2013年12月28日土曜日

大学改革力の根源

桜美林大学教授の篠田道夫さんが書かれた論考大学ガバナンス改革を考える-マネジメントとの一体改革で前進を」(アルカディア学報)をご紹介します。



ガバナンス議論、焦点に

中央教育審議会に組織運営部会が発足し、大学ガバナンス改革の議論が急速に進んでいる。この問題は、古くは1995年大学審議会答申「大学運営の円滑化について」や1998年「21世紀の大学像と今後の改革方策について」で取り上げられた。今回同様、学長の役割やリーダーシップ、教授会の権限、意思決定の迅速化などが中心テーマになっている。しかし、この時は教授会が教員の採用や昇任をはじめ重要事項についての審議・決定権限を持っている(教育公務員特例法など)ことを前提に運営上の円滑化を目指すもので、学長選任も選挙制度を前提に適切な候補者の推薦システム等の改善提案が中心であった。今回はこの枠組み自体を見直す根本的な提起である。

今回の議論は「学士力」答申での教学経営の提起、昨年8月の「質的転換」答申での教学マネジメント提起の流れの中で、大学教育を本当に変え得る体制を作れるか、改革が進まない現状への危機意識が背景にある。

教育改革は手法の提起だけでは進まない。教職員を教育の質向上、授業改革に向けて動かす仕組みが不可欠だ。その要は経営と一体となった学長の大学統括力の強化である。学長直轄の全学的な意思決定組織や教育改革推進のための全学機構の確立、教職による強力な学長補佐体制、政策立案機能の構築など教育を学部任せにしないガバナンス改革が求められる。

本年5月28日、教育再生実行会議は「これからの大学教育等の在り方について(第3次答申)」で「学長が全学的なリーダーシップをとれる体制の整備を進める」として「学長選考方法の在り方の検討」「教授会の役割の明確化」を掲げ、初めて「学校教育法等の法改正」に言及した。このガバナンス改革の方針は「教育振興基本計画」に受け継がれ、6月14日、閣議決定されている。安倍政権も「日本再興計画」の中で経済再生の切り札の一つを大学改革とし、ガバナンス改革を強調する。

私高研調査に見るガバナンスの特性

こうしたガバナンスの問題点は、我々私高研の2011年調査でも裏付けられている。「理事会と教授会で方針や意見の違いがたまにある」26.7%、「理事会と教授会の関係不全が課題である」も37.4%と4割近い。意見の違いがある所は学長を選挙で選んでいるが61%、反対に無い所は31%しかない。やはり選挙を採用している大学は理事会との意見の違いが生まれやすいことは確かだ。「学長方針は学部に不徹底、しばしば調整がいる」29.2%%、「学部教授会には直接関与できず、1学部でも反対すると事が運ばない」17%という実態は、ガバナンス改革の必要性を示している。

私大のガバナンスは、以前から学長の選任方法によって、A理事長・学長兼任型、B学長理事会指名型、C学長選挙型の3類型に分けられてきた。今回の調査でも、Aが2割弱、Bが4割強、Cが約4割という分類となる(私大協会加盟約200大学の調査)。その特性は、Aはオーナー系が多く、小規模、歴史は古い所と新しい所が半々、経営・教学の関係は良好。Bはややオーナー系が多く、中規模、新設大学が多く経営・教学の関係良好。Cは非オーナー系が多く、大規模、歴史があり、経営・教学に意見の違いありということだ(「私大のガバナンス」両角亜希子『IDE・現代の高等教育』2012年11月号参照)。

ただし、この3類型は定員充足率や消費収支差額比率などには大きな差がない点も注意しなければならない。

成果に連結するマネジメント

今回の調査で成果と連結しているのは政策が浸透し課題の共有が進んでいる点で、課題共有度が高いほど定員充足率が高く中退率が低く学生満足度が高い、また円滑なマネジメントの遂行などほぼ全てにわたって有効性が高い。実効性ある中期計画も経営・教学改善、定員確保や消費収支差額比率の向上に効果がある。もちろん実効性があるということは、計画があるだけでは駄目で、計画自体が現場の実態から出発し、具体性があり、達成指標や数値目標が明確で、達成度評価を行い改善につなげるサイクル(内部質保証システム)が機能していることが必要である。

2009年調査でも、例えば中期計画が財政計画にリンクしている法人は帰属収支差額比率がプラス8.3%であるのに対し、出来ていない場合はマイナス1.9%、同じく計画が予算編成に反映されている場合はプラス7.5%、反映されていない場合はマイナス0.5%と明瞭な差がある。達成度指標を設定したり認証評価と結合して中期計画の到達度評価を行っている場合が良い結果と結びついている。政策調整会議の設置率を見ても、理事会と教授会に意見の違いがある場合は33.8%しか設置していないが、意見の違いが無い場合は66.2%が設置しており、工夫次第で対立はかなり改善できることを示している。選挙型・非選挙型など、どのガバナンス類型にあっても、具体性のある中長期計画を立て、教職員に浸透させ、PDCAに基づく戦略的マネジメントに努力している大学は成果を上げている。

マネジメントとの一体改革こそ重要

こうしたことを総合すると、理事長、学長の権限の在り様、意思決定組織の明確化などのガバナンス、すなわち大学の統治形態の改革は極めて重要だが、ガバナンス類型の特性、強みや弱みを把握し、政策と計画を決定・遂行するマネジメントがあればさらに確実に成果に結び付くということだ。ガバナンスとマネジメントの改革が一体となることで大きな前進につながることを示している。

大学の弱点である統制力の強化、そのための組織や権限、いわばハードの改革は不可欠だが、人を育てる組織、教育を本業とする大学では、最後は一人一人の学生に向き合う教職員の自覚的行動をいかに作り出すか、このソフトの改善なしには成果は得られない。研究者、専門家集団である教員組織を動かし、理事会と教授会、教員と職員という異なる集団を一体化させねば目標実現に迫れない大学組織は、企業運営と共通する面と共に異なる側面も持つ。権限の強化(ハード)だけでは構成員の心を結集することは出来ず、そうした統治によって何を実現するのか、ミッション、目標や実現計画の共有化、それを担う幹部の資質(ソフト)が求められる。強いトップ集団も必要だが、構成員が政策を自覚し自ら主体的に行動する運営を作り出すことなしには教育・研究での成果は上げられない。

この点で私が注目しているのは、経営・教学・事務を貫く中長期計画を軸とした運営の抜本的強化、戦略経営の確立である。厳しい環境では明確な旗印が不可欠であり、学生の育成は総合的な施策なしには進まない。この策定と実行過程を通じて全学の課題共有、認識一致、連携風土を構築することが大切だ。そして、こうした政策を中軸とした運営が過度の教授会自治を乗り越え、また事務局、職員を改革の主体者として登場させる。ガバナンスとマネジメント、法人と大学、事務局の一体運営の柱に戦略を据えなければならない。

カギは目指す目標に如何に構成員を巻き込んで実行できるか、その大学に即したシステムの構築である。最終的には何割の教職員を目標達成行動に組織できるかが大学改革力の根源である。私学の多様性は一つの型、一律の改革にはなじまない。欧米各国のガバナンスを見ても選挙型、任命型、コンセンサス重視型などガバナンスの形は一様ではない。理事長が法人全体を「総理」し、学長が大学全体を「統督」するためには権限も重要だが、真に教職員を動かすのには政策統治が不可欠だ。これが学校法人と大学が一体となり目標へと向かわせる道である。


2013年12月21日土曜日

自分にも出来る

ブログ「今日の言葉」から天賦(てんぷ)」(2013年12月20日)をご紹介します。


努力することの本当の意味は
人に勝つということではなく、
天から与えられた能力を
どこまで発揮させるかにある 平澤興


人は誰でも同じだけの可能性と才能を秘めている。
だからそれを開花させられるかどうかは、
どれだけ人と違った努力ができるか、
時間だったり、人間関係だったり、お金だったり、
そうした自分の大事なものを差し出せるかにかかっているのだと思います。

そもそも国が違えば、夢を見ることだって出来ない場合もあります。
自由に発言したり、自由に職業を選んだり、
自由にパートナーを選んだりすることが出来ない場合もあります。

少なくともこれを読んでいる私たちは、
それほどの制限を受けていることは無いでしょう。

だから、何かを始めるのに環境は十分揃っていて、
スタートラインに立っているのです。
何かを始めることが若さなのです。年齢は関係ない。

インド独立の父、ガンジーもこう言っています。
『一人に可能なことは
万人にも可能である。』

「あの人だから出来る」とは言わず、
「自分にも出来る」と気付けることが大事なのですね。
そこがスタートです。


2013年12月18日水曜日

自分独自の道を往く

ブログ「人の心に灯をともす」から行列に並ばない生き方」(2013年12月16日)をご紹介します。


私は、世の中には2通りの生き方があると思っています。

1つは「行列に並ぶ」生き方で、もう1つは「行列に並ばない」生き方です。

行列に並ぶ生き方とは、付和雷同型とでも言うのでしょうか。

自分の考えをほとんど突き詰めずに、なんとなくみんなと一緒の方向、世の中のマジョリティについていこうという生き方です。

いい場所を占めるためには、つまり行列の前のほうに並ぶためには当然、過酷な競争に勝ち抜かなくてはなりません。

一方、行列に並ばない生き方とは、オリジナルな意見・考えを持って人生を選択する生き方です。

もっとわかりやすく言うと、人と争わない、比べない、真似しない生き方です。

行列に並ばないということは、世の中の流行やクチコミに惑わされないということです。

9割の人たちがすぐに流行に飛びつき、クチコミに踊らされ、商品を購入してしまいます。

ほとんどの人たちの価値観は、マスコミによって催眠術のように誘導されて作られているのです。

行列に並ばない生き方は、「並ばない」と決意した瞬間から始めることができます。

その瞬間、あなたの目に映る景色は、今まで見ていたものとはまったく違うものになります。

行列の前のほうに並ぼうと全力疾走する必要もなくなります。

隙あらば他人を蹴落としてひとつでも前に進もうなどとケチな陰謀を巡らす必要もなくなります。

上司におべっかを使わなくてもいいし、同僚を敵と思わなくてもいいのです。

さあ、いい学校に入って、いい会社に入って、いい給料をもらうという行列から離脱してみませんか。

行列に並んだところで、手に入るのは一杯のラーメンや、ほんのわずかなお金でしかありません。

行列に並ばないことによって、選択肢の幅が広がり、他の人が絶対に真似できない、あなただけの人生が送れるのです。

人と違うことをやるというのは、言ってみれば、どんな大波にもビクともしないような大船から、波間を漂う小舟に乗り換えるようなものかもしれません。

しかし、現実に一歩を踏み出してみると、意外と不安は感じませんし、周囲を見回してみると、小さな舟でバンバン進んでいる人は、思っている以上に多いものなのです。


変化の激しい現代は、人と同じことをしていると、ダメになるのも急速にダメになるという時代でもある。

例えば、食べるラー油が流行し、それを真似する企業が続出したが、あっという間にそのブームも去った。

マスコミで有名なった行列する飲食店も同じで、今年は行列していても、来年も行列ができている店はほんとうに少ない。

人のやらないこと、人と違ったことが今まさに求められている。

それは、画家や作家がオリジナリティを追求するのと同じだ。

芸術家が人真似をしたら、盗作になってしまう。

事業家に限らず、現代はすべての人の生き方に、人と違うというオリジナリティが必要だ。

人真似をせず、自分独自の道を往くことをおそれない人でありたい。


2013年12月17日火曜日

古い革製の筆箱

ブログ「今日の言葉」から本当の愛情」(2013年12月16日)をご紹介します。


魅力あるもの、綺麗な花に心を惹かれるのは誰でもできる。

だけど、色あせたものを捨てないのは努力がいる。

色のあせるときに本当の愛情が生まれる。  遠藤周作


この言葉に関連する素敵なお話をご紹介させていただきます。

地球村という環境団体を作って活動されている高木善之さんの話です。


彼の家では、子どもにあまり新しいものを買い与えないそうです。

娘さんが使っている筆箱も、お母さんが小学校時代に使っていた古い革製の筆箱でした。

この筆箱を娘さんにあげるときにお母さんが、

「これはお母さんが小学校の時から大切に使っていた宝物なの・・・。

これを買ってくれたお父さん、あなたのおじいさんは、お母さんが小学生のときに亡くなったの。

お母さんは、これをお父さんの形見としてとても大切にしていたのよ。

あなたが大切に使うのならあげようか?」

と娘さんに話したそうです。

ある日、娘さんが使っていた筆箱がクラスで話題になりました。

ある男の子が娘さんに、

「お前の筆箱、古いやないか、僕のはこんなやで」

と娘さんの筆箱をばかにしました。

ほかの子も一緒になって娘さんの筆箱を指差してからかいました。

そのとき、娘さんが、

「ねっ、古いでしょ! いいでしょ!

これはお母さんが子どもの頃から大切に使っていたんだって!

