2013年2月14日木曜日

高等教育政策の実現性

教育評論家の梨戸茂史さんが書かれた新政権の高等教育政策」(文部科学教育通信 No.309  2013.2.11)をご紹介します。


選挙の結果、自公政権に代わり、教育再生実行会議もスタート。高等教育に関して、選挙時の政権構想を見ると、「激動の時代に対応する、新たな教育改革(平成の学制大改革)」として掲げている中に、「大学の9月入学を促進し、・・・ギャップターム(半年間)などを活用した大学生の体験活動(国とふるさと、環境を守る仕事(以下略))の必修化や、学生の体験活動の評価・単位化を行い、企業の採用プロセスに活用・・・」とある。大学の9月入学は、そもそも東大が言い出したものだが、これが国際化につながるか疑問もあるし、半年「遊ばせる」のは教員側の反対が多いなど課題だらけ。

よく分からないのは次の話。「専門学校の果たしてきた実績に基づき、職業教育に特化した新しい高等教育機関を創設し、『学校教育法』上の地位についても検討」とある。要は、「専門学校」に”高等教育機関”としての位置づけを与えるということなのであろうか。現在でも、統計上は、高等教育のカテゴリーに含まれていますよね。それとも「格上げ=専門”大学”」化を図っていこうということなのか。「大学等と産業界の地域社会とのより幅広い連携協力の下で、インターンシップを充実・・・地域密着型のコミュニティカレッジ化により、技能習得と就労を支援」というのは、現状の延長で可能かな。

「高等教育政策・大学政策の積極的な推進(大学ビックバン)」と題された部分では、「『大学力』は国力そのものであり、質・量両面の充実・強化が必要・・・経営が悪化したり、質が著しく低下した大学の改善を促し、成果が認められない時は退場を促す仕組みの確立や、社会や学生ニーズの観点からの新規参入認可プロセスの明確化など・・・設置基準の見直しを行」う、とあってこれは田中前大臣の方向。やはり『課題』です。

「世界トップレベルの大学は特区化し、諸規制を撤廃します。オープンラボ、研究サポートスタッフの設置を義務化・・・世界トップレベル大学からの博士号を持つ若手研究者の大量スカウト、資金支援など」ももっともな話。

「大学教育の質の保証徹底を義務化し、評価に基づく資金の重点配分(授業評価、教員の業績評価の厳格化等)・・・学長のリーダーシップを強化するため、学長と教授会の役割の明確化や、学長を支えるスタッフ(理事、副学長、財務等の専門スタッフ)の抜本的強化、学長裁量経費の充実」は、すでに実施済みの話で新鮮味はない。「私立大学の収入の約8割は学生納付金であり受益者負担が重く、国公私立大学の設置形態論・経費の受益者負担論の見直し等を行い、財政支出の仕組みを再構築」する、は私学へのリップサービスみたいだが、後半の『設置形態論』は国立大学の廃止(私学化?)になって一大事かも。とはいうものの「国立大学法人運営費交付金等の安定的な確保」と題して、「わが国の基礎科学の中核を担って・・・多様な人材が集い、教育活動や研究活動を行っている・・・近年、その安定的な教育研究活動を支える基盤的経費(国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金、私学助成)が大幅な減少傾向にあり・・・わが国の基礎科学を強化する観点からも、これらの基盤的経費を安定的に確保」する、とあって、”国立”大学の形態は維持されそうだ。

被災地にも目配りがある。「東日本大震災の被災地にある大学が、被災地復興の拠点として研究やプロジェクト実践を進められるよう、重点化して支援を行」う、は東日本の大学にはメリット。

果たして実現性はどうなのでしょう。「公約」や「マニフェスト」は、今や「不信」の代名詞だったら怖い。

(関連過去記事)大勝の責任(2012年12月18日)