2013年5月30日木曜日

第二期教育振興基本計画の策定

山本眞一氏(桜美林大学大学院・大学アドミニストレーション研究科教授)が書かれた論考「第二期教育振興基本計画と大学の将来」(文部科学教育通信 No316 2013.5.27)をご紹介します。


第二期計画の取りまとめに向けて

去る4月25日、中央教育審議会は「第二期教育振興基本計画について」を取りまとめ、文部科学大臣に答申した。改正教育基本法第17条には「政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない」(同条第一項)とあり、現行の教育振興基本計画(平成20年度~24年度)に続く計画の策定が必要であるからである。答申を受け、今後は政府部内において必要な作業を行い、計画が策定されることになる。

答申は、教育をめぐる現状分析と課題抽出を中心とした第一部と、今後5年間に実施すべき教育上の方策を論じた第二部とに大きく分かれている。そのうち、第一部においては、教育をめぐる社会の現状と課題として、グローバル化や少子化・高齢化など社会の急激な変化の中で、社会活力の低下、経済競争の国際的激化、雇用環境の変容、社会のつながりの希薄化、格差の再生産・固定化など、わが国がさまざまな危機に直面し、加えて東日本大震災から得られた教訓も生かす必要があるとし、教育を通じた社会システム転換の方向性として、「自立」「協働」「創造」の三つの方向性を実現するため、生涯学習社会の構築を旗印にするとしている。

その上で、答申では第一期計画の成果と課題を総括した上で、4つの基本的方向性すなわち、①社会を生き抜く力の養成、②未来への飛躍を実現する人材の養成、③学びのセーフティネットの構築、④絆づくりと活力あるコミュニティの形成を「4つの基本的方向性」として掲げ、これを実現するために、多様性の尊重をはじめ、いくつかの理念の下に改革を進めるよう提言している。これと合わせて、教育投資について、わが国の現状を国際比較も伴いつつ詳細に分析した上で、「将来的には恒久的な財源を確保しOECD諸国並みの公財政支出を行うことを目指す」として、従来よりも踏み込んだ記述をしている。答申全体から滲み出るのは、教育投資を怠ればわが国の将来は危ういという危機意識であるが、同時に厳しい財政状況についてずいぶんの理解を示している点は、誰がこの文章を入れさせたのかは承知しないが、社会の各分野に広がる予算分捕り争いの中で、教育分野が遅れをとるのではないかと心配である。

成果目標と基本施策

以上を踏まえて、第二部では今後5年間に実施すべき教育上の方策として、「4つの基本的方向性に基づく、8の成果目標と30の基本施策」を掲げている。30というのはいささか多過ぎの印象があるが、基本計画に掲げられるかどうかが、今後の予算取りや施策の実効性と関係すると思えば、この際はやむを得まい。大学関係に触れた箇所からいくつかを取り上げてみよう。大学についてはまず、学生の主体的な学びの確立に向けた大学教育の質的転換(基本施策8)と大学等の質の保証(基本施策9)が、課題探求能力の修得で括られた成果目標2に掲げられている。これらは昨年策定の大学改革実行プランにも触れられているように、現在の大学改革の最重要課題であろう。

また、成果目標5にある社会全体の変化や新たな価値を主導・創造する人材等の養成について、大学院の機能強化等による卓越した教育研究拠点の形成、大学等の研究能力強化の促進(基本施策15)や外国語教育、双方向の留学生交流・国際交流、大学等の国際化などグローバル人材育成に向けた取組の強化(基本施策16)があり、学びのセーフティネットの構築に関しては、初等中等教育も含めて「教育費負担の軽減に向けた経済的支援」(基本施策17)が掲げられている。4つ目の基本方向である活力あるコミュニティの形成に関しては、地域社会の中核となる高等教育機関(COC構想)の推進(基本施策21)があり、4つの基本的方向性を支える環境整備としては、大学におけるガバナンス機能の強化(基本施策26)や大学の機能別分化(基本施策27)、大学等の財政基盤の強化と個性・特色に応じた施設整備(基本施策28)、私立学校の振興(基本施策29)などが列挙されている。

これらの基本施策は、初等中等教育と大学の両方にまたがるものも多く、答申概要として作成された資料には、基本施策を表側に、学校段階を表頭に示すマトリックス対応表があるほどであるから、きっと事務的にも苦心の作であったと思われる。

大学の特性に適した計画策定を

さて、ここからが今後の課題である。第一に、この答申が今夏に教育振興基本計画となったとして、今後5年間のうちに大学はどのように変わっていくであろうか。マクロで見ると、18歳人口はほぼ横ばいであり、その後の再減少期を控えての小休止の時期にあたる。計画の有無にかかわらず、2018年以降の厳しい現実を直視できる大学関係者であれば、この5年間に大学の経営体質を一新し、また大学の教育・研究システムにも大幅な手を加えなければならないことは当然のこととして理解されているであろう。計画はいわばその後押しをすべきものであり、単にこの5年間に何をするということだけではなく、その後の見通しについても十分視野に入れておくべきであろう。

第二に、基本計画は大学の変化をどのように後押しすべきであろうか。国による規制色の強い初等中等教育とは異なり、大学教育はもともと、国公私立を問わず自主自立が大原則であり、したがって政府に求められるもっとも重要な施策は、答申で言えば基本施策26から29までの環境整備である。これらの改善・改革が相当程度実現するだけでも、大学は飛躍的にその内容を充実させることが可能であろう。それができないとすれば、この26から29までの施策のいずれかに問題があるか、大学側の努力不足であるとみても間違いではあるまい。逆に言えば、基本施策8あたりから始まる前半部分の施策は、大学教育の中身にかかわるものであり、あくまで大学に対する助言、国民に対する説明にとどめ、具体の改善・改革の責任は大学側が負うべきである。

第三に、初等中等教育と大学とを一緒にした計画ゆえに、初等中等教育らしい特有のスローガンが見受けられる。たとえば、「生きる力」であるとか「絆づくり」などは、何となく分かったような気にはなるものの、大学については具体にどのように考えればよいのだろうか。大学が受け止めやすい用語というものの工夫がほしいところである。

第四に、この答申は生涯学習の推進を基調とするもののように見える。しかし、これまで幾多の答申や施策がなされてきた割には、わが国社会に生涯学習がしっかりと定着しているとは思えない。とりわけ大学と生涯学習との関係は、なかなか緊密なものにならない。学生の就活の過熱現象それ自体が、生涯学習とは真っ向から反する事象であることを考えると、このあたりのところにも教育と社会との関係のより深い分析と政策的な切り込みが必要ではあるまいか。


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