おじいちゃんの形見なの。

私も大事に使って、私の子どもにこれをあげるの」

と行ったそうです。

周りの子ども達は一瞬シーンとなりました。

しばらくして男の子達が、

「ふーん、ええな」

と言ったそうです。


新しいとか見た目がいいとかではなく、

どんな想いが込められていて、

それを大切にしようと思う気持ちが添えられて、

物事は本当に輝いて行くのですね。




2013年12月16日月曜日

平成26年度予算編成の論点

去る12月12日(木曜日)に、「平成26年度予算の基本方針」が閣議決定され、いよいよ予算編成も大詰めです。

予算編成の基本方針のうち、大学関係部分を抜粋してご紹介します。「イノベーション人材育成」「グローバル人材育成」「教育再生」「大学改革」「ガバナンス強化」といった政府の重要施策が並んでいます。

また、予算編成の基本方針の策定に先立ち、財務省の財政制度等審議会が取りまとめた「平成26年度予算の編成等に関する建議」を合わせて抜粋しご紹介します。毎年のことではありますが、相変わらず、財務省主導の経済原理を一方的に押し付ける内容になっています。

先進国中、教育費に対する公財政支出が極めて低い(国民の家計負担が極めて高い)我が国の教育振興を国の責任でこれからどう進めていくのかが全く見えないばかりか、建議をとりまとめる審議会では、国立大学と私立大学の使命・役割の違いすら理解できていない視野の狭い有識者が、国民負担に直結する奨学金や授業料を教育の観点からではなく、経済理論一辺倒の議論・発言を行っています。

財務省一流の省益優先の政策誘導なのでしょうが、もうそのような国民不在の不毛なやり方はやめませんか。


平成26年度予算編成の基本方針(平成25年12月12日閣議決定)(抄)

Ⅱ 強い日本、強い経済、豊かで安全・安心な生活の実現

1 成長戦略の実行

(1)民間活力の最大限の発揮(日本産業再興プラン)

改正研究開発力強化法(「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年12月5日成立))の趣旨を踏まえ、人材活用と人材育成の強化に取り組むほか、「総合科学技術会議」の司令塔機能を強化しつつ、科学技術イノベーションを推進するため、府省横断型の「戦略的イノベーション創造プログラム」の創設、基礎研究を含めた科学技術イノベーションを担う人材の育成など、「科学技術イノベーション総合戦略」を推進する。

3 個人の能力・個性を伸ばすための基盤強化

(2)教育再生、文化・スポーツの振興

① 教育再生

「教育基本法」の理念や教育再生実行会議の提言を踏まえつつ、第2期教育振興基本計画等に基づき、教育の質の向上を目指し、人材養成のための施策を総合的に推進する。

グローバル化に対応する人材力を強化するため、意欲と能力ある若者に対する留学環境の整備や、必要な教育を牽引する学校群の形成を推進するとともに、産業界のニーズに対応した学び直し機会の拡大やキャリア教育等を推進する。ガバナンス強化を通じた大学改革及び大学における教育研究基盤の確立による教育研究の活性化に取り組む。

◇ 


3 文教・科学技術

3-1 文教予算

(3)大学関係予算

現在、国立大学においては、
・海外トップクラスの大学の教育プログラムや教員の積極的誘致等によるグローバル化に対応した人材の育成
・優秀な海外の人材の獲得や優秀な若手の研究者育成を可能となるよう、硬直化した人事を解消するための人事給与システムの改革
・日本の経済再生に向けて、大学の研究成果を社会の還元するためのイノベーション機能の強化
などの課題を抱えており、これらの課題解決に向けて国立大学改革に係る取組みを着実に推進していく必要がある。〔資料Ⅱ-3-12参照〕

国立大学に対する国からの主な支援である国立大学運営費交付金の配分については、固定化している傾向が見られる。国立大学改革の着実な実施を考慮すれば、大学のガバナンス改革等に資するよう、各大学の取組みの成果を具体的に検証し、国立大学運営費交付金のメリハリを利かせた配分が必要と考えられる。〔資料Ⅱ-3-13参照〕

国立大学の授業料についても、授業料標準額から120%の上限範囲で大学において自由に設定できるにもかかわらず、現状ではほぼ標準額に固定化している状況にあり、質の高い教育に向け、効果的な投資や授業料免除、大学独自の奨学金など教育環境に係る取組みにより、学生の多様なニーズ・価値観に応えていくために、授業料についてなおいっそう弾力化することで収入の増加・多様化を図り、当該収入を財源とした多様な教育の取組みを行っていく必要があると考えられる。〔資料Ⅱ-3-14参照〕

(4)奨学金の見直し

大学生等に対する奨学金については、無利子奨学金と有利子奨学金を合わせれば全学生の4割に貸与されており、希望者全員に貸与されている。そのような状況の下、文部科学省は26年度概算要求において、「有利子から無利子へ」との考え方に立ち、無利子奨学金貸与者数の大幅増員要求を行っている。

しかし、そもそも大学進学は将来の自分のための投資という側面があり、そのための資金は意欲と能力のある学生に対して有利子貸与で措置するのが原則といえる。在学中は返済義務は猶予され、大学卒業後に本人が所得の中で奨学金返済の責任を負うことを踏まえれば、本来は家計の所得に関わらず有利子奨学金で措置すべきであり、無利子奨学金は極めて例外的な場合に限定すべきである。法律上も、無利子奨学金は「特に優れた者であって経済的理由により著しく修学に困難があるものと認定された者に対して貸与する(日本学生支援機構法第14条)」とされており、その趣旨からいっても無利子奨学金の貸与は厳しい家計基準、成績基準で限定すべきである。

この点、無利子奨学金の家計基準は907万円以下(私立大・4人世帯・自宅)であり、基準を満たす世帯は全世帯の約8割に上っており、明らかに制度の趣旨から乖離した緩やかなものとなっている。無利子奨学金における収入階層別の配分を見てみると、児童のいる世帯の平均所得(697万円)以上の世帯が2割以上を占めており、低所得者世帯への資源の重点配分が行われていない。低所得者世帯に重点的な貸与を行うためにも、家計基準を厳格化する方向で見直すべきである。また、現行の家計基準の下であっても、低所得者世帯への重点的な貸与は可能であり、文部科学省はまずは制度の運用改善に努めるべきである。〔資料Ⅱ-3-15、16参照〕

回収強化については、貸与人員の拡充もあり、3ヶ月以上の滞納額が大幅に増加し、23年度末で2,600億円を超える水準(要返還債権に占める割合5.5%)に上っている。引き続き日本学生支援機構に対しては、学校別延滞率の公表などを通じて、責任をもって新規の延滞防止と延滞金の回収に当たるよう求めたい。

3-2 科学技術

(1)科学技術予算について

科学技術振興費は、平成に入り3倍に増加しており、社会保障関係費を上回る伸びとなっている。また研究開発費は主要国と比べて遜色ない水準となっている。〔資料Ⅱ-3-17~19参照〕

科学技術関係予算の伸びに伴い、我が国の一論文あたりの予算額を国際比較すると、主要国の中でも高額となっており、また我が国の総論文数は伸びているものの、論文の相対被引用度は、主要国と比べて低い水準で推移している。また、研究における不正行為や研究費の不正使用も後を絶たない状況である。〔資料Ⅱ-3-20、21参照〕

科学技術予算については、こうした現状を踏まえ、実績や成果に基づく研究資金の弾力的な配分等を通じた質の向上を図り、より高い成果を社会に還元すべきである。また、研究費の不正使用については、これを実効的に防止するための内部管理体制の構築を大学等に求め、応じない場合は間接経費を削減するための具体的なルール作りを早急に行う必要がある。〔資料Ⅱ-3-22参照〕

  • 国立大学改革の推進について(P133)
  • 各国立大学法人への運営費交付金の配分は固定化していないか?(P134)
  • 国立大学授業料の設定状況(P135)
  • 奨学金の家計基準(P136)
  • 高収入世帯でも奨学金の貸与を受けている状況(P137)
  • 科学技術振興費は平成元年度比で3倍と大きな伸び(P138)
  • 主要国研究開発費の対GDP比(P139)
  • 一般政府総支出に占める政府研究費の割合(P140)
  • 我が国の1論文あたり予算額と論文の質(主要国との比較)(P141)
  • 我が国の科学技術関係予算と論文の量・質の推移(P142)
  • 研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース 中間とりまとめ(案)概要(P143)

財政制度等審議会 財政制度分科会 議事録(平成25年10月28日)(抄)

議事:文教・科学技術について

(吉川分科会長)

では、後半、「文教・科学技術」に関する議論を始めたいと思います。
井藤主計官、説明をお願いいたします。

(井藤財務省主計官)

文部科学担当の主計官の井藤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、時間も限られておりますので、早速ご説明させていただきたいと思います。本日は資料2と3、文教・科学技術関係資料とオリンピック・パラリンピック関係資料、この2つの資料に沿ってご説明させていただきたいと思います。

若干ページをおめくりいただきまして、時間も限られてございますので、大学関係予算のほうに進みたいと考えてございます。大学関係につきましては、特に国立大学、38ページから41ページまで、いろいろな大学改革について参考資料をつけさせていただいております。いろいろ大事な点が含まれているんですけれども、時間の関係でご説明は省略させていただきますけれども、41ページでございまして、まさにこの秋にも国立大学改革プランを策定して、大学をどんどん改革していこうということになっているわけでございます。ただ、大学の改革の主体というのは、これはあくまでも大学でございまして、やっぱり大学がきっちりとやる気にならないと、さらに大学がきっちりと改革を実行できないと、幾ら笛を吹いても誰も踊らないというような、踊るというのは表現が悪いですけれども、改革が進まないので、かけ声倒れになると。中でもそういった改革を進めるためには、大学のガバナンス改革とか、学長のリーダーシップの発揮、こういったようなことで実際に改革へ向けて大学が動くようにしていくということが大事だろうと。予算面でもこういう方向でいろいろ考えていけないと思っている次第でございます。

一方、大学については、改革もいいんだけれども、42ページですけれども、近年運営費交付金をいろいろ削られて、とてもそれどころじゃないという話もあります。ただ、これは、43ページをおめくりいただければということなんですけれども、国立大学の法人全体の収入で見ると、これはかなり伸びているわけでございまして、運営費交付金が減っているのは、病院の赤字分が診療報酬の改定等によって改善して、その補塡がなくなるとか、いろいろな要因で運営費交付金は減っているんですけれども、全体の収入なりが決して減っているわけではないということでございます。

それで、45ページなんですけれども、大学改革を推進していく上で、予算面でどういうかかわりができるかということなんですけれども、そういう改革をいろいろ進めるために、大学の機能強化のために、実は国立大学運営費交付金の、今では約1割程度になっていますけれども、特別運営費交付金というものを設けて競争的に配分していこうとしているわけでございますけれども、左に表があるんですけれども、上位10校の配分実績で見ると、その配分の実績というのは、一般の交付金の配分と大差ないわけでございます。したがって、こういうところの配分というのは、より透明、競争的に配分し、さらには国立大学のガバナンス改革というものにより資するように活用していくような方向で見直すべきではないかというふうに考えている次第であります。

次に、国立大学の授業料の設定についてですけれども、46ページでございます。国立大学の授業料については、文科省が「標準額」というものを決めまして、2割増しの範囲で各大学が自由に設定するということなんですけれども、これは実は標準額にほとんど張りついてございます。「あるべき姿」と上に書いていますけれども、やっぱり質の高い教育を行って、それに見合う授業料を設定すると。そういうことで収入を増加させて、教育をいろいろ充実させたければ、そういった投資に使うし、さらには学生への還元も行えるのではないかということでございます。

現に、47ページですが、アメリカの例でございます。棒グラフ、右のほうに上下、私立と公立が載っていますけど、やっぱり選抜性の強い大学のほうが授業料も高く取ってございます。ただ、いずれにしても、競争性のいかんにかかわらず、一番上の四角の欄なんですけれども、米国では一般に授業料を高く設定した上で幅広く減免を行って、学生の支援にお金を使っているということなので、日本の大学もこういう方向で考えられたらいかがかというふうに思ってございます。

次に、奨学金事業の話でございます。同じような文脈なんですけれども、時間も限られてございますので、ポイントをご説明しますと、55ページでございます。一番上の点線の箱なんですけれども、文部科学省は、意欲と能力のある学生が、経済的理由により進学を断念してはいけないということで、今年も無利子の奨学金を5万人程度増やしてほしいというような要望をされてございます。ただ、無利子の貸与を受けている世帯の所得の実態を見ますと、2割以上の世帯が実際700万円以上の所得を得ているというような実態がございまして、より低所得者層の支援を充実させたいというようなことであれば、そこら辺を見直して財源を捻出するというか、プラスアルファの資金を投入するというようなことではなくて、そういう形で重点化をすべきではないかというようなことを考えてございます。

56ページですが、若干の参考ですけれども、ちょっと古い調査ですが、奨学金というものについては、一番上の左側の点のところですけれども、書籍購入代ではなくて、食費や日常費、電話代、海外旅行などに使われるというような疑いもありますので、高所得者の家庭の学生にどこまで支援するかというようなことも含めて、見直していける余地があるんじゃないかというふうに考えてございます。

57ページ、58ページは回収状況ということで、返してもらうための回収状況ですが、こういうことは引き続き力を入れてやらないといけないということでございます。

次に、科学技術関係予算でございます。67ページですけれども、科学技術振興費というのは、平成元年度比で3倍と大きな伸びをしております。こういう予算についてどう考えるかということですが、68ページですけれども、諸外国と比較して、よく科学技術も国の投資が少ないんだという話は聞きますけれども、近年の状況を見ると、必ずしもそうではないと。特に69ページなんですが、日本の場合は政府の規模がそんなに大きくないんだと。さらに社会保障費がどんどん増えているという財政制約の中で、一般政府総支出に占める政府研究費の割合を見ると、諸外国と比べても随分頑張っているということがフェアな評価ではないかと。

