2014年2月2日日曜日

変化に立ち向かう意志と知恵

学校法人東邦学園愛知東邦大学理事・法人事務局長/学長補佐の増田貴治さんが書かれた論考「大学職員の力量を高める」(文部科学教育通信 No332  2014.1.27)をご紹介します。(下線は拙者)


目的を理解した上での達成目標として

P.F.ドラッカーの著書『マネジメント(下)」に、"三人の石切り工"の昔話がある。彼らに何をしているのかと聞くと、第一の男は、「これで暮らしを立てているのさ」と答えた。第二の男は、つちで打つ手を休めず「国中で一番上手な石切りの仕事をしているのさ」と答えた。第三の男は、その目を輝かせ、夢見心地で空を見上げながら「大寺院を造っているのさ」と答えた、という。

三人の目標は、一定数の石を切ることにおいて共通する。しかし、目的は異なる。第一の男はお金を稼ぐため。第二の男は自分自身の成長のたあ。第三の男は世の中のため、他人のためである。

私たちは、仕事をあてどなくすることはまずない。何らかの"目標"を設けるだろう。目標という理想の姿は定性的・定量的に表される。その目標を何のために掲げて、何のために取り組むのかと考えていけば、意義にたどり着く。それが"目的"である。時に行き詰まったとしても、私たちを内面から突き動かす。目標達成にとって不可欠の要素である。

ただ、学校組織においては、利益追求という企業のような分かりやすく定量的な目標は立てにくい。他人の指示や目標に従って動くのか、自ら見いだした意義や目的に基づいて行動するのか、この違いは大学職員の力量形成上、大きな差異となってくる

中途採用者が組織を刺激する

目的意識盛んな職員の集団に変えたい。そう願っても、にわかには困難である。そこで、筆者の所属する東邦学園は2008年度以降、新たな職員採用では新規学卒者を控え、他の大学職員や民間企業出身者の力を借りようとした。"即戦力"であり、特に異業種からの中途採用者は、異なる社会経験が魅力的だった。学校の文化に馴染みにくい、学内でチームワークが図れるだろうかという懸念の声もあったが、踏み切った。

まず4年前、他大学から志願してきた職員は、面接で移籍理由についてこう切り出した。「金魚は容器の大きさだけ泳ぎ回るから、その分お腹も減ってエサをたくさん食べるので、大きく成長します。でも、小さな水槽では、運動不足で小さなままです

それまでの勤務先に不満があったわけではない。専門職である大学職員として、より大きな組織で今までの経験がどこまで通用するか自分を試して、もっと成長したいとの思いが強く沸き上がったという。正式採用までの空いた時間は、本学の図書館へ通い、学園史や規程集など学校法人全体の情報を読み込んだと聞く。

財政的にも、学生確保の面でも苦労することのなかった大学から、あえて困難や苦労の大きい大学への転職。高い専門知識やスキルレベルと、何より改革マインドを備えた動機・意欲が極めて旺盛である。「個人の力」から、「連帯・協働による組織力向上」へ新たに挑戦すると断言した職員は、まさに"即戦力"として期待を裏切ることなく大きな活躍を見せている。

共通に目指す職員像を可視化する

転職もうまくいくとは限らない。結果として、以前の職場のほうが労働条件や人間関係が良かったというケースも往々にしてある。本人にも周囲にも相当な覚悟とエネルギーを要する。

やはり他大学から本学園へ転職した別の職員は「転職組は"カゼ(Wind)"でなければならない。時には強く、時には弱く。被害を及ぼさないような風でなければならない。決して、根を下ろすことを考えてはいけない。根を下ろせば元からあった木の根と絡み合い、その成長を妨げるから」と語った。

生え抜き職員にとって、異なる組織風土や文化で育った職員との業務運営は、目標設定や方法の選択、達成のスピードなど、そのズレから衝突することが多々ある。摩擦は、新たな刺激や緊張感を生む必要なプロセスだとすれば、最終的には相乗効果を生み出すきっかけとなり、組織力向上につなげられる個の力量を形成していくことになると考えた。問われたのは、摩擦を抱えられるだけの許容性と、ベクトル合わせが図れるか否かだった。

2012年度、本学園では、複数のハイパフォーマーに共通する行動特性を自校の職員として必要とする資質や能力を可視化した。また、自己で点検・評価できるようレベルを5段階で示した。最終的には「東邦学園事務職員に求められる18のコンピテンシーと5つの領域」(図参照:略))として、理事会で決定、組織として求める職員像を明確に表した。コンピテンシーの導入は、全職員の行動の質・効果を高めることであり、成果をあげる要素、ノウハウを組織的に共有することがねらいである。

課題を設定し、組織をつなぐ力を

「一日の計は朝にあり、一年の計は春にあり」と考え迎えた新年、新聞広告に載った数研出版株式会社のキャッチフレーズが、筆者の目に留まった。

未来に向かって歩んでいく人には、ふたつの選択肢があります。よく考えない人になるか。よく考える人になるか。問題を避けて通るか。問題に立ち向かうか。出来ない理由を見つけようとするか。出来る理由を追い求めるか。失敗を悔やむか。失敗から学ぶか。夢を笑うか。夢をかなえて笑うか。(以下省略)」

事に取り組む際の考え方や姿勢、体験や経験の受け止め方がどうあるかによって、成長度合いに大きな影響を与える。

ドラッカー教授は「三人の石切り工」の話の中で、二番目の男についてー熟練技能は必要なものである。事実いかなる組織もその構成員に対し、それぞれが持つ技能を最大限に発揮するよう要求しなければ、その組織は退廃してしまう。しかし、職人や専門家は、実際には石を磨いたり、脚注を集めたりしているにすぎない場合でも、何か大きなことをやっているのだと気負いこんでしまう危険がある。確かに熟練技能は企業でも奨励しなければならない。ただし、それは常に全体のニーズとの関連の下においてでなければならないと指摘する。

変化に立ち向かう意志と知恵を持つこと、公共組織の変革戦略理論となる「戦略思考法」を持つこと、日々の実践と中長期の目標計画とを同時に視野に収め、問題発見の分析手法のみならず問題解決の開発手法を現場で適用できること、組織や人をつなぐ役割を担うことなど、"大学の事情に則した"経営・教学との連携や一体感を醸成するイニシアチブを発揮しうる大学職員が求められている

それぞれの大学において、職員がどのような力量を形成する必要があるのか、組織全体として問い直すことが必要である。そして、求める能力や資質を明示した上で、各職員が目標を具体的に掲げ、学生や保証人など自大学のステークホルダーからの期待や要望に大学全体として応えられるよう、自己成長を図らなければならない


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