2013年5月31日金曜日

教育再生実行会議 第三次提言

去る5月28日、教育再生実行会議による、第三次提言「これからの大学教育等の在り方について」が、安倍総理に提出されました。

提言の中では、確実な実行を担保するため、実施主体(国、大学、地方公共団体、企業など)が明確にされています。

このうち、「大学」が実行すべきこととして提言されている部分について、抜粋してご紹介します。

全体版についてはこちらをご覧ください
   

1 グローバル化に対応した教育環境づくりを進める。


①徹底した国際化を断行し、世界に伍して競う大学の教育環境をつくる。
  • 大学は、優秀な外国人教員の増員や教員の流動性の向上のため、年俸制を始め、教員の能力等に応じた新しい給与システムの導入を図る。また、日本人教員の語学力、特に英語による教育力を向上させ、英語による授業比率を上げる。外国人教員の生活環境の整備・支援(英語による医療、子どもの教育、配偶者の就労支援等)、大学事務局の国際化などトータル・サポートのための体制を整備する。
  • 大学等は、外国の大学や現地企業等との連携により海外キャンパスの設置を進め、海外における魅力ある日本の教育プログラムの実施を図る。

②意欲と能力のある全ての学生の留学実現に向け、日本人留学生を12万人に倍増し、外国人留学生を30万人に増やす。
  • 大学は、大学入試や卒業認定におけるTOEFL等の外部検定試験の活用、英語による教育プログラム実施等の取組を進め、学生に実践的英語力を習得させ、海外留学に結び付ける。外部検定試験については、大学や学生の多様性を踏まえて活用するものとする。また、英語力の優秀な学生には更なる語学の習得も重要であり、例えば、東アジアにおけるグローバル化への対応として、実践的中国語等の習得を目指すことなども有用である。
  • 大学は、海外の大学との交換留学や単位互換を進めるとともに、秋入学やクォーター制など国際化に対応した学事暦の柔軟化を図る。
  • 優秀な外国人留学生の戦略的な受入れ拡大のため、国、大学等は、ワンストップで留学を可能とする海外拠点を整備し、入学手続の共通化・簡略化を含め、渡日せずに入学許可や奨学金の支給決定をする仕組みを構築する。また、英語による授業、日本語教育、宿舎整備等の生活支援や優秀な外国人留学生の日本企業への就職支援を充実・強化する。

2 社会を牽引するイノベーション創出のための教育・研究環境づくりを進める。

  • 大学は、専門分野の枠を超えた体系的な博士課程教育の構築など大学院教育を充実するとともに、幅広い人材の交流による新たな発想からイノベーションが創出されるよう大学院入試の在り方の見直しを図る。また、テニュア・トラック制の普及・定着、研究費や研究スペースの十分な確保など若手研究者の研究環境を整備する。さらに、産学官の連携を図り、大学は多様なキャリアパスの開発・開拓と実社会にマッチした大学院教育を行うよう責任を果たす。
  • 産学が一体となって新産業の創出を図るため、大学は、企業の技術開発部門との人事交流や、企業人の学び直しを通じて、研究者と企業の連携による事業化のマネジメントができる人材の育成を図る。特に地方においては、研究開発の拠点としての機能を強化する。 

3 学生を鍛え上げ社会に送り出す教育機能を強化する。

  • 大学は、課題発見・探求能力、実行力といった「社会人基礎力」や「基礎的・汎用的能力」などの社会人として必要な能力を有する人材を育成するため、学生の能動的な活動を取り入れた授業や学習法(アクティブラーニング)、双方向の授業展開など教育方法の質的転換を図る。また、授業の事前準備や事後展開を含めた学生の学修時間の確保・増加、学修成果の可視化、教育課程の体系化、組織的教育の確立など全学的教学マネジメントの改善を図るとともに、厳格な成績評価を行う。
  • 大学において、学内だけに閉じた教育活動ではなく、キャリア教育や中長期のインターンシップ、農山漁村も含めた地域におけるフィールドワーク等の体験型授業の充実を通じて社会との接続を意識した教育を強化する。その際、学生が働く目的を考え自己成長を促す長期の有給インターンシップを産学の連携により進めていくことも考えられる。
  • 初等中等教育を担う教員の質の向上のため、教員養成大学・学部については、量的整備から質的充実への転換を図る観点から、各大学の実態を踏まえつつ、学校現場での指導経験のある大学教員の採用増、実践型のカリキュラムへの転換、組織編制の抜本的な見直し・強化を強力に推進する。また、学生の学校現場でのボランティア活動を推進するなど、大学と学校現場との連携を強化する。

4 大学等における社会人の学び直し機能を強化する。

  • 大学・専門学校等は、職業上必要とされるより高度な知識等の習得や、新たな成長産業に対応したキャリア転換に必要な知識等の習得など、産業界や地方公共団体のニーズに対応した高度な人材や中核的な人材の養成のためのオーダーメイド型の教育プログラムを開発・実施する。
  • 大学・専門学校等は、産業界や社会人の学び直しニーズにマッチするよう、社会人教員の活用などによる先駆的な授業科目の開発、産業界との協働による実践的な職業教育プログラムの開発などの取組を進める。
  • 社会人が学びやすい環境を整備するため、大学・専門学校等は、短期プログラムの設定や通信による教育の充実、ICT 等の活用を進める。

5 大学のガバナンス改革、財政基盤の確立により経営基盤を強化する。

  • 国立大学は、年俸制の本格導入や学外機関との混合給与の導入などの人事給与システムの見直し、国立大学運営費交付金の学内における戦略的・重点的配分、学内の資源配分の可視化に直ちに着手し、今後3年間で大胆かつ先駆的な改革を進める。
  • 国や大学は、各大学の経営上の特色を踏まえ、学長・大学本部の独自の予算の確保、学長を補佐する執行部・本部の役職員の強化など、学長が全学的なリーダーシップをとれる体制の整備を進める。学長の選考方法等の在り方も検討する。また、教授会の役割を明確化するとともに、部局長の職務や理事会・役員会の機能の見直し、監事の業務監査機能の強化等について、学校教育法等の法令改正の検討や学内規定の見直しも含め、抜本的なガバナンス改革を行う。


(関連報道)教育再生、安倍カラー前面 教授会の権限縮小 伝統教育を重視(2013年5月29日 産経新聞)

政府の教育再生実行会議(鎌田薫座長)の第3次提言は、2つの安倍カラーが出た。一つは大学教育のグローバル化、もう一つは伝統教育の重視だ。特に、「大学自治」を振りかざして大学改革に消極的な教授会については、役割を厳格にすることで、学長主導の大学改革を後押しする狙いがある。

教授会は、カリキュラムの設定、学生の処分や入退学の決定、教授の採用に深くかかわり、大学の運営に存在感を示してきた。学校教育法には「大学には重要な事項を審議するため教授会を置かなければならない」とあり、ある大学関係者は「『重要事項』を拡大解釈して大学を事実上支配してきた」と説明する。

提言は、「教授会の役割を明確化し、学校教育法等の法令改正の検討や学内規定の見直しも含め、抜本的なガバナンス改革を行う」とした。教授会の権限を弱めることを通じ、グローバル化や組織改革で大学の生き残りを図ろうとする学長がリーダーシップを発揮しやすい環境を整備するねらいがある。今後、教授会を学長への助言機関に変えることなどが想定される。