70ページですが、そういった中で、科学技術の投資を増やしてきている中で質が上がっているのかというと、1つの指標ですが、相対被引用度というのが質の指標になり得ると思うんですが、これがそんな改善しているわけではありません。また、71ページですが、質と量の、量のほうはどうかと言いますと、論文数というのもそんな増えているわけではなくて、限界効用が若干逓減しているのではないかという疑いがあるということでございます。やっぱりこういったことを考えると、重点化というものの中でより効果のある施策を見極めて、総額を増やすことということではなくて、重点化により対処していく必要があるのではないかということでございます。

72ページは近年不正という話も大きく取り上げていますので、こういったことにもきっちり対応しなくてはいけないと。

(吉川分科会長)

どうもありがとうございました。では、早速、質疑に移りたいと思います。

(田中委員:(独)大学評価・学位授与機構教授、日本NPO学会会長)

2点あります。1点目は資料の若干の補足であります。2点目は問題提起になります。
1点目、70ページの相対被引用度の推移という、論文のインパクトファクターと呼ばれているものなんですが、論文の質が高い・低いというふうに書かれているんですけれども、これは引用度が高いか低いかということを上下であらわしていまして、要は研究者という1つの市場の中でよく使われているか、使われていないかという1つの評価の指標であります。ただ、たしかにクオリティーが高い論文も評価されているんですが、あわせて、手法とか技法に関する論文は比較的引用度が高いものでありますので、ここも考慮していただいた上でこういう結果だということをお含みおきいただければと思います。

(老川委員:読売新聞グループ本社取締役最高顧問・主筆代理)

38ページにもありますが、グローバルの人材を育てるためには外国人教員の採用も大事だというご指摘があって、そのとおりだと思いますが、今度少し戻るんでしょうけれども、公務員給与のカット、これによって大学の教員の給料も相当カットされる。それに伴って、外国から来ていた教授が、とてもこれじゃかなわんと言ってやめちゃったとか、あるいは日本の教育者が日本じゃなくて外国のほうに職を求めて行っちゃうとか、こういう問題が生じているようです。そういうことについて、大学の中でいろいろ、例えば年俸制にする、制度的にはできるんでしょうが、そういう自由度をもう少し高めて、外国から喜んで日本に教育に来ると。こういうような仕組みをできないものかなと考えるんですが、そこら辺はどうなのでしょうかということをお尋ねしたいと思います。

(井藤財務省主計官)

大学につきましては、制度的には結局、大学の運営費交付金等の中でいろいろやれるわけでございます。ただ、外国から来た先生を優遇するということになると、その財源をどこから捻出するかという問題が一方でつきまとってきまして、だからその分を大学に予算を余分にくださいというのはなかなか今の事情では通らないわけで、そういったことは、例えば特別運営費交付金の中の重点化の仕組みというのが1つの事例かもしれませんけれども、あと、既存の大学の経費の中でどうやって捻出するかということだと思います。そうなると、重点化されないほうの人たちというのはどのように考えるかという問題が出てくるわけでございまして、ここら辺、難しい問題にもなるんですけれども、我々のほうとしては、改革を後押しするような形でどんどん進められたらというふうに思ってございます。

(土居委員:慶應義塾大学経済学部教授)

私も一大学人として、大学改革が進まないということを非常に隔靴掻痒(かっかそうよう)に思っていまして、学内ではあまり力がないので、このようなところで私が思い描く大学改革を述べさせていただくんですけれども、来年度予算編成に当たって喫緊の課題なのは奨学金事業だと思います。奨学金事業、無利子奨学金を増額するという要求があるという話ですけれども、私は、これは大学改革とセットで考えるべきだと。大学改革を担保できないようならば、奨学金を増額するというわけにはいかないというぐらいの構えでぜひ当たっていただきたいなと思います。

と申しますのは、先ほど主計官、ご説明ありましたけれども、46ページにあるように、授業料が極めて画一的である。優秀な学生に授業料を免除するということは、例外的にないわけじゃないけれども、基本的には大々的にやっていないと。例えば優秀な成績上位10%の学生の授業料を無料にするかわりに、下位10%の学生の授業料を基準の2倍にするというようなことでもすれば、これはあくまでも仮想的な話ですけれども、授業料収入は変わらない。それでいて、奨学金がなくても優秀な学生の経済的負担は軽くなると。こういうようなことがありますから、授業料の工夫もせずに、奨学金だけで何とかしようということでは全然問題の解決にならないというふうに私は思います。

そういう意味では、今日、あわせて主計官がご説明になったというのは、我が意を得たりというか、大学改革と奨学金事業を、急に授業料を変えるというのは難しいにしても、将来的に授業料の取り方を工夫するということを含めて大学の改革を進めるということが言質としてとれない限り、奨学金をどしどし増やすというわけにはいかないというようなところは私はあるんじゃないかというふうに思います。

しかも、50ページにありますように、日本学生支援機構が行っている奨学金は無利子と有利子とありまして、無利子が増やせないなら有利子を増やすというようなことでは、これは問題の解決になっていない。つまり、有利子奨学金というのは、財政投融資のお金が使われているわけですけれども、その原資は財投債という国債によって一時的に賄われるというわけですから、もちろん奨学金が返済されることによって、その原資は返ってくるということでありますけれども、あくまでも有利子奨学金だから問題の解決になるというわけではないと。やはりもう少しめりはりのきいた授業料の取り方ということを含めて大学改革を進めていただくと。

授業料収入は、私が先ほど上位10%をただにして、下位10%を2倍にすればと言いましたけれども、例えば下位15%を標準額の2倍にすれば、授業料収入全体は増えるわけでありますから、授業料の取り方を工夫することによって授業料収入全体を増やすということは、大学の努力によって、仮想的ではありますけれども、やろうと思ったらいろいろ工夫ができる余地がまだまだ残っているところだと思いますので、そういうところをもっと大学に改革を求めていくべきではないかなというふうに思います。

(赤井委員:大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)

大学に関しましては、41ページのところに大学改革が進んでいる。特に私も国立大学におりまして、進んでいるという気はするんですが、やはりガバナンス改革という意味では、学長、総長に権限を集約されている割にはなかなか思ったようにできない。ご存じのように教授会という組織がありまして、民主的に総長を選ぶということもありまして、いい面もあるんですが、なかなかそれで進まないということもあります。やはり予算的なところにめりはりをつけて改革を促していくことが重要というのが1つと。あと土居委員もおっしゃったように、私も同じように、この46ページ、授業料の横並びの話が重要かなと思いまして、大学で、特に私も本部など私の大学のトップの人ともしゃべることがあるんですが、なかなか授業料は、国立大学の協会みたいなところで横並びで、自分だけ新たな取組みをとりにくいというようなところがありまして、ここのところをもっと多様化させていく取組みが重要じゃないかなというふうに思います。

それとの兼ね合いで言いますと、土居委員がおっしゃったように、奨学金をうまく使って、授業料を上げるというかわりに、そのかわりに奨学金をもっと増やす。現在の制度とは別の制度でもいいと思うんですけれども、実際オーストラリアなどで導入されているHECSという所得連動の奨学金がありまして、授業料は高いんですが、ほとんどの人に奨学金を与えて、実質の授業料は下げておくと。そのかわり、将来、成長して稼いだ場合に返してもらうというような形の奨学金であれば、実際授業料が上がっても、それほど学生には負担はないということで、授業料の引上げと所得連動奨学金の導入で例えば大学の多様化が進み、財政再建、つまり、授業料を上げた分の一部を戻せば財政再建にも貢献しますし、ほんとうに貧しいというか、苦しい人には実際奨学金が与えられるということで低所得者対策が可能になりますし、その奨学金は例えば真面目な学生だけに渡すというふうにすれば、学習意欲の向上にもつながりますし、そういう意味でもこの多様化というのをどんどん進めていくと。それがガバナンス改革というのにつながるのではないかなというふうに思います。意見です。

(黒川委員:慶應義塾大学商学部教授)

大学の、要するに高等教育というところに関係してくると思うんですけれども、その大学の中でも、要するに研究大学と、それから、いわゆるコミュニティカレッジみたいな大学があって、我が国でもそれが一緒くたには絶対議論できなくて、それぞれの、僕の友人や弟子たちから聞いても、全然違う感じだと言うわけですね。慶應に先生はいるけれども、全然内容が違うと、対応も違うと、同じ大学と言っても。だからここの大学に対する我々の対処の仕方についても、要するにいろいろな大学があって、それぞれきめ細かに対処していかなければならないというふうに思いました。全てどういうような国民の姿形に我々はこの後していくのかという視点をいつも持たなければならないのではないか。

(富田委員:中央大学法学部教授)

55ページで、先ほど主計官より、来年度の概算要求として、奨学金でありますけれども、無利子貸与の大幅増員の要求が出ているというお話がございました。そもそも教育は、社会に出て役に立ち、所得を得て納税の義務を果たす人たちを育てることであって、最初から、大学のときに意欲と能力があるから無利子貸与だというのは、私は論理が矛盾しているように思います。機会均等であれば、有利子を全員に与えることが大事であって、無利子をなぜ充実する必要があるのか。ほんとうに納税義務のある人たちを育てるのであれば、そういう認識は改める必要があろうというのが1点です。

それに関連して、57ページでは延滞債権が非常に増えているという話がございます。先ほど大学改革の話もございました。これ、延滞債権が増えているということについての情報が、少なくとも大学単位で公表できるようにすれば、やはり大学のガバナンスの強化にもつながり得る。だから社会での評価ということで、フィードバックがかかるということでございます。


著者 : 西内啓
ダイヤモンド社
発売日 : 2013-01-25

2013年12月15日日曜日

一生懸命に生きる

ブログ「今日の言葉」から生きる」 (2013年12月13日)を抜粋してご紹介します。


今の世の中自分一人で生きていくことは殆ど不可能で、

食事、電気、電車、情報など誰かのサービスの上に成り立っている。

しかしながらその殆どを当たり前だと思ってしまう。

坂本龍馬は携帯電話が無くても日本を変えました。

何かが無いから出来ないと言うのは、理由にならないということ。

魚だって自分で捕りに行ってみれば簡単ではないことが分かる。

野菜だって育ててみれば、長い期間がかかるし、不作のこともある。

そんな苦労をしてみるからこそ、収穫出来たときの喜びは一層となる。

自分が一生懸命に取り組むからこそ、他人の状況も理解できるようになるのですね。

命とは、あなたが使える時間のことです。

一生懸命時間を使い切るからこそ、

自分が沢山の恩恵に預かっていることを実感でき、

感謝出来るようになるのですね。


著者 :
玉川大学出版部
発売日 : 2013-09-14

2013年12月14日土曜日

求められる職員の能力開発

学校法人東邦学園愛知東邦大学理事・法人事務局長/学長補佐の増田貴治さんが書かれた論考「大学職員の力量を高める」(文部科学教育通信 No329  2013.12.9)をご紹介します。


今、「学ぶ」ことの重要性

昨年4月、筆者の所属する愛知東邦大学の職員がまた一人、大学院(名城大学・学校づくり研究科)に入学した。勤続20年を超す中堅職員である。本学の専任職員は現在、法人と大学部門合わせて27名。勤めながら大学院を修了もしくは進学中の職員は延べ9名となった。

在学2年目で修士論文と格闘している彼女の志望理由はこうだ。「本学は2001年開学で歴史が浅く、定員割れや中途退学者の多さに直面した。授業を欠席して同級生との交流も不得手な学生が増えて、大学行事や部活動など課外活動への参加者が減ってきた。活気が失せていく私の大学をどうしたら良いのか。学修意欲が乏しく、無気力な学生の増加への危機意識からだった」と。

本学は職員の職能開発(スタッフ・ディベロップメント、以下SD)に関して、各種団体が実施する学外研修への参加なら支援しているが、大学院や専門学校等への学費までは援助していない。大学院進学は、組織としてのSDとはなっておらず、あくまで個人の自己研鑑という扱いである。それでも、学生や親と日々接して体験する大学の状況と、社会から負託された使命感とのギャップが、課題と向き合い、打開、向上させるたあの「学び」へと突き動かしたではないかと推察している。

大学院での研究は、仕事にどう役立つか。『学問のすゝめ』で福澤諭吉は「活用なき学問は無学に等し」「読書は学問の術なり、学問は事をなす術なり」と述べている。研究成果が実利的に直結すればいいかもしれないが、直結しなくても「無学」と断じることはない。物事を多面的、客観的に捉える力を養い、適切に判断、表現、対処できる「教養」につながれば、それも十分価値あることではないだろうか。

求められる職員の能力開発

本学では、既存学科を改組して2014年度に「教育学部」を開設する。設置する教職課程の申請に当たって、設置基準上に適う教員をいかに揃えられるかが最大の難関だった。カリキュラム構成を踏まえて、担当教員の専門領域の重複や開講クラス数などは、職員が教員配置を計画し調整した。実際に申請すると、教育・研究業績と科目との適合性や業績の質・量などから、審査をクリアできない教員が出た。新たな教員探しは、一般公募とともに非常勤講師を他大学から紹介していただく対応に職員が奔走した。提出書類も職員が教員調書やシラバスなどの内容を確認し、本人へ書き直しを何度か依頼して完成させた。これらの業務は、設置基準などの関係法令や申請手続き、教育プログラムの設計を十分に理解し、申請書類を完成させられる専門的知識や能力、また大学関係者との人脈がなければ遂行できない。

