2013年11月12日火曜日

国立大学法人が享受している「特権」

大阪大学大学院法学研究科教授の小嶌典明さんが書かれた論考「国立大学法人と労働法-大学固有の問題」(文部科学教育通信 No326 2013.10.28)をご紹介します。


運営費交付金=税金への依存

国立大学法人の収支状況は、今どうなっているのか。法人の職員であれば、どんな部署にいても、その程度のことは常に頭に入れておくことが期待される。

大学の目的や使命は、利益を上げることにはもとよりない。だが、支出が収入を上回るようでは、組織として大学は維持できない。ドラッカー流にいえば、利益を上げる(収入が少なくとも支出を上回る)ことは、大学が存続するための条件ということになる。

国立大学法人等(4大学共同利用機関法人を含む90法人)の基盤となる経費は、今日も年間総額が一兆円を超える運営費交付金によって賄われている。

例えば、平成25年度予算でこれをみると、国立大学法人等に支給される運営費交付金の予定額は1兆792億円と、私立大学等経常費補助金の予定額である3175億円の3倍以上にも上る額となっている。

100億円を超える運営費交付金の支給を受ける国立大学法人等は現在なお優に30を数える一方で、100億円をわずかに上回る経常費補助金の支給を受ける私立大学でさえ、もはやわが国には存在しない。

国立大学法人が、このような私立大学とは比較にならない恵まれた環境にあることを、構成員はゆめ忘れてはなるまい。

確かに、損益計算書にみる運営費交付金の支給額は、平成16年度の1兆1655億円が平成23年度には1兆741億円になるなど、年々その減少を余儀なくされている。いわゆる効率化係数(国立大学法人運営費交付金、前年度支給額の1%)や経営改善係数(附属病院運営費交付金、病院収入の2%)に基づく支給額の削減によるものであるが、経常収益に占ある運営費交付金の割合も、この間に47.7%から37.8%へと約10ポイント低下している。

運営費交付金に代わって増えたのが、附属病院収益と、競争的資金等(注:補助金等収益、受託研究等収益等、寄附金収益、研究関連収益およびその他の自己収入の合計)であり、附属病院収益については、平成16年度の6245億円(25.5%)が平成23年度には8887億円(31.3%)に増加し、競争的資金等も、この間に1936億円(7.9%)が4016億円(14.2%)に増えている。

これに伴い、トータルの経常収益も、2兆4454億円が2兆8390億円へとおよそ4000億円その規模を拡大したほか、附属病院運営費交付金が平成25年度予算では計上されなくなったという変化もあった。

ただ、附属病院運営費交付金は、もともと附属病院経費と附属病院収益との差額を補填するために支給されていたものであり、その額がゼロになったとしても、それは附属病院の収益と経費がバランスするようになったというにすぎず、附属病院の存在によって大学の収支状況がプラスに改善したというわけでは必ずしもない。

他方、学生納付金(注:授業料、入学金および検定料の合計)の推移をみると、その額が平成16年度の3568億円(14.6%)から平成23年度の3410億円(12.0%)へと160億円近く(2.6%)減少しているという事実もある。

損益計算書にみる人件費(注:役員、教員および職員の各人件費の合計)の額は、平成23年度で1兆3966億円と、経常費用全体(2兆7830億円)の約半分を占めるものとなっており、その額は実に学生納付金の4倍以上にもなる。

支出に占める人件費の割合は、私立大学も変わらない(約5割)とはいえ、収入の大半(4分の3強)を学生納付金に依存していることから、私学の場合、人件費は学生納付金の3分の2程度に抑える必要がある。

それゆえ、学生納付金を基準に考えると、国立大学は、私立大学の約6倍にもなる資金を人件費に充てていることになる。

このような「贅沢」を可能にしているのが運営費交付金であり、そのもとを質せば税金にまでたどりつく。納税者である国民の負担があって、国立大学法人の今日もある。このことを再度、構成員はしっかりと脳裏に刻み込む必要があろう。

国立大学の施設は国有財産?

法人化に当たって、それまで各国立大学等が使用していた土地や建物等の財産については、政府がこれを国立大学法人等に現物出資するという方法がとられた。国立大学法人法(国大法)附則9条に定める権利義務の承継規定(特に2項)がそれである。

その結果、国立大学法人等が所有する土地や建物等は、国有財産法3条2項に規定する行政財産としての国有財産ではなくなったものの、出資金にその姿を変えた財産は、同条3項に定める普通財産として、なお国有財産の一部を構成することになる。

平成24年3月31日現在、こうした国立大学法人等への出資財産は、総額6兆9518億円。法人化前と同様、国立大学法人等の会計が会計検査院の検査対象となる理由も、ここにあった(会計検査院法22条5号は「国が資本金の2分の1以上を出資している法人の会計」についても「会計検査院の検査を必要とする」と規定する)。

また、国大法7条1項は「各国立大学法人等の資本金」は、このようにして「政府から出資があったものとされた金額とする」旨を定めるものであったが、同法35条が準用する独立行政法人通則法8条1項が、一方で「独立行政法人は、その業務を確実に実施するために必要な資本金その他の財産的基礎を有しなければならない」と規定していたことにも励里思する必要がある。

そして、このことが国立大学法人等の財産的基礎となる施設の維持・更新については、従来どおり国がその責任において、施設整備費補助金等の財政措置を講ずることにより、これを行うべきである、との考え方を根拠づけることになる。

国立大学法人等の施設整備計画を国が自ら策定し、整備方針を公表。第三者から意見を聴取した上で所定の交付要綱に沿って補助金を交付する。そのような措置が運営費交付金の支給とは別に、こうして法人化後も引き続き講じられることになったのである。

最近では、復興特別会計が補助金支給のために活用されるなど、施設整備費関係の予算配分はかなり複雑であるとも聞くが、運営費交付金以外にも、国立大学法人等が享受している「特権」は、このように少なからず存在する。ただ、これでは、大学の施設そのものが「国有財産」として遇されているのと同じではないか。そうした疑問は確かにあろう。

他方、国立大学の施設が「行政財産」ではなくなったことをきっかけとして、組合事務所や組合掲示板等については、その取扱いを逆に民間に合わせるよう求める声が強くなる。一種の便宜供与として組合事務所等の提供を要求する声がそれであるが、いうまでもなく労働組合法自体は、使用者にそのような便宜供与を義務づけたものではない。

法人化前の公務員時代においても、有名な「蔵管(くらかん)一号」(注:昭和33年に大蔵省管財局長名で発出された「行政財産を使用又は収益させる場合の取扱いの基準について」と題する通達)は、行政財産の目的外使用の許可(国有財産法18条6項)の対象として組合事務所等をそもそも想定していなかったし、たとえ使用許可が与えられたとしても、それは禁止の解除を意味する事実上の許可にすぎず、「当該場所を使用するなんらかの公法上又は私法上の権利を設定、付与する意味ないし効果」を持たない、との立場を判例は採用していた(昭和郵便局事件=昭和57年10月7日最高裁第一小法廷判決を参照)。

にもかかわらず、国立大学の多くは安易に組合事務所等の供与を認め、法人化後の現在もその姿勢を維持している。大学の施設は、国民から預かった大切な財産。こうした国有財産に対する意識が少しでもあれば、事態は変わっていたともいえよう。