2013年1月23日水曜日

国民と乖離する財政審

昨日(1月22日)、平成25年度予算案編成の日程が発表されました。報道によれば、1月24日に基本方針を決め、27日まで各大臣と折衝を行い、28日には、予算案を反映した同年度の経済見通しを発表。29日に予算案の概算を閣議決定する方針のようです。

また、一昨日(1月21日)には、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会が、今回の予算編成に当たっての考え方を取りまとめました。

(参考)平成25年度予算編成に向けた考え方(平成25年1月21日 財政制度等審議会)

このうち、高等教育機関に関係の深い部分を抜粋してご紹介します。

文教・科学技術

1 文教予算について

教育予算については、明確な成果目標を定め、改善サイクルが働くようにすることが重要である。定数増や予算増に走るのではなく、「成果」につながる質・手法の改善をあわせて資源を投入する仕組みを構築する必要がある。例えば、教員の大量退職・大量採用に伴い教員採用倍率が大幅に低下しているのであれば、むしろ、採用者数を大幅に減らし、採用倍率を確保して良い人材の確保に努めるべきである。一方で学校における外部人材の活用が進んでいないのであれば、外部人材の活用を進めるための重点投資を行うことも考えられる。費用対効果の観点から最も効果的・効率的な資源投入を行うという視点を忘れてはならない。

我が国の教育に係る公財政支出(対GDP比)はOECD諸国の中で低いとの議論があるが、こどもの数(総人口に占める割合)が少ないことによるものであり、こども一人当たりの公財政支出でみれば、OECD諸国と比べて遜色はない。また、高等教育については、米国とはそれ程違いはない。いずれにせよ、家計が負担するか税金で負担するかは選択の問題であり、高等教育は自己投資の側面があることを踏まえ、租税負担率等との見合いで議論する必要がある。(資料Ⅱ-3-1、2、3参照)

今後、少子化が進行すれば、公財政支出(対GDP比)も、全体の人口に占めるこどもの数の割合に応じて減少していくことが基本となることから、そうした観点からも、投入量の総額やそのGDP比に着目した議論を行うことは実益に乏しい。

2 大 学

国立大学法人運営費交付金については、平成16年に国立大学が法人化されて以降の以下のような状況を踏まえ、社会のニーズにあわせた大学内での機動的な資源の再配分を促進する必要がある。その際、セグメント毎の状況等の情報開示を充実させるほか、将来の少子化を見据え、個別大学を超えた再配分である再編・統合につなげていく必要がある。

  • 第一期(平成16年~21年度)の第三者評価について見れば、期待される水準を下回ると評価されたのは1%程度に過ぎず、評価を通じた教育・研究水準の向上という改革サイクルが機能していない。
  • 本来競争的に配分されるべき特別運営費交付金の配分状況を見ると、メリハリある配分となっていない。(資料Ⅱ-3-8参照)
  • 教員数をみると、専門分野別のシェアが固定化されている。

また、国立大学法人運営費交付金(平成24年度予算額11,423億円)は平成16年の法人化以降約1,000億円程度減額されてきたとの指摘があるが、その8割以上は附属病院運営費交付金の減と退職手当等の特殊要因運営費交付金の減によるものである。法人化以降の物価変動や公務員給与削減の傾向を考慮すれば、教育研究活動を直接支援する一般運営費交付金及び特別運営費交付金は実質的に減少しているとは言えない(資料Ⅱ-3-9参照)。更に、自己収入や競争的資金等の外部資金が増加しており、教育研究活動費は全体として増加している。研究予算の配分に当たっては重点化を図り、国立大学法人評価を反映すべきである。

国立大学の授業料については、低所得世帯の学生に対する授業料減免支援が拡充されている一方、授業料は全大学・学部でほぼ同じとなっている。所得水準等に応じた授業料体系への移行を検討すべきである。

3 奨学金

大学生等に対する奨学金については、(独)日本学生支援機構の行う無利子奨学金と有利子奨学金は学生の4割に貸与されており、希望者全員に貸与されている。

無利子奨学金の家計基準(4人世帯、私大・自宅通学)は年収955万円以下程度であり、一般会計からの貸付金を原資としているにもかかわらず、一般会計からの利子補給のない日本政策金融公庫の教育ローンの貸与基準(4人世帯、890万円以下程度)より緩やかになっており、逆転現象が生じている。

また、有利子奨学金(44人世帯、私大・自宅通学の場合)は年収1,207万円以下程度と幅広い層に貸与されており、返済条件も、卒業後20年以内に返済、金利も国債金利(固定1%程度、変動0.3%程度)と、民間金融機関の教育ローンと比べて、相当優遇されたものとなっている。(資料Ⅱ-3-10参照)

こうした点を踏まえると、無利子奨学金と有利子奨学金、更には日本政策金融公庫の行う教育ローンの間で適切に役割分担する観点から、無利子奨学金の貸与は特に困難がある者に限った上で、有利子奨学金で対応することを基本として、無利子奨学金の家計基準の見直しに取り組むべきである。