2008年12月、中央教育審議会は『学士課程教育の構築に向けて』を答申した。答申は、従来にはなかった職員の職能開発の重要性について、次のように述べている。

「職員については、大学の管理運営に携わったり、教員の教育研究活動を支援したりするなどの重要な役割を担っている。職員の大学における位置づけ、教育との関係については、国公私立それぞれに状況の違いがあるが、大学経営をめぐる課題が高度化・複雑化する中、職員の能力開発は益々重要となってきている。(中略)専門性を兼ね備えた職員、アドミニストレ:ターを養成していくためには、大学としてFDと同様、学内外でのSDの場や機会の充実に努めていくことが必要である。職員に求められる業務の高度化・複雑化に伴い、大学院等で専門的教育を受けた職員が相当程度存することが、職員と教員とが協働して実りある大学改革を実行していく上で必要条件になってくるといっても過言ではない」

総合的な人事政策として

高等教育行政の専門家は、この答申以前から、大学職員に期待する役割や業務内容がかつてに比べ高度化・複雑化し、それに応えられる資質や能力の向上の必要性を指摘している。本学職員が、新学部設置や教職課程の申請に際して果たした役割は、まさにこうした資質や能力が発揮できた結果だった。

日本私立大学協会附置私学高等教育研究所の私大マネジメント改革プロジェクトチーム(研究代表・篠田道夫桜美林大学教授。筆者も研究員として参画)が2009年に実施した「事務局職員の力量形成に関する調査」では、図(略)のように、「現状に対する危機感が希薄である」と回答した大学が60.2%あり、「職員の専門性が欠けている」が46.8%、「現状に満足し、改善意欲が不足している」が46.3%という状況だった。

研究員の広島工業大学副総長である坂本孝徳教授は、大学における教職協働や教学改革の前進に関して、大学職員の育成が必要であり、とりわけ開発力量の水準アップが喫緊の課題だ。職員が成長し続けるためには、単に研修制度の充実だけでは不十分である。採用方針・採用計画から始まり、計画的異動による業務経験を積み重ねること。また、どのような基準で管理者に昇格させるかなど、トータルな育成の仕組みが必要である。こうした力量形成と併せて、建学の精神に根を置く帰属意識を強く持った人材の育成が要であると強調されている。(研究所叢書『財務、職員調査から見た私大経営改革(2010年10月)』参照)。

努力を実力に変える仕組みの設計を

今年度、日本私立学校振興・共済事業団は、各私立大学等が策定している大学改革計画や経営改善計画等を達成するため、企画運営・教務・財務面等で改革を支える大学職員の能力向上の取り組みを支援する採択制の補助金「未来経営戦略推進経費」を設けた。

中教審答申による方向性や補助事業が奨励する内容から明確なように、大学のスピーディーな変革に職員の力も求めている。

先に述べた中教審答申は、最後にこう続く、「SDの推進に向けた環境整備について、FDと並ぶ重要な政策課題の一つとして位置づけるべき時機を迎えていると考える。また、わが国の大学をめぐっては、教育研究活動を支援する人材の量的な不足という問題があることにも留意する必要がある。職員の質・量それぞれの課題について適切な対応をしなければ、大学改革を推進していく上での隘路(あいろ)となる恐れがある」。

日常のOJTだけでは「学び」に制約がある。学外での学修機会を得られれば、自らの大学や業務を客観的に見つめ直す好機となるだろう。研鑽の機会づくりは"個人"に委ねるだけでなく、"組織"として体系的な教育プログラムへ整えられれば、大学職員としての新たな「標準レベル」を示すことになる。継続的な学修環境を通じて教養が厚みを増せば、組織風土の改革にもつながる。

大学職員は、今後さらにその位置づけや役割の重要性が広く認知され、教員との連帯・協働を実現して、大学改革を積極的に推進する原動力として期待される。そのためには具体的なSD推進計画が必要である。職員の働きが、これからの学校法人の教学・経営の方向性を左右する重要なファクターとなることは間違いない。


2013年12月13日金曜日

挑戦と創造の場であり続ける

去る12月6日(金)に学士会館いおいて、国立大学協会主催の臨時学長懇談会が開催され、それに併せて「文部科学省との意見交換会」が行われています。

(参考)文部科学省との意見交換会を開催(国立大学協会)

文部科学省との意見交換会における下村文部科学大臣の挨拶内容が、国立大学協会から各国立大学あて情報提供されていますのでご紹介します。(下線は拙者)


「文部科学省との意見交換会」における下村文部科学大臣の挨拶内容(国立大学協会作成)

【はじめに】

各学長におかれましては、日頃より我が国の高等教育と学術研究の発展にご尽力いただき、感謝申し上げます。

現在、ヒトだけでなく、モノや情報、文化などが国境を越えて流動化し、グローバル化が進展する中、我が国は、少子高齢化により2060年には生産年齢人口が51%まで減少すると予測されており、1人で1人を支える社会へと大きく様変わりしようとしています。

このような我が国をめぐる社会状況を受け止め、国際的な大競争の中で日本社会の活力を維持・向上させていくためには、個人一人一人の付加価値を一層高めるとともに、我が国の文化、科学技術などの分野に潜在する能力を見極め、発掘し、発信していく必要があります。まさにこれから日本は、教育立国を目指していかねばならないという国家的な使命があると考えております。

このような中、大学、とりわけ国立大学の役割は極めて重要です。「大学力」は国力そのものです。大学が変わっていかなければ、大学が地盤沈下するだけでなく、日本そのものが地盤沈下していくことになりかねません。そのため、安倍内閣は今年1 月に教育再生実行会議を作り、第4次提言まで行われ、今、第5次提言に向けて議論をしております。

特に、私は、大学の教育研究の最重要課題は、量的な拡大と質的な向上をともに我が国においては進めていくことが大切であると、その方向性を明確に国も示す必要があると考えています。安倍内閣の最重要課題である教育再生の大きな柱として、大学が常に挑戦と創造の場であり続けるように強化することは、我が国が、再び世界の中で競争力を持ち、付加価値を生み出していくための試金石となります。このため、従来の教育研究の在り方やマネジメントの在り方などを抜本的に見直し、大学改革を力強く進める必要があります。

各大学においては、このような状況を十分御認識いただき、旧来のような状況のままでは、大学運営、そして教育運営、これは厳しい国際社会の中で勝ち抜いていくことは極めて難しいということを改めて自覚していただいた上で、危機感を持って、大学改革に主体的、積極的に取り組んでいただきたいと思います。

このような観点を踏まえ、本日は、私から4点について申し述べたいと思います。

【国立大学改革プラン】

第一は、国立大学の機能強化についてです。

本年6月に閣議決定した「日本再興戦略」では、国立大学改革を我が国の成長への道筋の一つと位置付けております。その背景には、人材育成や学術研究、産学連携などを通じ、国立大学に我が国の成長と発展への積極的な貢献をしてほしいという社会の大きな期待があります。

国立大学は、こうした社会の期待に対して、スピード感をもって、目に見える形で応えていただきたい

文部科学省では、国立大学の改革を確実・迅速に実行するため、今後取り組むべき改革の方針や方策を示す「国立大学改革プラン」を策定いたしました。

このプランでは、改革加速期間中に、グローバル化イノベーション創出などの機能強化、人事・給与システム改革などを具体的、一体的に進めることとしております。その上で、主体的・積極的に改革に取り組む大学には、重点的に支援をしてまいりたいと考えております。

また、平成28年度から始まる第3期中期目標の設定に向けて、国立大学法人運営費交付金や評価の在り方を抜本的に見直し、自主的・自律的な改善・発展を促す仕組みを構築してまいります。

文部科学省では、このような取組により、世界最高の教育研究拠点を目指す大学はもとより、全国を代表する教育研究の拠点や、地域活性化の中核となる拠点といった、強み・特色を生かした機能強化を各大学に進めていただく方針であります。

同時に各大学の機能強化の取組を積極的に支援し、持続的な「競争力」を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学に進化していくという、このプランの目標を達成してまいりたいと考えております。

なお、人材育成に関しては、大学教育の充実と併せて企業側の協力も不可欠です。このため、学生の学修時間の確保や留学の促進のため、就職・採用活動開始時期の後ろ倒しや採用時における多面的な能力評価、採用後の社会人の大学における学び直し等について、企業側に特段の配慮をお願いしております。

各学長におかれましては、社会の期待に迅速・確実に応えるため、自らの大学の個性を認識し、それをしっかりと発揮していくことのできる組織づくりにご尽力いただきたいと思います。

【ガバナンス改革】

第2は、大学のガバナンス機能の強化についてです。

国立大学に対する社会の期待に応え、各大学の機能強化に取り組むためには、各学長がリーダーシップを発揮できるようなガバナンス改革が重要です。

教育再生実行会議の提言等を踏まえ、中央教育審議会において議論を行っていただき、昨日の組織運営部会におきまして、「大学のガバナンス改革の推進について」最終的な案をお示しいただきました。

その中では、各大学において、学長補佐体制の強化学長等の選考方法の見直し教授会の役割の明確化等といった各大学の自主的・自律的なガバナンス改革を行い、国において効果的な制度改正とメリハリある支援をするよう提言されております。

この審議のまとめについては、今月中にはとりまとめられると伺っておりますので、文部科学省では、この提言を踏まえて、早急に所要の法令改正を行う予定であり、各大学では、法令改正等を踏まえた内部規則等の総点検・見直しを行っていただきたいと思います。

本日お集まりの学長におかれましては、これまでも意欲的な改革を進められていること、また一方で、学内に改革意識が共有されずに御苦労をされているお話も伺っております。

私は、改革に積極的に取り組む学長の後押しをしてまいりたいと考えておりますので、ぜひ主体的なガバナンス改革に向けた取組を推進していただきますようお願いいたします。

【グローバル化・科学技術イノベーションについて】

第3に、グローバル化及び科学技術イノベーションへの対応についてです。

(グローバル化)

まず、社会のあらゆる分野で国際化が進む中、グローバルな視点をもって様々な分野で活躍できる人材の育成の中核を担う大学には、教育・研究環境の国際化学生の双方向交流の拡大などが強く求められています。

国立大学には、日本人研究者と海外の優秀な研究者との国際共同研究の一層の推進海外のトップクラスの教育プログラムや教員等の誘致英語による授業の拡大等に取り組み、人材・教育システムのグローバル化を積極的に進めていただきたいと思います。

文部科学省としても、「スーパーグローバル大学事業」により、徹底した国際化を断行し、世界に伍する大学や我が国の大学のグローバル化を牽引する大学群を重点支援していく考えです。

また、我が国の大学から世界に飛び立つ若者が更に増えていくこと、また、海外の大学から日本の大学に留学し、共に研さんを積んでいくことも必要です。

私は、日本の若者の海外留学へのチャレンジを社会全体で応援するための留学促進キャンペーン「トビタテ!留学ジャパン」を展開しています。15日には、早稲田大学におきまして42大学が集まり、このような「トビタテ!留学ジャパン」について共同で行う予定です。

海外留学支援については、政府だけではなく、民間からも御協力いただき、留学経費の負担軽減を図るとともに、事前・事後研修の実施等、日本人学生等の海外留学をきめ細かく支援する「グローバル人材育成コミュニティ」を作り、産業界や大学等と総がかりで海外留学を支援する仕組みを築き上げてまいります。文部科学省では、私先頭に文部科学省の幹部が企業回りをして、民間ファンドをお願いしている最中であります。

国立大学改革プランでは、2020年までに派遣、受入れともに留学生数の倍増を図ることを目標と掲げておりますが、その達成のためには各大学の取組が不可欠です。大学の教育研究組織の国際化や留学支援といった点について、積極的な取組を進めていただきたいと考えております。

(科学技術イノベーション)

次に、科学技術イノベーションは安倍内閣が掲げる「三本の矢」のうちの一つである成長戦略の重要な柱であり、日本の経済再生の原動力です。また、私は、グローバル社会で我が国が成長を続けるための鍵は、革新的イノベーションの継続的な創出による国際競争力の強化、そして、それを支える人材の育成だと考えます。このため、世界で最もイノベーションに適した国をつくり上げることが重要であり、研究者の独創性に基づいて行われる多様な基礎研究の支援、大学だけでも企業だけでも実現できない革新的イノベーションを創出、実現するための新たな産学連携プログラムの構築イノベーション創出を目指した地域科学技術の振興を図ります。加えて、世界に冠たる研究力を有する大学や研究拠点の形成など、研究環境の整備を着実に進めます。

【入試改革】

第4に、入試改革についてです。

グローバル化、少子高齢化が進み、人材の質を高めることが急務となる中、高等学校教育と大学教育の接続に関する改革は、大学教育及び高校以下の教育をともに変えていく上で極めて重要です。

先般、教育再生実行会議において、「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」(第四次提言)が取りまとめられました。今回の提言を踏まえて、中央教育審議会では、
・アドミッションポリシーに基づく丁寧な選抜など、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定する大学入学者選抜への転換
「達成度テスト(基礎レベル・発展レベル)」の導入、具体的な実施方法や実施体制、
などについて議論をいただき、年度末を目途に方向性を取りまとめていただく予定にしております。

今回の改革に対しては、高校の教育活動への影響や大学の負担への不安といった声もお聞きしていますが、関係者の意見をしっかりとお聞きしながら、十分な周知期間をおきつつ、一方で着手可能なものから必ず実現をしてまいりたいと考えております。

