2012年8月28日火曜日

大学経営とそれを担う人材(4)


前回に続き、広島大学高等教育研究開発センター高等教育研究叢書(第39回(2011年度)研究員集会「これからの大学経営-誰がどのような役割を担うのか-」の記録)から、金子元久さん(当時:国立大学財務・経営センター、現在:筑波大学大学研究センター)による基調講演録を抜粋してご紹介します。


2 経営問題としての教育機能

では日本の大学教育はどういう問題を抱えているのか。これは今回の研究集会の課題そのものではないので簡単に申し上げたいと思います。

問題としての大学教育

私は大学教育の質自体が問題になるのは偶然ではないと思います。

大雑把にいえば、グローバル化、知識社会化が進み、同時に高等教育はすでにユニバーサル化して量的な拡大が一定の段階に達してしまった。同時に若者の価値観に変化があり、それからキャリアも大きく変化し、しかも見えなくなってきている、将来の方向が見えなくなってきている。そういった中でさまざまな問題が起こり、それが結果として教育内容の適切化、グリーバンス(grievance)、あるいは効率化、大学教育の効率性、あるいは質の問題、あるいはさらに実質的な学習自体が、ただ表面的に形式的に行われているのではなくて実質的にどの程度のものが出来上がっているのか、その成果が問われるという状況が生じているのではないでしょうか。

それを少しデータでお見せしたいと思います。大学教育は大切だ、大切だというようなことはアチコチで言うのですけれども「なぜ大切なのか」ということについてその切迫性について、私は認識がまだ十分ではないのではないかと思うのです。

一つは大学生の就職です。ご存知のように内定率が低くなったというようなことが言われているわけでありますけれども、しかし実は日本の大学生の就職問題がかなり深刻な状況を迎えたのはもう1990年代半ばくらいからです、もう十数年くらいそういった状態が続いています。これは(表1:略)2010年ころの大学生の就職状況をいくつかのデータを組み合わせて推定したものですけれども、私はこれを基本的に四つに分類しています。「枠内」というのは4月の一括採用で就職した人、これは学校基本調査で就職した年で出るものです。しかし枠内で就職した人の中でも大体3割くらいは3年以内に辞めると言われています。他方で一括採用の枠内に入らなくても、就職した人はいます。ただしその中でも、自活可能な賃金をもらっている人と、例えば年額200万円以下くらい、自活が不可能な賃金をもらっているような人たちもいます。それから無業、はっきりと無業の人、それと大学院への進学、これが15%くらいです。

そうしますと、いわゆる一括採用は「就職」というのは40%くらいになります。しかしその非安定な人を集めると、いわゆる非安定的な枠内修業、それから枠の外での修業、それから無業者を集めると大体45%くらい、4割近くは従来のかたちでの生涯雇用には入っていないのです。大卒者の雇用状況の悪化は深刻です。

それはなぜかと言うと産業構造が大きく変化しているからです。日本の製造業は特に2000年代に入って急速に外に出ていった。大卒者の就職先は、ここ特に6~7年の間、急速にシフトしてサービス業に移っていきます。製造業、逆に言うと製造業は年間、大体十数万人、12~13万人くらい大卒者を受け入れていたのが、今は、今年は4万人を切るという状況で、製造業の求職率が非常に下がっている。大卒者の質の構造、量が大きく変化しているということになります。

もう一つ、あまり意識されてないのが、親が大学教育にお金を払う余裕が無くなっているということです。大学生のうち、日本学生支援機構の貸与奨学金を借りた人の割合でありますけれども、2000年代に入って急速に「きぼう21」という有利子奨学金の受給者が増えて、大学生の三分の一になっています。これまで日本の親は無理してでも子どもを大学にやると思われたのですが、実はもうそれはウソで、そういったことはできなくなっている、お金を借りなければ大学にやれないという状況に急速になっている。

しかしさっき申し上げたことと併せて考えれば金を借りて大学を出ても、実はそのあとでの就職状況は非常に危ない。非常にリスクが高い状況になっているわけです。しかも大学教育は高い金を取って、あるいは高いコストを掛けて教育していると言っていますが、大学生は勉強しているのかということも問題になります。(続く)