また、鎌田座長は28日、首相官邸で記者団に「(提言では)日本人としてのアイデンティティー確立や日本文化発信に関する記述を強化した」と説明した。

提言は、真の国際人は外国語で日本の文化を紹介できる人物であるとの基本理念を打ち出した。

その上で、小中高校を通じて「国語教育やわが国の伝統・文化についての理解を深める取り組みを充実する」と明記した。英語で日本史や茶道を学ぶことが想定される。素案の段階にはなかった「日本文化について指導・紹介できる人材の育成や指導プログラムの開発等の取組を推進する」との記述も加えた。


2013年5月30日木曜日

第二期教育振興基本計画の策定

山本眞一氏(桜美林大学大学院・大学アドミニストレーション研究科教授)が書かれた論考「第二期教育振興基本計画と大学の将来」(文部科学教育通信 No316 2013.5.27)をご紹介します。


第二期計画の取りまとめに向けて

去る4月25日、中央教育審議会は「第二期教育振興基本計画について」を取りまとめ、文部科学大臣に答申した。改正教育基本法第17条には「政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない」(同条第一項)とあり、現行の教育振興基本計画(平成20年度~24年度)に続く計画の策定が必要であるからである。答申を受け、今後は政府部内において必要な作業を行い、計画が策定されることになる。

答申は、教育をめぐる現状分析と課題抽出を中心とした第一部と、今後5年間に実施すべき教育上の方策を論じた第二部とに大きく分かれている。そのうち、第一部においては、教育をめぐる社会の現状と課題として、グローバル化や少子化・高齢化など社会の急激な変化の中で、社会活力の低下、経済競争の国際的激化、雇用環境の変容、社会のつながりの希薄化、格差の再生産・固定化など、わが国がさまざまな危機に直面し、加えて東日本大震災から得られた教訓も生かす必要があるとし、教育を通じた社会システム転換の方向性として、「自立」「協働」「創造」の三つの方向性を実現するため、生涯学習社会の構築を旗印にするとしている。

その上で、答申では第一期計画の成果と課題を総括した上で、4つの基本的方向性すなわち、①社会を生き抜く力の養成、②未来への飛躍を実現する人材の養成、③学びのセーフティネットの構築、④絆づくりと活力あるコミュニティの形成を「4つの基本的方向性」として掲げ、これを実現するために、多様性の尊重をはじめ、いくつかの理念の下に改革を進めるよう提言している。これと合わせて、教育投資について、わが国の現状を国際比較も伴いつつ詳細に分析した上で、「将来的には恒久的な財源を確保しOECD諸国並みの公財政支出を行うことを目指す」として、従来よりも踏み込んだ記述をしている。答申全体から滲み出るのは、教育投資を怠ればわが国の将来は危ういという危機意識であるが、同時に厳しい財政状況についてずいぶんの理解を示している点は、誰がこの文章を入れさせたのかは承知しないが、社会の各分野に広がる予算分捕り争いの中で、教育分野が遅れをとるのではないかと心配である。

成果目標と基本施策

以上を踏まえて、第二部では今後5年間に実施すべき教育上の方策として、「4つの基本的方向性に基づく、8の成果目標と30の基本施策」を掲げている。30というのはいささか多過ぎの印象があるが、基本計画に掲げられるかどうかが、今後の予算取りや施策の実効性と関係すると思えば、この際はやむを得まい。大学関係に触れた箇所からいくつかを取り上げてみよう。大学についてはまず、学生の主体的な学びの確立に向けた大学教育の質的転換(基本施策8)と大学等の質の保証(基本施策9)が、課題探求能力の修得で括られた成果目標2に掲げられている。これらは昨年策定の大学改革実行プランにも触れられているように、現在の大学改革の最重要課題であろう。

また、成果目標5にある社会全体の変化や新たな価値を主導・創造する人材等の養成について、大学院の機能強化等による卓越した教育研究拠点の形成、大学等の研究能力強化の促進(基本施策15)や外国語教育、双方向の留学生交流・国際交流、大学等の国際化などグローバル人材育成に向けた取組の強化(基本施策16)があり、学びのセーフティネットの構築に関しては、初等中等教育も含めて「教育費負担の軽減に向けた経済的支援」(基本施策17)が掲げられている。4つ目の基本方向である活力あるコミュニティの形成に関しては、地域社会の中核となる高等教育機関(COC構想)の推進(基本施策21)があり、4つの基本的方向性を支える環境整備としては、大学におけるガバナンス機能の強化(基本施策26)や大学の機能別分化(基本施策27)、大学等の財政基盤の強化と個性・特色に応じた施設整備(基本施策28)、私立学校の振興(基本施策29)などが列挙されている。

これらの基本施策は、初等中等教育と大学の両方にまたがるものも多く、答申概要として作成された資料には、基本施策を表側に、学校段階を表頭に示すマトリックス対応表があるほどであるから、きっと事務的にも苦心の作であったと思われる。

大学の特性に適した計画策定を

さて、ここからが今後の課題である。第一に、この答申が今夏に教育振興基本計画となったとして、今後5年間のうちに大学はどのように変わっていくであろうか。マクロで見ると、18歳人口はほぼ横ばいであり、その後の再減少期を控えての小休止の時期にあたる。計画の有無にかかわらず、2018年以降の厳しい現実を直視できる大学関係者であれば、この5年間に大学の経営体質を一新し、また大学の教育・研究システムにも大幅な手を加えなければならないことは当然のこととして理解されているであろう。計画はいわばその後押しをすべきものであり、単にこの5年間に何をするということだけではなく、その後の見通しについても十分視野に入れておくべきであろう。

第二に、基本計画は大学の変化をどのように後押しすべきであろうか。国による規制色の強い初等中等教育とは異なり、大学教育はもともと、国公私立を問わず自主自立が大原則であり、したがって政府に求められるもっとも重要な施策は、答申で言えば基本施策26から29までの環境整備である。これらの改善・改革が相当程度実現するだけでも、大学は飛躍的にその内容を充実させることが可能であろう。それができないとすれば、この26から29までの施策のいずれかに問題があるか、大学側の努力不足であるとみても間違いではあるまい。逆に言えば、基本施策8あたりから始まる前半部分の施策は、大学教育の中身にかかわるものであり、あくまで大学に対する助言、国民に対する説明にとどめ、具体の改善・改革の責任は大学側が負うべきである。

第三に、初等中等教育と大学とを一緒にした計画ゆえに、初等中等教育らしい特有のスローガンが見受けられる。たとえば、「生きる力」であるとか「絆づくり」などは、何となく分かったような気にはなるものの、大学については具体にどのように考えればよいのだろうか。大学が受け止めやすい用語というものの工夫がほしいところである。

第四に、この答申は生涯学習の推進を基調とするもののように見える。しかし、これまで幾多の答申や施策がなされてきた割には、わが国社会に生涯学習がしっかりと定着しているとは思えない。とりわけ大学と生涯学習との関係は、なかなか緊密なものにならない。学生の就活の過熱現象それ自体が、生涯学習とは真っ向から反する事象であることを考えると、このあたりのところにも教育と社会との関係のより深い分析と政策的な切り込みが必要ではあるまいか。