国立大学の中には、既に改革の趣旨に沿った丁寧な選抜を実施している大学や検討に着手している大学もありますが、今後、各大学に対する支援方策も併せて積極的な検討してまいりますので、改革の先進事例となる取組を更に進めていただきますようお願いします。

【おわりに】

以上、私の考えを述べさせていただきました。

今、社会から求められているのは、国立大学改革の「実行」です。この点、松本会長からは、国立大学への強い期待の表れと受け止め、改革を着実に実行していく決意を何度もうかがっております。

各大学におかれましては、この時機をしっかりと捉え、社会の変化や国民の皆様のニーズに機敏に対応し、中長期的な姿を見据えた各大学の改革のシナリオを描いていただき、それに基づく全学的な機能強化を実行に移していただくことをお願い申し上げます。

文部科学省では、各国立大学としっかりと議論し、各大学の強み・特色に応じた支援を積極的に行ってまいりたいと考えております。

最後になりますが、各国立大学法人・大学共同利用機関法人の今後ますますの発展を祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。


2013年12月12日木曜日

国立大学改革プラン

文部科学省は去る11月26日、今後の国立大学改革の方針や方策、実施工程をまとめた「国立大学改革プラン」を策定し公表しました。

国立大学が社会の期待にスピード感を持って目に見える形で応えるため、グローバル化やイノベーション創出などの機能強化、人事・給与システム改革、ガバナンス改革など一体的に進めることとし、積極的に改革に取り組む大学には予算面でも重点的な支援を行うこととしています。

公表された資料がパワーポイントにより作成されているため、これを読みやすくテキスト化してみました。(平成25年12月2日付 文教ニュース 第2268号から抜粋引用)


国立大学改革プラン(平成25年11月)

1 国立大学改革プランの位置付け(略)

2 国立大学法人化の成果(略)

3 社会経済状況の変化(略)

4 第三期に目指す国立大学の在り方

各大学の強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することにより、持続的な「競争力」を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学へ

各大学の機能強化の方向性

◆世界最高の教育研究の展開拠点

 ・優秀な教員が競い合い人材育成を行う世界トップレベルの教育研究拠点の形成
 ・大学を拠点とした最先端の研究成果の実用化によるイノベーションの創出

◆全国的な教育研究拠点

 ・大学や学部の枠を越えた連携による日本トップの研究拠点の形成
 ・世界に開かれた教育拠点の形成
 ・アジアをリードする技術者養成

◆地域活性化の中核的拠点

 ・地域のニーズに応じた人材育成拠点の形成
 ・地域社会のシンクタンクとして様々な課題を解決する地域活性化機関


5 機能強化を実現するための方策

各大学の機能強化の視点

 ▽ 強み・特色の重点化
 ▽ グローバル化
 ▽ イノベーション創出
 ▽ 人材養成機能の強化

自主的・自律的な改善・発展を促す仕組みの構築

 ①社会の変化に対応できる教育研究組織づくり
 ②国際水準の教育研究の展開、積極的な留学生支援
 ③大学発ベンチャー支援、理工系人材の戦略的育成
 ④人事・給与システムの弾力化
 ⑤ガバナンス機能の強化


6(1) 社会の変化に対応できる教育研究組識づくり

▽各大学と文部科学省が意見交換を行い、研究水準、教育成果、産学連携等の客観的データに基づき、各大学の強み・特色・社会的役割(ミッション)を本年中に整理・公表

▽ミッションを踏まえ、学部・研究科等を越えた学内資源配分(予算、人材や施設・スペース等)の最適化、大学の枠を越えた連携、人材養成機能強化等の改革を改革加速期間中に実施する大学に対し、国立大学法人運営費交付金等により重点支援

▽改革加速期間中に各大学の改革の取組への配分及びその影響を受ける国立大学法人運営費交付金の額を3~4割

▽各大学が中期計画を見直し、国立大学法人評価委員会において改革の進捗状況を毎年度評価。その際、産業界等大学関係者以外からの委員を増やすなど国立大学法人評価委員会の体制を平成25年度中に強化するとともに、先進的な取組は積極的に発信

▽第三期の中期目標・中期計画の検討に当たっては、各大学のミッションを踏まえ、計画的に教育研究組織の再編成、学内資源再配分を最適化

第三期には、教育研究組識や学内資源配分について恒常的に見直しを行う環境を生み出す


6(2)-1 国際水準の教育研究の展開

▽海外大学のユニット誘致による領域横断的共同カリキュラムの構築、国際共同大学院の創設、外国人教員の積極採用並びに英語による授業の拡大、多様な国、地域からの留学生の積極的な受入れ及び日本人学生の海外派遣の促進等に取り組む

▽文部科学省では、国際化を断行する大学を重点的に支援し、スーパーグローバル大学を創設するなど、国際的存在感を高める

今後10年で世界大学ランキングトップ100に10校ランクイン


6(2)-2 積極的な留学生支援

日本人の海外留学

▽世界で活躍するグローバル人材を育成するため、意欲と能力のある若者全員に留学機会を付与し、奨学金の支給に加え、大学と企業等が連携した事前・事後研修の実施等により、日本人学生等の海外留学をきめ細かく支援する官民が協力した新たな制度を創設

▽カリキュラム上、実習や実験が多く、留学期間の確保に工夫を要する分野における海外留学を促進

外国人留学生の受入れ

▽各大学の特色にあわせた重点地域等を設定し、優秀な外国人留学生の戦略的な受入れを実現

▽優秀な外国人留学生を積極的に獲得するため、海外拠点を活用した現地選抜や渡日前入学許可を促進する仕組みの構築

▽日本への留学にメリットを見いだせるようにするため、産業界と連携した環境整備を実施就職支援など)

▽帰国留学生のフォローアップ等の実施により、日本留学経験者のネットワークを形成

2020年までに、日本人の海外留学者数を6万人(2010年)から12万人に、外国人留学生の受入数を14万人(2012年)から30万人に倍増


6(3) 大学発ベンチャー支援、理工系人材の戦略的育成

▽国立大学から大学発ベンチャー支援会社等への出資を可能とする法案を国会提出(産業競争力強化法関連)

▽ミッションの再定義等を踏まえて、今年度中に「理工系人材育成戦略」(仮称)を策定

▽同戦略を踏まえつつ、国立大学の大学院を中心に教育研究組織の再編・整備や機能の強化を図る

今後10年で20の大学発新産業を創出


6(4) 人事・給与システムの弾力化

▽運営費交付金について、必要額を確保した上で退職手当にかかる配分方法を早期に見直し、併せて競争的資金制度において間接経費30パーセントを確保しこれを活用することにより、人事・給与システム弾力化がさらに加速

▽各大学の改革の取組への重点支援の際に、年俸制の導入等を条件化

▽特に、教員の流動性が求められる分野において、改革加速期間中に1万人規模で年俸制・混合給与を導入(例えば、研究大学で20%、それに準ずる大学で10%の教員に年俸制を導入することを目標に設定)

▽年俸制の趣旨に沿って、適切な業績評価体制を整備

▽優秀な若手・外国人の力で大学力を強化するため、シニア教員から若手・外国人へのポスト振替等を進める意欲的な大学を資金面で積極支援し、改革加速期間中に1,500人分の常勤ポストを政策的に確保することを目指す

第三期には、国内外の優秀な人材の活用によって教育研究の活性化につながる人事・給与システムに


6(5) ガバナンス機能の強化

▽中央教育審議会大学分科会組織運営部会では、学長がリーダーシップを発揮できる体制の整備や学長の選考方法、教授会の役割の明確化等、多岐にわたる検討を行っており、年内に大学のガバナンスの在り方について審議をとりまとめる予定。文部科学省では審議結果等を踏まえて所要の制度改正や支援等を実施予定

中央教育審議会大学分科会組織運営部会審議まとめ「大学のガバナンス改革の推進について」(素案)平成25年11月19日のポイント

◇各大学は、教育・研究・社会貢献機能の最大化のため、本部・部局全体のガバナンス体制を総点検・見直し責任の所在を再確認するとともに、権限の重複排除、審議手続の簡素化、学長までの意思決定過程の確立を図る。

◇国は、学長のリーダーシップの確立と教職員の意識改革のため、効果的な制度改正とメリハリある支援を実施。

◇社会は、大学と積極的に関わり、学長のリーダーシップを後押し

<主な内容>

1 学長のリーダーシップの確立

 ・学長補佐体制の強化(総括副学長等の設置、高度専門職の創設等)
 ・予算、人事、組織再編におけるリーダーシップの確立等

2 学長の選考・業績評価

 ・選考組織が主体性を持って、求められる学長像を示し、候補者のビジョンを確認して決定等

3 教授会の役割の明確化

 ・教育課程編成、学生の身分、学位授与、教員の研究業績審査等を審議等

4 監事の役割の強化

 ・ガバナンスの監査
 ・常勤監事の配置等

第三期には、学長がリーダーシップを発揮し、各大学の特色を一層伸長するガバナンスを構築


6(6) 第三期中期目標期間に向けての当面の目標

▽教育研究組織や学内資源配分について恒常的に見直しを行う環境を生み出す

▽国内外の優秀な人材の活用によって教育研究の活性化につながる人事・給与システムに

▽学長がリーダーシップを発揮し、各大学の特色を一層伸長するガバナンスを構築

▽2020年までに、日本人の海外留学者数を6万人(2010年)から12万人に、外国人留学生の受入数を14万人(2012年)から30万人に倍増

▽今後10年で世界大学ランキングトップ100に10校ランクイン

▽今後10年で20の大学発新産業を創出


7 自主的・自律的な改善・発展を促す仕組みの構築

▽第三期における国立大学法人運営費交付金や評価の在り方については、平成27年度中に検討し抜本的に見直す

▽その際、改革加速期間中の取組の成果をもとに、

・各大学が、強みや特色、社会経済の変化や学術研究の進展を踏まえて、教育研究組織や学内資源配分を恒常的に見直す環境を国立大学法人運営費交付金の配分方法等において生み出す

・新たな改革の実現状況を、その取組に応じた方法で可視化・チェックし、その結果を予算配分に反映させるPDCAサイクルを確立する

▽第三期の中期目標・中期計画の策定に向けて、平成26年度中に組織業務の見直しに関する視点を提示。また、平成27年度には中期目標・中期計画の見直し方針を提示


8 最後に

▽文部科学省では、国立大学と一体となって、社会経済の変化を受けて、今後迅速に改革を加速化

▽産業界においては、国立大学と積極的に対話し、大学の機能強化にあらゆる側面から連携・支援をお願いしたい。

▽特に、人材育成に関しては、大学教育の充実と併せて企業側の協力も不可欠。就職・採用活動時期の変更や採用時における多面的な能力評価、採用後の社会人の大学における学び直し等について、特段の配慮をお願いしたい。











(関連)「国立大学改革プラン」の公表を受けて(声明)(平成25年11月26日国立大学協会)


(関連報道)

文科省が国立大改革プラン 世界ランクアップへ教員年俸制導入も(2013年11月26日産経新聞)

文部科学省は26日、国立大学法人の改革プランを発表し、各大学の強みや特色を生かすよう、運営費交付金を傾斜配分して自主改革を促す方針を明らかにした。大学教員の給与システムの改革にも踏み込み、年俸制の導入を促進する。一連の改革により、今後10年間で世界の大学ランキングトップ100に、日本の大学から10校以上ランク入りすることを目指している。

文科省では、国立大学が法人化された平成16年度以降、6年ごとに中期目標を定めて改革を進めてきた。今回発表された改革プランは、平成28年度からスタートする第3期中期目標のことで、「各大学の機能強化」を打ち出した。

具体的には、(1)各大学の強みや特色を年内にまとめて公表し、その強みを伸ばすような取り組みに交付金を傾斜配分する(2)国立大学時代と変わらない大学教員の給与システムを見直し、能力や成果を反映した年俸制の導入を促進する(3)教授会の影響力が強い大学運営のあり方を改め、学長がよりリーダーシップを発揮できるようにする-などの目標を掲げている。

下村博文文科相は26日の閣議後会見で「旧態依然の大学運営では厳しい国際社会で生き残るのは難しい。改革を進めることは必然的な時代の流れで、文科省が支援をするのは未来への投資として必要」と話した。

文科省によると、国立大学の法人化以降、産学連携の共同研究が倍増するなど一定の成果がみられるものの、国際評価はまだまだ低いのが現状だ。イギリスの教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が今年10月に発表した世界大学ランキングでトップ100入りした日本の大学は、東京大(23位)と京都大(52位)の2校だけだった。文科省では「各大学の自主的な改革により、国際評価を一層高めたい」としている。


文科省、国立大の機能強化を支援 運営費交付金を傾斜配分(2013年11月26日共同通信)

文部科学省は26日、国立大への運営費交付金を傾斜配分し、機能強化に向けた組織改変に取り組む大学を重点支援する「国立大学改革プラン」を発表した。

下村文科相は記者会見で「旧態依然の大学運営をしていたのでは、厳しい国際社会で生き残れない。社会の期待にスピード感を持って応えてもらいたい」と話した。

プランによると、各大学はそれぞれの特色や社会で求められる役割を設定。達成のため、既存の学部を見直すなど改革に努める大学への運営費交付金を上積みする。


国立大改革プランを策定=公的支援重点配分で後押し-文科省(2013年11月26日時事通信)

文部科学省は26日、国際化や研究、人材養成など国立大の機能強化に向けた「国立大学改革プラン」を発表した。教員の年俸制導入など積極的な組織改革を進める大学には、運営費交付金などの公的支援を重点的に行う。

