを得ません。対象は違いますけれども、国内バイオベンチャーに投資する先がないから海外ベンチャーを買収せざるを得ないということと理屈は同じですので、是非大学教員の改革もお考えいただきたいと思います。


野田内閣総理大臣

第一に、教育システムの抜本改革につきまして、本日、取組方針の御報告がございました。小中一貫教育制度の創設等による六三三制の柔軟化、国立大学の再編成や私立大学の質保障の徹底推進、世界で戦える大学の倍増など、教育改革は次世代の戦略的な育成の上で極めて重要です。
本日の議論も踏まえまして、平野大臣の下で改革の道筋を一層明確にし、数値目標や工程等について更に検討を深めていただきたいと思います。