2013年12月10日火曜日

結論が出せない組織

学校法人東邦学園愛知東邦大学理事・法人事務局長/学長補佐の増田貴治さんが書かれた論考「組織機能の実効性を高める」(文部科学教育通信 No.327 2013.11.11)をご紹介します。

「大学のガバナンス改革」は、先月、文部科学省によって策定された「国立大学改革プラン」の大きな柱の一つでもあり、中央教育審議会大学分科会組織運営部会による「審議のまとめ」が年内にも取りまとめられる予定になっています。時宜を得た論考ではないでしょうか。


ウィーン会議を続けていて良いのか

「会議は踊る。されど進まず」。ウィーン会議(1814年9月-1815年6月)に参加した欧州各国代表が饗宴に興じて、議事が一向に進まない様から得た揶揄である。会議はナポレオン敗戦後の欧州体制を決めるために召集されたが、9か月もかかった。参加国の利害が対立、元首や大使らの駆け引きに終始した。そして夕方になると、豪華絢欄なシェーンブルン宮殿で開かれる晩餐会や舞踏会、音楽会の楽しみに明け暮れた。

ウィーン会議では、議決する本来の会議と宴との重み付けが逆転していた。全体会議は一度も開かれず、もっぱら各委員会や裏折衝が欧州の新秩序を決する場となった。俗事から離れ、あまりに優雅な会議のあり様は、2世紀経た今も延々と議論に時間を費やす大学の姿を想起させる。流刑地にいたはずのナポレオンが脱出してフランスに戻ったことが、終わる気配のない会議を終結させた故事。大学も、外部から強い刺激がなければ自ら変えられないのだろうか。

迅速な意思決定を阻害する風土

大学では一般的に、課題や問題が生じれば、まず担当委員会や部署、特設プロジェクトチームが対応策を考える。それを意思決定の手順に従って、審議していく。関連する組織やメンバーすべての協議・調整を経て、理事会や教授会などの最高意思決定機関のもとで最終決定し、実行に移す。

問題は、「外的な環境変化」の速さに「意思決定に伴う組織対応」の速さが適切かどうかだ。社会情勢の変化から先行きを見通して、変えるべき速度も考える必要がある。しかし、結論が出るまでに想定以上の時間を要することがしばしばある。常態化すれば、外部環境と大学がずれてしまう。

学校教育法第93条は「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」とし、同法施行規則第143条は「教授会は、その定めるところにより、教授会に属する職員のうちの一部の者をもって構成される代議員会、専門委員会等を置くことができる」と規定している。さらに第144条は「学生の入学、退学、転学、留学、休学及び卒業は、教授会の議を経て、学長が定める」と、重要事項を定めている。

ところが、この規定から、学内のすべての事項に関する最高意思決定機関が教授会であると解釈し、付託された専門委員会の議論を徹底的に尊重する風土が強くある。重要事項であればこそ、法的・コンプライアンス上、手順や議決には慎重になるだろう。「民主的」それ自体も批判されるべきではないが、プロセスを尊重するがあまり、結論が出ない、出せない組織になってはいないか。

通じ合える委員会へ統廃合

筆者が所属する学校法人東邦学園は、2007年4月から短期大学を四年制大学へ完全に改組し、愛知東邦大学は経営学部と人間学部の二学部構成で再スタートした。

その時点で、学長の下には21もの専門委員会があった。運営、入試、教務、学生生活、進路支援、特色教育・FD、国際交流、図書館、情報システム、生涯学習、研究所運営、入試問題作成、学生指導、人権問題、教職課程、地域交流、広報、施設、防災、個人情報管理、全面禁煙推進。既存委員会の業務範囲に収まらない問題が起こると、ただちに対処する委員会を別途発足させた。その結果がこの委員会数に膨れ上がった。

メリットは、教学が抱える課題や日常の問題のほとんどを担当委員会へ回して対応できたことである。一方で、委員会の数に比べて40数人という教員数の割合から、一教員の所属が3つにもなった。業務量と時間的制約から、活動への関わり方が浅くなり、当事者意識が希薄になった。委員会の運営は委員長と事務局任せになり、専門委員会の対処・報告は熟議されないまま教授会に提案され、差し戻されるケースもあった。業務の細分化で役割が単純明確になる半面、縦割りの個別意識が強まり、全学的連携が図りにくくなった。

そこで、2008年度には業務を役割や機能に応じて8委員会に統廃合し、教員は原則一人一委員会への所属とした。一定の専門化と総合化のバランスを考え、全体業務と個別業務とを融合した。関連する業務を横断的に捉え、同時に複数の課題を取り扱うこととなり、関連課題をお互いに意識し合う委員の言動が生まれた。コミュニケーションが活発化して、組織の風通しが良くなった。さらに、全学協議会で学部間で異なる意見もすり合わせることにした。

厳しい経営環境に置かれたスモールサイズの本学だからこそ、意思決定のスピードを上げることを迫られ、こうした改革を進めた。

課題を明確にして組織で共有する

「あなたの所属する委員会や部署の課題は何か?」と問われたとき、教職員は即答できるだろうか。

各組織の設置には、明確な目的がある。達成する目標や取り組むべき課題、業務がある。ここでの「課題」とは、目標(目指すべき理想の姿)と現状との違いである。目指すべき姿・最終ゴールのイメージが一致すれば、解決すべき課題も自ずと共有できていくはずだ。

教職員が一体となって運営するためには、「目的(何のために)」と「目標(達成すべき具体的な指標)」、「課題(改善事項)」を共有することが不可欠である。そうした共有を図るためには、相互のコミュニケーションが必要である。

ここでおさえておきたいことは、「設定される目標や今取り組まなければならない課題は、外部環境の変化とともに変わる」ということだ。会議を開くと「前例ではどう対処したか」という問いが発せられる。公平さと一定の参考には必要だが、前例墨守では、社会の求めるものや市場からのニーズの変化を的確に捉えられなくなる。定型化された業務に取り組んでいるだけでは、目的は果たせなくなる。社会の変化に応じて最適化するメンテナンスが重要である。大学はやはり期待されている。

9月18日、安倍首相の肝入れで設けられた産業競争力会議の「雇用・人材分科会」が開かれ、経済同友会代表幹事の長谷川閑史・武田薬品工業社長は、大学のガバナンス改革として、次のように提起した。

主な項目を挙げると、「学長がリーダーシップを持って実行できるようにするためのガバナンス改革の速やかな実行」「教授会の役割の明確化、部局長の職務や理事会・役員会の機能の見直し、監事の業務監査機能強化等について、所要の法案を次期通常国会に提出するが、効果的な法案の内容について早急に詰ある必要がある」「教授会の役割の明確化に当たっては、学長選挙等の際に慣行として行われている根拠なき大学運営決定への関与の排除について検討すべきでないか」。

大学人としては抵抗感や異論もあろうが、これが外部の声、環境である。大学が社会から期待されているからこそ、叱咤がある。私たちが、ウィーン会議の参加者のような意識でいたとすれば、今日の学校経営はすぐに行き詰まる。


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