2013年5月19日日曜日

綺麗さを見つける心があるから、好きな色を感じられる

ブログ「今日の言葉」からどんな色?」(2013年5月14日)を抜粋してご紹介します。


昨日エマソンの「美しいものを見つける為に私たちは世界中を旅行するが、自らも美しいものを携えて行かねば、それは見つからないだろう」という言葉をお贈りしたところで、こんな素敵なお話に出会いました。

いつも楽しく読ませていただいている『みやざき中央新聞」の2013年4月15日号に掲載のみ記事からご紹介します。

松永さんが生まれつき目の見えないおばちゃんと話したときの会話で、松永さんは目の見えないおばちゃんに景色とか色の話をしてはいけないと思っていました。

ある時、おばちゃんがふいに、「松永さんは何色が好きなん?」と僕に聞いてきたんです。

とっさに言葉が出てきませんでした。そしたらおばちゃんが「私はな、ピンクが好きなんや」と言ったのです。

「見たことないんやろう? なんでピンクが好きって言えるん?」

「小学校のときな、お母ちゃんがピンクの服を買うてくれはってん。それ着たら、みんなが『よう似合う、かわいい』って言うてくれはってん。私、女の子やん、めっちゃ嬉しかってん。だから私、ピンクが大好きになったんや。今でも服を買いに行くやんか。お店の人につい『ピンク系統にして』って言うから、ピンクが多いねん。」

「じゃあ、ピンクってどんな色や思うてんの?」

おばちゃんは、「桜の色やろ?」と言って、ふふっと笑いました。

「私な、春になったら毎年友だちと花見に行くねん。行って桜の花を触らせてもらうねん。そしたらいつも幸せな気持ちになんねん。『これがピンクやな』って思ったら、めっちゃ幸せな気持ちになんねん」


見えるから綺麗さを感じるのではなく、綺麗さを見つける心があるから、好きな色を感じられるのですね。

不自由のない状態にあるのであればなおさら、全力を尽くさなければもったいないですね。


2013年5月18日土曜日

世界に勝てる大学改革

安倍総理大臣が、「成長戦略・第2弾」についてのスピーチを行いました(5月17日)。

このうち、大学関係部分を、首相官邸ホームページから抜粋してご紹介します。

安倍総理「成長戦略第2弾スピーチ」(日本アカデメイア)(平成25年5月17)






4 世界に勝てる大学改革

人材も、資金も、すべてが世界中から集まってくるような日本にしなければ、「世界で勝つ」ことはできません。

今、世界で活躍しようと考えて、日本の大学を選ぶ若者が、世界にどれだけいるでしょうか?

「世界大学ランキング100」というものがあります。日本の大学は、残念ながら、2校しかランクインしていません。

「日本の大学」ではなく、「世界の大学」へ。

日本の大学は、もっともっと世界を目指すべきです。「日本の大学は、日本人を育てるためのものだ」などという狭量な発想を捨てることが、私の考える「大学改革」です。

(真の意味での産学連携)

トップ1・2は、カリフォルニア工科大学、スタンフォード大学です。ピンときた方もおられるでしょう。そう、シリコンバレーです。

大学自身が、ビジネスに深くコミットしています。卒業生がベンチャーを立ち上げるときには、自ら出資するような仕組みもあります。

卒業生の、研究レベルだけではなく、リスクを恐れない「起業精神」の高さが、世界的に評価されているのです。

「象牙の塔」などという言葉は、すでに通用しません。日本の大学も、まずは、自分でビジネスをやるところから始めなければなりません。そこから、真の意味での「産学連携」が生まれるものと確信しています。

大学のガバナンス改革と、自らビジネスに出資することを可能とするよう、規制改革を進めます。

(世界の大学へ)

明日、大分県にある立命館アジア太平洋大学に伺います。ここは、教授陣も、学生も、約半分が外国籍です。東南アジアの国々だけではありません。中東の国々や、ボツワナ、ウズベキスタンなど。世界中から集まっています。

学生生活を通して、世界中の文化にふれることができます。さらには、卒業後の人的ネットワークは、世界に広がっていきます。

まず隗より始めよ。国立の8大学で、今後3年間の内に、1,500人程度を、世界中の優秀な研究者に置き換えます。これにより、外国人教員を倍増させます。

大学の経営の在り方も、世界のグローバル・スタンダードにあわせなければなりません。年俸制の導入や、教員の家族が英語で生活できる環境の整備など、経営改革も進めてまいります。

国の運営費交付金などの分配についても、「グローバル」に見直しを行い、大学の改革努力を後押ししていきます。

外国人教員の積極採用や、優秀な留学生の獲得、海外大学との連携、そして、英語による授業のみで卒業が可能な学位課程の充実、TOEFLの卒業要件化など、グローバル化を断行しようとする大学を、質・量ともに充実させます。制度面でも、予算面でも、重点的に支援します。

今後10年で、世界大学ランキングトップ100に10校ランクインを目指します。同時に、グローバルリーダーを育成できる高等学校も、作ってまいります。

(すべての若者に留学機会を)

そして、日本の若者たちには、広い世界を、自分の目で見て、足で歩いてほしい。

私は、意欲と能力のある「すべて」の日本の若者に、留学機会を実現させたい。そのために、官民が協力し、留学生の経済的負担を軽減するための新しい仕組みを創ります。

ビジネスの世界では、今や、「国境は消滅している」と言っても過言ではないでしょう。そんな国際的な大競争の時代にあって、「世界に勝てる」人材を育成していきたいと思います。


次に、「日本経済再生本部産業競争力会議」の議事要旨から、大学関係の議論を抜粋してご紹介します。

上記の安倍総理のスピーチと比べていただきますと、産業競争力会議の議論が、今回の成長戦略の策定に大きく反映されていることがわかります。


第2回会議 2013 年2月18 日(月)

■科学技術イノベーション推進体制強化について

橋本議員(東京大学大学院工学系研究科教授)

運営費交付金については全廃して、全て競争的資金にすべきとの意見もある。しかし、現在の運営費交付金はほぼ人件費に使われている。例えば私の所属している東京大学においても運営費交付金は90%が教職員への人件費である。即ち現在運営費交付金はほとんどが教育目的で使われており、研究費は既にほぼ完全に競争的資金によっている。私は現場で研究をしているが、研究費は全て競争的資金でやっており、これは私の偽らざる実感である。この結果、大学に資金がないため、優れた発見がなされても、お金がないため、特許申請が出来ないということも実際に起こっている。このペーパーでは単に運営費交付金を増やしていけばいいと言っているわけではない。個々の大学の役割分担など大胆な改革とあわせた運営費交付金の配分の見直しが必要。そのためには、人件費を含め、研究開発のための事業費については、例えば、社会への貢献、研究内容等の観点から適切な評価を行いつつ、例外を認めるといった修正を図るべきである。

第4回会議 2013 年3月15 日(金)

■人材力強化・雇用制度改革について

長谷川議員(武田薬品工業株式会社代表取締役社長)

教育制度改革は、特に高等教育を対象として、全ての大学が担うわけではないがグローバル人材育成の観点から見直すべきものは見直していただきたい。多くの民間企業では、TOEFLやTOEICのスコア提出を入社試験の際に提出させており、公務員試験においても同様の取組を実施することは大いに意義のあることだと思われる。