文科省によると、各大学には強みや特色に応じ、世界や国内トップレベルの教育研究拠点となるか、地域の中核的拠点を目指すかなどの方向性を明確化させる。その上で、改革の進行状況を評価し、運営費交付金の配分額に差をつける。

年俸制は、理工系や生命科学など教員の流動性が求められる分野を中心に、2015年度までに1万人規模での導入を目指す。


国立大教員に年俸制 文科省、競争を導入・退職金廃止(2013年11月26日朝日新聞)

国立大学の教員の給与について、文部科学省は、年功序列を改めて退職金を廃止し、業績を反映させる年俸制への転換を進める方針を決めた。「競争がなく、ぬるま湯体質だ」との批判もある国立大の組織全体の活性化を進めるのが狙いで、26日にまとめた「改革プラン」で示した。当面の目標として、理工系を中心に2015年度末までに1万人を年俸制に切り替えるとしている。

文科省はあわせて、企業からの研究資金などを年俸に組み込む「混合給与」も進める。また、教授の定年退職の際、「弟子」の准教授を無条件に昇進させるのではなく、有能な若手や外国人の登用を促す。

国立大は全国に86校あり、教員の総数は約6万3千人。文科省によると、現在も新規採用や年数を限った契約で年俸制をとるケースはあるが、全体で数千人にとどまるという。

計画では、勤続年数が長い教授らも終身雇用を維持しつつ年俸制への転換を進める。退職金を廃止する分、毎年一定額を従来の給与に上積みするが、一方で、以後の年俸は査定を反映させる。


国立大改革プラン:教員に年俸制 機能強化へ-文科省(2013年11月26日毎日新聞)

文部科学省は26日、国立大の機能強化に向けた方針「国立大学改革プラン」を発表した。学長の強いリーダーシップを確立し、各大学の強みを精査して将来計画を立案させる。2015年度中に教員1万人に年俸制を導入するなどし、国際競争力や地域で果たす役割を強める。文科省は国立大への運営費交付金の3〜4割を改革関連に重点配分する。

プランは、改革加速期間(今年度〜15年度)に取り組む内容を提示。年齢層の高い教員から若手・外国人への流動化を進めるため、国立大の全教員の約16%に該当する1万人が年俸制、または複数から給与を受けられる混合給与制となるよう、各大学の人事・給与システムの改革を促す。各大学の強みや役割を整理する「ミッションの再定義」は、今年中に策定・公表する。

基本的な体制を整えた上で、第3期中期目標期間(16年度~)に、各大学が持続的な競争力を培い、高い付加価値を生み出せるよう目指すとしている。

当面の目標として、教育研究組織や学内資源配分を恒常的に見直せる環境作り▽20年までに留学生(日本人、外国人いずれも)を倍増▽今後10年間で世界大学ランキング上位100校に日本の大学を10校以上入れる▽今後10年間で20以上の大学発新産業を創出する−−など6項目を示した。


国立大運営費交付金を重点配分 4000億円、文科省が改革プラン(2013年11月26日日本経済新聞)

文部科学省は26日、国立大学の教育・研究機能の強化に向けた「国立大学改革プラン」を発表した。国際化や理工系を中心とした人材育成を重点課題とし、教員の年俸制導入など積極的な組織改編に取り組むよう求めた。文科省は来年度から運営費交付金の配分方法を抜本的に改め、プランに沿った改革を進める国立大に対し、計約4千億円を重点配分する。

26日の閣議後の記者会見で、下村博文文科相は「旧態依然の大学運営では厳しい国際社会を生き残るのは難しい。各大学の特色を最大限に生かした機能強化をスピード感をもって推進する」と述べた。

プランによると、各国立大には強みや特色に応じ(1)世界トップレベルの教育・研究拠点(2)全国的な教育・研究拠点(3)地域活性化の中核的拠点-のいずれを目指すのか、方向性を明確化させる。その上で、持続的な競争力を持ち、高い付加価値を生み出すため、国際化やイノベーション創出に取り組むよう求めた。

国際化を進める具体策として挙げたのは、海外大学の研究ユニットの誘致や国際共同大学院の創設など。イノベーション創出では、国立大から大学発ベンチャー支援会社への出資が可能となるよう、産業競争力強化法案を臨時国会に提出する。

優秀な外国人教員を積極的に採用するため、教員の給与体系も見直す。2015年度末までに教員1万人に年俸制を導入。外国人や若手研究者向けに1500人分の常勤ポストを確保するとした。

文科省によると、改革の進捗状況は毎年度評価する。国立大に対する運営費交付金(13年度で年間1兆700億円)のうち約4千億円は改革に積極的な大学に重点的に配分する。


2013年12月11日水曜日

人生に余りなし

福岡市南区の知的障害児通園施設「しいのみ学園」を設立した福岡教育大学名誉教授(教育学)の昇地三郎(しょうち・さぶろう)さんが、去る11月27日、心不全のため福岡市内の病院でお亡くなりになりました。107歳でした。

心からご冥福をお祈りいたします。少し前の記事ですがご紹介します。


なすべきことはすべてした(産経新聞・産経抄)

兄弟は毎朝、障子の穴から通学する子供たちをうらやましそうに眺めていた。2人はともに、脳性小児まひだった。兄の有道さんは、学校でひどいいじめに遭い、中学2年で退学を余儀なくされる。弟の照彦さんは、小学校に入学すらできなかった。

当時、福岡学芸大学(現・福岡教育大)で心理学を教えていた父親の昇地三郎さんは、2人の姿を見ていて決意する。「自分で学校を作るしかない」。昭和29年、私財を投じて福岡市内に設立したのが、福祉施設「しいのみ学園」だ。

照彦さんを含めた12人が、最初の入園者となった。有道さんは、職員を志願する。小学校に通っていたとき、有道さんを抱いて鐘をたたかせてくれた、「小使さん」が念頭にあった。開園式で有道さんは、「小使」の肩書の入った名刺を、来賓の県知事らに堂々と差し出していた。妻の露子さんは、わが子の成長ぶりを涙を拭きながら見守っていたという。

「父ちゃんありがとう」という言葉を残して、有道さんは39歳で亡くなった。平成9年には露子さん、14年には照彦さん、翌年には兄や弟の面倒を見てくれ、いずれ園長を任せるつもりだった長女の邦子さんにも先立たれる。昇地さんは、96歳で家族のすべてを失った。

「『なすべきことはすべてした』という気持ちで、彼ら、彼女らを見送ってきた」と著書に書いている。昇地さんは悲しみに浸る間もなく、障害児教育について、講演に力を注ぎ、世界中を飛び回った。

100歳を超えてからは、長寿がテーマになることも多くなった。昇地さんの訃報が先週届いた。107歳の大往生である。3年後に横浜で開かれる「国際心理学会」で、「黒田節」を披露するのを楽しみにしていたそうだ。



2013年12月10日火曜日

結論が出せない組織

学校法人東邦学園愛知東邦大学理事・法人事務局長/学長補佐の増田貴治さんが書かれた論考「組織機能の実効性を高める」(文部科学教育通信 No.327 2013.11.11)をご紹介します。

「大学のガバナンス改革」は、先月、文部科学省によって策定された「国立大学改革プラン」の大きな柱の一つでもあり、中央教育審議会大学分科会組織運営部会による「審議のまとめ」が年内にも取りまとめられる予定になっています。時宜を得た論考ではないでしょうか。


ウィーン会議を続けていて良いのか

「会議は踊る。されど進まず」。ウィーン会議(1814年9月-1815年6月)に参加した欧州各国代表が饗宴に興じて、議事が一向に進まない様から得た揶揄である。会議はナポレオン敗戦後の欧州体制を決めるために召集されたが、9か月もかかった。参加国の利害が対立、元首や大使らの駆け引きに終始した。そして夕方になると、豪華絢欄なシェーンブルン宮殿で開かれる晩餐会や舞踏会、音楽会の楽しみに明け暮れた。

ウィーン会議では、議決する本来の会議と宴との重み付けが逆転していた。全体会議は一度も開かれず、もっぱら各委員会や裏折衝が欧州の新秩序を決する場となった。俗事から離れ、あまりに優雅な会議のあり様は、2世紀経た今も延々と議論に時間を費やす大学の姿を想起させる。流刑地にいたはずのナポレオンが脱出してフランスに戻ったことが、終わる気配のない会議を終結させた故事。大学も、外部から強い刺激がなければ自ら変えられないのだろうか。

迅速な意思決定を阻害する風土

大学では一般的に、課題や問題が生じれば、まず担当委員会や部署、特設プロジェクトチームが対応策を考える。それを意思決定の手順に従って、審議していく。関連する組織やメンバーすべての協議・調整を経て、理事会や教授会などの最高意思決定機関のもとで最終決定し、実行に移す。

問題は、「外的な環境変化」の速さに「意思決定に伴う組織対応」の速さが適切かどうかだ。社会情勢の変化から先行きを見通して、変えるべき速度も考える必要がある。しかし、結論が出るまでに想定以上の時間を要することがしばしばある。常態化すれば、外部環境と大学がずれてしまう。

学校教育法第93条は「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」とし、同法施行規則第143条は「教授会は、その定めるところにより、教授会に属する職員のうちの一部の者をもって構成される代議員会、専門委員会等を置くことができる」と規定している。さらに第144条は「学生の入学、退学、転学、留学、休学及び卒業は、教授会の議を経て、学長が定める」と、重要事項を定めている。

ところが、この規定から、学内のすべての事項に関する最高意思決定機関が教授会であると解釈し、付託された専門委員会の議論を徹底的に尊重する風土が強くある。重要事項であればこそ、法的・コンプライアンス上、手順や議決には慎重になるだろう。「民主的」それ自体も批判されるべきではないが、プロセスを尊重するがあまり、結論が出ない、出せない組織になってはいないか。

通じ合える委員会へ統廃合

筆者が所属する学校法人東邦学園は、2007年4月から短期大学を四年制大学へ完全に改組し、愛知東邦大学は経営学部と人間学部の二学部構成で再スタートした。

その時点で、学長の下には21もの専門委員会があった。運営、入試、教務、学生生活、進路支援、特色教育・FD、国際交流、図書館、情報システム、生涯学習、研究所運営、入試問題作成、学生指導、人権問題、教職課程、地域交流、広報、施設、防災、個人情報管理、全面禁煙推進。既存委員会の業務範囲に収まらない問題が起こると、ただちに対処する委員会を別途発足させた。その結果がこの委員会数に膨れ上がった。

メリットは、教学が抱える課題や日常の問題のほとんどを担当委員会へ回して対応できたことである。一方で、委員会の数に比べて40数人という教員数の割合から、一教員の所属が3つにもなった。業務量と時間的制約から、活動への関わり方が浅くなり、当事者意識が希薄になった。委員会の運営は委員長と事務局任せになり、専門委員会の対処・報告は熟議されないまま教授会に提案され、差し戻されるケースもあった。業務の細分化で役割が単純明確になる半面、縦割りの個別意識が強まり、全学的連携が図りにくくなった。

そこで、2008年度には業務を役割や機能に応じて8委員会に統廃合し、教員は原則一人一委員会への所属とした。一定の専門化と総合化のバランスを考え、全体業務と個別業務とを融合した。関連する業務を横断的に捉え、同時に複数の課題を取り扱うこととなり、関連課題をお互いに意識し合う委員の言動が生まれた。コミュニケーションが活発化して、組織の風通しが良くなった。さらに、全学協議会で学部間で異なる意見もすり合わせることにした。

厳しい経営環境に置かれたスモールサイズの本学だからこそ、意思決定のスピードを上げることを迫られ、こうした改革を進めた。

課題を明確にして組織で共有する

「あなたの所属する委員会や部署の課題は何か?」と問われたとき、教職員は即答できるだろうか。

各組織の設置には、明確な目的がある。達成する目標や取り組むべき課題、業務がある。ここでの「課題」とは、目標(目指すべき理想の姿)と現状との違いである。目指すべき姿・最終ゴールのイメージが一致すれば、解決すべき課題も自ずと共有できていくはずだ。

教職員が一体となって運営するためには、「目的(何のために)」と「目標(達成すべき具体的な指標)」、「課題(改善事項)」を共有することが不可欠である。そうした共有を図るためには、相互のコミュニケーションが必要である。

ここでおさえておきたいことは、「設定される目標や今取り組まなければならない課題は、外部環境の変化とともに変わる」ということだ。会議を開くと「前例ではどう対処したか」という問いが発せられる。公平さと一定の参考には必要だが、前例墨守では、社会の求めるものや市場からのニーズの変化を的確に捉えられなくなる。定型化された業務に取り組んでいるだけでは、目的は果たせなくなる。社会の変化に応じて最適化するメンテナンスが重要である。大学はやはり期待されている。

9月18日、安倍首相の肝入れで設けられた産業競争力会議の「雇用・人材分科会」が開かれ、経済同友会代表幹事の長谷川閑史・武田薬品工業社長は、大学のガバナンス改革として、次のように提起した。

主な項目を挙げると、「学長がリーダーシップを持って実行できるようにするためのガバナンス改革の速やかな実行」「教授会の役割の明確化、部局長の職務や理事会・役員会の機能の見直し、監事の業務監査機能強化等について、所要の法案を次期通常国会に提出するが、効果的な法案の内容について早急に詰ある必要がある」「教授会の役割の明確化に当たっては、学長選挙等の際に慣行として行われている根拠なき大学運営決定への関与の排除について検討すべきでないか」。