更に、無利子奨学金については、

  • 奨学金受給者が返済した資金を次世代の貸与原資とすることで限られた財源を有効活用するとともに、
  • 将来の返済負担懸念から、特に低所得世帯の学生を中心に就学を断念する可能性が指摘されることに対応する観点から、

所得確認が容易となる制度の施行後に、現行の定額返還から毎年の所得に応じた返還に移行することが望ましい。(資料Ⅱ-3-11参照)

4 科学技術

科学技術振興費については、平成に入り3倍に増加しており、社会保障関係費を上回る伸びとなっており、(資料Ⅱ-3-12参照)研究開発費(対GDP比)は主要国と比べて遜色ない。(資料Ⅱ-3-13、14参照)

一方、科学技術関係予算の目的別研究費のシェアはほとんど変化なく固定化されており、(資料Ⅱ-3-15参照)研究開発が社会や産業構造の変化に対応できていないとの指摘もある。加えて、論文の質を示す相対被引用度は主要国と比べて低水準である。(資料Ⅱ-3-16参照)

このため、大学においては、研究資金の弾力的な配分、実績や成果に基づく人事と研究人材の高度化・多様化・流動化の促進、研究支援人材の確保を図るなど、研究力強化に向けた学長主導の人的・物的資源の再配分を促進すべきである。

また、科学技術研究費補助金について、研究環境の改善、使い切りや不正使用の防止を図る観点から、一定程度、年度間で融通可能となるような新たな調整措置を導入することが考えられる。複数年にわたる研究に対応するため、適正な中間評価を前提として、研究開発法人の運営費交付金も活用していくこととする。

更に、大学等が企業から受け入れた研究開発費は極めて低い水準に留まっているが(資料Ⅱ-3-17参照)、優れた基礎研究の成果を基とした緊密な産学連携を通じたイノベーション創出が求められている。今後の成長戦略においても、研究者レベルだけではなく大学全体として民間企業と実用化に向けた共同研究を進めることが重要であると考えられる。

科学技術予算については、このような質的改善につながる制度・システムの改革を進めつつ、政策的な重点分野の一層の明確化、短期、中長期といった時間軸に応じた戦略の設定、専門家による適正な評価に基づく優先順位付け等を通じて、研究分野の選択と集中を図り、厳しい財政事情を踏まえた財政健全化と整合的なものとしていく必要がある。


(関連報道)

大胆な重点化、効率化を 13年度予算で財政審(2013年1月21日 共同通信)

財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会は21日、政府の2013年度予算の編成に向け報告書をまとめ、麻生太郎財務相に提出した。財政再建への道筋を明確にする必要があるとして「最大限の無駄の削減、大胆な重点化・効率化を進めるべきだ」と提言した。
消費税率を段階的に10%まで引き上げることを前提としても、20年度以降の公債残高は対GDP比で「200%を超えて増加し続ける見込みだ」と指摘。増え続ける社会保障費の財源を賄うため、消費税率のさらなる引き上げが「不可避」と明記した。

25年度予算編成 財政規律に危機感共有を(2013年1月22日 産経新聞)

危機の度合いを強める日本の財政状況をこれ以上、悪化させてはならない。財政再建は国民にとって「対岸」の問題ではないのだ。
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)がまとめた平成25年度予算編成のあり方に関する報告書は、切迫感をもって財政健全化を訴えている。
現時点で日本経済の最大かつ緊急の課題が、デフレ脱却であることに議論の余地はない。
しかし、国の借金残高が国内総生産(GDP)の2倍を超える状況は、脱デフレや成長戦略の実現で改善できる水準ではないのも事実だ。国債暴落などの危機回避の最後の砦(とりで)ともいえる「財政規律の維持」を、毎年度の予算編成でどう具体的な歳出抑制に反映させるかが問われている。
最大の焦点となるのは、社会保障費だ。24年度の社会保障給付費は約110兆円で2年度の約47兆円の約2倍、国庫負担も2倍強に増えている。この間、社会保障以外の政策的経費が微減になっていることを考えると、その深刻さは際立っている。
少子高齢化の進行をにらむと、引き上げが決まった消費税を社会保障財源に充てるとしても、給付見直しなどでメスを入れない限り国庫負担は増え続ける。
財政審の報告書はギリシャなどを例に、財政危機に陥ると行政サービスのカットなどで国民生活に大きな打撃を与えると指摘した。それは社会保障給付の大幅削減や負担の急増を意味する。最も影響を受けるのは、高齢者や低所得者といった本来社会保障で守られるべき人たちなのだ。
社会保障に限らず、国民に痛みを強いる歳出抑制は先送りされがちだ。しかし、財政問題は「将来へのつけ回し」だけでなく、今の生活をも破壊しかねない。国民全体が危機感を共有したうえで議論すべきである。
先週閣議決定された24年度補正予算案は景気底割れ回避を優先し規模が大きくなった。だからこそ、25年度予算では歳出抑制とのバランスが厳しく問われる。
財政出動を金融緩和、成長戦略と並ぶ「脱デフレの三本の矢」とする安倍晋三政権も、財政への危機感は強い。25年度予算編成にあたって「引き締まった内容にしてほしい」と指示した安倍首相と、それを受けた麻生太郎財務相の指導力を期待したい。