大学に関しては、社会に求められる人材の輩出を優先し、運営費交付金の配分基準の見直しを行い、アウトプットを上手に図っていただきたい。

下村文部科学大臣

生産年齢人口の減少が続く中、我が国が世界に伍して成長・発展していくには一人ひとりの「人」の力を高める以外にない。各国が高等教育を重視し、規模を拡大する中、日本の高等教育も質・量ともに充実・強化していく必要がある。特に大学には、日本の成長を支えるグローバル人材、イノベーション創出人材、地域に活力を生み出す人材の育成と、大学の研究力を活かした新産業の創出が期待されている。

大学を核とした産業競争力強化プランとして考えている施策をお示ししている。一つ目の柱「グローバル人材の育成」に関しては、世界を相手に競う大学は5年以内に授業の3割を英語で実施するなど明確な目標を定め、外国人を積極的に採用するなど、スピード感を持ってグローバル化を断行する大学への支援を進めたい。また、日本人の海外留学生を12万人に倍増し、外国人留学生を30万人に増やすために必要な手立てを講じていきたい。更に、使える英語力を高めるため、大学入試でのTOEFLなどの活用も飛躍的に拡大したい。2つ目の柱「大学発のイノベーション創出」に関しては、特に理工系人材について、産業界や関係省庁とも議論し、今後の人材育成戦略を共有していきたい。また、大学での研究成果を活用した新産業創出のため、本年度補正予算で国立大学に出資を行うこととしているが、その状況も見つつ、大学からベンチャー支援ファンド等への出資を可能とする制度改正を検討していく。3つ目の柱「社会との接続・連携強化、学び直しの促進」に関しては、大学の機能として地域活性化への貢献の視点を重視するとともに、産業界の協力を得つつ、社会人の学び直しに役立つ実践的な教育プログラムの開発・提供、インターンシップの大幅な増加、就職活動時期の是正などを進めてまいりたい。こうした大学の思い切った改革の実現に必要な大学力の基盤を強化するため、大学の教育力の向上、人事給与システムの改革や運営費交付金の配分の見直しなどの国立大学の改革、私立大学の質保証・向上、財政基盤の充実、大学入試の在り方の見直しなどを進めてまいりたい。

榊原議員(東レ株式会社代表取締役取締役会長)

国立大学への運営交付金の配分について。大学に真の競争原理を導入し、大胆な大学改革を促進するには、大学の評価体制の整備、評価結果に基づく運営費交付金の傾斜配分が極めて重要な課題。国立大学法人の運営費交付金は、2004年の法人化以降、従来通りの比率で配分されている。教員の給与も公務員時代と同様に年功により一律に決められているというのが実情。これが大学において競争原理に基づく改革が進まない大きな要因。今こそ真の競争原理を導入するための象徴的な施策として、大学、教員双方に関する適切な評価指標・体制を整備し、この評価基準に基づいて大学への運営費交付金を思い切って傾斜配分、そして個々の教員の給与についても、業績成果に基づく年俸制の導入など真の競争原理を導入し、これらを大学自らが改革を起こすインセンティブとすべき。

二点目は、アジア留学生の規模拡大。3月11日付の総理官邸のフェイスブックで総理は、震災時の支援の恩返しとして、外国からの留学生又は研修生の受け入れなど大規模な人材交流を進めたいといった所信を述べられた。この構想は、海外諸国、特にアジア諸国への感謝の意の表明とともに、アジア社会との共生を宣言するものであり、アジア諸国の将来のトップ候補生を日本で育成し、アジア諸国における知日家・親日家を増やして、現地における日本の社会・産業・文化の伝播・発展を促すもの。この構想を昭和の穂積五一構想に代わる、「平成の安倍晋三構想」として、今後10年以上の長期の人材の大規模招聘計画を実現していただきたい。

橋本議員(東京大学大学院工学系研究科教授)

第一に、教育制度改革については、大学改革が重要。大学は保守的なところで簡単に動かない。動かすための手段として、運営費交付金の分配方法の工夫は有効であり、現在約9%の「選択的に配分される部分」の比率を高め、その部分はさまざまな指標により評価し、傾斜配分することは有効。ただし、運営費交付金の9割は人件費なので、人事制度改革を併せて行わなければならない。国立大学への年俸制の導入は必須であろう。年俸制は今でもできるはずだが、できていないのは大学自身の問題であり、運営費交付金の配分と合わせて年俸制を強く促すことが重要。優秀な外国人教員や研究者を迎えいれる上においても、年俸制の導入が必要。

第二に、大学の国際化も大変重要。優秀な外国人を受け入れ国際化を進めるためには、給料や奨学金、住居環境や研究環境の整備などのお金がかかる対応も必要となる。まずは予算がなくてもできることを徹底して取り組ませることが第一。その上で、グローバル化を評価して、成績の良いところには運営費交付金などに反映させる、という二段階での改革が必要。

第三に、4月から始まる労働契約法に係る雇止め問題は、イノベーションを担う理工系人材のキャリアパスを考える上で重要。労働契約法改正による、有期契約から無期契約への転換オプションは、有期契約の更新が繰り返されることによる労働者の継続雇用への期待を保護するための仕組み。一方で、研究者のキャリアパスでは、博士研究員や助教などの任期付ポストを5~10年経験してから、初めて任期の付かないテニュアーとなるのが国際標準。これができないと研究者のキャリアパスの上で問題が生じるので、考慮されたい。例えば、有期から無期への転換のオプションがない定期の雇用契約制度を作っていただきたい。

安倍内閣総理大臣

人材のグローバル化を進めるため、国家公務員採用過程における国際的な英語試験の活用、大学における外国人教員の積極採用、意欲と能力に富む全ての学生に留学機会を与える環境整備を図っていきたい。

第5回会議 2013 年3月29 日(金)

■健康長寿社会の実現

下村文部科学大臣

基礎研究の優れた成果を臨床研究・治験にまでつなげるための、いわゆる橋渡し研究の強化が必要である。文部科学省においては、大学等が基礎研究の成果を自らの力で臨床研究や治験に橋渡しすることを可能とするために、全国7カ所の橋渡し研究支援拠点を整備し成果を挙げている。文部科学省としては、このような実績を踏まえつつ、日本版 NIH構想の実現により、橋渡し研究の強化に貢献していく。更に、この分野における基礎研究を強化していくことが重要な課題である。予算が少ない我が国が、革新的な創薬等につながる優れたシーズを創出し続けるためには、京都大学山中教授によるiPS細胞のような、従来の概念を覆すような卓越した基礎研究の推進が必要不可欠である。これまで我が国の強みであった基礎研究も、中国や韓国等の新興国の追い上げにより、相対的な国際競争力が低下してきている。今後、この分野における基礎研究の取組を重点的に強化していくことが必要である。

文部科学省としては、健康長寿社会の実現に向け、①再生医療の実現に向けた取組、②これまでの概念を覆すような画期的な医薬品・ 医療機器の開発・実用化、③効果的な予防法の確立・健康寿命伸長産業の創出等が重要と考えており、このような分野における研究開発にしっかりと取り組んでいく。

民間議員ペーパーで「予防医療は、食事と適度な運動が柱」とされているとおり、①大学・企業と地方公共団体、総合型地域スポーツクラブ等の連携による、ライフステージに応じた住民のスポーツ参加の促進や、②食育を含めた健康教育の推進といった「スポーツ」「健康教育」を活用した取組も行っていく。

第6回会議 2013年4月 17日(水)

■科学技術イノベーション・ITの強化について

榊原議員(東レ株式会社代表取締役取締役会長)