大学人としては抵抗感や異論もあろうが、これが外部の声、環境である。大学が社会から期待されているからこそ、叱咤がある。私たちが、ウィーン会議の参加者のような意識でいたとすれば、今日の学校経営はすぐに行き詰まる。


2013年12月6日金曜日

生きるということ

ブログ「人の心に灯をともす」から「メリーゴーランド」(2013年12月3日)を抜粋してご紹介します。


結婚を控えた娘に

いよいよ来月、結婚するんやね。

おめでとう。

ジューン・ブライドに憧れていたはずやのに、きみは結局、お母さんの旅立った8月を、式の日に選びました。

あなたの母親であり、私の妻であった、我々の最愛の女性は、ある、小さな記事として新聞にも掲載された交通事故により、きみがまだ6歳の時に亡くなりました。

突然すぎて、悲しみ抜いて、途方に暮れて、精神的に参ってしまった私は、死のうとしたんです。

バカなことに、きみを連れてお母さんを追いかけようとした。

その日、最後の思い出にと、家族でよく出かけた遊園地に2人で行きました。

君は嬉しそうに、はしゃぎ回った。

いつも家族で乗ったメリーゴーランドにひとりで乗るきみを、私は精いっぱいの笑顔を作って、だけど力なく手を振って、きみが「お父さーん」と呼ぶ声に必死で答えていました。

とにかくきみは楽しそうで、これが最後の遊園地になることも知らずに、いや、今日が最後の日であることも知らずに、元気いっぱいに走っては、乗り物をハシゴしてた。

きみが楽しげであればあるほど心は痛んで、でも、心が痛めば傷むほど、必死で笑顔を作るようにしました。

やがて急流すべりを乗り終わって、こちらに駆けつけてきたきみは、満足げな表情で見上げつつ、私と手をつないで、ニコニコしながらこう言いました。

「もういいよ、お父さん。

もう、お母さんのところに行こ」

きみは気づいていたんやね。

きみを抱いたまま、ムリヤリ、父親の私がこの世を去ろうとしていたことを、なぜか知っていたんやね。

この言葉で、私はハッと目が覚めました。

私はこんなことを言った。

「あほ!

お母さんに怒られるぞ、ミサト!

いつか、お母さんがゴハン作って待ってるのに、迎えに来てくれたオマエと駅前の焼鳥屋に寄り道した時みたいに、『そんな勝手なことするんやったら、二人で出て行きなさい!』って、お母さんスネるぞ!

スネたらひつこいぞ~!」

こう言うときみは・・・、お葬式の日以来、お母さんのことでは全く泣かなかったミサトは、セキを切ったように大きな声で泣きだしたね。

24年前のあの日のことを、きみは憶えていないと言います。

でも、きみに子供が、そう、私とお母さんにとっての孫ができて成長したら、あの遊園地にみんなで行こう。

お母さんの分も入場券をちゃんと買って、みんなでメリーゴーランドに乗ろう。

そしてみんなで、思いっきり笑おな。

ミサト、本当におめでとう。


人にはときとして、到底乗り越えられないような悲しみがやってくることがある。

そんなときは・・・

思いっきり泣いたり、ぐちをこぼしたり、弱音を吐いたっていい。

悲しみの底まで落ちて、そして、それを乗り越えてきた人は、ひかり輝いて見える。


2013年11月25日月曜日

日本の将来と大学

安西 祐一郎氏(独立行政法人日本学術振興会理事長、元慶應義塾長)のブログ「Yuichiro Anzai's Official Blog-安西祐一郎オフィシャルブログ」から、最近の記事を3つほど抜粋してご紹介します。



高校卒業までは親と一緒に行動、卒業して大学に入学したら(あるいは働くようになったら)独立心をもって自分で考え自分で行動しなければならない、、アメリカの大学は尞制が多いのでそれができるのですが、寮に入ること≒独立すること、というアメリカの若者が巣離れする社会的な「しくみ」が、The Blind Sideという映画の最後のほうにヴィヴィッドに出てきます。

翻って日本では、教育再生実行会議が10月31日の第四次提言で大学入学者選抜のあり方について提言しました。とくに、「達成度評価テスト:基礎」、「達成度評価テスト:発展」の実現が提言され、これらを含めた大学入学者選抜のあり方についての議論が中教審などで始まっています。

こうした議論の大切さはもちろんのことですが、それに加えて、というよりもっと本質的なこととして、高校生と大学生の「違い」は何か、ということについては、あまり議論がされていないように思います。もちろん、日米の社会は歴史的にも文化的にも違いますからアメリカの高校生と大学生の違いを日本に直接持ち込んでも意味はありません。ただ、日本の高校生と大学生はどこが違う「べき」なのか、今は高校生がなんとなく大学生になって、高校3年生と大学1年生では明確な違いがそれほどないようにみえますが、それは「当然」のことなのでしょうか。

大学生になると家庭を離れ自立(かなりの大学生は自活)するのが当たり前という社会は、日本の高校生や大学生が国内で遭遇する社会とはかなり違う、という点は、高大接続の議論をする際の参考にしてもよいのではないでしょうか。


真の科学技術とは「人」なり、だ。科学技術を進めるには金も組織も必要だが、一番もとには人がある。人がいてはじめて経済が成長し、科学技術が発展し、大学もいいものになっていく。

ノーベル賞の自然科学3賞の受賞者数を見ると、日本は今世紀に入って世界3位。日本がトップレベルの研究者を生み出してきたことは間違いない。一方で、批判的な思考力、独立して考える力、自分で実行する力を養うことが、日本を含めたアジアの教育の中では長い間抜け落ちていた。

実用化された技術は、さかのぼれば、いろんな基礎研究にたどり着く。車も飛行機も、電気製品も、何でもそうだ。異種分野の多様な基礎研究を、非常に広い土壌でやっていることが、実用化にとって極めて大事な条件になる。

イノベーションをもたらすのは人間であり、人間の主体性だ。大学、大学院の本当の使命は、人間の主体性がはぐくまれ、それをもとに新たな知が生み出される環境を作ることにある。それには、規制緩和や研究環境の多様化、国際化が急務だ。主体性、創造性は異なる考え方の人たちがともにはげむ環境から生まれる。女性、若手人材育成の強化なども重要だ。

激変する世界をしっかり踏みしめなければ、人材育成も科学研究も成り立たない時代に我々はいる。大学自体が主体性を持ち、自己規制を打破していくことが、科学技術立国への道だと思う。

さて、「主体性」という言葉を私自身いつごろから使い始めたか定かではないのですが、振り返ってみるとかなり多用していることに気づきます。

いずれにしても、主体性を育むことは、日本が世界の平和と安定に貢献していくうえで極めて大事な要点になっていきます。このことは、科学技術立国についても同じことで、科学技術のイノベーションを起こし、それを経済成長につなげていくには、主体性をもって科学技術、イノベーション、社会変革に貢献する人間がたくさん出てきてくれることが最も大事なことだと思います。また、不必要な規制(その多くは組織の自己規制です)を取り払ってそういう人たちを応援していくことが必要だと思うのです。


ピッツバーグの初雪-カーネギーメロン大学の学長就任式に寄せて(2013年11月24日)

CMCの学長になったDr.SureshはNSFの長官から引き抜かれたのですが、学長の探索は3年前から始まっていたとのこと。アメリカの大学の学長には一般に任期はありませんが、その一方で学長の評価は常に理事会や評議会が厳しくチェックしています。とくにfund raisingは学長の第一の仕事といってもよく、学長は資金を集めて大学のレベルを上げていかなければ、突然代えられてしまう可能性があります。

日本の大学改革の議論に伴って、今ようやく学長のガバナンスの議論が始まっています。その中でアメリカの大学における学長のあり方との関連も議論されることがありますが、その多くは的を射ていません。

実際には、アメリカの学長はfund raisingの評価を常時受けているようなもので、理事会などによる厳しいチェックのもとで、いつ退任させられるか分かりません。一般論ではありますが、(少なくともこれまでは)任期の間に退任させられることはほとんどなく、しかも寄付を募る必要もないと言ってよい日本の国立大学の学長とは質的に異なる仕事だと言っても過言ではないと思います。

今回の旅で一番印象に残ったことは、カーネギーメロン大学という、科学技術やビジネス教育で知られ、演劇でもブロードウェイに多くの人材を輩出している、学生数はそれほど大きくはありませんが、TIMES大学ランキング(2013-2014)では24位(東大23位、京大52位、東工大125位)を占める大学が、その地位に甘んじることなく、改革派の学長を選任し、その学長が、CMUの今までの歴史と業績をよく理解し踏まえたうえで、これからのビジョンを就任式当初から広く世界に発信し、新たな道を歩みだそうとしている姿でした。

日本の大学だと、新しい学長が就任しても、いったいその学長が何をしようとしているのか教員にはよくわからない、というより、学長が自分たちの大学を変えることなどしないししてほしくもない、自分たちには関係ない、と思うのが、(例外はありますが)むしろ普通だったのではないでしょうか。それに対して、少なくとも今回CMUで会ったほとんどすべての教員は、新学長の人柄やビジョンを理解していましたし、自分たちのCMUが新しい時代に入っていくことに興奮しているようにみえました。

1976年にCMUのキャンパスで研究者生活を始めてから35年あまり、今になってCMUの新しい門出に立ち会えたことは、とても感慨深いことではありました。ただ、その一方で、日本の大学がいったいどうなるのか焦燥感を感じ続けている中でこうした場に居合わせたことは、米中巨大国の狭間でアジア太平洋地域の平和と安全の要としての新しい国家像を創っていかなければならない日本の将来について、そしてその将来を担うべき日本の大学について、いろいろなことを深く考えさせられる、あらためての機会になってしまったのでした。



2013年11月20日水曜日

真のガバナンス改革

吉武博通氏(筑波大学大学研究センター長・ビジネスサイエンス系教授)が書かれた論考ガバナンスの確立に向けた議論を通して大学改革の根源的課題について考える」(リクルート カレッジマネジメント183 / Nov. - Dec. 2013)を抜粋してご紹介します。(下線は拙者による)


改革の不全とガバナンス構造の問題はどう関わり合っているのか

大学のガバナンスを巡る議論が最近になって一段と活発になった背景には、グローバル化が急速に進む中、教育と研究の両面で大学への期待が高まっているにも拘わらず、我が国の大学はその役割を十分に果たしていない、という社会の苛立ちともいえる認識がある。2012年3月の経済同友会提言『私立大学におけるガバナンス改革-高等教育の質の向上を目指して-』の冒頭にそのことが顕著に表れている。

その上で、同提言は、大学側が自らの課題を認識しつつも、抜本的な改革に着手できずにいるのは改革の実行力が不足しているからであり、志を持った大学のトップが新しい取り組みや改革を実行しようとしても容易に進めることができないのであれば、大学のガバナンスの構造に問題があるということになる、という趣旨の主張を行っている。

改革の不全とガバナンス構造の問題が短絡的に結び付けられている印象は否めないが、それを批判するだけでは状況は何も変わらない。改革の不全の根本的な問題は何であり、それがガバナンス構造とどう関わっているのかを、大学自身が当事者として明らかにする必要がある。

法人化は一定の成果をもたらすも根源的な部分の変革は今後の課題

同友会提言は私立大学を対象とするものだが、「国公立大学にも適用できる部分も少なくない」とされている。2004年に実施された国立大学の法人化は百年に一度の大改革と言われ、公立大学も現在までに約8割が法人に移行している。

法人化はまさにガバナンスの改革であり、ガバナンスの構造を変えることにより、教育研究の高度化を促し、経営の効率性を高めることを狙いとしたものである。従って、国公立大学の法人化のレビューを行うことで、ガバナンス改革の有効性と課題を明らかにすることができるはずである。

客観的な検証は今後に委ねるとして、法人化により、学長・理事とそれを支える教職員を中心に自律的に運営を行うという意識が高まるとともに、学長のリーダーシップの発揮に対する学内の抵抗感が薄まってきたように思われる。その結果、教学・経営の両面で種々の意欲的な取り組みや様々な工夫が数多く見られるようになった。法人評価がそれを促した面もある。

また、学外理事、監事、経営協議会委員など、法人運営に学外者の視点が入るとともに、大学全体が社会をより強く意識するようになり、社会に一層開かれてきたことも成果と考えることができる。

その一方で、本来目的である教育研究の高度化や経営の効率化については、これからの課題と思われる。根源的な部分で改革と呼ぶに相応しい変化を起こすのはいかなる機関・組織であっても容易ではない

ここでいう根源的な部分とは何か。教員組織についていえば、教員の意欲・能力の底上げを図り、意欲のある教員がより高い教育研究成果を追求し、教育の質の持続的向上に組織的に取り組む状態を作りあげることである。

職員組織については、個々の職員が組織の目標と自身の役割を正しく理解し、絶えず改善を重ね、他の職員や教員と協調しながら新たな課題に取り組む中で、自身を成長させていく、そのような状態を作りあげることである。

このような根源的な部分の改革は、ガバナンス機能を強化することで実現できるのだろうか。

ガバナンスとマネジメントの概念を明確にした上で自校に相応しい仕組みを

大学のガバナンスに関する議論では、ガバナンスとマネジメントの概念が判然と区別されないまま使われていることが多い。それは、大学という機関の中に、経営体的組織と自治に象徴される共同体的組織という性格の異なる2つの組織が併存するからである。

