2013年3月14日木曜日

大学図書館の役割

筑波大学大学研究センター長の吉武博通さんが書かれた「教育研究と大学運営のあり方と関連づけて大学図書館のあるべき姿を追求する」(リクルートカレッジマネジメント 179 /Mar.-Apr.2013)を抜粋してご紹介します。

全文をご覧になりたい方は、こちらをどうぞ


教育改革全体の枠組みの中で図書館を考える

大学設置基準は第38条において、図書、学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を、図書館を中心に系統的に備えるものとしたうえで、図書館はこれらの資料の収集・整理・提供を行うほか、情報の処理・提供のシステムを整備して学術情報の提供、他の大学の図書館等との協力に努めるものとし、これらの機能を十分に発揮させるために必要な専門的職員その他の専任の職員を置くことなどを定めている。

このことを踏まえたうえで、大きな構造的変化の中で、大学図書館が如何なる役割を果たすべきかについて、教育・学習と学術情報の2つの視点から考えてみたい。

科学技術・学術審議会の学術情報基盤作業部会は平成22年12月に「大学図書館の整備について(審議のまとめ)-変革する大学にあって求められる大学図書館像-」をとりまとめ、その中で、大学図書館に求められる機能・役割の第一に「学習支援及び教育活動への直接の関与」を挙げている。具体的に示されているのはラーニングコモンズ、レファレンスサービス、情報リテラシー教育である。

24年8月の中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」においても、主体的な学修を支える図書館の充実や開館時間の延長などが課題に挙げられている。

このような方向に沿った取り組みとして最も注目されているのがラーニングコモンズである。公立はこだて未来大学国際基督教大学が早くから同趣旨の取り組みを開始していたことは周知の通りであり、その後、お茶の水女子大学東京女子大学などでも開設され、次第に広がりを見せつつある。

学生支援GPにも採択された東京女子大学の「マイライフ・マイライブラリー」は、図書館のフロアを改修してラーニングコモンズにふさわしいハード面の整備と併せて、学生スタッフが学生を支援する学生協働サポート体制、情報リテラシー講習などの学習支援プログラムといったソフト面の整備も行っており、学生からの評価も高く、入館数も大幅に増加しているという。

これらの先進事例がある一方で、多くの場合、ハード面の整備だけが先行し、機能やコンテンツなどのソフト面が追い付いていないとの指摘もある。自学自習や共同学習に対するサポートシステムの整備に加えて、情報リテラシー教育やアカデミックスキル育成などの機能を充実させていくことで、ラーニングコモンズ導入を契機とした学習の場としての図書館の構築を進めていく必要がある。

そのためには、新たな状況や要請に対応して図書館をどう変えていくかという図書館を起点とした発想と、教育の質的転換が強く求められる中、全学的な教育の枠組みの中に図書館をどう位置付けるかというもう一方からの議論を十分に噛み合わせることが不可欠である。

学部数が少ない比較的小規模の大学にラーニングコモンズの先進事例が見られるのもこのことと無関係ではないと思われる。図書館へのアクセスなど利用しやすい物理的環境もあるが、これらの大学はそれぞれに特色ある教育方針を具体的かつ明確に打ち出しており、図書館における取り組みがその方針に沿って整合的に機能・展開していると評価することができる。

ラーニングコモンズが担うべき機能の重要性が、大学教育において一層増していくことは明らかである。それらの全てを図書館が担う必要はないし、現実的でない場合もあるだろう。重要なことは、ラーニングコモンズの本質が広く理解され、大学における教育改革の議論に図書館が組み込まれることである。そのうえで、大学の規模、学問分野、キャンパスレイアウトなどを踏まえた自校にふさわしい図書館のあり方を描く必要がある。

図書館運営の課題は大学運営の縮図

これまで述べてきた通り、大学図書館が直面する課題は大学の教育や研究の根本に関わるものが多く、多様な学内外の関係者との連携を含めた戦略的な取り組みが従来にも増して強く求められている

その一方で、国公私立を超えて大学経営は厳しさを増しており、利用者サービスの維持・向上を図りながら、図書館経費を抑制するための外部委託も拡大し、前述の通り専任職員を中心に人件費削減が進んでおり、この流れが当面続くものと思われる。

図書館に限らず大学全般にいえることだが、教育研究に直接関わる教員の人件費を維持しながら、職員人件費を削減することで、総人件費抑制を図る傾向が強く、職員中心に運営される図書館にそのことが象徴的に表れていると見ることもできる。また、図書館には運営委員会はあっても学部教授会のような組織はなく、法人理事会や大学執行部が考える施策を実行しやすいという面もある。

また、図書館業務を受託する企業も増えており、それぞれに能力と実績を蓄積しつつある。これらの企業には司書資格を有する社員も多く、企業間で厳しく競い合っている状況から、外部委託が機能の低下に直ちに繋がるとは考えにくい。その逆に、委託以前に比べて利用者サービスが向上したとの評価もあるという。

ただ、専任職員が1名や数名で他は全て受託企業社員というケースも増えており、業務委託契約であることから指揮命令もできず、戸惑いを感じている職員もいるものと思われる。外部委託を行う場合、検討段階から図書館職員を参画させるなどして、目的の明確化と共有を図るとともに、業務分担の最適化、委託後の連携のあり方などを十分に詰めておく必要がある。

大学や図書館の規模などにより状況は異なるが、司書資格の保有にとどまらず、高度な専門性を有し、図書館を巡る国内外の動向にも精通した職員は少なくない。本稿執筆にあたって関連文献を参照したが、執筆者の多くは図書館職員である。

言うまでもなく、専任職員の意識や知識・スキルには個人差があるが、高度な職務遂行能力を有する職員を、図書館という組織や物理的空間に閉じ込めず、全学的な改革検討の場に参画させ、その能力を大学として最大限に活用すべきである。

情報リテラシー教育やアカデミックスキル育成を正規科目とし、例えば講師の肩書を付与して図書館職員に担当させてもよい。さらには、教員か職員かという従来の枠組みを超えた新たな職務類型の専門職員制度(例えばadministrative faculty)導入の先駆けとして、新たな図書館員制度を検討することも考えられる。

大学図書館を巡る問題から、現在の大学教育や学術研究を考える新たな切り口が見えてくる。また、図書館運営の課題は大学運営の縮図でもある。これらの問題を図書館関係者だけにとどめず、法人・大学全体で共有することを願って稿を括りたい。