大学・独立行政法人研究所等の機能強化について、運営費交付金は、成果を適切に反映した上で、現行の一律削減を除外するとともに、思い切った傾斜配分を行うべき。また、研究成果を円滑に実用化に繋げるための政府関係機関の連携、例えばJSPS、JST、NEDOなどの連携や機能統合や、更に、国内外の優秀な研究者への世界水準の処遇を実現するため、国立大学への年俸制の導入も必要である。

第7回会議 2013 年4月23 日(火)

下村文部科学大臣

国立大学改革について、大胆なグローバル化やシステム改革に、明確な目標とスピード感を持って取り組みたい。

第一に、海外の研究者・大学をこれまでと違う次元で招聘する。第二に、産業界と対話し、ライフ分野を含む理工系分野を徹底強化していく。第三に、年俸制導入などの人事給与システム・ガバナンス改革を断行していきたい。この三つの改革を一体で直ちに取り組む。ガバナンス改革については、教育再生実行会議の議論を経て、かなり踏み込んだ大胆なものとして対応していきたい。更に新たな評価指標を確立し、第3期中期目標期間以降は、運営費交付金の在り方を抜本的に見直す。

次にグローバル人材の育成について、使える英語力の修得、大学の体制整備、留学が就業にプラスになる環境整備、経済的負担の軽減をパッケージとして推進する。重点地域を設定して、海外拠点を設け、現地における入学者選抜・採用を促進する。日本で活用できるよう、インターンシップの実施促進など就職につながる取り組みも強化していく。トップ外国大学から教育組織をユニットで丸ごと誘致するハイブリッド型国際大学院の設置、海外へのキャンパス展開、グローバルで多様なアカデミック・パスを可能にする取組など、現行制度の枠にとらわれず制度と予算を総動員して実現する。世界トップレベルの学力・人間力の強化を図り、グローバルリーダーを養成する高校を新たに支援していきたい。

社会人の学び直しについて、ステップアップ型、社会参画型、また、現在の産業構造を踏まえキャリア転換型への対応が急務。そのため、産学両者が連携してオーダーメード型のプログラムを構築していく。

教育再生実行会議においても、大学教育・グローバル人材に関する議論を開始した。5月末には包括的な改革プランを提言していただく。

坂根議員(コマツ取締役相談役)

大学改革について一言申し上げたい。文科大臣からいろいろなご提案をされて非常に力強く思っている。私の基本的な問題意識は、大学が経営になっていない、そこに一番問題がある。経営の主体は文科省なのか学長なのか経営協議会なのか。実は私は4年前に全国国立大学学長会議に呼ばれて講演したのだが、その時に、我々の会社では企業価値とは、お客さんにとって当社でなければ困る度合、当社の商品やサービスでないと困る度合がどれだけ高いかということを追及していくことであり、結果的に私の会社はICTを使った新しいビジネスモデルで先行できているのだが、では大学にとって、お客さんが誰なのか、商品は何なのかということを尋ねた。その答えとして、それは大学内ではタブーに近い質問で、学内でそういうことを議論することは顰蹙を買うと言われた。それはそうなのかもしれないが、日本の大学は何とか差別化しようという思いがない限り、何をやっても結局うまくいかないのではないかと思っている。

私は東大の産学連携のアドバイザーと金沢大学の経営協議会のメンバーとなっているのだが、私がもし大学経営をするとしたら、自分たちがどんな社会や産業界に強いか、どんな分野で学生の特色を出したら差別化できるかということを常に考えるということを申し上げるのだが、日本の国立大学の場合は多くが総合大学化しているので、重点分野から外れた先生方の反発がすごいのだと思う。したがって私はこの部分を何とかすべきと思う。

まず隗より始めよということで、金沢大学には海外からの留学生がなんと800人おられるのだが、金沢大学に行ったらこんなことを学べたという何か特色を出そう思い、去年の夏休みに小松市にある私どもの研修センターに留学生を呼んで私も講師として話をしたら、こんな勉強ができたと喜んでいた。私は何ごとも隗より始めよでなければ物事は変わらないと思うので、個別大学ごとの差別化戦略を進めさせるような方策を是非お願いしたい。

榊原議員(東レ株式会社代表取締役取締役会長)

先程下村文科大臣から産業競争力強化のための国立大学の新たな評価手法を確立して、運営費交付金の在り方を抜本的に見直すというお話があった。この改革案は、日本の大学・大学院に対し、イノベーション創出に向けて、より競争を促進する制度を導入しようとする意味において、産業界の立場からも強く賛同の意を表したい。大学の評価は、従来は計画に対する達成度の進捗判定がメインであったが、今回新たに客観的な評価指標を確立するという改革プランを提出されたのは、大きな前進であると考えている。

新たな評価指標の導入に当たっては、次の3点を考慮していただきたい。一つ目は、日本の大学・大学院が、世界のトップ水準と比較して、どのような位置付けであるかという評価をしていただきたいということ。二つ目は、大学を一括りで評価するのではなく、教育と研究を別々に評価していただきたいということ。三つ目は、学部や学科別の分野ごとの評価もしていただきたいということ。これまで、文部科学省は大学のランク付けを極力避けてきた傾向があるが、今回の国立大学改革を契機に、権威のある客観的な評価体制を整備して、日本の大学・大学院が世界のトップ水準と比較してどういうポジションにあるのかということを示していただきたい。そして、教育と研究は、機能と期待される役割が異なるわけで、別々の評価・対応をしていただきたい。分野別の評価について、アメリカではUSニュースのランキングが有名であるが、例えば工学分野では、航空、コンピュータ、機械といった分野に分類して、全米ランキングを発表している。このようなランキングで上位につけた学部や学科に優秀な教員や学生が集まり、結果として国や大学の資金が優先的に配分され、組織の統廃合が進む。今回の大学改革においても、このような評価結果に基づいて、国の運営費交付金の大胆な傾斜配分を行うとともに、資源配分の見直しや組織再編を積極的に推進していただきたい。これが日本の大学と大学院の活性化、イノベーション強化の大きな起爆剤になると考えている。

橋本議員(東京大学大学院工学系研究科教授)

教育制度改革において、日本人学生の外国留学の促進と外国人留学生を呼び込むことの2つは極めて重要。これらについては、費用を安定的にしなければ人を出すこともできないし、人を呼ぶこともできないので、その意味では基金化が重要と思う。是非政府でもご検討いただきたいと思うが、政府だけではなくて、民間も是非とも基金に対してコントリビューションしてほしい。

ちなみに、政府が出しているお金でも、使い方によってもっと有効に使えるという事例があるので1つだけお話しすると、海外から呼び込む国費の留学生制度があるが、最近、来る学生のレベルが急に低くなった。調べてみると、我が国のお金で呼ぶ学生に対しては、大学院生であるにもかかわらず、日本語を学んでくることが条件になっている。そのために自動的に入学が1年遅れることになる。優秀な学生は日本語を学ぶために1年遅れて入ってくるということを選択しない。これは我が国において、全部英語で単位取得・卒業できる制度を導入すれば何の問題もないことなので、是非それも併せて制度改革をしていただきたい。

最後に、雇用制度改革だが、私から繰り返し述べさせていただいた研究者を対象とした労働契約法の特例法も含めた対応について、これはすでに厚労省と文科省とで一定レベルの議論が行われていると伺ったが、今日の田村大臣の資料を拝見するとやはりこれが抜けていたので、今後是非とも議論を進め、対応をお願いしたい。