経営体的組織の特徴は共通目的があることであり、指揮命令系統が確立していることである。その共通目的を、人に働きかけ、資金やモノや情報などの経営資源を活用することで実現するプロセスがマネジメントである。

国立・公立大学法人、学校法人及び法人・大学の事務組織は経営体的組織であり、そこで行われているのがマネジメントである。そのマネジメントをステークホルダーの視点に立って規律づけることをガバナンスと呼び、法人の長の任免とその執行の監督がその主たる手段となる。

大学や学部はどうであろうか。教員の多くは共同体的組織と考えており、従ってその長は選挙で選び、意思決定は合議で行うことになる。それに対して、経済界を中心に提起されたガバナンス改革に対する主張は、理事会が長を選任し、その長にリーダーシップの発揮を期待するものとなっており、大学や学部の性格づけを明確にはしていないものの、経営体的組織であることを前提にしているものと思われる。

前者は、構成員の責任で自らの組織を規律づけるガバナンス構造が基本となっており、後者は、理事会による規律づけの下、学長・学部長のマネジメントに期待する構造となっている。もちろん、前者においても学長・学部長はマネジメントの担い手であるが、教授会等との関係においてその権限が制約されることも多い。

どちらが優れた仕組みなのか、一律に判断することは難しい。大学間あるいは学部間で教授会の成熟度に大きな開きがあるはずであり、同じように理事会の成熟度も法人間で異なる。

既得権に固執するだけの教授会ならばその役割や権限を大幅に縮減すべきだが、自校の発展を願う教員達がその志や見識で議論を交わし、意思統一を図る場であるならば、教学についての機能・権限を一定程度残し、それ以外の事項についても学長や学部長が意見を求めたい場合は、その場を活用すべきであろう。

そのいずれが自校に相応しいのか、冷静かつ本質を捉えた議論を通して、その見極めを行う必要がある。

教員人事に戦略性と緊張感を持たせる仕組みを如何に構築するか

その一方で、教学事項と経営事項を明確に切り分けることは難しい。予算や施設・設備は経営事項であり、学部長が学長に要求し、学長が大学として法人に要求し、最終的には法人が決定すべきであるが、教員人事については、配置枠の問題と採用・昇任等個別人事の問題を分けて整理する必要がある。

配置枠の問題については、学部長が提案する人員計画(例えば長期計画と年度計画)を、学長が全学的な視点で評価し、法人との調整を経て承認するという方式が基本となるだろう。人的資源の配分という点で予算と同様に経営事項であり、変化の激しい時代、組織変更や学生定員の見直しに柔軟に対応するためにも、配置枠の既得権化は避けなければならない。

個別人事については、全学組織として人事委員会を常設し、個別案件ごとに専門委員会を編成し、その審査を経て、人事委員会が承認するという方式が考えられる。仮に、学部教授会に審議を委ねる場合でも、全学の人事委員会を常設し、各学部の採用・昇任基準や審査プロセスを予め承認した上で、それに則って適正に審査が行われたかのプロセス確認を行うことで、教員人事の質を担保することが望ましい。

研究業績の高い教員は知名度の高い有力校から優先的に押さえられてしまう。研究業績のみならず教育能力や人格などを多面的に評価する中で、自校に相応しい教員組織を作り上げ、競争力の源泉としていかなければならない。学部に全てを委ねた場合、ポストを埋めることが優先され、妥協を重ねた後の採用・昇任が繰り返される可能性がある。

教員人事に戦略性と緊張感を持たせる仕組みを如何に構築するか、大学の将来に関わる極めて重要な課題である。

学部長に相応しい人材をどう育成し、その運営能力を高めるか

このように教員人事の質を高めることで、根源的な課題として挙げた教員組織の改革を前に進めることができるが、それに加えて、日常の組織運営が適切に行われなければ、個々の教員の能力の伸長・発揮を促し、教育の質の高度化に向けた組織的な取り組みを定着させることはできない。学部長の手腕が問われる所以である。

教員の場合、学部長を選挙で選んでも、学長や理事会が選んだとしても、社員や職員が部課長を上司と仰ぐような上下関係にはなりにくい。少なくとも研究は個々の教員の興味・関心に基礎を置くものであり、研究成果に責任を負うのはその教員個人だからである。教育も研究に裏打ちされたものである以上、同様の性格を有する面があるが、同時に、その質の維持・向上に責任を負うのは、大学であり学部である。

このような意味からも学部長には一般的なマネジメント能力に加えて、教員組織の特性に即した固有の運営能力が求められる。選び方の問題も重要だが、人材のソースの求め方と育成方法、学部長の専決事項と教授会での合議事項の明確化、組織目標の達成に教員をコミットさせる運営方式と教員評価システム、学部長の運営を補佐する体制(例えば教員と事務長相当の職員を副学部長とする)など多面的な検討を行い、実効性ある形で整備していく必要がある。

組織や職位に如何なる役割と責任を付与するかの組織設計が重要

大学によっては学部の規模が大きく、学科が日常の運営単位となっている場合もあるだろう。学部と学科間で機能・権限をどうシェアするかも重要なポイントである。

同様に、大学と学部の関係についても、歴史的経緯、立地、学部の規模などに即して、機能・権限の分担のあり方を検討する必要がある。学部が地理的に離れていたり、一大学に匹敵する規模であったりする場合、機能・権限面で自己完結性を高めた方が運営の円滑化が図れる。その逆に、同一キャンパス内にあり、学部の規模が小さい場合、機能の共通化を進め、学部長に学長を補佐する全学的な役割を与えるなど、一体性を強めた運営を行うこともできる。

但し、いずれの場合でも、学部長はその分野の学問と社会の未来を洞察した上で、学部の立ち位置を定め、競合に対する優位性を確立するための戦略を構想し、学長の支援を受けつつそれを推進する責任を負っていることを明確にしておく必要がある。

権限はその責任を果たすために与えられたものである。ガバナンスを巡る議論では、権限に関心が集まるが、その前提として、それぞれの組織や職位に如何なる役割と責任を付与すべきかが明確でなければならない。その組織設計の考え方が重要なのである。

学長の役割・責任の明確化とリーダーシップの本質に対する理解

最大の焦点の一つである学長のリーダーシップの確立についても権限の強化を論ずる前に、その役割と責任を明確にしておかなければならない。併せて、リーダーシップの本質を明らかにし、強い権限を背景にしたトップダウンだけがリーダーシップの発揮でないことを確認しておく必要がある。

学長に求められる主たる役割は、ビジョンと戦略の構想、学部等の活動の適正な評価、それらに基づく適切な資源配分、健全な教育研究環境と働く環境の整備、ステークホルダーとの対話と発信である。

このような役割を果たすことのできる人材のソースをどこに求め、どう育成するか、その運営を支える職員組織をどう作りあげるかの2点が最も重要であり、難度も高い課題である。

学校法人においては、学長と理事会の関係も、学長の役割と責任を考える上で、必須の検討課題である。理事会と教授会の狭間で力を発揮しにくい学長もいるだろう。選挙で選出された学長が理事長を兼ね、法人と大学が一体的に運営される体制と、理事長を中心とする理事会と学長を中心とする教学体制が別建ての場合と、どちらが優れているか一概に言えない。

理事会についていえば、執行決定への関与の度合いによって理事に求められる要件、構成、運営方法なども異なってくる。

繰り返しになるが、それぞれの機関・組織・職位の役割と責任を明確化した上で、それを果たすために必要な権限を与え、それを担う人材を発掘・育成し、配置することが基本である。

組織は生身の人間で構成されており、過去の積み重ねの中で蓄積された知恵や組織文化も無視できない

形や権限の議論から入るのではなく、現状に対する正確な理解と評価に基づいたガバナンス論にしなければならない


2013年11月19日火曜日

悲しくも、幸せにもなるひと言

ブログ「人の心に灯をともす」からお身体を大切に」(2013年11月16日)をご紹介します。


アカネが配属されているJALマイレージバンクの事務局に、その電話はかかってきた。

「あの…、マイレージのことで相談に乗っていただきたいのですが…」

それは年配の女性の声だった。

「はい、どのようなご用件でしょうか」

「マイレージの名義を夫から変更したいのです」

「と申しますと…」

「夫が亡くなりまして」

「それは… ごしゅうしょうさまでした」

こうアカネが答えると、女性は沈黙してしまった。

「お客様、どうかなさいましたか」

「いいえ、なんでもありません。大丈夫です」

アカネは、その女性が「大丈夫です」と口にしたことがかえって気になった。

「それでは恐れ入りますが、まずお客様のご主人様のお名前を教えていただけますか?

もし、お手元にマイレージカードがございましたら、お得意様番号をお知らせください」

「はい、はい。…ええと」

アカネは、普段どおりに相続手続きの方法について説明をした。

遺産分割協議書などの書類をすでに作成しているかなどを訊き、印鑑証明の添付が必要な旨を説明。

もし、それがなければ、こちらから相続手続きに関する所定の用紙を送付することを告げた。

女性は、その間、ほとんどうなずくかのように聞くだけ一方といった感じだった。

それが、一層、アカネには不安に感じられた。

「お手数ではございますが、よろしくお願いいたします」

「はい」

「それでは、奥様、どうぞお身体を大切になさってください」

そう言って、アカネが電話回線のスイッチを切ろうとしたそのときだった。

「ぐっ」

言葉にならない、ため息のような、いや、おえつにも似た声が聞こえた。

アカネは、思わず問いかけていた。

「どうかなさいましたが、お客様」

「うう…」

今度は、明らかにそれが泣き声だとわかった。

「お客様…」

何か自分は悪いことを口にしてしまったのだろうか。

この5分間ほどのことが頭の中を駆け巡った。

通常の業務内容、ありきたりの会話だったはずだ。

「お客様、大丈夫ですか?」

一拍おいて返事があった。

「ごめんなさい。嬉しかったものだから…」

(え!? 嬉しかったですって?)

女性は、続けてこんな話をしてくれた。問わず語りに。

3か月ほど前、30年近く連れ添った夫を亡くした。

もうすぐ定年。

「時間ができたら、思い切って海外旅行へ行こうよ。

それも、できたらヨーロッパのどこかの町に長期ステイがいいな」と話していた矢先のことだった。

ご主人は、商社に勤めていたという。

そのため、海外出張が年に10回以上。

家を留守にすることも多かった。

「悪いな」と言いつつ、子育ては妻任せ。

「苦労のかけ通しだったな」と口にはするが、会社がすべてのような人だったという。

それだけに、二人でヨーロッパへ行くというのは夢のような話だった。

ところが…

会社から、夫が出張先の札幌のホテルで倒れたという知らせが入った。

心筋梗塞だった。

一人で出張だったので、救命処置が遅れた。

ホテルの人が気づいたときには、心肺が停止していたという。

そして、そのまま帰らぬ人となってしまった。

呆然とした。

しかし、悲しむ時間さえも許されなかった。

なきがらを家まで運ぶ手続き。

通夜と告別式の準備。

会社の人たちが主になって動いてくれたが、喪主としてただ座っているわけにはいかない。

病院への支払い。

区役所への死亡届と埋葬許可証の申請。

次から次へと訪れる弔問客は、知らない顔ばかりだった。

ひろうこんぱいで葬儀を終えた後、寂しさに襲われた。

ひと月が経ち、ちょっと落ち着いた頃、預貯金や株式、自宅不動産などの名義変更の手続きを始めた。

これが、なんともやっかいだったという。

銀行も証券会社も、提出する書類の多いことに参った。

「これでいいはず」と持っていく。

ところが、あれが足りないこれが足りない…と何度も追加や訂正を迫られた。

血が通っていないというか、お役所仕事のような冷たい対応だった。

他にも区役所の住民課、国民健康保険、国民年金課、そして社会保険事務所、税務署などへ毎日のように通った。

おおよその相続、名義変更の手続きが終わったとき、ふと頭に浮かんだのが、夫と約束していたヨーロッパ旅行のことだった。

海外出張が多かったので、マイレージがずいぶんたまっていたはず。

夫も、それをあてにして算段していたはずだ。

夫のカード入れを探すと、JALのマイレージカードが出てきた。

思い切って、カードの裏面にある番号に電話をした。

そこで出たのが、アカネだった。

そしてまた、他の役所や銀行と同じような型通りの会話が始まった。

「またか」と思った。

どこもかしこも、無味乾燥なマニュアル通りの言葉。

仕方がない、この人もそれが仕事なのだ。

そう思いつつも、心のどっか片隅にいきどおりと悲しみが混在してむなしくなった。

「お手数ではございますが、よろしくお願いいたします」

と言われ受話器を置こうとした、その瞬間だった。

耳元から、やさしい声が伝わってきた。

「それでは、奥様、どうぞお身体を大切になさってください」

「先ほどね、電話に出られたとき、いの一番に『ご愁傷さまでした』っておっしゃったでしょう。

そしてね、今さっき、あなた『お身体を大切に』って。

わたしね、この3ヶ月で一番嬉しかったんですよ、その言葉が。

だって、銀行へ行っても、区役所へ行っても、誰一人そんなやさしい言葉をかけてくれた人はいませんでしたから…」

「ごめんなさいね。わたし、涙が止まらないの」

そう言う女性の声は、ずっと震えていた。


人を思いやる言葉か、自分本位の心ない言葉か。

やさしい言葉か、型通りの冷たい言葉か。

たったひと言で、人は、悲しくも、幸せにもなる。