安倍内閣総理大臣

人材力強化については、想像力に溢れ、国際的に通用する人材を輩出する大学にしたいと思う。この観点から、評価体制の強化と運営費交付金の徹底した傾斜配分が鍵になると思う。今後3年間を「改革加速期間」として、徹底的な国立大学改革を行っていきたいと思う。



2013年5月10日金曜日

大学の変革にはガバナンス(統治)の是正が不可欠

「大学ガバナンス、人事・予算で学長に権限を(北城恪太郎氏)」(2013年5月2日 日本経済新聞)をご紹介します。

大変的を得た考え方だと思います。

日帰り温泉に行きました:露天風呂

安倍政権が成長戦略と関連する形で、大学改革に力を入れ始めた。新産業を生み出す源として大学にかかる期待は大きいが、高等教育の世界でも強まる国際競争への対応が十分とは言い難い。多くの国立大、私立大の運営に携わってきた経済同友会終身幹事の北城恪太郎氏(日本IBM相談役)は、大学の変革にはガバナンス(統治)の是正が不可欠と話す。

--日本の大学がガバナンスの課題を抱えていると訴えてきました。

「大学には立派な見識を持つ学長が多くいると思う。しかし、そうした学長は十分なリーダーシップを発揮しにくい状況に置かれている。問題は大きく分けて2つある。まず、学長の選び方に問題がある。さらに、選ばれた学長に十分な権限が与えられていない。これらを解決しない限り、大学の改革には長い時間がかかってしまう」

教授会見直しを

--どこから手を付ければよいですか。

「まず、教授会の位置付けを変える必要がある。ほとんどの大学では、教授会が重要事項の決議機関になっている。学部長を実質的に選ぶのも教授会だ。多くの場合、学長は教授会が選挙で選んだ人物を学部長に任命する仕組みになっている」

「つまり、学長が優れたビジョンを持っていて『学校をこうしたい』と思っても、教授会よりも先に発表すると『承認していない』という話が学部内から出て前に進めなくなってしまう。企業では社長がまず方針を打ち出してから社員を動機づけするものだが、大学は事情が異なる」

--具体的な打開策は。

「まず、教授会が決議機関でないことを法律で明示すべきだ。学校教育法93条は『大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない』としている。これを削除し、『教授会は、教育、研究に関する学長の諮問機関とする』と明記すればよい。現在の条文にある『審議』は、ほとんどの大学で『決議』と解釈されている」

--学長の人事権はどう確保しますか。

「学部長選挙を廃止して、学長が各学部長を直接選び、任命できるようにすべきだ。もちろん、実際の選任では、各学部の意見を聞いてよいと思う。企業でも社長が事業部長を選ぶ際に、事業部のいろいろな意見を聞くのは普通だ」

内輪の論理先行

「学長の選び方も変えたほうがよい。教職員による選挙はやめるべきだ。国立大ではまず、国立大学法人法の改正が必要だ。大学の方針を決める経営協議会に占める外部有識者の割合を現状の『2分の1以上』から『過半数』に改めてほしい。現状では多くの大学で外部と内部委員が半々で、外部委員が一人でも欠席すると内部委員が多数派になってしまう」

「さらに、学長を選ぶ際の教職員の意向投票は廃止したほうがよい。外部有識者が過半数を占める学長選考会議で学長を選ぶ仕組みとし、内輪の論理が先行しにくいようにしなければならない」

--私大はどうですか。

「私大は有力大学も含めて、多くが教職員の選挙で学長を選んでおり、改めるべきだ。現状のままでは、改革は期待しにくい」

--予算をめぐる学長の権限も重要です。

「現状では学長が自らの裁量で動かせる予算はわずかしかない。大学に入る運営交付金などは使途などを限らず、大学に一括して渡すのが理想的だ。そのうえで、理事会や経営協議会の承認を経て、学長が柔軟に配分できるようにすべきだ」

「教員を適正に評価し、昇級や賞与などの処遇に反映する仕組みも大学の変革には重要だ。日本の大学では教員になった当初から終身雇用だが、米国では優れた研究者や教育者として評価されないとテニュアと呼ぶ終身の教授などになれない」

--法改正などによらず、大学側の意思でガバナンスを変えられませんか。

「やはり法改正の効果は大きい。教授会の存在が大学運営に支障をもたらしていることは1998年の大学審議会答申などでも指摘されていたが、多くの大学が変えられないままだ。教授会が自らの権限を縮小する決議はしにくい。国会議員が1票の格差を是正する選挙制度の抜本改革になかなか踏み切れないのと同じ構図だ」



2013年5月8日水曜日

教育の機会均等

「26条 教育の機会均等」(2013年5月2日 朝日新聞)をご紹介します。

日帰り温泉に行きました:浴室

奨学金返済 足かせ

「勉強は好きですか?」と聞くと、40代半ばの男性は照れ笑いを浮かべながら、はっきり答えた。

「好きですね。知らなかったことを知ることが楽しいんです。今でも『勉強したい』と思う時がありますよ」

道内で生まれ、東北地方の高等専門学校でロボットづくりを学んだ。やがて人と人との関わりに興味を持つようになり、首都圏の大学で経営工学を研究、大学院で社会学の修士号も取った。博士課程に進み、研究者になるつもりだった。だが今は、奨学金850万円、利息50万円、延滞金260万円の計1160万円の返済に苦しんでいる。

高専時代から旧日本育英会の奨学金を受けていた。博士課程に入ると奨学金が減り、研究と生活の両立が難しくなった。大学からの学費の督促に精神的に追い詰められ、2年目に通学できなくなって除籍された。当時の記憶がすっぽりと抜け落ちているが、「死んだ方が楽じゃないか」と思い詰めたことは覚えている。

北海道の親元に戻り、職業訓練でパソコン操作を学ぶ人たちに技術を教える仕事に就いた。年収は手取りで250万円ほどだったが、少額でも奨学金を返し始めようと思った。

日本育英会は2004年、独立行政法人「日本学生支援機構」に変わっていた。「毎月いくら返せるの? 3万円?」。女性職員からあきれたような口ぶりで言われた。

毎月10万円ずつの返済を求められたが、それではとても生活ができず、昨年から裁判になった。男性が返せなければ、連帯保証人の父親と保証人の兄が支払わなければならない。「年金生活の父と家族を養っている兄に迷惑はかけられない」と、男性は現実的に支払える額で返済する方向で和解する道を探している。

景気低迷の影響で親が教育費を払いきれず、日本学生支援機構によれば、昼間部の大学生の2人に1人が奨学金を受けている。就職環境も厳しく、卒業して社会人になれば返済できるとは限らない時代だ。

奨学金制度も変わってきた。日本育英会時代の奨学金は無利子の「第1種」が中心だった。日本学生支援機構になってからは、年利最大3%の利子が加わる「第2種」が増え、今では全体の4分の3を占める。奨学金の返済を3カ月以上延滞している人は全国で19万7千人に上り、機構は連帯保証人や保証人への督促を強めている。

こうした実態は、憲法が保障する教育の機会均等に反するという指摘が出ている。今年3月、全国の弁護士や司法書士、大学教授らが「奨学金問題対策全国会議」を結成し、事務局の東京市民法律事務所(03・3571・6051)を中心に返済に苦しむ人たちへの相談にあたっている。

岩重佳治弁護士は「日本の高等教育にかかる自己負担は世界的に見ても高いのに、公的な奨学金に給付はなく、貸与しかない。お金がないので進学をあきらめたり、社会に出た時点で奨学金の返済が足かせになったりしている現実は、憲法の理念からみて大きな問題だ」と話す。

研究者になる夢はかなわなかったが、男性はパソコンを教える仕事にやりがいを感じている。「最初は電源スイッチの場所もわからない受講者たちが、どんどん成長するのが感じられてうれしいんです。でも、学生支援機構から見れば甘い考えで、『もっと金を稼げ』ということなんでしょうね」



文部科学省は4日、所管する日本学生支援機構が大学生らに貸与している奨学金について、返済が滞った場合に加算している延滞金を現在の年利10%から引き下げる方針を固めた。返済に苦しむ低所得層に配慮する試みで、早ければ来年度に5%程度とする方向で調整している。

同機構によると、景気悪化などの影響で奨学金を返済できないケースが目立ち、期限を過ぎた未返済額は2011年度末で過去最高の約876億円に上っている。返済に困っている人たちを支援する団体には「延滞金の負担が重い」との声が多数寄せられている。



2013年5月7日火曜日

積善の家には必ず余慶あり

ブログ「今日の言葉」から挨拶」(2013年4月30日)をご紹介します。

日帰り温泉に行きました:入口

あいさつをしたのに返ってこない時、そのあいさつは無駄になっていない。

にっこり微笑んだのに無視された。その微笑みも無駄になっていない。

与えたのに返ってこないものは、全部『神様のポケット』に入っている。

(みやざき中央新聞 平成25年3月25日号)


相手が返してくれないから、自分もしない という寂しい考え方ではなく、

「せめて自分くらいは」という気持ちで挨拶や微笑みを配ってみる。

恥ずかしい気持ちもあるでしょう。急にどうしたの?と言われることもあるでしょう。

でも挨拶や微笑みがしっかり出来る人とやらない人とでは、自分にとっての理想の人はどちらですか?

勇気がいることかもしれませんし、続けるには根気のいることでしょう。

でも人として一番の基本ですよね。

「積善余慶(せきぜんよけい)」という言葉があります。

自分がした良いことは、自分にではなく、自分の子孫に返って来ますよ、という意味です。


2013年5月6日月曜日

私たちは、自分にちょうどいい人に囲まれています

ブログ「人の心に灯をともす」から自分にちょうどいい人」(2013年5月1日)をご紹介します。


アメリカの大リーグのピッチャーが、記者から「イチロー選手をどう思いますか」と質問を受けることがあります。

その時にもし「彼なんか簡単に打ち取ることができますよ」と答えて、ホームランを打たれたら、その人は格好がつかなくなるでしょう。結果的に、その発言が自分の評価を下げることになります。

ほとんどの人がイチロー選手のことを「とても素晴らしい選手で、こんなに天才的なバッターはいない。百年に一人ぐらいの逸材だと思う」と褒めます。

そう言うのは、「自分も認めた天才」から打ち取ったら、自分が格好いいということになるからです。

アメリカ人は、このような褒め方を損得勘定として使いこなしているように思えます。相手を褒めれば褒めるだけ、自分の価値が高まるということをわかっている。イチロー選手から三振を取った時、褒めた自分の価値が高まることを知っているのです。

講演会の後などに「姑(しゅうとめ)はイヤな人なんです」と相談に来る人がいます。このように、自分のすぐそばにいる人の愚痴や悪口を言うことは、自分の価値を低めているということに気がついたほうがいいかもしれません。
夫、子ども、会社の人、友人・・・ まわりの人すべてが素晴らしい人に囲まれている、と言ったとしましょう。聞いている人はその人のことを、その素晴らしい人たちに見合った人だと思うのではないでしょうか。

愚痴や泣き言を言ったり、まわりの人の悪口を言うことで、いちばん損をしているのは自分。なぜなら、悪口を言ったその相手と自分は、同じレベルだと公言していることになるからです。

夫、子ども、会社の人、友人・・・。私のまわりにいる人は、みんな素晴らしいと褒めれば褒めるほど、その素晴らしい人たちと同じように、あなたも素晴らしい人なんだと繋がっていく。

人の悪口を言わない人には、悪口を言わない友人が集まってきますし、人の悪口ばかりを言っている人には、悪口ばかりを言う友人が集まります。

毎日が嬉しくて楽しい、と思っている人は、そう思って過ごしている幸せな友人に囲まれるということ。

私たちは、自分にちょうどいい人に囲まれています。

自分の選んだ、学校や会社、友人や、配偶者の悪口を、外に向って言う人は、「自分も同程度にひどい」、と言っていることに気がつかない。

「悪口」、「文句」、「不平不満」、「愚痴」、「泣き言」、「ゆるせない」、という相手を非難し、暗くする言葉。

悪口や非難は、それが公の発言になればなるほど、自分の品位や評価を落とすことになる。

これは個人のレベルだけでなく、会社や国としての発言も同じ。

悪口を言えば、悪口に見合った出来事が次々と起こる。

感謝すれば、感謝に見合ったことが起こる。

人生は、自分にちょうどいい人が集まり、ちょうどいいことが起こる。


2013年5月4日土曜日

働く意味

ブログ「今日の言葉」からベストを尽くす」(2013年4月25日)をご紹介します。

首相官邸の庭で泳ぐこいのぼり

ベストを尽くせば、思いもよらない奇跡が自分の人生に、あるいはだれかの人生に起こるのです。

ヘレン・ケラー


いつ読んでも大きな勇気をもらえる大好きな言葉です。

苦難を乗り越えたヘレンの言葉だからこそなおさらでしょう。

幸せの秘訣は出し惜しみしないこと。

次に取って置こうかなと考えずに出し切ると、必ず新しいことが入ってくる。

手を握ったままでは新しいものは掴めないのと同じこと。

仕事もそう。

「働く」とは、労働の対価を得るためだけではなく、「傍(はた)を楽にする」ために自分の力を出し切ることなのです。

だから何のためにということがとても重要になってくるのです。


2013年5月3日金曜日

「先生たちの」東大病

教育評論家の梨戸茂史さんが書かれた「教育ななめ読み-東大病」(文部科学教育通信 No314 2013.4.22)をご紹介します。


近頃の東大は少しおかしくないですか? 「秋入学」に「推薦入試」。国際化を目指した「秋入学」は、最近、学長が「事実認識としては困難だ」とか言い出し、尻すぼみ。

3月15日の毎日新聞によると「推薦入試16年度から導入 二次試験後期日程は廃止」とあった。募集人員は約100人。佐藤慎一副学長は「特定の領域に深い見識を持っているなど、前期日程とは違うタイプの学生を確保し、多様性を高めたい」と説明した。出願は、各高校の推薦状と調査書に加え、特定の学問分野への関心を証明する論文などの提出を求める。各校が推薦できるのは1~2人で、浪人生も対象となる。前年11月に願書を受け付け、12月に面接を複数回実施して絞り込み、翌年1月の大学入試センター試験で規定以上の成績を収めた受験生を合格とする。ここに「しばり」があるのは学力保証になるでしょうね。合格者には、1~2年生から大学院の授業への参加を認めるなど、能力をさらに伸ばす配慮をするそうだ。そん所そこらのAO入試や推薦入試とは大違い。高校時代から、すでにある特定の学問分野に優れた能力を持つ人物などを念頭に置いており、その分野の教官が調査書や面接などによって専門的な見地から審査すると言うから、ねらい目はそこにある。いわば「(学問の)一芸に秀でた人材の発見」だ。

しかし、問題はある。「不得意科目が一科目でもあると落第になる」というタイプの「センター試験」を基準にして足切りをするのだから、東大の「推薦入学」は、その目的(不得意科目があっても一芸ないし三芸に秀でるタイプを合格させる)には、まったく不適との意見。また、「後期試験」の廃止は、試験当日に風邪などで受験できなかった学生を救済できない。後期試験の倍率を潜り抜けた優れた学生を落としてしまう。

さらに、一般に推薦試験では「面接」が重視されるが、それはアインシュタインやエジソンみたいなタイプの天才は不合格となる恐れがある。特に理系なら「引きこもり」くらいが研究者向きかもしれない。一番の問題は「推薦」の基準。「あいまいさ」が残る。これを認めないと成立しない。面接官の好き嫌いもOKでしょう。ちょっと変化球?な意見では、面接で有利なのは、「美人・イケメン」であることだとさ(笑)。さらなる意見は、和田秀樹氏。プログで、東大の推薦入試で入ってくるのは政財界の子弟や皇族になり、東大の中にハイソサエティができる、と書いている・・・(まさか!絶句)。ボランティア活動も、人にアピールできるような課外活動には親の援助が必要。親の財力や知的援助もプラスされていて、庶民はますます入りにくい大学となるかもしれぬ。

個人的な意見ですが、東大卒の人たちでも、ユニークで面白い人は大勢います。みんな現行方式の入試で合格している。どうやっても合格する学生は合格しますよ。仮に毛沢東語録を暗記していないと入れない、などとしてもそれをクリアする受験生は今のレベルでも同じように存在しているでしょう。ハーバード大学の入試みたいなことを想定しているのかなあ。財力で入ったケネディもOKだし、ビル・ゲイツもいますよね。そもそも欧米の名門大には、最初から大ロ寄付者の子弟の枠があり、日本でも慶應はそうやって金持ちを取り込んだそうだ。もっとも、今の東大は進級するのが難しい。学力が追いつかず、留年、中退者が続出するかもしれないとの意見もある。

なんだか、ちょっとずれてきているような東大ですが、これも「先生たちの」東大病かもしれない。それにしても、賛否両論、喧々諤々。「入試」って難しい。


2013年5月1日水曜日

沖縄が日本であり続けるために

「憲法を考える 沖縄が日本であるために」(2013年5月1日東京新聞社説)をご紹介します。



日本国民は憲法の下、基本的人権が等しく保障されなければなりません。しかし、国内にはそう言い切れない現実を抱える地域もあります。沖縄県です。

4月28日、国会近くの憲政記念館で、政府主催の「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」が開かれました。61年前、サンフランシスコ講和条約が発効して、日本が敗戦後の占領体制から再び独立を果たした日です。

同時に、沖縄県、奄美群島、小笠原諸島は日本から切り離されました。沖縄県民には1972年5月15日の本土復帰まで続く、苛烈な米軍統治の始まりでした。

◇生命は虫けらのごとく

式典に沖縄県の仲井真弘多知事の姿はなく、高良倉吉副知事の代理出席です。同時刻、米軍普天間飛行場のある宜野湾市では式典への抗議大会が開かれていました。

この日を境に強いられた苦難を考えれば、沖縄が「記念」する気持ちになれないのは当然です。

安倍晋三首相は式辞で「沖縄が経てきた辛苦に深く思いを寄せる努力をなすべきだ」と訴えました。

自民党の衆院選公約では主権回復を「祝う」式典が、沖縄の苦難をすべての日本国民が考える契機となるのなら-。式典に意義を見いだせますし、そうすべきです。

激烈な地上戦の戦場となった沖縄では、本土復帰まで米軍統治が続きます。人命や人権が全く守られない強権的な軍政や治外法権、米軍基地を造るための「銃剣とブルドーザー」による土地の強制収用、脆弱(ぜいじゃく)な経済基盤による貧困。

後に沖縄県知事となった故西銘順治氏は衆院議員当時、復帰前の国会でこう訴えます。

「日本の憲法の適用もない。米国統治下に置かれながら米国の憲法で規定された人権は何ら擁護されていない。沖縄人の生命は虫けらのごとく扱われている」

◇9条掛け軸に助けられ

沖縄の人々にとって本土復帰は国民主権、基本的人権の尊重、戦争放棄を三大原則とする日本国憲法への復帰になるはずでした。

かつて読谷村長、沖縄県出納長を務めた山内徳信さんは、村長時代から執務室に、憲法9条の全文を毛筆でしたためた掛け軸を掲げています。参院議員の今もです。

山内さんは村長当時、読谷補助飛行場などの米軍基地の返還を粘り強い交渉で成し遂げました。

山内さんはこう振り返ります。

「ものを言わない憲法の掛け軸がどれほど私を助けてくれたことか。日本政府や米政府、米軍と交渉するときの理論武装の柱が、憲法の平和主義、人権尊重だった」

その山内さんは、沖縄が今なお「憲法の埒外(らちがい)、憲法番外地に置かれている」と指摘します。

在日米軍基地の約74%が沖縄に集中する不公平、在日米軍の軍人・軍属に特権的な法的立場を認める日米地位協定を指してです。

普天間飛行場の名護市辺野古への県内移設などの形で沖縄になお米軍基地負担を押し付ける、地位協定は運用改善止まりで、改定を求める沖縄の求めは無視される。

そうした現状を変えるには、もはや沖縄県が日本から独立する、「琉球独立」しかないという訴えも、沖縄では出始めました。

石垣島生まれの松島泰勝龍谷大教授は「琉球、沖縄の人々の誇りを傷つける状況が続いている。独立という言葉が少数派だけではなく、一般の人も語る状況になってきた」と話します。

歴史をさかのぼれば沖縄は琉球国という日本とは別の国家でした。1609年の薩摩藩侵攻、1879年の琉球処分を経て日本の一部になったのです。

沖縄は琉球国として再び独立することができるのか。松島さんは「日本の中で議論すると多勢に無勢だが、国連という大きな世界的な力学を使えば、いろんな状況は変えられる」と言います。

国連には「脱植民地化特別委員会」があります。独立はその「非自治地域」リストへの登録を求める決議を、沖縄県議会が採択できるかどうかが出発点となります。

現時点では、独立を求める県民が多数とは言えません。地元紙、琉球新報が2012年5月、本土復帰40年を機に行った世論調査によると、復帰してよかったと答えた県民は80%に上ります。

だからこそ、日本政府、国民が、沖縄県民の忍耐に甘え、米軍基地の過重な負担を押し付けたままでいいはずがありません。

◇国全体をよくする力に

山内さんは「基地や原発を地方に押し付ける発想を封じ、どこに住んでも人間扱いされる国をつくる必要がある」と訴えます。

沖縄が日本であり続けるには、法の下の平等や基本的人権の尊重など、憲法の理念が完全に実現する状況をつくり出さねばなりません。それが沖縄のみならず、日本全体をよくする力となるはずです。